【特集】日本の安保政策の大転換を問うー安保三文書問題を中心にー

平壌から明かす、「北朝鮮のミサイル発射」の目的とその意味

若林盛亮

・「北朝鮮のミサイル発射は挑発ではない」

防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄氏は、「北朝鮮のミサイル発射」危機をテーマにとり上げたフジテレビ系の「プライムニュース」に出演した際、「最近の頻発する北朝鮮のミサイル発射を、もはや挑発と考えてはいけない」と明言した。

その意味するところは、マスコミの伝える「米国を対話に引き出すため」の挑発エスカレート、すなわち「制裁解除」を求めての米国への示威行動や挑発なんかではない、ということである。新型ミサイルの性能を検証するための実践的な発射実験、あるいはすでに新型ミサイルが配備された実戦部隊の軍事演習そのものなのだということを高杉氏は口にしたのだ。

言葉を換えれば、「こけおどし」などではないということだ。

North Korean missiles

 

このことを実際に証明したのが、2022年11月7日、朝鮮人民軍総参謀部が発表した「米韓合同軍事演習に対抗するための軍事作戦を実施した」という声明だろう。

米国の戦争挑発行為に対抗する軍事作戦、つまり単純な演習・訓練などではなく、具体的な攻撃目標を狙う実戦を想定した「軍事作戦」だとしたことに注目すべきだと思う。

同参謀部は声明で、航空基地はじめ米韓軍の出撃拠点などを仮想した目標物へのミサイルや大型放射砲弾攻撃をすべて成功させたと発表している。

なかでも注目されるのが「国防科学院の要請に従って敵の作戦指揮システムをマヒさせる特殊機能弾頭の信頼性を検証する重要な弾道ミサイルの試射を行なった」という文言だ。

これを日本の専門家は、「電磁パルス」実験を指すものと見ている。もしそうだとしたら、敵地の高空で核爆発を起こさせ電気・通信・その他のインフラをすべてマヒさせる「弾頭の信頼性を検証」した軍事作戦ということだ。

communication antenna

 

電磁パルス攻撃を受ければ作戦指揮システムはおろか、生活インフラすべてが止まり「原始時代に戻る」といわれる。衛星やレーダーからの情報通信網・指揮システムがマヒすれば、最新鋭の兵器もただの戦争ごっこの「おもちゃ」になってしまう。

日本のマスコミは打ち上げ当日の11月3日、「火星17号と見られるICBMが途中で消えた」ことをもって、空中で爆発し「失敗だった」と解釈して伝えた。

マスコミが「失敗」を伝えるなかで、香田洋二・元海将の発言が目を引いた。彼は軍事専門家として「複数のエンジン切り離しに失敗したか、あえて一段目だけテストした可能性も残る」との見解を示したが、この「あえて一段目だけテスト」との香田元海将の見立てが、実は「電磁パルス」を起こす高空爆発実験だったという解釈を成り立たせる。

「途中で消えた」のは失敗ではなく、朝鮮側の声明の言うように「電磁パルス」を起こさせるための高空核爆発の検証だったであろうことを冷静かつ客観的に受けとめ、この意味を考えるべきではないだろうか。

最近、朝鮮は核武力保有とその管理・運用に関する重要な法改正を行ない、戦争の危険や国家指導部・国家核武力指揮機構などへの攻撃が切迫したと判断された場合、「核武力使用」を排除しないことを明記した。

今回の軍事作戦で実施した「電磁パルス」を起こす高空核爆発の模擬実験、つまり「敵の作戦指揮システムをマヒさせる弾頭の信頼性を検証」は、そのことを実際に示したものであると想像できる。

朝鮮人民軍がこのような大規模かつ実戦を想定した軍事作戦を行なった理由は、今般の米韓合同軍事演習が危険な「戦争模擬演習」であったことだろう。

2022年11月の米韓合同軍事演習「ビジラント・ストーム」は、最新鋭のステルス戦闘機F35など240機が参加する史上類例のない規模のものだった。ここで注目すべきは、これが「北朝鮮にある700の標的を打撃するシナリオを想定」したものだったことだ。

「斬首作戦も想定」とマスコミが伝えているように、国家指導部など具体的な攻撃目標を設定した戦争演習そのものだった。

演習の中でも特に航空機による軍事演習というのは、演習から即、戦争に移行できるという危険な性質を持つといわれるものであり、これは相手にとっては宣戦布告に等しい。

あくまで仮定だが、もし米国近海で朝鮮や中国がこのような軍事演習をやったら米国はどうするだろうか?

1962年に起きた「キューバ危機」がその好例だ。米国の隣国キューバに提供するミサイルを運搬中のソ連軍艦艇に対し、米海軍艦艇が阻止行動に出た。この米ソの直接的軍事対決によって「すわ世界核戦争か!」と世界中が恐怖に震え上がった事件を想起すればいい。

この種の危険な米韓による戦争挑発行動に対応した朝鮮人民軍の軍事作戦で注目すべき新事実は、「作戦指揮システムをマヒさせる」戦争能力の保有を誇示したことであろう。「どんな戦争にも対応できますよ」というメッセージだと言える。

高橋氏の「もはや挑発などではない」という言葉は、「実践的段階に入っていると考えるべきだ」という本人の指摘以上の意味を含んでいると思う。

・「米国は戦争ができない」真の日本の安保危機

2022年11月3日の「北朝鮮の火星17号と見られるICBM」発射(電磁パルス演習)を受けて、米軍は合同軍事演習を延長し、新たに戦略爆撃機B1B、および核戦争用空中指揮統制機E6Bを投入した。

Bossier City, La., U.S.A.-April 14, 2017: A Boeing E-6B Mercury, a command and communications relay aircraft, approaches Barksdale Air Force Base in northwest Louisiana.

