第4回 地獄への道は善意のバラで敷き詰められている―オンライン署名運動がもたらすもの―
国際さて上記署名の呼びかけ人(仮にSさんとする)は段落(2)で次のように書いていました。
「2022年にもなって、ヨーロッパの独立国に対して軍事侵略が行われるなど、誰が想像できたでしょう」。
しかし実は、ウクライナ軍によるドンバスの2カ国(「ドネツク共和国」と「ルガンスク共和国」)への侵略攻撃は、この2カ国がウクライナからの独立を宣言した直後に始まっています。
ウクライナにクーデター政権ができ(2014年2月)、それに反発する2カ国の住民は、「住民投票」で独立を宣言し(同5月)、ロシアに対してはクリミア共和国と同じように、ロシアからの承認およびロシアへの編入を求めました。が、ロシアはこれを認めませんでした。
もし、この時点でロシアが上記2カ国に対して「独立国家」として承認していれば、それから8年にもわたるドンバス地方への侵略や残酷な攻撃はなかったでしょう。その証拠に、ウクライナ軍はクリミヤにたいしては一度も軍事攻撃をしていませんし、住民の死
傷者も出ていません。
そんなことをすれば、ウクライナ軍はロシア軍と正面から戦わざるを得なくなり、敗北することは眼に見えていたからです。
逆に、プーチン大統領にしてみれば、「クリミア共和国の独立承認→ロシア併合」をしただけでも、アメリカを初めとする欧米諸国からの「クリミア侵略」という強い非難を浴びていましたから、そのうえドンバス2カ国を承認すれば、さらに面倒なことになると思ったに違いありません。
しかし、ドンバスの住民はクリミアと同じようにロシア語を母語とする住民が圧倒的多数であり、クーデター政権は「ロシア語を公用語とすることを禁止する」と表明していましたから、自分たちの基本的人権を守るために立ち上がらざるを得なかったのは、クリミアの住民と同じだったはずです。
ですからドンバス2カ国の住民にしてみれば、プーチン大統領の日和見主義のため、8年間もの忍従生活を強いられたわけです。
住民たちはこの8年間、毎日のように空からの爆撃と地上からの侵略軍によって多くの死傷者を出してきましたが、プーチン大統領によるこのたびの独立国承認によって「やっと地下室で脅えながら毎日を過ごす生活から解放される」と言っていました。
つまり、「2022年にもなって、ヨーロッパの独立国に対して軍事侵略が行われるなど、誰が想像できたでしょう」と先述の署名呼びかけ人は言っているのですが、この8年間、軍事侵略を受け続けてきたのは、ドンバスのほうだったのです。
このような事実を日本の大手メディアは一切報じてきませんでしたから、日本人の多くが知らないのも無理はなかったとも言えます。というのは、私自身でさえ、右記のようなことの概略は知っていましたが、映像でその実態を見るまでは、その生々しい惨劇ぶりを知らなかったからです。
ところが私が主宰する研究所のサイト『翻訳NEWS』の読者(自称「アラジン」氏)から次のような要求が届きました。
オリバー・ストーン監督の2016年製作のドキュメンタリー『ウクライナ・オン・ファイヤー』をこちらのサイトでも紹介していただけませんか?
ロシアとウクライナの歴史が分かると思います。「日本は何故、第2次世界大戦に続き、二度もナチスを支援するのか?」というロシアの言葉の意味も。
(日本語字幕付き、約90分)。
実を言うと、非常に恥ずかしいことに、このメールをいただくまで、私はオリバー・ストーンがこのようなドキュメンタリーを作っていたことを、知らなかったのです。
というよりも、オリバー・ストーン監督が、クーデターについて当時の政権当局者にインタビューをしている番組を、RTで放映していたのを見た記憶があったのですが、すべて英語だったので、90分も見続ける気力がなく諦めていたのでした。
ところが、この日本語字幕の映像を見て、改めて2014年にアメリカによって仕掛けられたウクライナのクーデターの実像、それによってドンバスの住民がウクライナ軍(とりわけ「アゾフ大隊」と呼ばれるネオナチ集団)から受けることになった攻撃の惨状を知ることになりました。
そこで本当はそのドキュメンタリーの内容を、ここで紹介したいのですが、もう十分長くなってきて、私も疲れてきましたので、それは次回に回します。ただ1つだけ最後に紹介したいのは、ドンバスの現状を示した地図です(後掲)。
これは「Strategic Infographics」というサイトで発見したものです。
この地図を見ていただければ、ドンバスの2カ国が、2014年に独立を宣言してから現在に至るまでに、ウクライナ軍による「侵略」によっていかに領土を奪われたかがわかっていただけるはずです。
A地域がルガンスク共和国で、B地域がドネツク共和国です。しかし、A’とB’地域がすでにウクライナ軍によって奪われ、今はAとBの地域しかドンバス2カ国は支配できていません。
言い換えれば、A’とB’の地域の住民は住居も奪われ、学校や病院も奪われ、路上生活を強いられるかロシアへ脱出せざるを得なかったのです。それでも、生きてロシアに脱出できた人は、まだ幸せでした。この8年間で、どれだけの住民が殺されたり、どれだけのひとが足や手や目を奪われた障害者になったことでしょう。
ところが先述の署名発起人は、このような事実を知らされず、大手メディアが垂れ流す映像や情報だけを信じているので、「独裁者プーチン」による「侵略」を批難し、先述のような「脳天気な」呼びかけをすることになったのでしょう。
私は、この人物の善意は疑いませんが、彼女の呼びかけを読んでいるうちに、「地獄への道は善意のバラで敷き詰められている」という有名な格言を思いだしてしまいました。
(寺島隆吉著『ウクライナ問題の正体1—アメリカとの情報戦に打ち克つために—』の第3章から転載)
※ウクライナ問題関連の注目サイトのご紹介です。
https://isfweb.org/recommended/page-4879/
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国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授