【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

戦没者遺骨の叫び、沖縄防衛局による辺野古埋め立て土砂計画をめぐって

谷 大二

・戦後はまだ終わっていない

2022年、沖縄は本土復帰50年を迎えた。しかし、毎週のように沖縄のどこかで不発弾処理が行われ、そのたびに周辺住民が避難を余儀なくされている。また、戦没者の遺骨収集はいまだに進んでいない。政府の責任で行わなければならない二つの戦後処理がいまだに続いている。戦後はまだ終わっていない。

遺族の高齢化が進むなか、政府は「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律」(16年施行)を制定し、24年までを遺骨収集の集中実施期間としている。厚労省は遺族と遺骨のDNA鑑定の照合も始めた。これによって遺骨が遺族のもとに返還される事例も出てきた。戦後処理としての本格的な遺骨収集はまだ始まったばかりである。

・矛盾する政府の施策

ところが、20年6月、防衛省は「辺野古埋め立て建設変更申請」を沖縄県に提出し、添付書類「土砂に関する図書」の中で辺野古埋め立て用の土砂全量が沖縄県内で調達可能と記した。しかも、その調達土砂の8割が沖縄県南部である。

今なお遺骨の眠る南部の土砂を辺野古新基地建設の埋め立てに使用することは戦没者を二度殺すことであり、人道上の問題である。政府が主体となって遺骨収集を推進する施策を打ち出しながら、一方で遺骨を含む南部の土砂を埋め立てに使用する計画を打ち出すことは、全く自己矛盾した行為である。

Tokyo, Japan – January 14, 2015: Anti-war protestors at a demonstration in front of the Federation of Economic Organizations head of the spring wage negotiations.

 

・歴史感覚の欠如

太平洋戦争の末期、住民を巻き込んだ地上戦となった沖縄戦。米軍が首里司令部に迫る中、第32軍司令部は1945年5月22日、本土決戦を一日でも遅らせるために司令部を首里から南部に撤退することを決定した。南部にはおびただしい数の住民が避難し、陸軍病院が置かれ、そこに多くの女子生徒が看護要員として配置されていたことなどを全く顧みずに、その結果、南部は地獄のような戦場となった。犠牲となった住民の半数はこの南部で亡くなっている。32軍の兵士も半数が南部で戦死している。政府はこうした歴史的な責任を負っていることを忘れてはならないはずだ。

こうした経緯から、復帰の年に沖縄県南部は沖縄戦跡国定公園に指定された。過酷な戦争の惨禍を経た戦争遺跡を祈念するという特色をもった国定公園として、その南部の土砂を新基地建設の埋め立てに使うなど、歴史感覚が欠如しているとしか考えられない。

・遺骨散逸の危機

20年12月、遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表の具志堅隆松氏は遺骨収集調査のため糸満市米須の丘陵に向かったところ、鉱山開発によって森林が皆伐されているのに遭遇した。そこは魂魄の塔、東京の塔、有川中将の碑などが立ち並ぶ霊域である。その鉱山開発は森林法や自然公園法に違反するものであった。市、県はただちに中止命令を出し開発は中断された。21年6月に行われた戦没者遺骨収集情報センターの調査で戦没者遺骨が確認され、22年1月末から遺骨調査が行われた。

5月、玉城デニー沖縄県知事は鉱山業者に対して措置命令を出した。遺骨収集を終えるまで工事を開始しない、植栽などにより風景の維持を図る、開発終了後原状に復するという3点である。現在鉱山業者は、公害等審査会に不服を申し立て、係争中である。乱開発による戦没者遺骨散逸の危機が差し迫っている。遺骨の保全を図る国の施策、県条例などの策定が求められている。

・遺骨の叫び

具志堅氏と支援者たちは沖縄防衛局に辺野古埋め立てに南部の土砂を使用する計画を断念すること、玉城知事に鉱山開発に中止命令を出すことを求めて3月1~6日、県庁前でハンストを行った。県民広場での署名6000筆、SNSでの署名28000筆が1か月にも満たない期間で集まった。県民広場での署名の大半は高齢の遺族であった。署名は沖縄県民の悲痛な叫びでもあった。SNSでは全国の若者たちが人道上の問題だとするメッセージを添えて署名した。

4月、沖縄県議会は南部土砂を埋め立てに使用しない、遺骨収集を政府が主体となって行うという2点を趣旨とする意見書を採択し政府に提出した。それを皮切りに21年末までに全国の1割を超える自治体が沖縄県議会と同様の意見書を採択し、政府に提出した。遺骨の叫びが全国に届き、全国の遺族、心ある人々の声がこだまのように響いた。

・繰り返される答弁

政府は「県内と県外のどちらから調達するかも含め、現時点では確定をしていない」(21年2月17日衆議院予算委員会答弁)との答弁を繰り返している。沖縄防衛局設計変更申請で沖縄県南部の土砂採取計画を書き入れること自体が、人道上の視点を欠いている。即刻、計画を撤回すべきである。

また、「仮に南部で土砂採掘する場合には、業者に戦没者のご遺骨に十分配慮したうえで行われるよう求める」(同国会答弁)とも答弁している。政府は他人事のように責任を業者に擦り付けている。遺骨収集は業者任せではなく、国が主体的に行うべきものである。

これらの答弁は防衛省でも沖縄防衛局でも繰り返されている。繰り返される答弁は政府が戦没者遺骨に敬意を払わず、物としてしか見ていないことを示している。戦没者を冒涜するばかりか、遺族をも冒涜するものである。

・遺骨の尊厳

戦没者遺骨の問題は沖縄にとどまらない。太平洋戦争においてアジア・太平洋で犠牲となった日本軍兵士の遺骨収集はほとんど進んでいない。日本政府にはこうしたアジア・太平洋の戦没者遺骨の尊厳も守る責任があるはずだ。

戦没者遺骨の尊厳を守るとは、遺骨を収集し遺族のもとに返還し、遺骨の叫びを受け止め、遺骨が語る言葉に真摯に耳を傾けることである。戦後処理も終わらぬなかで戦前の準備となる辺野古新基地の埋め立てに戦没者遺骨の眠る土砂を使うなど断じて許されるものではない。

On a sunny day in October 2020, I went on a trip to Okinawa by plane.
The visibility from the cabin was good, and I was able to shoot various places around the main island of Okinawa.

谷 大二 谷 大二

島ぐるみ宗教者の会共同代表、ガマフヤー支援者の会事務局、カトリック教会名誉司教

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