 

B1Bは超音速機でグアムから2時間で朝鮮半島に達し、巡航ミサイルの大量搭載も可能で、よって敵国領土外からミサイル精密打撃ができる特性を持つ爆撃機だ。E6Bはその名称の通り核戦争を指揮する任務を果たす。

Lakewood, United States- July 21, 2012: Joint Base Lewis-McChord opens its gates to the public for a free airshow. This image shows a B-1B bomber flying over the airshow.

 

しかし核戦争の恐怖を与えるこれら最新鋭機も、朝鮮人民軍の電磁パルス・核攻撃の前には無用の長物と化すだろう。またこれに先立つ米日韓合同軍事演習には横須賀が母港の原子力空母ロナルド・レーガンを主力とする空母打撃群が参加したが、これらは「防御不能の空母キラー」といわれる朝鮮や中国の変速軌道を描く極超音速ミサイルなどの格好の餌食でしかない。

2年ほど前に月刊誌「選択」は、中国の無数の「空母キラー」ミサイルによって、有事には「米空母はこの地域の海域に接近すらできないだろう」と書いていた。

結論的に言えば、米国は最新鋭・最強の武力をもってしても、東アジアでの戦争にはかなりのリスクを覚悟しなければならなくなった。いや、そんなリスクを彼らは負わないだろう。「米国は戦争ができない」国になったということではないだろうか。

これがとても重要な今日的な特徴だということを考える必要があると思う。

前号にも書いたことだが、ベトナム・アフガン・イラクでいずれも惨敗を身にしみて体験した米国民は、「欧州やアジアの戦争をなぜ米国がやらなければならないのか? これ以上、他人のために米国の兵士が犠牲になる必要があるのか?」そう考えるようになった。そんな厭戦気運が米国全体を覆っている。これも「米国は戦争ができない」要因だろう。

だからといって戦争をあきらめる米国ではない。このことも決して忘れてはいけないと思う。

2017年改訂の米国家安全保障戦略(NSS)は、「米軍の抑止力の劣化」を自ら認めた。米国は単独で戦争を行なう力を失いつつある、だから戦争には「同盟国の協力」を必須とする、とこの文書に明記した。

この米軍の「抑止力の劣化」を補う「同盟国の協力」の筆頭に挙げられたのが日本だ。専守防衛の建前から抑止力、すなわち攻撃武力を持たないできた日本の自衛隊が、やり玉にあげられるのは当然のことだった。

日本はもっと同盟義務を果たせ。この米国の強要の核心は、日本が抑止力を保有すること、つまり自衛隊の攻撃武力化だ。バイデン政権が進める米中新冷戦体制構築は、さらに日本に対する要求を切迫化させている。

この「日本の同盟義務」遂行は、第3次安倍晋三政権下で安保法制での集団的自衛権の行使容認、新防衛大綱での小型空母や長射程ミサイルなど攻撃的兵器保有の明記として具体化され、今日の岸田政権下で進む安保三文書、特に国家安全保障戦略の改訂で「反撃能力保有」という敵本土攻撃能力を自衛隊に持たせることを合法にすることで本格化される。

A news headline that says “counterattack” in Japanese

 

「反撃能力保有」が岸田政権下で2022年末に決定されれば、来年度以降は対中朝・敵本土攻撃能力の核心的課題として米インド太平洋軍がかねてから求めていた日本列島の「中距離核ミサイル基地化」が本格化するであろう。

このことは「紙の爆弾」12月号で詳しく述べたのでこれ以上、触れないが、すでに政府は長射程ミサイル独自開発を決定しており、当面策として長射程の巡航ミサイル・トマホーク購入を米政府に打診している。いずれ米国との「核共有」、日本の「非核三原則見直し」が浮上し、「日本列島の中距離核ミサイル基地化」が具体的に進められるだろう。

前述したように、「日本列島の中距離核ミサイル基地化」が完成するということは、中国や朝鮮のミサイル攻撃の対象が日本全土に及ぶ危険を自ら招き寄せることを意味する。

核など最新鋭・最強の抑止力、攻撃武力を持つ米国でさえ大きなリスクと覚悟が要求される東アジアでの戦争の、まさに最前線に日本は立つことになるのだ。米国より貧弱な攻撃力しかない日本にどうせよというのか。

「戦争ができない」米国に助けを求めるのは愚の骨頂だ。リスクを負ってまで米国は日本のためにどこまで戦ってくれるかは、大いに疑問だ。

ウクライナ国民は米国の対ロ代理戦争を強いられていると指摘されるが、米中新冷戦下の東アジアでは、いま日本が同様の対中(朝)代理戦争を強いられる国になりつつある。

日米安保条約によって「同盟義務」を負う日本は、「同盟義務」のないウクライナ以上の当事者義務を迫られるだろう。当事者義務として米国の代理戦争を「主体的に」受け入れる。これがいま日本で進行している危険な現実だ。

安倍政権がやったこと、岸田政権がいまやっていることをここから見れば、これらの政権は「同盟義務」を果たすために生まれたような政権だ。「同盟第一」を国益とする政権、これこそが日本の真の安保危機を招く元凶だと言える。

「日本の安保危機」、それは外から来るものではなく、日本の内にある。これが「北朝鮮のミサイル発射」から見えるもの、見るべきものではないだろうか。

(月刊「紙の爆弾」2023年1月号より)

 

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若林盛亮 若林盛亮

1947年生まれ。同志社大学で「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕。よど号赤軍として渡朝。「ようこそ、よど号日本人村」(http://www.yodogo-nihonjinmura.com/)で情報発信中。

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