【特集】日本の安保政策の大転換を問うー安保三文書問題を中心にー

戦需国家・米国への隷従を具現化する改定三文書、世論操作と情報統制で進む対米一体化の「戦争準備」

木村三浩

・安保三文書改定の意味

2022年12月16日、日本政府は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」からなる防衛三文書を改定し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有方針を閣議決定した。これは日米安保法制を補完するものであると同時に、「専守防衛」の戦後軍事政策の大転換である。防衛において外交を優先し、近隣諸国と議論を続けるという大前提を後回しにするものだ。

A news headline reading “enemy base attack” in Japanese.

 

たしかに同年2月に始まった、ロシアによるウクライナへの特別軍事行動は長期化し、世界はきな臭さを増している。日本の周辺においても、北朝鮮のミサイル発射実験が繰り返されている。

The rocket to launch. The flag of North Korea. Weapons of mass destruction. Missiles with warheads. Nuclear weapons, chemical weapons. War, fire, attack, threat.

 

しかし、それらの元をたどれば、ウクライナにおいては米国の謀略のもと、ウクライナ軍のNATO(北大西洋条約機構)加入をめぐり米国によるロシアへの挑発が繰り返されてきた。現在でも、イラクで民間人を殺傷した「ブラックウォーター」を前身とする米国民間戦争請負会社がウクライナで暗躍している。

Kiev, Ukraine – March 3 2022: Flag of NATO, North Atlantic Treaty Organization and Ukraine waving together in the white sky, copy space

 

一方、北朝鮮に対する挑発として、米韓軍事訓練が期間を延長して続けられていることは、報道ではあまり強調されない。2022年8月の中国の弾道ミサイル発射の前には、米国のナンシー・ペロシ下院議長(当時)が台湾を訪問していた。

日本の岸田文雄政権も、同年12月に自民党の萩生田光一政調会長が台湾を訪問すると、「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事である」と述べた。これが故・安倍晋三元首相の発言を重ねたものだということは、言うまでもないだろう。

China and Taiwan tensions, conflict and crisis. Newspaper print. Vintage press abstract concept. Retro 3d rendering illustration.

 

ここでわれわれが気付かなければならないのは、改定三文書によって具体化された日本の「戦争準備」の前提に、国民に対する世論誘導が行なわれているということだ。マスコミは防衛費増額の財源を批判はしても、「露・中・朝の脅威」に疑問を投げかけることはない。

risk of war has raised the price of gold. The international situation and financial themes. Financial safe-haven assetswooden sieve with word “Crisis” written on it holds gold nuggets, back of tank.

 

一方で防衛省にはSNSのインフルエンサーを活用して若者の意識喚起を図る、との計画もあるらしい。要するに世論操作である。

これは、日本政府にとっては当然のことなのだろう。近年、戦争や紛争において「情報戦」が注目されるが、自国内への情報統制はそれ以上に重要だからだ。この先、自衛隊が米軍の補完行動を行なった際に、国内で反対の声が高まれば困るのだ。

だからこそ、われわれが政府の判断に大義や法的正当性を問うことは、今、最も重要なことだといえる。そもそも〝敵〟とは誰なのか、本当に攻めてくる可能性があるのか、軍事的手段以外にそれを回避する方法が本当にないのか、反撃行為に効果はあるのかといったことを、冷静に分析することが必要となる。

Military Surveillance Officer Working on a City Tracking Operation in a Central Office Hub for Cyber Control and Monitoring for Managing National Security, Technology and Army Communications.

 

しかし、それらの問いに、今さら答える必要はないと政府は考えているのだろう。それよりも、国内世論を誘導・煽動する方が目的達成の近道だ。反対者には、「国賊か」と同調圧力をかける仕掛けの用意にも抜かりないのだ。

「GDP(国内総生産)2%」の金額ありきの防衛費倍増は、所得税や法人税、たばこ税が財源だという。われわれの日々の生活や経済活動にともなう納税が、米国製武器購入に使われるということだ。それもアメリカの型落ちである。「超戦需国家」アメリカへの隷属に疑問を投げかけるとともに、国民統制に対抗しなければならない。

 

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木村三浩 木村三浩

民族派団体・一水会代表。月刊『レコンキスタ』発行人。慶應義塾大学法学部政治学科卒。「対米自立・戦後体制打破」を訴え、「国際的な公正、公平な法秩序は存在しない」と唱えている。著書に『対米自立』(花伝社)など。

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