【特集】砂川闘争の過去と現在

暴かれた密談とその後 ―砂川関連の解禁文書・新資料発見後の「新たな砂川闘争」―

西原和久

この原稿執筆時に、ロシアのウクライナ侵攻が始まった。「主権国家」を戦闘機や戦車、ミサイルなどの武力で屈服させようとする事態は、R.カイヨワが『戦争論』冒頭近くで述べた「戦争というものが単なる武力闘争ではなく、破壊のための組織的企てである」という一文を想起させる。その企てをロシア軍が実践し、さらに聖なる物語がその企ての一翼を担う。

ウクライナの一部を独立させて承認し、その防御のためと称しつつ国全体を破壊へと導きつつ、ロシア国内の言論も統制して単一の物語を創出する。たとえその物語が米国やNATO(の東方拡大)に問題ありとする「正論」であっても、暴力を支える物語はその正当化の手段にすぎない。戦争正当化の物語は、戦争における死の意味を国家への貢献に回収させる装置ともなる。こんな、古い、見え透いた組織的企てがこの戦争の特徴の一つだ。事態は流動的だが、非武装化や中立化は暴力のもとで実現されるものではない。

1950年代半ば、東京郊外でも、戦争と比べれば小さな、だがその意義の点では大きな闘いが生じていた。45年の敗戦で、日本の軍事施設は占領軍に収用され、米軍基地に整えられた。沖縄の伊江島や伊佐浜などでの「銃剣とブルドーザー」による強制土地収用はあまりにも有名だが、その時期、東京都立川市の北隣の砂川町でも米軍立川基地拡張が通告された。55年5月のことだ。50-53年の朝鮮戦争を機に、「民主」国家防衛のため、核弾頭搭載の大型機が離着陸できる滑走路が必要とされた。そしてこの間に、自衛隊も成立した。

砂川の拡張予定地は大半が農地で、すぐさま農民を中心に土地を守る運動が組織された。
砂川町基地拡張反対同盟である。江戸初期の新田開発から400年余り続く農地を守ることは、彼らの生活基盤確保のためである。だが、それだけではない。反対同盟の副行動隊長・宮岡政雄氏の著書『砂川闘争の記録』からも読み取れるが、この闘いは同時に平和を求める運動でもあった。兵隊として台湾にいた宮岡氏が戦後復員して、砂川の自宅が終戦直前の立川空襲で焼失したことに驚きつつも、農業による生活再建にようやく見通しが立ちはじめてきた戦後10年目に、基地拡張・土地収用が通告されたのだ。

米軍と日本政府の決定だから「従え」という権力者の行為は、被爆国日本の新憲法下での主権在民の民主主義を蹂躙する出来事であっただけでなく、不戦・非戦を謳った憲法9条の平和主義への挑戦でもあった。軍事基地は言うまでもなく戦争用である。そこから朝鮮半島やベトナムでの空爆に向かう出発点だ。だから、反対同盟は不服従、反戦・非戦、そして非暴力を唱えた。だが、砂川闘争後の歴史は、忘却を促す巧みな政治権力と文化装置が大いに機能した歴史でもある。そして、そうした権力や装置が「新たな砂川闘争」の批判対象となった。

この点の理解には伊達判決への言及が不可欠だ。すでにこれについては多数の文献があるが、「新たな砂川闘争」の原点の一つが、55-56年の測量阻止の闘争に続く57年のいわゆる砂川事件(デモ隊の一部が基地内に突入し、23名が逮捕され、7名が起訴された)に対する、59年3月30日の伊達判決(東京地裁伊達秋雄裁判長による「米軍駐留は違憲」で「被告は無罪」の判決)である。

だがその直後の4月3日、政府は高裁を飛び越して最高裁に上告(跳躍上告)する決定を下し、そして最高裁は統治行為論を用いて同年12月16日に地裁決定を覆し(翌月60年1月に日米新安保条約は調印された)、2年後に被告は有罪となった。この不自然な流れには「何かある」と人々は思った。しかし証拠はなかった。……だが、その証拠はほぼ半世紀後の2008年に見つかった。

この半世紀、68年に米軍は基地拡張を断念して基地返還へと方針転換し(ただしその機能は横田基地に移転)、77年には返還されたが、この米軍基地の場所に、早くも72年には自衛隊が移駐し(現在も防災「名目(ものがたり)」の駐屯地があり)、そして83年には昭和天皇在位50年記念として国営昭和記念公園が開園し、さらに2005年にはこの公園入口近くに昭和天皇記念館が開設された。基地跡に、自衛隊のみならず天皇関連施設が存在する。その狙いは、過去の抹消と新たな物語の創出である。

Hachioji, Japan – July 24, 2016: Emperor Showa’s tomb in Hachioji, Japan. Emperor Showa also called Hirohito was the father of the present Japanese emperor, Akihito.

 

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西原和久 西原和久

砂川平和ひろばメンバー:砂川平和しみんゼミナール担当、平和社会学研究会・平和社会学研究センター(準備会)代表、名古屋大学名誉教授、成城大学名誉教授、南京大学客員教授。著書に『トランスナショナリズム序説―移民・沖縄・国家』、新泉社、2018年、などがある。

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