ロシアからの新たな脅威? NATOこそが現実の脅威だ(4)

アラン・マッキノン(Alan Mackinnon)

エネルギーを通じた中国の台頭

こうしてNATOは、まさにロシアの西側の国境に至るまで東へと拡大し続け、現在、ロシアの南側で隣接する諸国を引き込むことで、その同盟を拡大しようと求めている。

ブレジンスキーは、ロシアに対する彼の地政学については極めて率直に語っていた。彼はロシアを同地域における米国の野心に対する最大の脅威と見なし、ロシアが「ヨーロッパ的ロシア、シベリア的ロシア、そして極東の共和国」に解体するのを見たがった(注4)。

そのような自由市場原則に基づく「緩やかに連邦となった」構造になれば、ロシアとその広大な資源を米国および欧州の多国籍企業に開放することになろう。

しかし、アフガニスタン戦争で設立されたウズベキスタンとキルギスタンでの米軍基地は、最近、それぞれの政府の要請により閉鎖された。ロシアはその地域において、かなりの影響力を保有する。中国もまた次第にそうなりつつある。中国は最近、一連のエネルギー取引に署名したが、それは東南アジアの長く脆弱なエネルギー輸入海路への中国の依存を減らすことになる。

特にトルクメニスタンは、その東側の隣国である中国に、2020年までに同国のガスを毎年65bcm(10億立方メートル)供給することに合意したところだ。

カザフスタンから中央アジアを経て、中国に通じるガスパイプライン。米国とNATOは中央アジアの地政学的重要性から、その支配を狙っている。

 

中央アジアにある5つの国すべてを通り、その西側にある中国の阿拉山口(注=あらさんこう。ウイグル自治区ボルタラ・モンゴル自治州阿拉山口市の町。中国とカザフスタン共和国の国境)に到る新たな2つのパイプライン(合計で4つとなった)が、2014年に操業開始した。

これにより、10年以内に中央アジアは中国の天然ガスのうちの約40%を供給することになり、中国は容易に中央アジア最大の貿易パートナーになる。中央アジアの首脳たちは、それぞれの最大貿易パートナーでもある2つの大国の隣人、つまり中国とロシアとの関係を危うくすることになりかねないならば、NATOと米国からの申し入れに答えることをためらう可能性もあるだろう。

「9/11」を口実にした勢力拡大

その上、世界のこの地域では、NATOは新たな競争相手の同盟に向き合う。上海協力機構(SCO)は中国とロシア、中央アジアの4ヵ国(トルクメニスタンを除く)を結びつけ、そして間もなく新たにインドとパキスタン、イラン、モンゴルの4ヵ国を加入させることになる。

安全保障がその機構の主要な関心ではあるが経済的統合が増大しつつあり、さらにエネルギーがこの新たな地域集団の中心にある。SCO加盟国はまもなく、世界の石油の20%、天然ガス貯蔵地の50%以上を占めるようになる。SCOは明らかに、ユーラシアにおけるNATOの役割に対する大きな平衡勢力(counterbalance)になりつつある。

しかし、今日の諸々の紛争におけるNATOの役割を完全に理解するためには、15年前に戻る必要がある。2001年9月11日のニューヨークとワシントンに対する攻撃は、ジョージ・W.ブッシュ政権にとって「天の恵み」であった。

それらの攻撃は、一度のテロ行為で米国とNATOにとって同じように新たな信憑性ある「敵」を与えたのであり、米国の勢力をグローバルに投影し、西側の軍事同盟を拡大することを正当化した脅威であった。

その脅威の規模、およびアルカイダのネットワークの地理的広がりは、あまりにも誇張されていた。しかし「9/11」の情緒的影響において、ほとんどの米国人はブッシュが率いるところにいとわず従った。終わりのない「テロとの戦い」という名目のもとで、国防総省はまずアフガニスタン、ついでイラクを攻撃し、両国を服従させて政権打倒と長期占領を行なった。

むろんサダム・フセインのイラクはアルカイダとも「9/11」とも何の関係もなかったが、これは昔の恨みを晴らし、中東におけるパワーバランスを変え、イラクの広大な石油埋蔵地への米国の支配を確保するためであった。

