【連載】モハンティ三智江の第3の眼

第2回 ようこそインド、イカサマ天国へ!―日本のオレオレ詐欺と比べてみた―

モハンティ三智江

コロナ禍で昨春2年3ヶ月ぶりに帰国して、はや1年近くが経つ。水際対策廃止まで辛抱強く帰印を控えている私だが、この間日印における生活を比べるともなく比べて、驚かされたことがある。

それは、日本で横行している詐欺についてである。とにかく、携帯に少なくない頻度でその種のメールが届く。最初はわけがわからず、まともに対処してしまい、ウイルスに感染したとあるので、ぎょっとして添付されたURLをクリックしてしまった。

すると、無料でウイルス対策可能とあって、個人情報を書き込む欄が下にあり、なんかおかしいなと、そのままに閉じ、引っかからずに済んだのだが、それ以降も、やれ未納の税金があるとか、買ってもないアマゾンからの払い込み通知とか、宅急便の不在通知とかが、少なくない頻度で舞い込む。

初めのうちこそ、パニクって親族友人に問い合わせていたが、まず役所や宅急便が個人の電話メールに連絡してくる可能性は100パーセントありえないと、知人に諭され、だんだんとああ、またかでやり過ごし、即削除する手順を覚えていった。

振り返って、インドではどうか。名だたるチート(イカサマ)天国で鍛えられたはずの私がたかが、メール詐欺にオタオタしてしまうとはどういうわけか。それは、詐欺の種類が違うからである。

インドではもっと原始的な、ぼったりごまかしたりするケースが日常茶飯、同じインド人でも、お上りさんとか、旅行者は、付け込まれてぼられやすい。かく言う私たち夫婦も旅に出て、雲助タクシーによくぼられまくった。夫はインド人だが(2019年他界)、こすからいはずのインド人らしくもなくバカ正直、チップなども弾むお人好しだったから、いいカモ、そのたびに私は怒りまくって地団駄踏んだものだ。

今でこそ、ネットでオーダーできるタクシーや、オートリキシャ(三輪車)が普及し、適正価格で乗れるようになったが、それまではドライバーと直接交渉、丁々発止と渡り合い、値段が折り合って乗り込んだまではいいものの、降車時取り決めた料金以上を請求してきて、口論になる。道端でドライバーと客が値段のことで喧嘩している光景はしょっちゅう見かけたものだ。

店もぼってくる。特に私は一目瞭然ガイジンフェイスだから、いいカモだ。フォーリナープライスというのがあって、ローカルプライスに上乗せされる。日用品すらそうで、したたかな商人と丁々発止と渡り合うのが面倒になった私は、日常の買い物はいつしか使用人任せになった。

土産物屋など、少し値が張るものだと、3倍くらいにふっかけてくる。コツを飲み込んだこちらはまず2分の1にディスカウント、それからさらに値を下げていき、ローカルプライスにガイジンプライスが上乗せされた値段まで落としていく。それでもこちらの言い値にならなければ、いったん店を立ち去る振りをする。

ここで呼び止められたらしめたもの、アンタには負けたよとの渋い顔の店主がさっさと新聞紙に包んでくれるブツと、お札を交換する。若い頃はこのやり取りが面白かったのだが、歳を重ねると、ディスカウント合戦もだんだん面倒になってきて、ちょっと負けたくらいでほぼ相手の言い値どおりに買ってしまったりする。

南インドのハイデラバードで、銀の腕輪を売りつけてくるインド商、ヤスイヨと片言の日本語で気を引きながら、抜け目なくガイジンプライスでふっかけてくる(2017年3月)。

 

灯火にこがね色にきらめく女物のサンダル屋

 

チート環境下鍛えられて百戦錬磨のインド人は絶対、日本のいわゆるオレオレ詐欺のような特殊詐欺には引っかからない。観光中ぼられることはあっても、この手の知能犯罪には抜けめない。

日本人は人好しの最たるもので、インド商にとっても格好のカモなのである。乗り物もぼられまくっているし、店屋からも高価な値段でサリーなど売りつけられている。

日本人旅行者を騙すのは、海千山千のつわものどもにとって、赤子の手をひねるよりたやすいものなのだ。もう少し知能犯になると、カードのスキーミング、旅行代理店など、カード詐欺に手を染めているところも稀でない。実際、代理店でカードを使い、何十万と引き出される羽目になった同胞旅行者も何人か見てきた。

それにしても、日本の高齢者がオレオレ詐欺などに引っかかりやすいのはインド在住の私から見れば、とても不思議だ。被害者は耳が遠くて聞こえにくいのかもしれないが、息子だ孫だと言われてすぐに鵜呑みにしてしまう心理を分析すると、孤独な独居老人の姿があぶりだされてくる。家族の愛情に飢えた独り暮らしのお年寄り、その弱みに巧妙につけ込んだ頭脳犯罪とはいえまいか。

詐欺の手口も最近はさらに巧妙になってきて、市役所からと名乗る者が訪ねてきて、詐欺が横行しているとの理由でキャッシュカードを持参させ、切込みを入れて使えなくなったと思い込ませて、持ち去るケースもあるようだ(角に少し切込みを入れても、カードは使えるらしい。

それにしたって、確認もせずにカードを渡したり、暗証番号を教えたりするのは言語道断た。金持ち老人の平和ボケと侮られても、弁明のしようがないのではなかろうか。

在印歴35年になる私だけに、この手の詐欺には絶対引っかからないとの自信はあるが、smsで時たま送られてくる不審メールにはオタオタしてしまうこともある。インドのスマホにはこの手の詐欺メールは一切送られてこないからである。

それにしても、わが母国がここまで詐欺天国になろうとは、移住前の昭和時代は思いもしなかったことだ。外国人居住者が増えて、治安がやや悪化したこともあげられるかもしれない。過去にイラン人だかによる、テレホンカード偽造があったが、あれなどまだ可愛いものだった。
中近東や東南アジアに暮らしている人にとってはあるある詐欺例で、インド在住の私もいかにも同じ穴のムジナのイラン人がやりそうな手口だとにんまりしたものだ。異人種が持ち込んだ詐欺文化が年月を経て、日本の土壌に浸透し、日本人自らによって編み出された、同国人の心理を巧みについた頭脳犯罪が、現在の高齢者がターゲットの各種詐欺とはいえまいか。

そこで解決法をひとつ、体が丈夫で金も気概もある高齢者なら、海外旅行は欧米でなく、西南アジアにすべきである。ハードルは高いが、インドなら、なおさらいい。インドの常識は日本の非常識、目からウロコ体験をして、鍛えられれば、ちょっとやそつとのことでは、詐欺に引っかからない。

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モハンティ三智江 モハンティ三智江

作家・エッセイスト、俳人。1987年インド移住、現地男性と結婚後ホテルオープン、文筆業の傍ら宿経営。著書には「お気をつけてよい旅を!」、「車の荒木鬼」、「インド人にはご用心!」、「涅槃ホテル」等。

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