【連載】横田一の直撃取材レポート

旧統一教会被害者救済法、「ザル法」に賛成した立憲民主の党内事情

横田一

・「30時間審議確保」と語っていた山井議員

国対ヒアリングの司会役を務めた山井和則衆院議員(党国対委員長代理)の2枚舌ぶりも目の当たりにした。12月2日、全国弁連の山口代表世話人らの新著『統一教会との闘い』(旬報社)の出版記念集会で山井氏は国会情勢について次のように報告していた。

立憲民主党・山井和則国対委員長代理

 

「基本的には『衆議院で30時間の審議をしてください。被害者や弁護士を招いて参考人質疑をしてください。必要であれば、問題のある団体の視察や調査もしよう』『戦後の宗教政策の歴史的な大きな曲がり角なので、じっくり丁寧に審議をしよう』と(与党に)提案しました」

そして山井氏は賛成の前提となる抜本的修正事項を挙げ、与党側にボールがあるとも強調した。

「『配慮義務』という非常に弱いものを『禁止』にするとか、『必要不可欠』を『必要』にして対象を広げるとか、抜本的に被害者救済につながる修正をするのなら、会期内に成立させることもやぶさかではないと言っている」。

こうして山井氏は、2つの選択肢を政府側に突きつけ、その回答を12月5日まで待っていると説明したのだ。

被害者救済目線を貫くと宣言したに等しい山井氏の発言は、しかし4日後の6日にあえなく覆ることになった。

「『一歩前進だけれども不十分なので反対』と言えばよかった。それで維新との関係が悪化したとも思えない」と振り返る立民の衆院議員は、維新「共闘」重視以外とは別の理由を口にした。

「両党幹事長の会談前日(5日)に山井さんは政府案賛。成を主張。被害者救済の実効性より『やっている感』演出を優先したのではないか。新法成立をアピールしたかったようにも見える」

このメディア戦略は成功した。国会議員紹介枠で本会議場で傍聴をした被害者の小川さゆりさん(仮名)と橋田達夫さんは、新案の不十分さを指摘しながらも「歴史的な瞬間」などとコメント。大新聞やテレビは新法成立をどちらかといえば肯定的に報じた。

実効性に乏しいとして反対した少数野党よりも、賛成した与野党4党の方がメデイア露出度が高くなり、全国弁連の面々を前に嘘をついた形の山井氏を批判する報道を発見することもなかった。

そこで私は、泉代表に12月9日の定例会見で「山井さんは『国会を延長して30時間の審議時間を確保する』と言っていた。ちゃんと審議するべきだったのではないか」と聞くと、次のような回答が返ってきた。

「相手がある交渉ですので、『じゃあ』と言ってテーブルを叩いて退出すれば、何か得られるものがあるのか。今後の協議がどうなるのか。そういったことも総合的に考えて行動している」。

理解困難な主張だった。先の立民議員のように「一歩前進だが、まだ不十分なので反対」という立場をとることが、なぜ今後の修正協議の場を失うことになるのか。

旧統一教会問題を半世紀追い続ける俳優の中村敦夫・元参院議員は「救済法案は『お粗末過ぎる』」と銘打った12月8日付の朝日新聞の記事で、国会の実態をわかりやすく解説していた。

「『やっている風』を示すために政権はその場しのぎの法案を出し、野党も反対すれば無責任と言われるのを恐れて妥協した」「旧統一教会は40年ほど前からマインドコントロールを駆使して霊感商法などで収益を得ていた団体なのに、今さら『配慮義務』を求めてどうするのか。『十分に』と加えてもなんの効果もない」。

中村氏の言う「野党」は賛成した立民や維新のことで、反対した他の野党(共産やれいわなど)は含まれないが、少数野党がほとんど蚊帳の外に置かれた〝準大政翼賛会〟のような国会が、お粗末な法律しか産み落とせない体たらくぶりを的確に指摘したインタビュー記事であった。

