【連載】人権破壊メカニズム“知られざる核戦争”(矢ヶ﨑克馬)

第8回 原発事故体験を語り継ごう

矢ヶ﨑克馬

・知られざる核戦争―②原発維持勢力の巻き返し

それに対しIAEAは1996年に「原発事故10年」会議を開き、「被曝を軽減してきた古典的放射線防護は複雑な社会的問題を解決するためには不十分である。永久的に汚染された地域に住民が住み続けることを前提に、心理学的な状況にも責任を持つ、新しい枠組みを作り上げねばならない」という方針を打ち出しました。この方針の具体的基準化がICRP2007勧告によりなされたのです。

この様な国際原子力ロビーの「住民の被曝軽減をもはや基準としない」方針に則り、国内法として普及されてきた「年間1mSv」の適用を、福島原発事故の際に政府は放棄したのです。

しかし政府とマスコミにより、国際原子力ロビーの路線が圧倒的に宣伝されたのです。(①「笑っていれば放射線は来ません」(山下俊一) ②「アンダーコントロール」「健康被害は一切ありません (安倍元首相)」) ③「100Bq/kg以下は安全です」(食品安全委員会)、 「食べて応援」 (国・福島県・民間) 「風評被害払拭リスクコミュニケーション」(国)放射線副読本(文科省)放射線のホント(復興庁)

矢ヶ﨑克馬は3.11を「放射線防護に関する法律体系が瓦解した時」と位置づけています。

事実を見極めるために次の疑問を発します。

(1)メルトダウンの原因は究明されたのでしょうか?――地震による細管破断が有力原因

(2)廃炉はどこまで進んだのでしょうか?――未だ1グラムのデブリも取り出せていない

(3)環境はどのように守られたのでしょうか?――汚染させっぱなし

(4)健康被害は無かったのでしょうか?――トンデモナイ 9年間で63万人の死亡者の異
常増加

(5)この12年間住民はどのように保護されたのでしょうか?

事実は?

(1) 残念ながら、メルトダウンの究明は頓挫したままです。1号炉では炉心冷却水モニター用の細管が破断して、地震後数分で冷却水自然循環が止まったという情報が有りながら、メルトダウンは津波による電源喪失だとされたままです。地震大国日本で岸田内閣は原発再稼働の拡大、運転を許可する年数を60年を超えて運用しようとし、さらに新たな原発開発さえも目論んでいるのです。

(2) 廃炉作業は進んでいません。炉底に溜まったデブリを12年経っても1グラムも運び出すことができていません。デブリの総量は、600~1,100トンと推定されます。デブリを洗う地下水と冷却水は環境に流れ、海を汚染し続けています。チェルノブイリでは「石棺」と呼ばれるコンクリートの覆いが施され、外界と遮断されています。

日本行政の何という視点のずれでしょう!

デブリを洗う地下水を遮断するとして東電は「凍土壁」を設置しましたが、今も地下水は炉心を洗っています。経済的「安価」であることを基準に選択したようですが、きちんとしたコンクリート工事により完璧に遮断すべきでした。汚染水の一部は1日平均150トン(2021年)の「汚染水」タンクに回収されます。

事故後11年余りで汚染水は130万トン溜まり、昨年政府はこれを海洋放出で処分すると決定、東電はそのための施設を建設中です。

日本政府と東電が如何に環境汚染と市民への被曝に対して無責任な対応をしており、世界の人々に本当に恥ずかしいと思います。

(3) 海洋投棄は住民へ誓約した「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない(政府・東電)」(2015/1)に反します
東電原発事故後6年以降の海産物の汚染に関する新聞報道などを拾ってみます。

① 2017年7月13日 クロダイ(30Bq/kg) 過去最高のストロンチウム90 福島沖 :(東電魚介類の核種分析結果)

② 2019年2月31日 コモンカスベ(161Bq/kg):(毎日新聞)

③ 2019年9月11日 クロソイ:セシウム(101.7Bq/kg)、

過去最高のストロンチウム90(54 Bq/kg):(東電魚介類の核種 分析結果)

④ 2021年2月22日 クロソイ(500 Bq/kg):(時事通信)過去最高

⑤ 2022年1月27日 クロソイ(1400Bq/kg):相馬市磯部沖(毎日新聞) 過去最高

⑥ 2023年2月7日   スズキ(85.5Bq/kg):NHK福島放送局

特徴的なことは、年を追う毎に発見される汚染値が増大していることです。

このほか、2021年7月 福島県浪江町 蜂蜜 130~160Bq/kg (読売 2021年7月23日)、きのこ出荷制限採取自粛(山梨県HP、2020年8月7日)、陸の食品も汚染が継続します。

放射性物質の有機化、食物連鎖等で海産物の汚染が進んでいるのです。これに新たなトリチウム他の汚染が追い打ちを掛けます。海洋投棄には国際的にも強い反対意見があります。

(4) ①健康被害は無かったか?

