闘いは各地で続いている、安倍国葬強行に反撃する違憲裁判
メディア批評&事件検証・横浜地裁で原告2人が意見陳述
11月7日午前、横浜地裁第1民事部(岡田伸太裁判長、柵木澄子・右陪席裁判官、蛯原優夏・左陪席裁判官)で、「安倍国葬違憲確認等国賠訴訟」第1回口頭弁論が開かれた。私も46人の原告の1人。安倍国葬をめぐる裁判で、法廷での審理が行なわれるのは大阪地裁に続いて2回目だった。
一番大きい101号法廷で約50人が傍聴した。裁判官たちには、多くの市民が国葬をめぐる訴訟に関心を持っていることが伝わったと思う。
私たちは、安倍国葬が日本国憲法の第14条「法の下の平等」、第19条「思想良心の自由」、第20条第2項「儀式への強制はされない」との規定に違反すると主張している。提訴後に国葬が実施されたため、11月2日、請求原因の一部変更を書面で行なった。
この裁判では被告の国(代表者・法相)は10月31日付で「答弁書」を提出した。24頁の答弁書には、「被告指定代理人」として、東京法務局訟務部の石井克典上席訟務官ら5人、横浜地方法務局訟務部門の松田朋子上席訟務官ら7人、内閣府大臣官房総務課の富永健嗣参事官ら6人の氏名が掲載されている。
富永氏は、安倍政権で総理大臣官邸報道室長だった時、私の取材を拒否し続けた人物。彼は内閣官房が国葬について内閣法制局に審査の相談を行なったのは7月12日と述べている。
国側は答弁書で、①閣議決定は内閣の意思決定であって、行政事件訴訟法でいう処分に当たらない②原告らと被告との間の具体的な権利義務はないし法律関係の存否に関する紛争であるとはいえないから、裁判所法の「法律上の争訟」に該当しない③内閣府設置法による実施が間違っていないことについては、内閣法制局とも調整をしたうえで判断している④良心の自由は侵害されていない⑤国葬儀の実施によって精神的損害を受ける旨の原告らの主張は理由がなく、国賠法上の違法が認められる余地はない―と主張した。
原告代表の岩田薫・元軽井沢町議は「私たちが内閣府に直接照会したところ、『内閣法制局は内閣府設置法を所管していない』との回答だった。岸田首相は『内閣府設置法により本件国葬を実施できるというのが、内閣法制局の見解である』と会見で述べたが、所管していないのに内閣法制局が法的根拠を与えたとの国側の主張は矛盾している」と指摘した。
第1回口頭弁論の場では、原告らを代表して2人が意見陳述した。元県立高校教諭の早川芳夫氏はこう述べた。「教育現場では、職務命令により国旗・国歌へ敬意を示すことが強制されている。それを拒否した教職員には、屈辱的な指導や分限処分が行なわれている。安倍氏の葬儀の時、神奈川県内のいくつかの自治体や学校では、半旗・弔旗の掲揚依頼がなされた。
国葬では、山口県で各出先機関まで弔旗・半旗が掲揚され、県立高校に職務命令による強制が行なわれた。国葬自体が国民や子どもたちの思想信条の自由を束縛する。特定の政治家の功績を讃えさせることにもなり、個人の自由を侵害する。費用の支出は全て国費で、その違法性も免れない」。
岩田氏はこう陳述した。
「国葬には、多くの国民や地方公共団体の議会が反対の声を上げた。鎌倉市では、9月12日に『安倍元首相の「国葬」実施の撤回を求める意見書』が可決された。
同意見書は、『国葬に明確な法的根拠がない以上、国会で議論が尽くされるべきだ』と指摘し、同様の意見書は、東京都国立市議会、同小金井市議会、神奈川県葉山町議会、岩手県奥州市議会、高知県大月町議会、鳥取県日南町議会、長野県箕輪町議会、同坂城町議会など各地の議会で可決されている。本件訴えは、最後の砦である司法の判断をあおぎ、法の下の正義がわが国において健全に機能しているかを見極めるため提起された」。
