メールマガジン第57号:「ノーモア沖縄戦・迫る国土の戦場化」
ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会メルマガ琉球・沖縄通信2022年8月になって、沖縄では軍事的緊張が一気に高まった。アメリカのペロシ下院議長が中国の制止を振り切って台湾訪問を強行。メンツを潰された中国は翌日4日から大規模な軍事演習を始め、27年ぶりに台湾に向けミサイルを発射した。
それが一部日本の排他的経済水域に落下したことから国内も大騒ぎになり、やはり「台湾有事は日本有事」なのだと日本中が震え上がった。落下地点に近い与那国島や波照間島は悲鳴を上げ、漁業者は操業を見合わせ、島のリーダーたちは県や国に対応を求めた。
「もう安心して住めない」という島民のコメントが全国に流れた。沖縄本島もにわかに慌ただしくなり、嘉手納基地から弾道ミサイル観測機コブラボールが出動、自衛隊基地からもミサイルを装着したF15戦闘機4機が緊急発進。沖縄の新聞を読んでいると、日々本物の戦争が近づいていると実感せざるを得ない。
台湾近海にアメリカの原子力空母を含む大型艦船も姿を現し、米中の緊張は極度に高まっているが、台湾海峡を巡る危機は、実は過去にも何度かあった。直近の1995年~96年の第三次台湾海峡危機の時には、アメリカ海軍に比べ圧倒的に貧弱な中国海軍が身を引いて終息する形になった。
あれから27年、中国海軍のスペックも格段に上がった。「空母キラー」と呼ばれる超音速対艦巡航ミサイルを搭載した駆逐艦を保有し、中国もアメリカの艦隊を寄せ付けない海軍力を獲得しつつあるという。しかし、もっと恐ろしい決定的な違いがある。それは今、日本の南西諸島にはズラリと自衛隊(・・・)のミサイルが並んでいるということだ。
これは何を意味するのか。27年前なら、有事になってもそれは米中の軍事衝突と理解されただろうが、今回は確実に自衛隊が参戦する形になってしまっている。やがて核弾頭が搭載可能なアメリカの中距離弾道ミサイルもここに配備される。
こうして、南西諸島に日米のミサイルを並べ、中国の太平洋進出を「第一列島線」で阻止するという、アメリカの思惑通りのフォーメーションが、私たち沖縄や奄美の人たちが暮らす地域を使ってほぼ完成した。
砲座がある場所は当然、標的になる。そのため今のミサイルは探知されて爆破されないよう車載型になり、発射したらすぐ移動して次の打撃に備える。そんなものが複数島の中を走り回るのだから、住民に安全な場所などない。今のミサイルは、否応なく島中を敵のターゲットにするものなのだ。
この中国封じ込め作戦は2010年前後の「エア・シ―バトル構想」から始まっているが、中国の軍事力の増大に伴い、内陸で闘うのは得策ではないという考えから「オフショアコントロール」、つまり「第一列島線に中国軍を引き付けて水際で叩く」という作戦にシフトしていった。
水際作戦に対応するために日本版の海兵隊「水陸機動団」が自衛隊内に発足、南西諸島が真っ先にやられる想定で、島を奪還しに来る「離島奪還作戦」がこの数年頻繁に日米合同で行われている。一度壊滅した島々を奪還する作戦、と言われても、住民目線ではもう言葉もない。
沖縄戦以上の地獄を想定して奪還作戦をやっているのか?それとも軍人の頭の中には住民のいない仮想空間が広がっているのか?およそ理解に苦しむ。さらに25年来もめている辺野古の基地も、もはや中国のミサイル圏内に入っているために米軍は常駐する気もない。代わりに、弾薬庫も軍港も滑走路も使える自衛隊の一大出撃拠点になり、この水陸機動団も辺野古を使う予定だという。
今、南西諸島になぜ自衛隊のミサイルを置くのか?多くの国民は、尖閣諸島が不安定だし、中国軍が攻めてくるから米軍も自衛隊もその辺にいた方がいいという、政府に都合のいい誤った認識を持ったままだと思う。