3.11の報道を見ていると犠牲者は地震と津波に限られ、原発による犠牲者は「ゼロ」(麻生太郎2023年2月)という状況のマスコミです。果たしてそうでしょうか?

厚労省人口動態調査のデータを分析する(小柴信子氏、矢ヶ﨑克馬)とトンデモナイ状況が浮かび上がりました。

放射能汚染現場で、放射線被曝しても元気溌剌活動できる人が沢山いる反面、「ICRP」のリスクに勘定されていない死亡者が大量に出ているのです。

男女別年齢別死亡率では20才~59才までの体力旺盛な青年/壮年層では死亡率が2011年以降下がり、以前と比較して長寿化 (ホルミシス効果か) した人口が9年間(2011~2019)で57万人もいます(全国統計)。反面、0才~19才の子ども及び60才以上の老齢者は同期間に63万人も過剰に死亡しているのです。合わせると7万人の死亡者増加にみえますが、実情はたいへんなものです。

これはチェルノブイリでは報告されていない深刻な事態です。チェルノブイリ法で居住を禁止された地域汚染状態に日本では百数十万人が生産活動を続ける状態でしたので、全国規模で深刻な内部被曝による犠牲者が多数出たのです。

②小児甲状腺がんは福島県民健康調査検討委員会の調査分析で、「多数の患者が出たが、原発事故とは関係ありません」という結論が出されていますが、これはデータの誤まった (または故意の) 処理や統計処理の結果であって、科学的には(事実は)明確に放射線被曝に依存しています。多くの科学者が検証しています。

(5) 住民は保護されたか?

日本には市民に対しては「年間1mSv」という法的基準があります。日本国内では3.11まではこれが当たり前に適用されていました。なお、国際条約「原子力の安全に関する条約」でも明確に同じ国内法を住民に対する規制「年間1mSv」の根拠として示しています。日本政府は基準改悪の方向で調整に進んでいます。

チェルノブイリ法では「年間1mSv」を住民保護の基準値として位置づけ、強制避難者も自主避難者も全く対等に国の保護を適用しています。日本では例え強制避難が20mSvで有っても、市民を保護する法的義務基準は1mSv以上で有るはずです。

日本では市民保護の基準から法律は除外されてしまったのです。

同時に、制令で規制されていた防護基準が遵守されなかったあるいは改悪された事例(放射性物質汚染廃棄物、緊急スクリーニング基準)が申告です。緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)のデータは開示されなかったし、安定ヨウ素剤の配布も回避されました。

まさに「放射線防護に関する法律体系が瓦解した」のです。

このような法律の軽視を2度と生じさせてはならないと思います。

日本では「閣議決定」という手段が、大切な憲法事項と位置づけられて平和基準を次々と変えていくことがまかり通っています。さながらクーデターの様相です。

このような事態は既に3,11で経験しており、日本市民(主権者)は特に留意しなければならないと思います。

福島原発事故を「隠された核戦争」の戦場であったと認め、日本の大軍拡と原子力発電回帰は同根であり、ともに進めてはならないことであると、共通認識を持ちましょう。

(「第118号避難者通信」より転載)

 

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矢ヶ﨑克馬 矢ヶ﨑克馬

1943年出生、長野県松本育ち。祖国復帰運動に感銘を受け「教育研究の基盤整備で協力できるかもしれない」と琉球大学に職を求めた(1974年)。専門は物性物理学。連れ合いの沖本八重美は広島原爆の「胎内被爆者」であり、「一人一人が大切にされる社会」を目指して生涯奮闘したが、「NO MORE被爆者」が原点。沖本の生き様に共鳴し2003年以来「原爆症認定集団訴訟」支援等の放射線被曝分野の調査研究に当る。著書に「放射線被曝の隠蔽と科学」(緑風出版、2021)等。

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