【特集】日本の安保政策の大転換を問うー安保三文書問題を中心にー

権力者たちのバトルロイヤル:第45回「米帝属国軍」自衛隊

西本頑司

・「日米統合運用」とは何か

実は、この「戦時統帥権の放棄」はアメリカと軍事同盟を結ぶ国において常に最大の懸念事項となってきた。世界最大かつ最強の米軍には、他国の軍と違い、いくつかの「不文律」が存在している。その1つが「米軍は他102国軍の指揮下には入らない」である。

Silhouettes of soldiers during Military Mission at dusk

 

そのためアメリカとの軍事同盟では、2通りの方法が存在する。1つは一般的な軍事同盟で、攻撃を受けた同盟国の参戦要請を米議会で承認後、参戦する。この場合、米軍は同盟国の軍とは別の指揮系統で活動するか、同盟国の軍が了承すれば指揮下に置くこともある。日米安保条約はこの一般的な同盟であり、日本が攻撃を受けた場合、米軍は、いつ、どの規模で、どのように参戦するか、米議会が決定する。

一方、米韓相互軍事協定を結ぶ韓国の場合、先の「戦時統帥権」を米軍に委譲しており、韓国政府が「有事」と判断すれば、その瞬間、韓国軍の指揮権は米軍へと移り、米軍は韓国の防衛義務を担う。つまり、韓国兵に「死んでこい」と命じるのは韓国大統領ではなく、米大統領となるのだ。

The Korean national flags attached to Korean army uniforms

 

こんな「横暴」がまかり通っているのには理由がある。米軍に統帥権が委譲すれば、極端な話、朝鮮半島の南部を占める韓国全土が「米軍基地エリア」と同義。韓国に侵攻した敵国は米軍基地に攻撃を仕掛けたこととなり、米軍は即時反撃が可能となる。韓国は確実な国防体制のために、統帥権放棄という「無茶」を受け入れてきたのである。

では、日本はどうか。前記の視点で先の安保3文書で定めた「日米統合運用」を見直せば、日本政府が台湾有事と判断した瞬間、自衛隊が丸ごと米軍の指揮下に入る、と読み取れよう。戦時統帥権を米政府に委譲すると明言しているのも同然。韓国のように自国の国防のために米軍の指揮下に入るならまだしも、「他国」の防衛のために統帥権を放棄し、米軍の指揮下のもと、その命令で「戦争」をする。こんな無道を岸田政権は「決定」したのだ。

日本にも影響が大きい以上、台湾防衛に「参加」せざるを得ないというならば、欧州のNATOのように米軍指揮下に入る部隊と国防を担う部隊に分割して対処すべきであり、また、3文書にもそう明記すべきだ。それをせず、「一体運用」としか触れていないのは、自衛隊を丸ごと米軍傘下の「属国軍」にするのが目的としか思えまい。

何より問題なのは、米軍には「他国の指揮下に入らない」だけでなく、「核保有国とは直接対決はしない」という、もう1つの不文律が存在することだ。

事実、ウクライナでも実質、戦争を主導しながら米軍は後方支援のみ。開戦から1年が経とうとしても、直接参戦の動きはない。世界第3位の核保有国であり、アメリカとの相互確証破壊能力を持つ中国に対しても直接参戦はあるまい。となれば当然、台湾有事の際、中国軍との矢面に立ち、最前線で「戦う」のは米軍が指揮する自衛隊となる。

バイデン政権は台湾有事において米軍が全面参戦できないからこそ、自衛隊の全面参戦を要求してきたのだ。

この都合の良い「属国軍」の登場によってバイデン政権は間違いなく“暴走”しよう。自衛隊というカードを得た以上、これまで以上に習近平政権を挑発し、暴発させようとする。

結果、絡め手で台湾を手に入れようとしてきた中国政府もまた、ロシア同様に暴発しかねない情勢になっている。本連載で「台湾有事はない」と指摘したが、岸田政権の愚策によって台湾有事の可能性は極大まで拡大。台湾有事は絵空事ではなくなったのである。

・他国の戦争

バイデン政権の暴走は、台湾有事となれば、現在のロシアのように「中国は世界の敵」となり、そのうえで中国を十分、たたきのめせると考えているからであろう。その暴走を加速させているのが、言うまでもなく現在のウクライナ軍の健闘にある。

Ukraine, Kyiv – August 18, 2021: Airborne forces. Ukrainian military. There is a detachment of rescuers. Rescuers. The military system is marching in the parade. March of the crowd. Army soldiers.