私はその誤解を解くために2015年から自衛隊配備の問題を報道してきた。それまで主に辺野古や高江の基地建設に抗う人々を取材してきたが、民衆の闘いをドキュメンタリーにするだけではもう、沖縄が戦場になる運命を変えられない。
そもそも南西諸島の軍事要塞化はいったい、誰から何を守るものなのか?その本質が覆い隠されたまま自衛隊配備が進んでいる。住民たちが反対の声を上げても、漠然と中国が怖い、北朝鮮が怖い、と不安がる人々が「自衛隊に反対するなんて、国賊」「中国軍に占領されてもいいのか」とバッシングをする。
不安を煽られた国民というものは実に始末が悪い。いや、権力者にとっては、不安だけ煽っていれば、非常事態に弱い大衆は最も御しやすいという黒い法則を、今まざまざと見ている気がする。
冷静に見れば、ここに置かれる地対艦・地対空ミサイルは明らかに島を守るための装備ではない。中国を封じ込める作戦に使うもので、だから真っ先に標的になる。島の住民が「自衛隊の攻撃基地ができたら標的にされて戦場になる」とSOSを発しても、「自衛隊がいた方が安心。もっと強くなってほしい」と考える人が年々膨れ上がり、その声にかき消され、真実がなかなか全国に伝わらず悔しい日々が続いていた。
そこに、ロシアのウクライナ侵攻が起きた。日々流れてくる映像を見て世界中が「ウクライナにはなりたくない」という恐怖を共有した。日本人も憲法9条の存在もすっかり忘れ「敵基地攻撃力」「軍事費倍増」「核共有論」と震え上がった勢いで一気に軍事国家への道を走り始めた。
一方、逆に見えてきたこともある。それこそ「西側諸国の利益の最前線」と世界から位置付けられてしまうと、NATOやアメリカから武器や軍事費を投入されて、終われない戦争の舞台にされるという構図だ。南西諸島や日本はそうなりかねないと私が警鐘を鳴らしてきたことが、ウクライナ以降理解できるようになったことは大きい。
今回、アメリカがロシアの弱体化を目的に後ろからこの戦争を操っていると指摘されるが、同様に中国の国力低下を目論むアメリカが周りに小競り合いを起こし、遠くからコントロールするという形がクリアに見えてくる。
つまりアメリカは、都合のいい時に台湾を使って中国を刺激し、台湾に武力侵攻せざるを得ない状況に追い込む。そうすれば簡単に台湾や南西諸島あたりで偶発的な衝突を起こすことができるだろう。あとは台湾の軍隊や自衛隊に主体的に闘ってもらう。
そして西側諸国への挑戦だ、とウクライナのケースのように各国の支援を取り付けながら国際的に中国を孤立させ、外国資本が中国から撤退していけば中国の国力は自然に弱まる。
アメリカは、国土や自国の兵隊を消耗することなく、中国と一対一で対決もせずに覇権を維持することができるというわけだ。この構図を理解すれば、私たちはアメリカのために日本の若者の命を差し出したり、国土を戦場にする愚を未然に止められるかもしれない、と期待した。
ところがこの緊張の最中の8月6日、国会議員らが台湾有事を想定したシミュレーションを行ったのだが、その動画を見て愕然とした。訓練の筋書きは、中国が台湾を攻撃したことで日本が「存立危機事態」になったと認定され、また尖閣諸島に武装した漁民が来て「武力攻撃事態」が発生した、自衛隊の出動の条件となる認定を政府に迫るという流れなのだ。
はっきりと、中国から日本の国土にミサイルが撃ち込まれるような事態になる何歩も手前に、自衛隊を動かし、攻撃許可を出す、そのシステムづくりのシミュレーション。これは非常に危うい。アメリカの狙った通りに、同盟国から先に攻撃を仕掛けさせること、そうすれば反撃はその国が受けるという図式だ。
冷静に考えて欲しい。中国が国の一部であると主張している台湾に侵攻しただけで、中国からすれば国内問題である段階で、日本がアメリカよりも先に攻撃する役割をまんまと演じてしまうことになる。そうなれば、中国は米軍ではなく自衛隊にミサイルを撃ち込まれたのだから、日本に反撃のミサイルを撃つ。当然アメリカ本国も攻撃されない。馬鹿を見るのは日本であり、真っ先に攻撃を受けるのはミサイルを並べてある南西諸島とこの国なのだ。。