安倍元首相銃撃事件から約半年が経っても、韓国教団への国富流出(日本人信者の高額献金)の阻止に有効な法律作りができないのを見て旧統一教会は、「これからも高額献金集めを続けられる」と安堵しているに違いない。

・自民・茂木幹事長の野党切り崩し工作

泉氏の致命的弱点が浮彫りになる。枝野幸男代表辞任を受けて代表選に立候補した泉氏は、「立民は反対ばかり」という批判に対抗すべく政策提案型の旗を掲げて代表選に勝利し、「立憲共産党」と中傷されるのを恐れてか共産党を含む野党連携(共闘)も後退させた。

共産党も参加していた旧野党合同ヒアリングは半年以上も休眠状態が続き、昨年7月の参院選でも全1人区で野党統一候補を擁立して善戦した過去2回(2016年と2019年)の成功体験を反故にして、23議席から17議席となる26%減の敗北を喫した。

枝野代表が辞任した前回の総選挙は109議席から96議席への12%減だったから、その倍以上の割合で議席減を招いた泉代表も、辞任しても不思議ではなかった。臨時国会では政策提案型から脱却して対決色を強め、野党合同ヒアリングも復活させたが、救済法案をめぐる与野党攻防の最終盤で弱点を自民党に突かれて腰砕けになった。

仕掛け人は、おそらく「新法を任せて下さい」と岸田首相に名乗り出た茂木幹事長だ。立民と維新の共同提出案と政府案とのギャップを弥縫策的修正案で多少埋める一方で、維新前代表の松井一郎市長とも面談、大阪万博への協力要請を受けて良好な関係が復活、まず維新から新法賛成の感触を引き出した。

続いて、維新との賛否が割れるのを恐れる「共闘」重視派幹部が幅を利かす立民の党内力学を背景に、12月6日の岡田幹事長との面談で「十分な」の文言追加を〝切り札的修正〟にして立民賛成で折り合うことにも成功したのだ。

この〝密室談合決着〟に至る経過を報じた記事には、「『十分』で賛成に回ってくれるのなら安いものだ」という主旨の自民党関係者の発言や、「共産党と一緒に反対したら『立憲共産党』とまた呼ばれてしまう」と心配する立民議員の声が紹介されていたが、これこそ茂木幹事長の野党切り崩し工作成功を裏付けるものに違いない。

News headline that says “Proposed amendment”

 

そこで12月9日の会見で「維新に立民の政策が引きずられているのではないか」と聞くと、泉代表は「それはない。われわれは立民の政策を第一に考えて、必要であれば、(維新などと)政策合意をして進めていく」と否定した。「防衛3文書でも(維新に)引きずられている印象を受ける」と再質問をしたが、泉代表は「それは人によるかなと思う」と答えたのみだったのだ。

茨城県議会選挙で自民党は現職10人が落選したものの、代わりに当選した保守系無所属を取り込むことでほぼ現有勢力を維持する見通しとなった。公明党も現有4議席を維持し、自公ともに安堵する結果となった。

一方、議席増のチャンスと見られた立民は現有議席と同じ2議席。27歳の新人が70歳台の自民党長老議員に挑んだ1人区(美浦村・阿見町選挙区)でも、肉薄したものの敗れた。維新は1議席を初めて獲得する一方、共産党は2議席から1議席と半減した。

立民も賛成の救済新法成立が、与野党4党の「やっている感」演出にプラスとなり、自公への逆風を和らげる働きをしたのは確実だ。立民が被害者救済目線を貫いて共産党やれいわや社民とともに反対、ザル法成立と批判していれば、茨城県議選は自公敗北で野党議席増となった可能性が高い。

「選挙に勝てない泉代表」「維新『共闘』重視の弊害」が露呈した形となった臨時国会最終盤と統一地方選の前哨戦だった茨城県議選―立民執行部の刷新こそ、防衛3文書や原発推進でも民意無視の岸田政権の暴走阻止に不可欠のように見えるのだが。

(月刊「紙の爆弾」2023年2月号より)

 

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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