日本はもう五輪に関わるな、「電通のための五輪」がもたらした惨状
メディア批評&事件検証コロナ禍で強行された2021年の「東京五輪」は、開催後も最悪の事態を迎えている。2022年夏から摘発された、元電通専務の高橋治之被告を中心とした贈収賄事件に続き、電通と大会組織委員会、そして広告業界大手を巻き込んだ、大規模な談合事件にまで発展しているからだ。五輪のイメージは地に堕ち、もはや国民の支持を完全に失ったといえる。この東京五輪疑獄の構造と問題点を簡潔に解説する。
・電通が崩壊させた東京五輪
2021年度の総売上高5兆2000億円超の広告会社・電通は、単体では世界最大、グループで世界6位に入る巨大企業だ。
石井直社長(当時)は2013年の東京五輪招致決定直後、「電通はこの五輪で1兆円を稼ぐ」と社員にメールを送って叱咤激励したといわれている。招致から開催までの7年間のトータルとはいえ、たった1つのスポーツイベントで1兆円を稼ごうとは、五輪の巨大さを思い知らされる逸話だ。
その電通にとって、2021年に開催された「東京2020」は、巨額の売り上げ達成と、五輪開催を取り仕切ったという名声の両方を手にする、究極のイベントになるはずであった。
だが、そうはならなかった。
2022年7月20日付の読売新聞のスクープ「五輪組織委元理事、大会スポンサーAOKIから4500万円受領か…東京地検捜査」を皮切りに、電通元専務の高橋治之元東京五輪大会組織委員会理事が受託収賄の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。
さらに、贈賄側として紳士服チェーンAOKIの青木拡憲元会長をはじめ、出版大手KADOKAWAの角川歴彦会長(後に辞任)、広告大手ADK(旧旭通信社)の社長や大広の社員など、総勢15名が逮捕されるという大疑獄事件に発展した。
11月に入ると、捜査は新たな方向に展開した。五輪テスト大会の業務委託をめぐり、電通と組織委を中心に、広告業界の大手企業ほぼすべてを巻き込んだ、官製談合事件が発覚したのだ。
私は何年も前から、拙著『電通巨大利権』(サイゾー)『東京五輪の大罪』(筑摩書房)や、当のKADOKAWAから出版した『ブラックボランティア』を通じて、東京五輪の電通1社独占体制の危険性に警鐘を鳴らしてきた。現在捜査中の疑獄事件はすべてその「電通独占」が招いた結果である。
博報堂を2006年に退社後、著述業。原発安全神話を追及したのを皮切りに、広告が政治や社会に与える影響を調査・発表している。