岡田裁判長は次回期日を2023年2月15日午前10時半から同じ101法廷で開くと決めて閉廷した。
弁論終了後、横浜地裁前で報告集会が開かれ、山下弁護士が「被告の国側は、国葬を決めた閣議決定は意思表明に過ぎず行政処分ではない、国葬はすでに終了しているので、提訴は不適法だとして棄却を求めている。法的には難しい裁判だ。しかし、国葬に関する法令がないのに、国会にも諮らず閣議だけで強行した。内心の自由を侵す、弔意の強要につながる決定で、国家賠償請求の根拠はある」と述べた。
その後、近くの波止場会館で報告・交流会が開かれ、私も挨拶した。学習会では参加者から「閣議決定は行政処分ではないという国の主張を崩せないのか」と質問。山下弁護士は「地方自治体には監査請求制度があるのに、国の場合、支出をチェックする制度がない。これは法律の不備であると主張したい」と答えた。
また、「国葬強行は憲法違反というのをどう説明したらいいか」という質問も出た。私は「亡くなった人にどういう弔意を示すかは、個人の内心の問題。国家が介入してはならない。国がある人間の死に特別の扱いをすることは法の平等に反し、内心の自由を侵害する」と指摘した。
口頭弁論は神奈川新聞・朝日新聞・共同通信・東京新聞・読売新聞が取材したが、私が見た限り、報じたのは東京新聞(森田真奈子記者)だけだった。翌8日付社会面のベタ記事だが、〈市民らは「国葬は行われたが、問題は終わりではない。法的根拠がない国葬の違法性や違憲性を司法が判断してほしい」と求めた〉などと的確に報じた。
・全国18自治体で住民監査請求の闘い
岩田氏は意見陳述で、全国の18の自治体で提起された住民監査請求の意義についてこう述べた。
「国葬をめぐっては、都道府県・市町村などの地方公共団体における国葬関連の予算の差し止めを求める住民監査請求も埼玉・山口・大阪・広島・長野・沖縄・兵庫・北海道など全国各地で提起された。埼玉や神奈川では、県警の警備費用や出張費用に県費が支出されることを差し止める住民監査請求も提起されている。
いずれの監査請求も住民合意がないことを根拠に、税金から知事や警察職員の出張旅費が支出されることを差し止める内容だ。地方自治法には、地方公共団体の予算の支出や契約の履行、財産の取得などに対し、監査委員に監査の実施を住民が請求できる制度がある。しかし、国にはその仕組みがない。各地で監査請求が提起されたのは、国に対してできないからやむを得ず提起したという側面がある」。
仮処分・本訴訟の原告である武内暁・「国葬やめろ実行委」共同代表ら5人は9月21日、埼玉県監査委員に、大野元裕知事と鈴木基之県警本部長が国葬に参列するのは違憲・違法だとして、費用の支出の差し止めを求める監査請求を行なった。県監査委員(小山彰・間嶋順一・小川真一郎・新井豪各氏)は11月16日付で「住民監査請求の結果について(通知)」を請求人へ送り、「請求には理由がない」として棄却を通知した。
各地の監査委員の請求棄却理由は「社会通念上相当と認められる社交儀礼上の行為だ」(神奈川県)、「違憲性や違法性については住民監査請求の対象とはならない」(新潟県)などだった。
・広島・北海道で監査請求人が行政訴訟
監査請求が認められなかった請求人は首長などを相手に行政訴訟を起こすことができる。国葬の実施は違憲・違法であり、湯崎英彦知事と中本隆志県議会議長が公費を使って出席したのも違法だとして、広島県民12人が10月26日、知事と議長に対し、出席費用の返還を求める訴訟を広島地裁に起こした。
原告らは9月5日付で公金支出差し止めの住民監査請求を棄却されており、返還請求を通じ、国葬の違法性を問う。住民監査請求の棄却を受けた訴訟は広島が初めて。
