第104回 世界を裏から見てみよう:無力な岸田文雄首相
安保・基地問題・トランプと安倍のゴルフ
岸田文雄首相が掲げた防衛予算の倍増は、自民党内でも大問題となり、高市早苗経済安保相が首相に噛み付く一幕もあった。安倍晋三元首相の子飼いだった高市氏は、防衛費の増額には異論がないものの、その捻出先が増税というのが気に入らなかったようだ。4月の統一地方選挙で有権者の自民党離れを抑えきれないということらしい。
岸田首相は、なぜ閣僚をはじめ自民党内部での議論すら避けて、ゴリ押ししようとするのか。思い出してほしいのは、2017年11月5日、当時のドナルド・トランプ米大統領が来日直後に首相だった安倍氏と埼玉県内でゴルフに興じたことだ。
しかも、色を添える意味から松山英樹プロが2人の相手をした。トランプ氏は「2人のワンダフルな人とともにゴルフのプレー中だ」と自身のツイッターに投稿し、プレーの様子まで動画で公開していた。
なぜトランプ氏は、安倍氏とともにプレーをしたのか。彼はこう述べている。
「私が大事だと思うのは、安倍総理大臣がアメリカから大量の兵器を購入することだ。アメリカは世界最高の兵器を生産している。(兵器の購入は)アメリカには雇用を生み出し、日本には安全をもたらす」と。
一方、安倍氏は首脳会談後の共同記者会見で「アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しくなるなかにおいて、日本の防衛力を質的・量的に拡充していかなければならない」と話した。
トランプ氏がアメリカの装備品のさらなる購入を求めていることについて、当時の小野寺五典防衛相は「自衛隊の装備は、防衛力整備の指針となる『防衛計画の大綱』と5年ごとの整備計画を示した『中期防衛力整備計画』に基づき計画的に取得しており、今後も着実に防衛力を整備していく」と述べた。この通り、日米間で着実に防衛費増額の下地作りが進んでいたのである。
・FMSという摩訶不思議な日米間取引
ぜひとも知っておく必要があるのが、防衛装備品購入のカラクリだ。日本がアメリカから装備品を購入する場合は「FMS」(Foreign Military Sales=対外有償軍事援助)といい、企業ではなくアメリカ政府との直取引で購入しなければならない。つまり取引先は、商社やメーカーではなく、「アメリカ海軍省」や「アメリカ空軍省」。メーカーの卸値は全く公開されず、米側の「言い値」で買わざるを得ないのだ。
こんな理不尽な取引が日米間でまかり通っていることを、国民は知る必要がある。国会で野党が追及すべきだが、肝心なことには無頓着にさえ思える。
防衛省のまとめによるとFMSによる調達額は、2011年は589億円、2016年は4881億円。5年間で8倍以上に急増している。2012年に第2次安倍政権が発足して以降、購入額が大きく増えていることがわかる。
しかもこれらの兵器は旧式、いわゆる型落ちのものがほとんどで、実戦には向かないとの指摘もある。近年の戦争は兵器や戦術などが格段に進歩している。
ウクライナ戦争でも見られたように、地上ミサイル砲の飛行距離の長さときたら、イラク戦争の時代とは雲泥の差だ。安価なドローンも、兵器として使われるようになっている。無人偵察機が敵のミサイル攻撃をかいくぐって、目標となる建物や人物に、確実にミサイルを命中させるくらいのことは、ごく当たり前の技術だというから恐ろしい。
「台湾有事は日本有事」。これは2021年12月1日、台湾で開かれたシンポジウムに日本からオンラインで参加した安倍氏が発した言葉で、国会で野党の追及にあった。
中国側が軍事的手段を選ばないよう自制を促す取り組みの必要性を訴えたと言い訳したが、これはどうみても苦しく、中国は〝敵基地攻撃〟に値するとばかり、その対策の必要性を強調したものだ。そして「防衛費増額」への道筋をつけた。北朝鮮のミサイル打ち上げも、日本人に恐怖感を抱かせている。
もしかすると米・中・北朝鮮の3国による、日本人に対して恐怖感を煽る作戦の一環ではないかと邪推したくなる。そうでなくとも、安倍氏の「台湾有事は日本有事」発言は、アメリカに「言わされた」ものと思わざるを得ない。
・鳩山元首相も知らなかった日米合同委員会
