【特集】アメリカ社会の分断・二極化

第103回 世界を裏から見てみよう:人類は本当に進化しているか? ユニークな画廊での「パロディ個展」

マッド・アマノ

「人類は進化しているか?」をテーマに、2022年11月上旬の2週間、東京・巣鴨の画廊「ギャラリー&クラフト杜(もり)」で開催したパロディ個展。連日、好天に恵まれ、想像をはるかに超える多くの方々に足を運んでいただいた。

画廊のある場所は大和郷(やまとむら)と呼ばれる閑静な住宅街。徳川の側用人・柳沢吉保の大名屋敷(六義園)一帯を明治維新後、三菱財閥の祖・岩崎弥太郎が買い上げ分譲、高級住宅街として名を馳せた。

その一画にあるギャラリー&クラフト杜は、1922年に現オーナーの祖父が大和郷に移り住み、戦後、キリスト教の牧師となった父親が教会を建てて、オーナーはその後を引き継ぐとともに、2021年に隣接の日本家屋を改修してオープンさせた。

この画廊との出会いは、2022年5月にいとこが個展を開いたことだった。外観を一見すると普通の日本家屋にしか見えないのだが、入り口にある小さなスペースに置かれた椅子に腰掛け、大きなガラス窓から庭越しに見る景観に、とても都心とは思えないゆったりした気分に浸ることができる。

・個展に集った論客たち

画廊に来館された方々から、何人かを以下にご紹介したい。

まずは鹿児島大学名誉教授(平和学・国際関係論)の木村朗さん。2006年頃、9.11事件の「自作自演説」を検証するグループ(きくちゆみ代表)とともに話し合う機会を得て、今日に至る。木村さんは鹿児島大学を定年退職ののち、単身、沖縄に移住。2022年4月、ウェブメディア「ISF独立言論フォーラム 」を岡田元治さん(株式会社リンク社長、ISF代表理事)とともに立ち上げた。

木村朗ISF(独立言論フォーラム)編集長

 

岡田元治ISF代表理事

 

そんな木村さんには著書も多数。その一部を挙げると、『沖縄自立と東アジア共同体』(花伝社)、『ヘイトクライムと植民地主義︱反差別と自己決定権のために』(三一書房)、『21世紀のグローバル・ファシズム』『中国・北朝鮮脅威論を超えて』(耕文社)、『核時代の神話と虚構』(明石書店)など。

次に紹介するのは、作詞家・音楽評論家の湯川れい子さん。その出会いは今から10年前の2012年9月29日、東京都千代田区のYMCAアジア青少年センターで行なわれた「みんなでワッショイ!『原発』国民投票秋祭り!」。このイベントの賛同人として、詩人の谷川俊太郎氏、女優の木内みどり氏(故人)らとともに参加した時だった。

私は主催者代表の今井一氏からの声かけで、反原発パロディ作品をスクリーンに投影した。ただ、湯川さんとはこのとき、じっくり話し合う機会とはならなかった。

月日は流れて2021年12月。テレビ朝日系の「徹子の部屋」の再放送で、湯川さんを観た。そこで彼女が語っていたのは、26歳の若さでフィリピンで戦死した兄が出征直前、吹いていた口笛のメロディを覚えていたことが洋楽への強い興味を抱くきっかけになったというエピソードだった。

兄は「僕が作った曲」と言っていたそうだが、そのメロディとは真珠湾攻撃の頃に米国で大ヒットした、トランペット奏者の第一人者、ハリー・ジェームズの「スリーピー・ラグーン」だった。「兄は軍人一家に生まれ、敵国の曲が好きだとは言えず戦争に行った。生きて帰っていたら…と考えると、絶対に『平和』を守らないといけないと思う」と湯川さんは訴えていた。

私の妻の父親も、ニューギニアで28歳で戦死。復員した同僚の報告によると自害したとのことだった。

後日、そのことを書いた十勝毎日新聞の私のコラムを添えて、湯川さんに手紙を送った。丁重な返事が届いたのは間もなくだった。今回、個展の案内を送ると「見に行きます」という嬉しい返信をいただいた。

30点の作品を興味深くご覧になった湯川さんとともに、9.11事件は米権力の自作自演だったことや、広島の原爆慰霊碑の碑文は正しく伝えていない、といったことを話し合った。

そこに刻まれている「安らかに眠って下さい 過ちは繰り返しませぬから」に対して、「我々(米国)は」と主語を入れた作品だ。原爆ドームに星条旗を掲げて批判の意を示したものである。湯川さんは「そうよ、その通り」と同意してくださった。

