米国マスコミが自主検閲で隠してきた2022年の重大ニュース25連発~プロジェクト・センサード(検閲報道発掘プロジェクト)の最新発表~

佐藤雅彦

【第7位】ビル・ゲイツ夫妻財団が“ニュース報道”の生産・流通・拡散に携わる全世界の代表的なメディア企業や報道NPOに総額3億1900万ドルもの“補助金”を与えてメディアを“餌付け”する工作が展開されており、「ジャーナリズムの独立」が危機に瀕している。(→第10位、第12位、第14位、第18位)

【第8位】CIAがトランプ政権下で、《機密漏洩公共告知板(ウィキリークス)》の創立者ジュリアン・アッサンジを誘拐拉致して殺す計画を練っていたことが発覚した。(→第7位、第14位、第18位)

【第9位】米国の保守系政治工作組織《全米立法活動交流会議(ALEC)(アメリカン・レヂスラティヴ・エクスチェンヂ・カウンシル)》は、非営利組織に対する献金者・資金提供者の情報公開を「違法化」して秘密資金供与を野放しにするための“モデル法案”を作成したが、全米各州の共和党の地方議員たちが、これを元にした「闇の工作資金」供与の“合法化”を進めつつある。(→第5位、第16位、第25位)

【第10位】個々のインターネット利用者の閲覧行動をリアルタイムで監視収集(サーヴェイランス)して収集したデータに基づき利用者各人の嗜好関心に応じた“個人向け広告”を呈示する広告手法である「行動監視連係広告呈示(サーヴェイランス・アドヴァタイジング)」は、この行動監視で集めた個人情報が「収集情報販売会社(アグリゲイター)」に転売されて(2016年の英国《ケンブリッヂ・アナリティカ》社が《フェイスブック》から買った膨大な個人情報を悪用して米国大統領選の有権者の投票行動を操作するための対個人“心理戦争”を行なったように)ネット利用者の行動操作に乱用されたり、子供のプライバシー情報を収集するといった違法行為の原因にもなっており、バイデン政権は「行動監視連係広告呈示」規制の法制化を目指しているが、米国主要マスコミ(CNN、ニューヨークタイムズ、NBC、ワシントンポスト、フォックスニュースなど)がインターネット広告営業を擁護増進する目的で立ち上げた業界団体が、この法制化を潰すためのロビー工作に血道を上げている。(→第7位、第12位、第18位、第19位、第21位)

【第11位】“豊かな国々”は“貧しい国々”に壊滅的な損害を及ぼしながら「温室ガス」を大量に排出して全地球的「気候変動」を加速させている。すなわち現在、米国・豪州・カナダのような“富裕国”は、アフリカの大多数を占める“貧困国”に比べて「温室ガス」の排出量が、国民1人当たりに換算すると100倍も多い。

この4半世紀(1990~2015年)に世界人口の5%にすぎない“富裕国”が「温室ガス」の総排出量の36%をばらまいてきたが、この期間中に世界人口の半数を占める“貧困国”が排出した「温室ガス」は、総排出量の6%未満であった。

更に長期的に見れば1750年代から現在まで人類が作りだした炭酸ガス(CO2)の総排出量の実に29%(4570億トン)は米国によるものだが、この250年間余りの間にアフリカ全体の人類活動が排出した炭酸ガスは全体の3%(430億トン)にすぎない。

このように温帯圏にある“富裕国”は過去および現在の「温室ガス」排出の最大かつ圧倒的な責任を負うべき存在なのだが、それがもたらす深刻な被害は熱帯圏の“貧困国”に集中しており、ここにも深刻な「南北問題」が、「加害者」としての経済先進諸国と、「被害者」としての発展途上国という、明確な構図で立ち現れている。(→第1位、第4位、第23位)

【第12位】インターネットSNSの《フェイスブック》は「危険な個人と組織を排除する(DIO)(デンヂャラス・インディヴィヂュアルズ・アンド・オーガニゼーションズ)」という運営方針を採用し、350人の“密偵”に通信監視を行わせて、4000者以上の(政治家、ジャーナリスト、慈善団体、病院、数百件の音楽活動、死没して久しい歴史的人物なども含む)個人や組織を列挙した「ブラックリスト」に基づき、これら“危険人物”に関する“書き込み”の削除に血道を上げている。

この「DIO」方針は、「テロ犯罪や憎悪(ヘイト)活動の防止」を名目としているが、「テロリスト」認定は米国政府の政略絡みの判定に準拠しており、しかも人種差別や警察暴力を告発して規制を求める人権活動家/組織などもこの「ブラックリスト」に入っており、結果的に《フェイスブック》はインターネット時代の公共的議論を圧殺している。(→第7位、第10位、第14位、第18位、第19位)