原告代表の山田延広弁護士は私の取材に「県監査委員は、議員3名、会計士1名。メディアは役職は報じていない。県側は何も答えていないが、監査結果では、県知事が国葬に出席することは、地方自治における行政が行なう行為の一つであり、出席するか否かは県知事や議長の裁量の問題であるとしている。この訴訟の意義は、国葬は憲法違反であること、これに地方公共団体の知事や議長が出席して税金を使うことは違法であることを市民に知らしめることにある」と述べた。
山田氏は統一協会の問題で、広島県被害者弁護団を発足させた。統一協会と癒着してきた自民党は、政治資金規正法の政治団体としての資格を失っているのではないかという私の考えについて、「そのとおりだ」と答えた。
また、鈴木直道知事と小畑保則道議会議長が国葬に出席するために公費を支出したのは違法として、北海道の住民9人が11月18日、知事と議長に費用計約40万円を返還させるよう求め札幌地裁に提訴した。原告側は8月19日に住民監査請求をしていたが、道監査委員が10月に棄却していた。
訴状では、国葬は憲法が保障する法の下の平等に反するうえ、旧陸海軍が使っていた曲と同一の曲を自衛隊が演奏し、平和主義にもそぐわないと主張。参列によって「違憲・違法な国葬の実施に加担した」としている。
原告代表の池田賢太弁護士(すばる法律事務所)によると、道監査委員は佐々木俊雄・議選委員(自民会派)、稲村久男議選委員(立民会派)、深瀨聡・識見委員(代表監査委員、元北洋銀行取締役=地元経済界)、永山秀明・識見委員(元檜山振興局長=道職員)の四人。マスメディアは、監査委員名については報じていない。
池田弁護士は「道としては、主張が認められたという整理だと思う。監査結果と請求人団で棄却決定を批判するコメントを出した。各地の住民監査請求は、全て却下になったはずだ。長野は監査請求後に知事が欠席を表明したので、事実上勝利と言えるだろう。各地の意見はそれぞれに異なっているが、憲法違反についてはどこの決定も触れていない。北海道は、国葬については知事の判断ではなく判断しようがない、旅費等の部分についてみれば適法な支出という判断だ」と述べた。
阿部守一(しゅいち)長野県知事は、御嶽山噴火(2014年)の追悼式への参加を理由に国葬を欠席した。
また、「広島の後に住民訴訟を提起しているのは、北海道のみだ。先行している関西などは、差し止めの監査請求だったので、公金支出の点について別途監査請求が必要になるためだ」と説明。今回の訴訟の意義をこう述べた。
「北海道は、安倍政治によって放逐されてしまっている、法の支配・憲法秩序の回復を地方自治の観点から求める訴訟と位置付けた。国に殉じた者を神と崇める戦前の思想と訣別したのが日本国憲法であるはずだ。演奏された曲目を見ても、戦前回帰が見てとれる。
かつて、天賦人権論をとらないといった自民党議員もいたが、本件国葬は、国ありきの国家体制を改めて示すものだと思う。また、知事らの参列は、本件国葬を国葬たらしめるために必須の参列行為であり、単なる傍観者でないことを明確に位置付けた」。
自民党は政党要件を満たしていないという私の意見についても聞いたところ、池田弁護士は次のように答えた。
「自民党は、倫理上、人道上、政治上の責任追及を正面から受けるべき。この責任追及から逃げ続けてきたのが安倍政治だったと思う。その意味で、今の自民党は政権を担う資格がない。
憲法制定過程では、松本案(敗戦直後に松本烝治国務大臣がまとめた大日本帝国憲法の改定私案)に代表されるように、天皇中心の国家体制をなんとか維持したいという勢力がいたことは間違いない。それは帝国議会での審議過程を見ても明らかだ。その当時から、たとえば24条の家族条項はやり玉に挙げられ続けてきた。
