【特集】日本の安保政策の大転換を問うー安保三文書問題を中心にー

米軍吸収で自衛隊が核戦争部隊に、「安保3文書」の日本が米国に約束した「宿題」

若林盛亮

・「厳しい宿題が待っている」

昨年12月16日、「安保3文書」改訂が閣議決定され、岸田文雄首相は「戦後日本の防衛政策を大きく転換するものになる」と記者会見で明言。さっそく1月11日に米国で開かれた「日米2+2(外務・防衛閣僚)会談」、13日の岸田訪米「日米首脳会談」で「安保3文書」実現に向けて「戦後防衛政策の大転換」は動き始めた。

「安保3文書」閣議決定当日の夜、BSフジの「プライム・ニュース」に出演した森本敏元防衛相は「戦後日本の防衛政策の大転換」の意味や今後の課題について実に明確に語った。

森本氏は番組最後でこう断言した。「いまは文書ができたというだけのこと……重要なことはこれを実現することだ」、そして「来年(2023年)以降、(文書実現のための)厳しい宿題が待っている」と。

これを意訳すれば、「安保3文書」実現のための「厳しい宿題」の実行を覚悟しなさいよと、その覚悟を日本政府に迫っているのだ。

森本氏はこの番組で「昨日(12月15日)、米大使館でインド太平洋軍の陸軍司令官に会ってきた」ことを明らかにした。ということは、米インド太平洋軍の陸軍司令官と事前に米大使館で打ち合わせたうえで番組に出演したという推測が十分、成り立つ。

元来、森本氏は米国の意図を日本向けに翻訳できる「有能」な安保問題専門家だ。そして彼が出演する際には、ほぼ小野寺五典元防衛相・現自民党安全保障調査会長が同席するのが通例だ。事実、この日も小野寺氏が同席していた。だから安保防衛政策についてはこの2人が政府に米国の意図を伝え、その実現の方策を考え実行するよう働きかける中心人物と見て間違いないと思う。

したがってこの番組での森本発言「厳しい宿題が待っている」は、米国からの「ご託宣」と見て間違いはない。ゆえに、その言葉の意味を考えることは、岸田首相の言う「戦後日本の防衛政策の大きな転換」の目指すものが何であるかを知ることになる。

日本に課せられる「厳しい宿題」とは何か? 本稿で考えていきたい。

・「宿題」の総仕上げ

「戦後日本の防衛政策の大きな転換」の核心は、国家安全保障戦略で「反撃能力の保有」を明記したことだ。その具体化として、「安保3文書」の防衛力整備計画でスタンドオフミサイル、要するに対中国・朝鮮への攻撃なら1000キロ以上の射程を持ち、軍事的には「中距離ミサイル」に分類される攻撃的ミサイルの自衛隊配備を決めた。

Missiles with warheads are ready to be launched. missile defense. Nuclear, chemical weapons. radiation. Weapons of mass destruction.

 

中距離ミサイルの日本列島への配備は、かねてから米国が求めてきたものだ。すでに2年前、米インド太平洋軍は「対中ミサイル網計画」を作成・公表し、日本列島から沖縄・台湾・フィリッピンを結ぶいわゆる対中包囲の「第1列島線」に中距離ミサイルを配備する方針を打ち出した。朝日新聞21年7月8日付によれば、「軍事作戦上の観点から言えば……中距離ミサイルを日本全土に分散配置できれば、中国は狙い撃ちしにくくなる」(米国防総省関係者)。米インド太平洋軍の本音は日本列島への分散配備だ。

そして昨年、バイデン米大統領訪日時の日米首脳会談で、米国が日本への核による「拡大抑止」提供を保証した。この時、河野克俊前統合幕僚長は「米国から核抑止100%の保証を得るべき」としつつ「それはただではすみませんよ」と日本の“見返り措置”の内容を示した。「いずれ核弾頭搭載可能な中距離ミサイル配備を米国は求めてくる、これを受け入れることです」と。

このように2年の歳月をかけて米国が日本に求めてきた「宿題」とは、核弾頭搭載可能な中距離ミサイル配備、「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」なのである。

今回の「安保3文書」では「反撃能力の保有」を明記。この具現として日本独自の「長射程ミサイル」の開発と生産、そして陸上自衛隊に「スタンドオフミサイル部隊」の新設を決めた。これは「宿題」受け入れを日本政府が正式に表明したことになる。それでも、これを森本氏は「文書ができたというだけ」と言い、その実現のための「厳しい宿題が待っている」と語ったのだ。

では、次なる「厳しい宿題」とは何か? 米国の最終目的は、「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」の完成である。森本氏は「アメリカ(米軍)が中距離ミサイルを日本に配備するのは政治的にほとんど難しい」とも断言している。

しかし、自衛隊が米軍に代わり配備を担えば解決できる。そして実際に1月23日、陸自のミサイル部隊新設により不要になったとして、米国が在日米軍への地上発射型中距離ミサイル配備を見送ることが明らかとなった。森本氏の「ご宣託」は正しかったのだ。

したがって「宿題」の仕上げは、自衛隊配備の中距離ミサイルに「核弾頭搭載」を可能にすることに絞られる。

安倍晋三元首相がかねて主唱していたNATO並みの「米国との核共有」実現論はこのことを念頭に置いたものだろう。有事には自衛隊に米国が“核”の貸与を行なう。これは米国自身も要求していることだから実現は容易なものだろう。

問題は日本側にある。

「安保3文書」は、“核”については一言も触れていない。「非核3原則」の国是に反するからだ。森本氏が明言を避けつつ「厳しい宿題が待っている」と政府の覚悟を迫ったその「厳しい」の具体的中味とは、この国是「非核3原則」の見直し、具体的には「核持ち込みの容認」を指すものであることは間違いない。

 

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若林盛亮 若林盛亮

1947年生まれ。同志社大学で「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕。よど号赤軍として渡朝。「ようこそ、よど号日本人村」(http://www.yodogo-nihonjinmura.com/)で情報発信中。

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