このシミュレーションを見ていて失笑したのは、尖閣諸島が攻撃されたことをアメリカの大統領に訴え「日米安保条約の規定通り一緒に戦ってほしい、台湾でも頑張るから」と懇願するような場面が含まれていることだ。「尖閣で軍事衝突が勃発したら米軍は日本を守ってくれるか問題」については、自民党がこの間ずっと首脳会談のたびにお尋ねし、成果として色よい回答をねだって来た。
親分は俺を守ってくれる。だったら親分のためにこっちも命を懸ける、という安い任侠ドラマを国民に見せてきた。しかし事ここに至っては、日本を守ってくれるか以前に、アメリカは中国戦略に日本を利用しているという基本を肝に銘じるべきだ。日本には防波堤の機能を期待しているに過ぎない。
米軍が、第一の防波堤を崩されたくないために頑張ることはあっても、火の粉がアメリカ本国に及ぶようなヘマをしてまで日本を守る選択はない。その事実を冷徹に見据え、ではどうやって戦場にされる運命を回避するのか、私たちは必死に考えねばならに局面まで来ている。
一方、アメリカのNBCが5月に放送した番組の台湾有事シミュレーションで、中国の初期攻撃について専門家が語る動画があるのだが、私はこれを見て、やはりそうかと納得した。
中国はまず台湾の東側と同時に日本の米軍基地を攻撃すると図で示すのだが、その攻撃の矢印はまっすぐ横田基地か横須賀か、首都圏あたりに向かっていた。まず沖縄、ではないのだ。
もちろんミサイルがある沖縄は攻撃対象になるだろうが、本土の多くの方々はなぜか「最初にやられるのは沖縄であって、うちらの地域ではない」とタカをくくっている。中国を睨んだ自衛隊のミサイルが配備されると、日本が防波堤に使われてしまいますよ、と映画や本で警告しても、なぜか「沖縄は大変ね・・・」という反応に出くわす。私たちは大丈夫、という「鈍感の壁」はなかなか壊せない。
有事になっても米軍と自衛隊が何とかしてくれるだろう、沖縄はわからないけど本土は助かるだろう、と根拠なく思っている人が圧倒的に多いからこそ、ここに至ってなお、アメリカと一緒に強い国になろうという幻想が抱けるのではないだろうか。
幸か不幸か、沖縄にいるとそんな勘違いをする猶予もない。昨年末、また沖縄戦になるのか?とひっくり返るようなニュースが駆け巡った。
12月24日の県紙の見出しは「沖縄 また戦場に」「米軍 台湾有事で展開」「住民巻き添えの可能性」。米軍が沖縄の有人島40カ所を自在に使って対中国戦略を展開する日米共同作戦計画の内容が明るみに出たのだ。
今年1月の2+2(日米安全保障協議委員会)で、計画内容は大筋合意された。もう迷っている時間はない。私たちは党派も立場も関係なく、島を戦場にしないあらゆる取り組みをやろうと「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」を立ち上げた。
どこの国の軍隊であろうと如何なる正義の戦争であろうと、二度と沖縄を戦場にすることは許さない。その一点で結集した。それは「日本を戦場にさせない」ということと全く同義語である。本土にいると入ってこないニュースも共有したいので、日々HPに「沖縄戦前新聞」というコーナーで記事を更新しているので、ぜひ賛同人に加わって戴き、共にこの黒い流れを止めて欲しい。
どこの国からも尊敬され、敵視されない、戦争をしない国を目指しなおす道を、共に模索する仲間になって欲しいと心から願っている。(雑誌「アジェンダ」78号より転載)
文責:三上智恵(映画監督・ジャーナリスト ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会発起人)
「ノーモア沖縄戦の会」は「沖縄の島々がふたたび戦場になることに反対する」一点で結集する県民運動の会です。県民の命、未来の子どもたちの命を守る思いに保守や革新の立場の違いはありません。政治信条や政党支持の垣根を越えて県民の幅広い結集を呼び掛けます。