「9/11」と「テロとの戦い」のグローバル化がなかったならば、アフガニスタンとイラクでの戦争のどちらも起こりそうにもなかっただろうし、NATOの圏外活動が容認されたり常態化したりすることもなかっただろう。

それら2つの戦争は以前のコソボでの戦争と同様に、その地域における新たな米軍基地を建設するために使われた。たとえばアフガニスタンは、最近のNATOの「撤退」にもかかわらず、今なお9つの大きな米軍基地と10,000人の米兵を置くホスト国である(米軍は2021年8月に、アフガニスタンから全面撤退)。

「9/11」を口実に開始したアフガニスタン戦争での、米兵。NATOは根拠が曖昧なまま、初めて欧州以外での軍事力投入に踏み切った。

 

そしてUAEとクウェート、カタール、バーレーンを含むNATOの「イスタンブール協力イニシアチブ」(ICI)は、米国第5艦隊がバーレーンに拠点を置き、さらに英国政府が新たな英国の海軍基地を建設中である、湾岸諸国(クウェート、アラブ首長国連邦、オマーン、バーレーン)における一連の新しく強化された米軍基地へと結びつけるものだ(注5)。

これらの基地のいくつかは現在、イラクとシリアにいるIS(「イスラム国」軍)の攻撃目標に対する軍事作戦を開始するために利用されている。それらはまた、ロシアとイラン、中国を包囲するより広い軍事的な環の一部である。

その包囲の環を極東において完結するのが、その地域のNATOの「グローバルパートナー」の日本、韓国とオーストラリアであり、韓国には28,500人、日本には40,000人(注=現在は約55,000人)の米軍兵力が駐留し、オーストラリア、シンガポール、フィリピン、韓国、グアム、沖縄において新しい米軍基地・拠点が建設されたか建設されつつある。

米国のアジア「基軸」(pivot)はこの不安定な地域の軍拡にさらなる旋回(twist)を加えつつあり、そのグローバルな海軍、空軍の資産(核武装した潜水艦を含む)の60%を2020年までにアジア太平洋地域へと移転させる。

(翻訳:レンゲ・メレンゲ)

(注1)「The United States and the European Union」(URL:www.state.gov/documents/organisation/23644.pdf).
(注2) Georgia’s ‘Rose Revolution’ and the fall of Eduard Shevardnadze’s regime, according to an article in the 『Wall Street Journal』 (November 24,2003),was credited to the operations of ‘a raft of non-governmental organizations . . . supported by American and other Western foundations.’
(注3)Traynor, Ian「Nato plans stronger military ties to ex-Soviet states south of Russia」『The Guardian』1st April 2014.(URL:https://www.theguardian.com/world/2014/apr/01/nato-plans-stronger-military-ties-armenia-azerbaijan-moldova).
(注4)Brzezinski, Zbigniew『The Grand Chessboard: American Primacy and its Geostrategic Imperatives』 1997. p 198.
(注5)December 6, 2014「UK to establish £15m permanent Mid East military base Published」(URL:www.bbc.co.uk/news/uk-30355953).

 

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アラン・マッキノン(Alan Mackinnon) アラン・マッキノン(Alan Mackinnon)

アラン・マッキノンはグラスゴー大学で医学士の学位を取り、同時に政治活動に参加し、そこで身につけた反帝国主義、平和的共存という理念に生涯を捧げた。結婚後、夫婦でタンザニアでの医療活動に従事。帰国後は平和運動の指導的役割を担いながらリバプール大学で熱帯医学を学び、その後は「国境なき医師団」の一員として再びアフリカに向かい、シエラレオネで医療活動にあたった。その際の経験から、現代の帝国主義、軍拡競争とアジア・アフリカへのNATOの拡大といった課題についてさらに理解を深める。 1990年代の湾岸戦争では、「スコットランド核軍縮キャンペーン」の議長として抗議運動を取りまとめ、2011年の「9.11事件」を契機とした「対テロ戦争」に反対し、「戦争ではなく正義を求めるスコット連合」を結成。英国の政党や労働組合、宗教団体、平和運動グループの代表を集め、アフガニスタンとイラクに対する米英の戦争に抗議活動を続けた。また、スコットランドへの潜水艦発射型大陸間弾道核ミサイル「トライデント」の配備に反対し、先頭に立って闘った。晩年はがんで片足を失いながらも、最後まで平和実現のための歩みを止めることはなかった。

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