【連載】情報操作を読み解く(浜田和幸)

第5回 2024年の大統領選挙を控え、混乱と分断が加速するアメリカ

浜田和幸

アメリカでは2024年の大統領選挙に向けて、激しい事前運動が展開されています。昨年の11月15日、トランプ前大統領はフロリダのマール・ア・ラーゴにて「アメリカを復活させるため、2024年の大統領選へ出馬する」と正式に表明しました。

Picture of a poster showing support to the election of Donald Trump as a US president in 2016 facing a portrait of Aleksandar Vucic, former Prime Minister of Serbia and now president, in the northern part of the Ethnically divided city of Kosovoska Mitrovica, Kosovo, claimed by serbia. Following the election of Donald Trump, Serbia’s most nationalist parties have applauded its u-turn on foreign politics, showing more support to greater ties with Russia”n

 

しかし、これまでの傍若無人とも揶揄されるような熱気に満ちたスタイルと違い、1時間近くの演説はプロンプターを読み上げる時間が長く、エネルギー不足を感じさせるものでした。その時、インドネシアにいたバイデン大統領もトランプ氏の勢いのなさにほっとしたようです。

これではトランプ氏の再選は可能性が低いと判断したようで、共和党のニッキ・ヘイリー元国連大使が「待ってました」とばかり、大統領選挙への名乗りを上げました。今後も、新たな候補者が次々と党の指名を求めて出馬宣言をするものと思われます。

受けて立つバイデン大統領ですが、いまだ再出馬するのかどうか、態度を明らかにしていません。80歳という年齢が不安材料となっているようです。そのため、ホワイトハウスの主治医が大統領の健康状態に関する最新のデータを公表しました。それによれば、「昨年、コロナに感染したが、その後は順調に回復し、現時点では大統領の職務遂行に全く問題はない」とのこと。

Manhattan, New York. November 09, 2020. Times Square tribute to president elect Joe Biden.

 

アルツハイマー型認知症ではないかといった懸念がくすぶっているため、その払しょくを狙っているに違いありません。とはいえ、主治医が公開したデータには認知症検査の結果が含まれていませんでした。そのため、共和党の議員からは「認知症の検査結果を明らかにすべき」との声が上がっています。

いずれにしても、バイデン大統領もトランプ前大統領も共に80歳前後という高齢候補になるわけで、ヘイリー候補が言うように「アメリカの再生には若いエネルギーが必要だ」との主張には賛同する向きが多いように思われます。

しかし、政治の世界は「一寸先は闇」。バイデン大統領は2月20日、突如、ウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と面談。明らかに「強いリーダーシップ」を内外に印象付けようとしているようです。

ところで、大統領選の先行きを占う上で、去る11月8日に行われた、大統領任期の前半の実績評価とされる中間選挙の結果は参考になるでしょう。事前の下馬評ではバイデン大統領の率いる民主党は上下両院で議席を失い、共和党に議会の多数派を奪われる可能性が高いと見られていました。

Midterm Election 2022 USA Illustration

 

その最大の理由は、加速する一方のインフレやガソリン価格の高騰に対してバイデン政権が有効な手立てを講じていないからというもの。何しろ、半数の国民が物価高の影響で健康にまで不安を感じている模様で、インフレ上昇率が8%を超えていれば当然のことと、大方が民主党の大敗を予測していました。

具体的にいえば、有権者の37%はストレスに悩まされ、21%は健康的な食事がままならない状況下で、タバコとお酒に過度に依存するようになっているのが今のアメリカです。

貧富の格差は広がる一方です。その背景には貧富の格差の拡大が挙げられます。

Calculator, dollars and USA flag. Sepia image.

