〝差別思想〞の背景に旧統一教会の:岸田文雄首相を操る〝安倍背後霊政権〞
政治荒井前首相秘書官発言は岸田首相の代弁
安倍元首相の呪縛から逃れられない岸田首相の弱点は、同性婚反対の暴言を吐いて更迭された荒井勝喜首相秘書官の問題でも露呈した。
発端は、立憲民主党の西村智奈美・代表代行が2月1日の衆院予算委員会で同性婚の法制化を迫ったのに対し、岸田首相が「家族観や価値観、社会が大きく変わってしまう課題」「極めて慎重に検討する」と否定的な答弁をしたことだ。その真意を記者団に問われた荒井勝喜・首相秘書官が3日、「見るのも嫌だ」「秘書官室もみんな反対する」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」とオフレコで口にしたことから更迭につながったのである。
この際、岸田首相は「政権の方針とは相いれない発言で言語道断」と批判したが、暴言が飛び出すまでの経過を振り返れば、首相の本音を荒井氏が代弁したとしか考えられないのだ。
実際、その後の野党の追及で「社会が大きく変わってしまう」という首相答弁は想定問答の中にはなく、本人のアドリブであったことも判明した。スピーチライターでもあった荒井氏が盛り込んだのではなく、岸田首相が自身の問題意識を明らかにしていたのだ。
しかも岸田首相は、同性婚法制化に否定的な答弁を撤回せず、法制化賛成に方針変更することもなかった。その代わりに岸田政権が提出の準備を始めたのがLGBT理解増進法案。2021年に与野党の全会一致で成立を目指そうとしたが、自民党内で異論が噴出して未提出のまま。そんな店ざらし状態だった法案を更迭後、急きょ持ち出して世論の沈静化を図ろうとしたのである。
これに対して立民の泉健太代表が2月10日の会見で「(LGBT理解増進法案は)本当にもう入口の入口だ。入口に入って終わりということは絶対にあり得ない」と釘を刺し、あくまで「出口(同性婚の法制化)」を目指すべきと強調している。
そんななか、首相秘書官更迭に触発される形で自民党内からも異論が出始め、選択的夫婦別姓の問題にも飛び火した。2月7日付の読売新聞は、最近鳴りを潜めていた小泉進次郎・元環境大臣の発言を以下のように紹介した。
「小泉元環境相は、首相が打ち出した『異次元の少子化対策』に触れ、『多様な価値観・生き方を否定するような発想では〝異次元〟の政策にならない。選択的夫婦別姓導入に踏み込むくらいの政策転換が必要だ』と指摘した」
こうして通常国会では、家族観をめぐる問題(選択的夫婦別姓導入やLGBT理解増進法案や同性婚法制化)が注目を集め、与野党激突のメインテーマに急浮上することになった。臨時国会では旧統一教会の被害者救済法案をめぐる与野党攻防が繰り広げられたが、通常国会では同性婚や選択的夫婦別姓の導入が政治課題となったのだ。
首相秘書官は嫌LGBTが条件なのか?
岸田政権の家族観をめぐる問題は、旧統一教会問題再燃の火種にもなった。
2月7日付の毎日新聞は「党内ではLGBTQや同性婚の制度化に慎重な主張をしてきた世界平和統一連合の問題も尾を引いており、党幹部の1人は『(LGBT理解増進)法案の議論が紛糾すれば、教団問題が再燃しかねない』と懸念している」と指摘。
ちなみに同性婚反対を声高に訴えたのは荒井・前首相秘書官だけでなく、安倍元首相秘書官だった井上義行参院議員(安倍派)も同じだった。昨年7月、自民党全国比例区で再選を果たした井上氏は選挙中に、旧統一教会の支援集会で「井上先生は食口(しっく=信者)になりました。私は大好きになりました」と教団幹部に紹介された後、「私は信念を持って同性婚反対を言っていますから!」と訴えていた。
最後の「投票用紙2枚目は井上義行!」と連呼する場面を民放各局が紹介することが多かったが、その直前に井上氏は同性婚反対を訴えていたのだ(「紙の爆弾」8月号を参照)。
安倍政権と岸田政権の2人の首相秘書官がそろって同性婚反対だったのはなぜか。旧統一教会とズブズブの関係を続けてきた歴代自民党政権が、古い家族観に固執し続けてきたことの産物に違いない。私が2月6日生配信のネット番組「横田一の現場直撃」で、「首相秘書官は嫌LGBT?」と銘打って更迭問題を採り上げ、冒頭で井上参院議員支援集会の音声と写真を再紹介したのはこのためだ。
すると、2日後の2月8日号の日刊ゲンダイが追いかけてくれた。「岸田政権〝差別思想〟の背景に旧統一教会の影…『LGBT理解増進法案』成立は前途多難」という見出しで、私が撮影した旧統一教会の支援集会の写真を掲載、次のように解説した。
「なぜ自民党はここまでLGBTを毛嫌いするのか。その背景にチラつくのが、自民党と蜜月関係にある旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の存在だ。『同性婚反対』は教団が掲げる重要な運動方針の一つなのである。旧統一教会系の政治団体『国際勝共連合』は公式HPに〈同性婚合法化、行き過ぎたLGBT人権運動に歯止めをかけ、正しい結婚観・家族観を追求する〉と明記。選挙支援を受けた『教団ズブズブ』の井上義行参院議員の行動は分かりやすい。昨夏の参院選の最中に教団の集会で『私は同性婚反対を、信念を持って言い続けます!』と声を張り上げて支持を呼びかけていた」
テレビでもTBS系の「サンデーモーニング」が続くなど、秘書官更迭を機に、同性婚法制化や選択的夫婦別姓導入に反対する古い家族観を共有する自民党と旧統一教会とのズブズブの関係が再び注目を集めることになった。教団関係閣僚の交代で通常国会での追及は下火となったものの、再び燃え広がり始めたのである。LGBT差別問題でも冒頭のSCと同様、安倍派のイエスマンであり続けるしかない岸田首相の惨めな姿が可視化されることになったともいえるのだ。
しかし、古き家族観に囚われる〝安倍背後霊内閣〟に対抗する動きがすでにスタートしていた。自らも結婚時に妻の姓を選び、国に対して「夫婦別姓訴訟」(敗訴)を起こしたソフトウェア開発の「サイボウズ」青野慶久社長が2021年の総選挙で仕掛けた落選運動「ヤシノミ作戦」のことだ。選択的夫婦別姓や同性婚を進めない政治家をヤシノミのように落とすことで、制度の早期実現を目指す活動だ。
これを高く評価したのが、「ポールトゥウィンホールディングス」の橘民義会長。昨年12月10日の第4回「武蔵野政治塾」(政治に復活の息を吹き込むことなどを目指す政治塾)で両者は対談。橘氏が「この人を落とそうという発想が自由」と切り出すと、青野氏はこう説明した。
「いま世論調査をしたら7~8割が選択的夫婦別姓に賛成です。残りが反対。若い世代はほぼ賛成。なぜ政治家は変わらないのか。自民党の一部の国会議員が強硬に反対しているので、この問題が進められないってことがわかったのです。じゃ、そいつを落とすしかない。そこで反対している人をリストアップしました」
そして、対談後の質疑応答でも青野氏はこう補足した。
「今、統一教会の応援で当選して頑なになっている人がいるので、それはさすがにおかしいでしょうということで、国民として落としていかないといけない。『こいつに入れてはいけない』というところを頑張るべきだと思います」
1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。