【第13位】米国で「スマート・オーシャン」と銘打ち軍産共同で開発中の(水中音響送受信とレーザー光線通信技術を使った)“水中の新たなインターネット”は、実用化されれば海中に“通信用の雑音”が充満することになり、音響コミュニケーションや“音波探知による反響定位(エコー・ロウケイション)”に依って生活しているクジラやイルカを絶滅に追い込む危険性があるが、「スマート・オーシャン」構想はこうした海洋生態系の破壊にとどまらず、結果的に「温室ガス」の“海洋吸収”を大きく妨げて地球温暖化による全世界気候変動を激化させる危険性さえある。

IMF(国際通貨基金)が2019年に発表した報告書によれば、クジラは、海中深く沈んだ植物プランクトンを海面付近にまで浮上させる“かき回し棒”のような働きをしており、クジラ集団による運動のおかげで海面付近に押し上げられたプランクトンが光合成を行なうことで年間20億トンの炭酸ガスが利用されているという。こうした海洋動物を絶滅に追い込めば、植物プランクトンによる炭酸ガス利用が阻害されて地球温暖化を助長することになる。(→第18位、第19位)

【第14位】占領地でのイスラエル軍の暴虐を伝えるパレスチナのジャーナリストは、イスラエルの警察と軍によって不当逮捕・拘留や拷問や襲撃・暗殺などのテロリズムに日々晒(さら)されており、ジャーナリストたちが命がけで伝えたパレスチナの現状報道もマスメディアに黙殺されている。

2022年5月11日に《アル・ジャズィーラ》のシーリーン・アブー・アクレー記者がヨルダン川西岸(ウェスト・バンク)“不当占領地”でイスラエル軍が展開していた「テロリスト狩り」を取材中に狙い打ちで惨殺され、イスラエルによる報道弾圧が世界の注目を集めたが、これは“氷山の一角”にすぎず、西岸でのパレスチナ住民の抵抗運動を報じたジャーナリストは2020年以来、26人が不当逮捕拘禁されて拷問を受けている。

イスラエルによるジャーナリズム弾圧はインターネットにも及んでおり、21年5月6~18日の10日ほどの間だけでイスラエルの「サイバー部隊」によってSNS上の500件に及ぶパレスチナ関連の告発記事や投稿アカウントが不当削除された。(→第7位、第10位)

【第15位】“児童ポルノ”のような児童性虐待のインターネット投稿を“根絶”する目的で、2020年に米国連邦議会に『双方向情報交換技術の悪用と管理不履行の横行を根絶する法律(Elliminating Abusive and Rampant Neglect of Interactive Technologies Act)』――通称『EARN IT(=当然の報いだ!)ACT』――法案が提出されたが、この法律は、投稿された「児童性的虐待素材(CSAM)(チャイルド・セックス・アブユース・マテリアル)」を削除せずに放置し続けているインターネット業者も(従来の法律では単に“一般的な投稿の場を提供しているだけ”と見なされて犯罪的投稿の責任は負わされていなかったが)“児童性的虐待の幇助共犯者”と見なして処罰できる、という抜本的な取り締まりの強化を目指すもので、これが議決成立して施行されればインターネット事業者は「いつ、どんな因縁をつけられて処罰されるか分かったものではない」と疑心暗鬼を募らせて、“児童性的虐待”だけでなく、性教育のような保健・衛生・教育分野や、「個人の性的志向と性的自己認識の多様性(LGBTQ)(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィア・クエスチョニング)」のような文化的・社会的・哲学的・心理的分野の投稿までが「露骨な性的表現(セクシュアリー・エクスプリシット)」と決めつけられて、片っ端から削除されてしまう恐れがあることから、「表現の自由を脅かす悪法」であるという非難が人権擁護団体を中心に広範に巻き起こり、議決できず廃案になった。

ところが22年1月に『EARN IT』法案は性懲りもなく議会に再提出され、民主・共和両党の合意の下で強行成立が目論まれている。(→第12位、第16位)

