袴田事件再審開始認める、東京高裁 「犯行時の着衣」捜査機関の捏造か

梶山天

1966年に静岡県旧清水市(現静岡市清水区)のみそ製造会社一家4人が殺害された袴田事件で、死刑が確定した袴田巌さん(87)が求めている再審・裁判のやり直しについて東京高等裁判所(大善文男裁判長)は2023年3月13日、再審を認める決定をした。しかも捜査機関による証拠捏造にまで踏み込んで指摘した。

57年前の殺人事件に司法判断が二転三転とした裁判。この日の決定でそろそろ真実が見えて来たのではなかろうか。

再審が決定した袴田巌さん

 

袴田さんは今月10日に87回目の誕生日を迎えたばかりで、当日は支援者から花束を、姉のひで子さんからは手袋を受け取った。そして運命のこの日。遅ればせながら待ちに待ったハッピーバースデープレゼントになった。

再審の可否が決まるこの朝、弟の袴田巌さんは、姉のひで子さんに顏のひげをそってもらった。その後ひで子さんは、午前10時半には自宅を出て東京高裁に向かった。弟の巌さんは自宅で吉報を待った。

9年前の2014年に静岡地方裁判所が再審を認める決定を出し、袴田さんは死刑囚として初めて48年ぶりに釈放された。ところが、その後東京高裁が一転して再審を認めず、さらに最高裁が審理が尽くされていないと判断したことから、東京高裁に差し戻しされ、異例の展開をたどっていたのだ。

差し戻し審の争点は、袴田さんが犯行時に来ていたとされる5点の衣類の「血痕の色」だった。

事件発生から1年2カ月後に、会社のみそタンクの中から見つかった。確定判決では衣類に残されていた血痕の色が「濃い赤色」などと認定されていた。

この点について最高裁は1年2カ月間、みそ漬けとなっていた血痕に、赤みが残るのかどうか、十分に検討されていないとして審理を差し戻しした。差し戻し審では、弁護側、検察側ともに再現実験を実施。弁護側は「ほぼ黒っぽくなる」と主張、検察側は「赤みが残る」と反論していた。

再審開始を決めた東京高裁は「専門家の鑑定書や証人尋問の結果、1年以上みそ漬けされた衣類の血痕の赤みが消失することは推測できる」と指摘して、5点の衣類について、「袴田さんの着衣であることに合理的疑いが生じる」と判断した。

決定では、5点の衣類が見つかった経緯についても言及している。「袴田さん以外の第三者がタンクに隠匿して、みそ漬けした可能性が否定できず、この第三者が、事実上捜査機関の者による可能性が高い」と指摘した。

捜査機関の捏造にまで踏み込んだ大善裁判長(63)は、1986年に東京地裁判事補に任官した。司法研修所教官や高松高裁事務局長をなどを歴任し、仙台、さいたま両地裁の所長を経て、2020年3月には、東京高裁の部総括判事になった。

東京地裁の部総括判事だった12年には、検察審査会の議決に基づいて政治資金規正法違反の罪で強制起訴された小沢一郎衆院議員に無罪判決を言い渡した人物でもある。

公判では検事が事実に反する内容の捜査報告書を作っていたことが判明。判決で「検察庁などで十分調査し、対応がなされることが相当だ」と指摘する等人権派の裁判官として名をはせてもいる。

そういう意味では、2014年に再審を認める決定を出し、袴田さんを釈放させた当時の静岡地裁の村山浩昭裁判長も真実の探求心にあふれた素晴らしい裁判官だった。

最近思うのは、最高裁に忖度をしているとみられる裁判官が多いこと。冤罪が多いのは当たり前だ。それだけに袴田事件で探求心を見せた裁判官たちの存在は大きい。

大善文男裁判長は、捜査機関の証拠の捏造にまで踏み込んで指摘した。検察側が反省することなく抗告を続け、上部に忖度して裁判を続ける身内に対する怒りのあらわれだと感じた。あっぱれ。溢れる涙は、これこそ真実を追及した「令和の大岡裁き」だと確信した瞬間でした。

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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