現時点の劣化した国会議員の言動を見ると、そこに思想は全くない。ナショナリズムを煽り、有権者の不安と高揚感のなかで議席を維持することが至上命題になっている下劣な政治屋だと思う。
他方、自民党が党綱領を定めた時点においては、戦前の制限選挙の基盤もあってか、一定のインテリジェンスや思想はあったのだろうと思う。その中で、岸信介らを排斥しきれなかった自民党が、反共の毒まんじゅうを食べ続けたのだろう。その劣化バージョンが公明党なのだろう。
日本国憲法は、中世以降の人類智の一つの到達点としての、個人主義・自由主義・民主主義を取り入れたものだ。加えて現代の智としての平和主義があり、そこには明確な政治思がある。ニュートラルな思想ではない。これを否定することは、国家体制の根本からの転換・転覆を目指すものだ。自民党は、穏健な保守政党ではなく、むしろ右翼的革命政党として位置づけられるべきと私は思う」。
・国葬裁判原告団交流集会 三里塚で団結
安倍国葬行政訴訟を闘う「安倍国葬違憲確認訴訟」原告団の交流集会が2022年11月20日、成田空港のど真ん中に建つ三里塚・木の根ペンションで開かれた。大阪裁判(判決は2023年2月16日)の原告、小山氏は「権利を言う主体は個人である。
今回の訴訟は、個人対国家の訴訟だ。民主主義社会の主権者の個人は、その数が多いか少ないかではなく、たった一人であっても、政府は個人の権利を侵害してはならない」と強調した。その個人の集合体が人民で、憲法も個人の尊厳を保証している。
自民党憲法改正草案や勝共連合の改憲案は、憲法から「個人」の規定を全面的に削除し、代わりに国民・家族という用語にしている。市民(citizen)は国家と社会契約していて、個人・市民の生命・財産を政府が保証しない場合、革命で政府を打倒できると米国憲法は規定している。
安倍国葬裁判では、監査請求人が起こす行政訴訟で、国葬強行は違憲という判決が出る可能性があると私は思う。
名古屋の川口創弁護士らが起こした「自衛隊のイラク派兵差止訴訟」(2004年2月提訴)で、名古屋高等裁判所(青山邦夫裁判長)は2008年4月、航空自衛隊がイラクで行なっている行動は「憲法9条1項に違反する活動を含んでいる」との判断を示した。原告は3268名で私もその1人だった。
一方、安倍氏暗殺事件で逮捕送検され、大阪拘置所で鑑定留置中の山上徹也氏に、奈良地検は11月17日、同月29日までだった鑑定留置期間の延長を「捜査上の必要から」との理由で請求し、簡裁が延長を認めたが、弁護団は翌日、通算6カ月以上の鑑定留置は長すぎるとして奈良地裁へ準抗告。地裁は同日、2023年2月6日まで延長するとした簡裁の決定を取り消し、同1月10日までとする決定をした。
この決定をした奈良地裁の裁判官、鑑定延長を申請した奈良地検検事、準抗告した弁護士の実名が報道されない。そもそも4カ月もの起訴前鑑定が異常で、山上氏の裁判引き延ばしを画策しているのは誰かを調査報道してほしい。
私は11月24日、大阪府堺市で山上氏の伯父、山上東一郎氏(元弁護士)に取材した。伯父は「検察から5日間の聴取を受けた。徹也に届いた市民からの手紙などは私が保管している。私ができることはもうない」と話した。
安倍国葬裁判で安倍氏と統一協会の関係を究明し、山上氏が公正な裁判を受けられるようにしたい。
(月刊「紙の爆弾」2023年1月号より)
〇ISF主催公開シンポジウムのお知らせ(2023年1月28日):(旧)統一教会と日本政治の闇を問う〜自民党は統一教会との関係を断ち切れるのか
〇ISF主催トーク茶話会(2023年1月29日):菱山南帆子さんを囲んでのトーク茶話会のご案内
※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。