【連載】横田一の直撃取材レポート

〝差別思想〞の背景に旧統一教会の:岸田文雄首相を操る〝安倍背後霊政権〞

横田一

実質的な決定権者は高市早苗大臣

「岸田文雄首相を操る高市早苗・経済安保担当大臣こそ〝影の首相〟ではないか」という疑問が湧き上がってきたのは、官邸で経済安保推進会議が開かれた2月14日。国家機密を扱う資格者を認証する「セキュリティクリアランス(SC、適格性評価)」の制度化についての議論が行なわれ、岸田首相は「同盟国や同志国等との円滑な協力のために重要で、産業界の国際的なビジネス機会の確保・拡充につながる」と必要性を強調し、こんな指示を出した。

「SC制度の法整備等に向けた検討を進める必要がある。高市大臣は制度のニーズや論点等を専門的な見地から検討する有識者会議を立ち上げ、今後1年程度をめどに可能な限り速やかに検討作業を進めてください」

 この内容は同日、「機密資格で有識者会議設置首相指示」(産経新聞)や「安保上の機密扱う資格、法整備へ検討指示」(日経新聞)として伝えられたが、3日前の高市大臣の記念講演を聞いた私の印象とは食い違っていた。メディアは「高市大臣に指示した」と報じたが、実際は「岸田首相が指示するように高市大臣が働きかけた」としか見えなかったのだ。

 建国記念の日の2月11日、日本会議広島福山支部主催の集会で高市大臣は次のように発言していた。

「いま私が突き当たっている壁として、ようやく去年の年末あたりに、広島出身の岸田総理が『これだったら仕方がないのかな』と少しずつ心を動かしていただいたのですが、ただ昨日(2月10日)もお話ししたのですが、あまり積極的ではない印象を受けたのですが、セキュリティクリアランス(SC)、この制度をどうしても作りたいのです。これ、広島県で世論を盛り上げていただけませんか。私は大臣になった限りは、これを実行しなければ、制度を作らなければ、死んでも死に切れない」

 慎重姿勢の岸田首相を突き動かす世論喚起を集会参加者に呼びかけた高市大臣は、安倍晋三元首相が成立させた特定秘密保護法の〝産業版〟がSCという説明をしていった。

「SCは何かといったら、国が持っている非常に重要な情報、産業情報・技術情報を含めて、そういう情報を含めて指定して、その情報に接する人に対して資格を与える制度です。だから現状、似たような制度があるのは安倍総理が本当に大変な反対運動のなかで苦労して作られた特定秘密保護法だけなのです」

「岸田総理の説得も続けて参りました。やはり総理が心配している気持ちもとてもよくわかります。統一地方選挙も控えている。以前、特定秘密保護法を作る時にやはり反対運動はありました」

 これまでの岸田首相の慎重姿勢を読み解きながらも高市大臣は、こんな決意表明で講演を締め括った。

「早く、公式に岸田総理からキックオフのご指示をいただいて、その上で可及的速やかに法律案にしたいと思って、下ごしらえの準備だけは今まで一生懸命やってきた。(法案提出をしたら野党が)また国会でバンバンバンと来ると思うが、何を言われてもこたえる人間ではないので、一生懸命やらせてほしいと思っています」

 並々ならぬ覚悟を口にした高市大臣に対して、会場を埋め尽くした約500人の参加者から拍手が沸き起こり、司会者も高揚感あふれる声で最大限のエールを送った。

「ロシアのウクライナ侵攻や中国の脅威など日本を取り巻く国際情勢が不安定ななか、安倍元総理が凶弾に倒れられました。深い悲しみのなか、私たち国民は高市先生のような新たな政治のリーダーを心待ちにしておりました」

 高市大臣に花束贈呈が行なわれたあと、万歳三唱。高揚感とともに集会は終了した。

 そして岸田首相がSC法制化に動き始めたのは、この集会3日後の14日。「今後1年程度をめどに可能な限り速やかに検討作業を進めてください」と高市大臣に指示したが、言われる前からすでに準備はスタートしている。高市大臣が去年から説得を続けた結果、岸田首相がキックオフの指示を出したというのが実情に違いないのだ。

 岸田政権(首相)の空虚な実態が浮き彫りになっていく。弱小派閥出身の岸田首相は、自民党最大派閥(安倍派)の神輿に担がれた〝お飾り〟にすぎず、イエスマンであり続けないと引きずり降ろされる十字架を背負っているといえるのだ。

 2021年の総裁選で勝利して首相の座を射止めたのに、〝高市政権〟といえる状況に陥っているのはなぜか。安保3文書(防衛費倍増や敵基地攻撃能力)や原発回帰(60年超の運転期間延長)など安倍元首相がやり残した課題(安倍派は「遺言」と位置づけている)を、岸田首相が次々と具体化していくのは、高市大臣ら安倍派の要求に「ノー」と言えない〝安倍背後霊内閣〟の宿命としか言いようがない。

 なお日本会議は安倍元首相の強力な〝応援団〟として、憲法改正推進や古き家族観(同性婚反対や選択的夫婦別姓反対)擁護などのタカ派的草の根運動を全国展開している。旧統一教会と同様、アベ政治(タカ派的な政策・古い家族観に基づく政策)実現の実働部隊ともいえる。

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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