【特集】日本の安保政策の大転換を問うー安保三文書問題を中心にー

平壌から明かす、「北朝鮮のミサイル発射」の目的とその意味

若林盛亮

「北朝鮮がミサイル発射で宮城、山形、新潟のみなさん地下へ どんだけ地下があんねん 発射させない抑止を考えろ……」。

Jアラート(全国瞬時警報システム)の鳴った2022年11月3日、お笑いタレントのほんこんが自身のツイッターにこう書き込み、反撃能力保有を訴えた。

ツイートはJアラートの無意味さも指摘しているが、日本政府だってそれは百も承知、なのに下策を続けている。なぜ? それは、まさにこのような「抑止を考えろ」との国民の声が上がることを期待してのものだろう。

Composite image of J alert received by smartphone.

 

この間、世論調査では日本の反撃能力保有について、賛成50~60%という高い数字が出ている。2022年末に改訂される安保三文書、特に国家安全保障戦略(NSS)改訂の核心は「反撃能力保有」にある。これを国民が後押しする形勢だ。

しかし、これこそ下策中の下策、日本の安保危機を自ら呼び込む百害無益の安保策である。とはいえ「北朝鮮のミサイル発射」に不安を感じる国民の声が「反撃能力保有」賛成意見として現れているのが現実だ。

だから「北朝鮮の核・ミサイル保有」や「頻繁なミサイル発射」といったことがなぜ起きるのか? これをどう見ればよいのか? これらの疑問を解いていくことが先決だと思う。本稿ではこのことから考えていきたい。

East Asia Map

 

・「北朝鮮のミサイル」標的は日本なのか?

朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)政府が再三、強調していることだが、朝鮮人民軍ミサイルの標的は在日米軍基地である。逆に言えば、自衛隊基地は「北朝鮮のミサイル発射」の攻撃対象に含まれないということだ。

少なくとも専守防衛で攻撃手段を持たない現在の自衛隊は、朝鮮にとって直接的に戦争の脅威を与える存在ではない。だから自衛隊基地は「北朝鮮のミサイル」の標的にはなっていない。この事実を日本で知る人は多くないだろう。しかし、「北朝鮮のミサイル発射」をどう見るべきかを考えるうえで、この事実はとても重要なことだと思う。

ではなぜ「北朝鮮のミサイル」の標的が自衛隊ではなく米軍となるのか? その理由は、朝鮮がいまだ米国との戦争状態が続いている国だからだ。

在日米軍基地は、いったん朝鮮半島有事ともなれば米空母・戦闘機・爆撃機・海兵隊の出撃拠点であり、その存在自体が朝鮮にとっては現実にある戦争の脅威そのものなのだ。

周知のように朝鮮戦争は1950年6月に勃発、1953年7月27日に停戦協定が締結され、戦火は止んだ。でもそれは“停戦”であって“終戦”ではない。以来、70年近く朝鮮政府は米国に「停戦協定の平和協定への転換」、すなわち戦争状態の終結を呼びかけてきたが、米国はこれに一度たりとも応じようとしなかった。逆に在韓米軍基地・在日米軍基地を朝鮮半島有事の軍事拠点として強化の一方を繰り返してきた。

Korean War Veterans Plaza – New York City

 

朝鮮半島で「戦争状態の継続」を望んでいるのは米国なのだ。

この意味では、米韓合同軍事演習のたびに「朝鮮半島の緊張を創り出しているのは米国である」という朝鮮政府の抗議は正当なものだろう。

また米国は「戦争状態の継続」策として「米軍の核とミサイル」が朝鮮に狙いを定めていることを公言している。米国による「核戦争の脅威」に対して「核とミサイル」で自己を防衛せざるを得ないという朝鮮側の主張に一定の理があるのも事実ではないだろうか。

朝鮮は米国といまだ戦争状態にある。それを望むのが米国であり、「核とミサイル」で戦争の脅威を与えているのも米国なのだ。

この視点は「北朝鮮のミサイル発射」問題を「日米同盟第一」という日本の立ち位置から冷静にとらえ、日本の安保危機とは何かを考えるうえで、とても重要な基礎だと思う。

「北朝鮮のミサイル発射」を日本の安保危機だと誤解し、冒頭のツイッターのように反撃能力保有を訴えることは、いま危険千万なことだ。先に岸田文雄政権の進める安保三文書改訂によって反撃能力保有を決定することが下策中の下策であると述べたが、その理由は明瞭である。

自衛隊が反撃能力を持つということは、「北朝鮮のミサイル」の標的にならなかった自衛隊が、自ら進んでその標的となることを意味する。日本が朝鮮との戦争当事国になることを自ら願い出ることなのだ。それこそ「飛んで火に入る夏の虫」、日本の安保危機を自ら招く所業だ。

 

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若林盛亮 若林盛亮

1947年生まれ。同志社大学で「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕。よど号赤軍として渡朝。「ようこそ、よど号日本人村」(http://www.yodogo-nihonjinmura.com/)で情報発信中。

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