【第16位】男女の“生物学的性差(セックス)”のみならず、あらゆる“社会的性区別(ジェンダー)”の違いを超えて、全てのアメリカ国民の「法の下の平等」をめざす『性的平等のための憲法修正条項(ERA)(イコール・ライツ・アメンドメント)』と、『性的平等法(EA)(イクオリティー・アクト)』の成立を求める国民的な動きを潰すために、その法制化阻止運動の担い手となる保守系政治運動組織の《白頭鷲のつどい場(イーグル・フォーラム)》《全米の憂慮する女たち(CWA)(コンサーンド・ウィメン・フォア・アメリカ)》《女性解放運動に関与しない女たちのつどい場(IWF)(インデペンデント・ウィメンズ・フォーラム)》その他の保守系“女性”団体に対して、右翼の大富豪チャールズ・コッチや《ブラッドリー財団》や幾つかの保守系NGOが莫大な「闇の工作資金(ダーク・マネー)」を供与し、この資金援助を受けた上記の保守系大衆組織は「トランスジェンダー恐怖症(フォビア)」を国民に広める宣伝戦を行なっている。

(尚、『ERA』は1972年に『男女平等のための憲法修正案』〔合衆国憲法修正27条案〕として連邦議会で発議されたが、「法の下における権利の平等を、合衆国のどの州も、性によって否認もしくは制限してはならない」と命じるこの憲法修正案に対しては、70年代末からにわかに保守派の抵抗が強まり、共和党レーガン政権の第1期の前半となった1982年が批准期限であったけれども、批准した州の数が5州足りなくて廃案になった。

しかしその後もこの憲法修正の試みは「男女差別撤廃」から「あらゆるジェンダー差別の撤廃」へと趣旨を拡張して続けられている。また『平等法』は、『1964年公民権法』が定めた権利保護の範囲を、ジェンダー全般にまで拡げる“修正法”という位置づけである。)(→第5位、第9位、第16位、第25位)

【第17位】筋金入りのネオナチ活動家だった人物が、現在、米国司法省の国内テロ対策部署の要職に就いているが、これは米国の連邦主義政体を武装革命で解体し“白人支配のアパルトヘイト国家”創設をめざす全米の極右武装勢力が近年着実に進めてきた“警察・軍事当局への就職・浸透工作”の成果の一端である。

問題の人物ブライアン・P・ホートンは、青年時代(1980~90年代)にはスキンヘッドのネオナチ・パンクロックバンド《どパクり警官隊(アレスティング・オフィサーズ)》でドラムスを叩いていた。こんな名前のバンド名にしたのは「警官」こそ有色人種を襲撃するにはもってこいの職種だと考えたからだった。

彼はこの時期、90年代に中西部の22ヵ所もの銀行を襲って強盗を繰り返し95年4月のオクラホマシティ連邦庁舎爆破テロ事件への関与も疑われているネオナチ武装ギャング集団《アーリア人種共和国軍(アーリアン・リパブリカン・アーミー)》とも交流があった。

1995年に彼はフィラデルフィア警察に就職して2017年まで勤務し、現在は連邦司法省の《地域情報共有システム(RISS)》の対テロ機構を成す《中部大西洋・五大湖地域・組織犯罪取締ネットワーク(MAGLOCLEN)》で“国内テロリズム取締り調整官”という要職に就いている。

FBI(連邦捜査局)は、ずいぶん以前から白人至上主義のネオナチ勢力が警察部内への浸透工作を展開していることに気付いており、2006年には、この浸透工作の目的が「取締り情報と、武器取り扱いの訓練機会を得るため」であると公表しているし、15年には「ネオナチ勢力と警官が実際に活発に内通しあっている」ことを認めている。(→第5位、第9位、第16位)

【第18位】NATO(北大西洋条約機構)は2021年10月に「脳科学を兵器として利用」し、大衆の認知・思考と社会行動を思いどおりに操作する軍事技術を開発・展開していく「認知戦争(コグニティヴ・ウォーフェア)」計画推進のための研究集会を公然と実施し、「人間の心(マインド)」を新たな「戦場」に据えてNATO加盟諸国の国民全体の“認知”を操作して、中国やロシアなどの潜在敵国との“超限戦”に挑んでゆく軍事戦略を構築しつつある。(→第13位)

【第19位】1929年の大恐慌の際に、連邦政府は南部諸州の黒人居住地を「(返済不能の)危険性が高い」と決めつけて住宅ローンの融資を禁じる「赤線地帯指定(レッド・ライニング)」を実施し、以来、南部の黒人が多く住む農村地帯は生活基盤施設(インフラストラクチャー)整備が決定的に遅れている。その結果、現在ではこれらの地域のインターネット普及率は驚異的に低迷していて、黒人のインターネット利用は白人の10分の1以下にとどまっている。第10位、第12位、第13位)

【第20位】「貧困家庭への一時扶助(TANE)(テンポラリー・アシスタンス・フォア・ニーディー・ファミリーズ)」は、保健社会福祉省が1997年に開始した連邦支援事業で、全米の貧困家庭に“一時金”を給付する政策なのであるが、近年では受給資格の締めつけが徐々に強まったせいで、2021年時点における給付申請の受理件数は、2010年の半分にまで減ってしまった。