 

AFL-CIOのデータによれば、企業の経営トップと従業員の賃金格差は驚くべきものです。全米最大の従業員を抱えるウォールマートの場合、トップと一般社員の賃金格差は1,076倍とのこと。ウォルトディズニーでは1,424倍、マクドナルドでは2,124倍、GAPの場合は何と3,566倍もの格差が生じています。

こうした賃金格差の問題は放置すれば、社会の内部崩壊をもたらしかねません。犯罪の引き金にもなるでしょう。そうした危機的状況に関わらず、アメリカの政治家は民主、共和を問わず、相手を非難するばかりで、問題の解決に本気で取り組む姿勢が感じられません。

バイデン大統領もトランプ前大統領も「選挙が公正に行われていない」と投票日の前から無効を示唆する発言を繰り出していました。実際、接戦となった選挙区が多く、上下両院とも僅差で勝敗が分かれたり、はたまた50%を超える得票が得られず12月に決選投票にもつれ込む選挙区も出ました。結局は接戦の末、民主党が議席を確保するケースが続出。大方の予想を裏切る結果となったわけです。

そのため、共和党のトランプ派からは「不正選挙だった。票の数え直しが必要だ」といった声が上がりました。こうした状況では、先の大統領選もそうでしたが、選挙の有効性が問われるのみならず、有権者が投票の意義を感じなくなることが懸念されます。

Voting Booths set up in rows on Election Day

 

日本でも政治離れや選挙への無関心が広がっていますが、アメリカでは候補者や選挙管理委員会のスタッフが襲撃されたり、中には殺害されるような事件が相次いでいます。民主主義の根幹たる選挙が成立しなくなりつつあると言っても過言ではありません。その背景には拡大する一方の貧富の格差が横たわっており、その裏にはアメリカ経済そして企業の衰退という「不都合な現実」が隠されています。

例えば、誰もが知っているような大企業が相次いで中国の軍門に下っているのです。発明王トーマス・エジソンが立ち上げた「ゼネラル・エレクトリック(GE)」は2016年に中国の「ハイアール」に54億ドルで買収されました。同じ年、「ヒルトンホテルグループ」も中国の「HNAグループ」に65億ドルで経営権を譲渡。「AMCシアターズ」も大連の「ワンダ・グループ」に2012年に26億ドルで買収され、全米8,200か所の映画劇場は中国の所有になっているのです。

また、世界最大の豚肉生産会社である「スミスフィールド・フーズ」は中国の「シュアンフイ」に2013年に47億ドルで買収されています。アメリカ最大の自動車メーカーである「ゼネラル・モーターズ(GM)」でさえ、1998年に「上海自動車」の傘下に入っています。「IBM」のパーソナルコンピューター部門は2005年に「レノボ」によって12億5,000万ドルで買収されてしまいました。

いずれもアメリカを代表するブランド企業ばかりですが、今や中国企業になっているのです。これらは氷山の一角に過ぎず、アメリカの主要企業が次々と中国に抑えられてしまい、アメリカ人の雇用が危機的状況に陥ってしまったのです。

最も衝撃的だったのは「マイクロソフト」でしょう。誰もがビル・ゲイツの会社と思っているに違いありませんが、2016年に少なくとも電話事業は3億5,000万ドルで中国の「FIHモバイル」に買収されました。同社の4,500人の社員は中国人のトップの下で働いているのが現実です。

要は、アメリカ経済や雇用を支えてきた基幹産業が、既にかなりの数、中国の影響下に入ってしまったというのが、今のアメリカに他なりません。有効な経済対策を打ち出せず、自国企業を守れないアメリカ政府に国民は愛想をつかすばかりなのです。バイデン大統領は製造業を中心に新規雇用を70万人も増やしたとPRしていますが、何とホームレスの数はそれをはるかに上回るペースで増えているのです。

言うまでもなく、貧富の格差はすさまじく、アメリカ政府が発表した1989年から2021年までの所得分布のデータを見ると驚かされます。それによれば、アメリカ人の総所得は2021年の第2四半期で134兆ドル。その7割以上を上位2割の富裕層が占めています。更に言えば、トップ1%の超富裕層が全体の3割の資産を押さえているのがアメリカなのです。

これら超富裕層に属するアメリカ人は企業の経営者が多いのですが、潤沢な資金を使い政治家への影響力を行使することをはばかりません。都合の悪い法案はいとも簡単に廃案にしてしまい、自分たちの都合の良いように政治や国家を左右するわけです。

例えば、ホームレス救済法案なども27億ドルが計上されていましたが、まったく貧困層には行き渡っていません。しかも、アメリカの財政赤字は半端なく、2022年第3四半期の利払いだけで1,840億ドルに達しています。年間にすれば7,300億ドルの負担です。これは国防予算7,200億ドルを上回る額に他なりません。

 

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浜田和幸 浜田和幸

国際未来科学研究所代表、元参議院議員

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