自民党内「反岸田」に〝解散〞のブラフ、防衛増税・原発推進 岸田文雄「強権」の裏

山田厚俊

・たちが悪い手口

「戦後日本が直面し、積み残してきた多くの難しい問題、『先送りできない問題』に、正面から立ち向かい、1つ1つ答えを出していく。これからも、この覚悟で、政権運営に取り組んでまいります」。

岸田文雄首相は元日に年頭所感を発表し、1月4日の年頭記者会見でも「時代の大きな転換期にあって、これ以上先送りできない課題に正面から愚直に挑戦し、1つ1つ答えを出していく」と述べた。

 

高齢者と現役世代の負担と給付の構造を見直す「全世代型社会保障改革」や「異次元の少子化対策」、賃上げを通じた経済の好循環など、喫緊の課題は目白押しだ。それでも今回の通常国会で焦点になるのは、“防衛増税”の是非についての議論だろう。

昨年は段階を踏んだうえで、防衛費をGDP(国民総生産)1%から2%に上げることを決めた岸田首相だが、その財源をめぐっては議論もないまま増税について言及。年末にはその財源として法人税・所得税・たばこ税の3税を充てる方針を打ち出した。

自民・公明両党は昨年12月16日、2023年度与党税制改正大綱に、この3税で2027年度に「1兆円強を確保する」と明記。しかし、導入時期などについては明記せず、「2024年以降の適切な時期」という表現にとどめた。いわゆる“玉虫色決着”である。

この頃から増税反対派の自民党議員の中からも「(2022年7月の)参院選で公約に入っていなかった話。国民に信を問う問題だ」との声が上がっていた。

さらに、先送りできない問題として岸田首相は原子力政策も大転換させた。昨年8月、原発の新増設や建て替えの検討を指示したのである。

12年前の東日本大震災による東京電力福島第1原発事故以降、原発はこれまで以上に厳しい規制の下に置かれてきた。菅義偉前首相は再生エネルギー推進に軸足を置いてきたが、岸田首相は昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻を機に原発政策推進の姿勢をあからさまにしている。

News headline that says “Restart”

 

原発政策は再稼働だけではない。1月22日に放送されたBSテレ東の報道番組で、原子力政策について「多様なエネルギー源の1つとして、原子力に正面から向き合っていかなければならない」とし、次世代革新炉の開発に前向きな姿勢を見せ、放射性廃棄物の処分についても「国が責任をもってバックエンドをどうしていくかをより明確にしていかなければならない」と表明。さらにこの2つの問題に対し、「順番にやるべきとの議論があるが、同時に努力しなければいけない課題」とし、両方の議論を進める考えを示したのである。

しかも、「国権の最高機関」である国会での議論を経ずに決めていく手法は、安倍晋三元首相や菅前首相より“たちが悪い手口”だろう。

たちが悪い手口はまだある。昨年凶弾に倒れた安倍元首相の国葬を巡る問題など、しっかり議論すべき問題もなし崩し的に行なわれた。「決められない」「説明がない」「言葉が上滑り」――就任以降、内閣支持率低下の原因のひとつは、こういった岸田首相の“立ち居振る舞い”によるものが大きかったという指摘があった。それを原発・防衛増税では急に“強権”へと転換していったことで、世論はおろか自民党内でも不満が強まってきている。

・惨敗必至の統一地方選と「解散説」

そんななか、年末から年明けにかけて、にわかに解散説が囁かれ始めた。

election
general election (of all members of the House of Representatives)

 

「5月の広島サミット以降、解散に踏み切るのではないか」。

自民党中堅衆院議員はこう警戒感を隠さない。

岸田文雄首相は1月20日、首相官邸で新型コロナウイルスを現在の「2類相当」から季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げる方針を表明した。5月8日にも新方針に移行するが、コロナの新規陽性者数を見れば、発生から3年経っても、死者数は過去最多を更新し続けている。一方で、マスクなしの世界の潮流からはかけ離れている。社会経済活動の正常化に向けようやく1歩を踏み出そうというものである。

Social distancing sign with footprints icon urging travelers to keep 2 meters apart in the departure terminal 3 of International Airport in Tokyo, Japan.

 

前出の議員は語る。

「マスクなしの生活が始まれば、ようやくコロナから解放されたムードが醸成される。そのタイミングで統一地方選を迎え、その後は5月に広島サミットがある。それらがうまくかみ合い、乗り切れば解散は十分考えられる」。

たしかに、政権支持率の浮揚策として、コロナの5類はあり得るかもしれない。昨年成立した「10増10減」の改正公職選挙法で、次期衆院選は新区割りで実施される。“1票の格差”を是正するためだが、選挙区が大幅に変わった議員たちにとっては頭が痛いところだ。

「後援会組織を立て直さないといけない。まだ馴染みが薄い地区への強化などやることはたくさんある。夏までに解散されたら、国会に戻ってこられるかどうか」(前出・衆院議員)。

増税で信を問えと声高に叫んでいるが、本音は戦々恐々としているのである。

一方、野党幹部はこう冷めた表情で語る。

「岸田首相の完全なブラフでしょう。今年の解散はないと見ています」。

どういうことか。

「首相のカードは解散権と人事権。反岸田の声が高まっているなか、党内引き締めのための脅しみたいなものでしょうね」。

その理由として、防衛増税を挙げる。増税は、支持率を下げることはあっても上げることはないからだと言う。

A news headline reading “Defense Tax Increase” in Japanese

 

「たとえば経済。国民所得が上がったとしても、今年も続く急激な物価高に追いついていけない状況は続く。その中で、防衛費の財源として増税と言われても、多くの有権者にしてみれば『何言っているの』ということでしょう。それでも増税を明言したのは、自身の延命に興味はなく、まさに『先送りできない課題』をやり切る覚悟ができたからだと見ていて、解散は考えていないのではないでしょうか」(前出・野党幹部)。

原発政策にしても、再稼働を増やした程度の話ではない。国民論議を2分するような話を打ち出したのだ。軽々に解散して勝利するそろばん勘定が成り立つわけがないのである。

しかも、自民党内からはこんな声も出ている。

「コロナを5類にしてマスクなしに戻したくらいで、統一地方選を乗り切れるわけがない。それは有権者をバカにした話です」。

自民党の若手衆院議員はこう語る。この議員は地元支持者から、掛け声ばかりで何もやれなかった昨年前半に「不甲斐ない首相だ」と苦言を呈され、後半になると「何の説明もなしに勝手に決めるとは何事だ」と罵られ、挙句の果てに「いきなり増税を持ち出すとは何事だ」と叱られたという。

とりわけ、野党幹部が指摘するように、増税に対して責められることが増えたとして、こう話す。

「後援会で『私はずっと自民党を応援してきたが、今回だけは違う党に投票する』と、面と向かって言われました。表紙(総裁)を替えない限り、統一地方選は惨敗必至です」。

 

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山田厚俊 山田厚俊

黒田ジャーナル、大谷昭宏事務所を経てフリー記者に。週刊誌をはじめ、ビジネス誌、月刊誌で執筆活動中。

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