だが同省が「TANE」制度に充てた給付金の財源は、同期間に2倍以上にも増額されてきたので、結果的に全州あわせて52億ドルの財源が、給付されぬまま貯め込まれている。2008年「リーマン恐慌(ショック)」以来、中産階級が分解して貧富格差が激化し、米国民の大多数が貧困に追いやられてきたのに、行政機構は“貧困救済の給付金”を出し惜しみして膨大な“ムダ金”を貯め込んでいるのだ。(→第19位、第22位)

【第21位】新型コロナ汎流行(パンデミック)による外出規制がきっかけで学童向けの“インターネット授業”が著しく“普及”し、《バーク》《グノーシスIQ》《ガッグル》等々の遠隔(リモート)授業用の専用(アプリケーション)ソフトウェアが標準的に使われるようになったが、その結果、これらのアプリに装着されている“生徒監視機能”によって、教師が「ネットいじめや違法薬物乱用や自傷行為などを防止する」という名目で生徒のインターネット使用履歴や電子メールや私的な“お喋り(チャット)”を監視する動向が強まっており、“監視されていること”を意識しながらの日常生活を強いられている学童の情緒や心理に破壊的な影響が広がっている。(→第10位、第13位、第19位)

【第22位】連邦政府は、公共交通機関の整備に投じる財源の四倍もの巨費を、自動車道路の整備に投じてきた。その結果、1990年以来、都市部の自動車道路交通網は70%近くも“増殖”したが、この間に公共交通機関は、施設の維持や修理に必要な財源(総額900~1760億ドル)が調達できず、老朽化して機能不全に陥っている。行政は、マイカーを所有できる富裕層を優遇し、貧困層の移動交通手段を奪ってきたわけである。(→第19位、第20位)

【第23位】米国内務省の《沖合環境安全操業執行局(BSEE)》は(2010年のメキシコ湾沖合で操業中だった英国BP石油(ブリティッシュ・ペトロリアム)の掘削施設《ディープウォーター・ホライズン》が引き起こした)米国史上で最悪の海洋原油流出事故を教訓に、管理不行届きで指弾された同省《鉱山資源管理部》を改編して新設された部署であり、沖合の石油とガスの掘削事業の労働安全と環境保護を徹底させることが、その主たる業務なのであるが、2005~19年に沖合掘削事業で発生した事故による労働者の死亡数を(船で作業場に移動中や労働時以外に起きた事故を除外する、などの統計操作で)故意に半数近くも減らして記録していたことが判明した。(→第1位、第3位、第11位)

【第24位】新型コロナ汎流行によって商品の物流供給連鎖網(サプライチェーン)に重大な支障が生じ、食料品の供給態勢が危機に陥る地域も現われている。アメリカ先住民の居住地も、この“糧断(りょうだん)(=食糧断絶)”の危機に追い込まれているが、“既製商品を商店から購入する”という食料入手手段に依存している都市部とは違い、生産者どうしが直接に食料を売り買いするという“昔ながらの食料調達の方法”が徐々に復活しつつある。

全米規模で先住民の農業および食料自給自足の振興を行なっている幾つものNGOが協同して、先住民の共同体の自立的・自給自足的な食料調達の実情を調査し、この“自前のデータ”を有効活用して、連邦政府から(近所に食料品店がないので使い物にならない“食料支援切符”ではなく)先住民社会の“食の自立”をいっそう増進できるような政策を引きだそうとしている。住民が主体となった“データの生産と活用”は、「国家主権」ではなく「人民主権」という意味での一種の「データ主権」確立をめざす活動であり、こうした先住民の「データ主権」運動は非常に注目すべき動きである。(→第6位)

【第25位】メリーランド州は、刑務所に収監された男性受刑者に対しては、職業訓練などを行なう社会復帰支援の施設を九ヵ所、運営しているのだが、女性受刑者むけの施設は皆無(かいむ)である。この欠点を是正すべく連邦議会に提出された『ジェンダーに応じた受刑者の出所準備訓練の整備法』の法案は、可決されたけれども共和党ラリー・ホーガン州知事が拒否権で潰したせいで、今もなお女性受刑者は不当な性差別を受けている。(→第9位、第16位)

(月刊「紙の爆弾」2023年3月号より)

 

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佐藤雅彦 佐藤雅彦

筑波大学で喧嘩を学び、新聞記者や雑誌編集者を経て翻訳・ジャーナリズムに携わる。著書『もうひとつの憲法読本―新たな自由民権のために』等多数。

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