・海外単身取材を続ける我那覇真子さん

私が長らく、直接会って話をしてみたいと思っていたのが、ジャーナリストの我那覇(がなは)真子さんだ。

彼女は2020年のアメリカ大統領選の際、単身、現地に出向き携帯のカメラを片手に取材を敢行。翌年には、トランプ前大統領が閉鎖したテキサス州とメキシコの国境の鉄柵をバイデン大統領がこじ開け、不法難民を無制限に受け入れる様子を、ほとんどライブで中継した。

米国からの取材自粛要請があったのか、日本の大手メディアにその様子を伝えたものはほとんどなかった。

2021年1月6日のワシントンDCの国会議事堂への暴徒乱入事件は、トランプの策略であるとバイデン側は強調している。しかし、実際は係員が民衆を院内に入るよう誘導さえしていた模様がカメラに収められていた。我那覇さんはここでも、集まった人々にマイクを向けて生の声をレポートしている。彼らは過激どころかいたって冷静に、民主党の不正選挙に異を唱えていた。

Fences were erected around Capitol after January 6 2021 when pro-Trump protesters rallied in DC ahead of Electoral College vote count and some stormed into the Capitol. Fully armed National Guard soldiers on guard.

 

そんな彼女に、日本の“良識派”からの風当たりは強い。「改憲派・外交タカ派」を自称する作家・古谷経衛氏の批判について、私は「紙の爆弾」2021年3月号の当コラムで、次のように書いた。

〈古谷氏は「バイデンは不正選挙を行なったのだから、トランプは勝っている」という主張を「何ら根拠のないトランプ陰謀論」と断じ、「こんな摩訶不思議・珍妙な現象がアメリカ以外の国で起こっているのは日本だけである」と述べる。

さらに、「この論を唱えている或る沖縄出身の自称保守論客は、コロナ禍のさなかわざわざ渡米してトランプ支持者を『熱心に』取材し、『如何にバイデンが不正をしたか、如何にバイデン勝利が虚構か』をSNS等で撒き散らかしているのである」ともいう。

古谷氏は匿名にしているが、この保守論客が我那覇真子氏であることは、彼女を知る人なら容易に想像がつくものだ。どういう立場に立つのも自由であって、「日本人は余計な口出しをするな」とばかりの論調には疑問を抱かざるをえない。なにより「コロナ禍のさなかわざわざ渡米して」などと取材行動自体を否定するのはいかがなものか〉。

個展会場での我那覇さんは私の作品をじっくり鑑賞、ときおり笑みを浮かべながら「これはどういう意味ですか?」と問いかけてきた。あまり見たことがないであろう政治ネタのパロディを楽しんでいるようだった。

ヨーロッパ取材を終えていささか体調を崩していたと聞いていたが、「体調は戻ったようです」と付き添いの出版社・方丈社の編集者O氏がそっと話してくれた。

我那覇さんは、2024年の次期米国大統領選で共和党副大統領候補として期待される黒人女性政治家キャンディス・オーウェンズの著書『BLACKOUT』(方丈社)の翻訳をつとめ、さらに本人にインタビュー。同書の副題は「アメリカ黒人による、“民主主義の新たな奴隷農場”からの独立宣言」。我那覇さんのますますの活躍に、私は大いなる期待を寄せている。

・パロディ研究の中国人留学生

個展最終日の終了1時間前。20代と思しき女性が「マッドさんにお会いしたかったんです」と訪れた。「どうぞ、お入りください」と招き入れるとニコリとして、「実はパロディを研究していまして、マッドさんの個展が開かれていることを知り、やってきました」と言う。

聞けば彼女は中国人で、4年前に来日、現在は国立大学の留学生とのこと。一つひとつ作品を解説すると、特に関心を抱いたのが先の湯川さんと同じ、米国の原爆投下を批判した、原爆ドームのパロディだった。

 

「本国に戻ったらパロディ研究を続けるのですか?」との私の問いに、彼女はただニコリと笑みを浮かべるだけだった。

(月刊「紙の爆弾」2023年1月号より)

 

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マッド・アマノ マッド・アマノ

日本では数少ないパロディスト(風刺アーティスト)の一人。小泉政権の自民党(2005年参議院選)ポスターを茶化したことに対して安倍晋三幹事長(当時)から内容証明付きの「通告書」が送付され、恫喝を受けた。以後、安倍政権の言論弾圧は目に余るものがあることは周知の通り。風刺による権力批判の手を緩めずパロディの毒饅頭を作り続ける意志は固い。

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