 

ウクライナ軍の強みは米軍が支援した「軍事情報」にある。軍事情報処理の分野において米軍とロシア・中国の間には、1世代以上の「情報ギャップ」があることが、今回の戦争で明らかになった。これがバイデン政権をして調子づかせる要因になっている。

この軍事情報のギャップは、現代文明で最も加速した情報技術の発展から理解できよう。19世紀までの「活字媒体」の世代は、第2次大戦の「ラジオ、テレビの電波媒体と写真などの映像媒体」の世代へと続き、戦後の「テレビ世代」を経て、1990年代のインターネットとモバイル端末という「第4世代」。そして21世紀の現在はスマートフォン(スマホ)という第5世代へと突入している。

軍事情報も、ほぼ同じ世代へと更新していくわけだが、ロシアや中国が「第4世代」に留まっているなか、米軍だけが「第5世代」を実用化した。

要するにロシアの軍事情報の処理が第4世代、PCやネットに繋がる携帯電話で「写真やメール」で情報をやり取りしているとすれば、米軍の支援を受けたウクライナ軍は、スマホで「動画やサイト情報、SNS」を瞬時に駆使して戦っているようなもの。この情報格差と情報精度の差が、圧倒的だったロシア軍との兵力差をひっくり返した理由であったのだ。

Pskov, Russia – January 15, 2011: Day of taking the oath of young guard of Russian army recruitment. 76 air assault division, unit number 07264. Location – street. General Margelov, Pskov.

 

これはロシアや中国軍の怠慢や技術の遅れというより、米軍が「異常」というのが正しい。実際、21世紀初期までの情報環境=第4世代は、情報量でいえば現代のスマホ世代と比べて遅れているわけではない。

たいていの人は、自宅ではテレビとネットに接続したPCを使い、外出時にはモバイルでメールや写真、またネットにアクセスする。情報のやり取りとボリュームでいえば、スマホ世代の現在とさほど変わるまい。違いが生じるのは通信環境のない野外や海外に行った場合となる。第5世代の特性は、どんな環境でも情報ギャップが生じない点に強みがあるわけだ。

さてロシアと中国は「大陸国家」であり、国境を挟んで戦うことを基本にする。国境を接したウクライナや100キロ程度の海峡を挟んだ台湾島は、両国にとって「国内環境」に近く、軍事情報は第4世代まで更新すれば十分であった。

ところが「海洋国家」のアメリカは、基本的に外征し、遠隔地に攻め込んで占領する。9.11以降、アフガニスタンやイラクに本格的な軍事介入をしてきたアメリカは、軍事情報を第5世代に更新する必要があった。第4世代はPCや携帯モバイルだけでなく、活字媒体やテレビなどの映像媒体との併用を前提とする。

そのため各デバイスの機能は専用化し、使いやすい反面、情報処理は遅くなる。一方のスマホは単体ですべてを統合する反面、使いこなすには各種「アプリ」が数多く必要となる。

米軍は第5世代の更新のために統合した情報処理ソフトとして40兆円という莫大な開発予算をかけて、あらゆる軍事情報を統合処理する「空飛ぶスマホ=F35」を開発し、これをベースに、いわば「軍事版iPhone」を作り上げてきた。

現在のウクライナ軍にも、米軍の全面支援で「軍事版iPhone」が多数配備され、それがウクライナ軍の健闘に結びついた。中国やロシアが第5世代化しようにも、バイデン政権は、それを見越してハイテク技術の封じ込めに動いている。

問題は台湾軍である。米軍による台湾の軍事支援が始まったのは2020年。いまだ台湾の保有兵器の多くは第2世代から第3世代であり、軍事力は途上国並みでしかない。自衛隊を属国軍化したのも、このギャップを埋めるためとわかる。

いずれにせよ、自衛隊を「駒」として使えるようになったいま、即時開戦こそアメリカの望むところだ。あとは、いかに中国を暴発させるか。それも「台湾のNATO加盟」というカードを切れば、確実に暴発しよう。そして台湾は現在のウクライナのように戦火で荒廃。中国軍もまたロシア軍同様に予想以上の被害を受け、習近平体制が揺らぎ、中国人民に対して今まで以上の圧政を敷くことになろう。

Paper boats with the colors of the USA and China surrounding the island of taiwan on a map. China and taiwan war and conflict concept.

 

属国軍の戦費を賄わされる日本は経済がガタガタになり、国民生活は困窮する。曲がりなりにも世界第3位の経済力を持つ先進国の軍隊が他国(アメリカ)の命令に従い、他国(台湾)の戦争に全面参戦して他国(中国)の軍と戦う。しかも、その戦費も被害もすべて自国(日本)が支払う。

ローマ帝国の奴隷兵は参戦によって市民権が得られたが、この「奴隷軍」は、いったい、何を得るというのか。

(月刊「紙の爆弾」2023年3月号より)

 

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西本頑司 西本頑司

1968年、広島県出身。フリージャーナリスト。

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