2019年に出版された『株式会社化する日本』(詩想社新書)は思想家の内田樹さん、元首相の鳩山友紀夫さん、鹿児島大学法文学部教授(現名誉教授・沖縄在住)の木村朗さんの鼎談をまとめた本だ。
第1章「平成時代と対米自立の蹉跌」では、鳩山さんが「私は恥ずかしながら日本の官僚と米軍人との間の日米合同委員会が毎月2度、秘密裏に行われているということも、その会議の内容もわかっていなかったものですから」と正直に告白している。当時の首相も知らないところで、日米の最高意思が決定されているとは、国民の誰が想像するだろうか。
鳩山さんはその壁に阻まれ、対米従属からの自立のシナリオを描くことはできなかった。おそらく自民党政権では、暗黙の秘密事項として引き継がれてきたことだろう。
『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(2013年刊、創元社)編著者の前泊博盛さんは、琉球新報の論説委員長を経て、沖縄国際大学大学院教授。記者時代には、外務省機密文書のスクープと日米地位協定改定のキャンペーン記事で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞している。
この本は、もしもオスプレイが東京大学の安田講堂に激突したらどうなるか、といった架空の質問に答えている。その答えは「安田講堂に激突、炎上して破片が広範囲に飛び散ったとき、米兵は正門や赤門を封鎖して、警視総監の立ち入りを拒否することができます」。
覚えているだろうか。2004年8月13日、沖縄国際大学の本館ビルに、米軍のCH53D大型ヘリが墜落し、爆発炎上した。直ちに隣接する米軍普天間基地から数十人の米兵が大学になだれ込み、事故現場を封鎖、日本人を追い出した。米兵たちは沖縄県警の警察官を現場に入れることも拒んだ。
「植民地同然の光景」が展開されたのだ。
面積では日本の中の0.6%にすぎない沖縄に、74%の米軍基地が集中している。沖縄国際大学の事件からほぼ20年経つ現在、日本はアメリカの属国ぶりをますます深めている。
もう1冊、紹介したいのが、ジャーナリスト・吉田敏浩氏の『「日米合同委員会」の研究』(2016年刊、創元社)。日米間で、私たちの知らないところで何が話し合われているのか、密室で日本の主権を侵害する取り決めを交わす実態に迫ったものだ。
日米合同委員会とは、日本の超エリート官僚と在日米軍の軍人たちが毎月2度行なう秘密の会議で、戦後7年目の1952年調印の日米行政協定で設けられた協議機関である。そこで合意された取り決めは、日本の法律・憲法よりも強い効力をもっている。その内容は軍事・外交・司法のさまざまな側面にまたがり、ほとんど公表されることがないまま、日本の主権を侵害し続けている。
・レールガンとは?
ドローンをはじめ、近年の戦争技術の向上は凄まじい。そのひとつ「レールガン」(電磁砲)は、一般的にはあまり知られていないが、防衛省が、その開発を今年度から本格化させるという。報道によれば、先行していた米海軍は開発を中断、日本が民間の大容量電源技術でリードしたい考えだという。
その目的は、高速で飛来する極超音速兵器の迎撃、つまりミサイル防衛だ。ロシアや北朝鮮が開発を進める極超音速兵器はマッハ5以上とされ、2017年度から始めた防衛省の試作では、マッハ約5.8の高速度を実現。なんと秒速2000メートル。すでに私たちの想像を超えた、SFの世界だ。
もしかすると、いまだ謎が残るとされる安倍氏狙撃の武器もレールガンだった? いやいや、これは冗談だが、いまや国際的に兵器の開発が高度に進んでいることは間違いない。
もはやミサイル攻撃すら、過去のものとなりつつあるのかもしれない。
(月刊「紙の爆弾」2023年2月号より)
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日本では数少ないパロディスト(風刺アーティスト)の一人。小泉政権の自民党(2005年参議院選)ポスターを茶化したことに対して安倍晋三幹事長(当時)から内容証明付きの「通告書」が送付され、恫喝を受けた。以後、安倍政権の言論弾圧は目に余るものがあることは周知の通り。風刺による権力批判の手を緩めずパロディの毒饅頭を作り続ける意志は固い。