国民生活の危機もそっちのけの自公政権 電気料金値上げの根本的原因
社会・経済政治電気料金の値上がりが止まらない。
昨年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻後、天然ガス・石炭・石油など化石燃料が世界的に高騰した。その影響として、電気料金の値上がりはやむを得ないとされている。
しかし、平成からのデフレに続き、各所で人々に生活破綻が突きつけられている。新たな貧富の差が生み出され、追いつめられる困窮世帯が増大している。
全国の電力会社によって値上げの状況は異なっており、4月に東北・北陸・中国・4国・沖縄の各社、6月には東京電力と北海道電力が、28%〜45%のアップを予定している。この電力会社の値上げに、政府も1キロワット時あたり7円の補助金を2月から9月にかけて支給するが、ざっくり計算すると料金の20%ほどの抑制策であり、ほぼ焼け石に水だ。
オール電化住宅を購入した市民は、夜間電力を使って安くなると期待して選択した。しかし、住宅ローンより高い電気代に、悲鳴を上げている。
言うまでもなく、電気・ガス・水道は、道路や鉄道などと並ぶ公共インフラで、ストップすれば、人々の健康や命に関わる。供給を持続していくのは、国や自治体などの責務である。しかし、今回の電気料金の値上がりにあたって、国や自治体にその危機感が感じられないことに、まず問題がある。値上げが及ぼす影響調査すら行なっていない。
暖房が使えず幼い兄弟が互いを温め合う様子が、テレビで流されている。その家庭にとっては、災害に遭ったような危機が襲いかかっているのだ。電気代の値上げの原因、その構造的問題を分析し、対処の策を考えたい。
値上げの実態と家庭の悲鳴
はじめに、現在の値上げは個々の家庭にどのような影響を与えているのかを見てみたい。レタスクラブの調査(ヤフーニュース2月10日付。1月27日〜2月1日調査)では、光熱費について回答者の約9割が値上がりを実感、約3割が「かなり苦しくなった」と答え、「少し苦しくなった」を含めると約8割が、苦しくなったと答えている。
4人家族の光熱費の代金ごとの階層をみると、2万円以下は3割にすぎず、2〜3万円が3割、3万円以上が4割に上る。しかも、5万円以上も1割ある。このほかガス・灯油代などもかかるため、電気料金値上げが物価高の中でも生活に破壊的な影響を与えることがわかる。
ツイッターには「笑っちゃう電気代来た テレビも見ず蓄熱暖房も使わず過去最高を記録」「燃料調整費ってなんなん なんでそんなもんで3万近く増やされてんの? 生きていけないんですけど!」「国民の為に一律給付金お願いしたい! 非課税世帯や子育て世帯だけが苦しい訳じゃない!」といった嘆きの声が溢れている。
もちろん、家庭だけでなく、小規模零細事業者も例外ではない。事業停止や倒産を迫られている。政権の無策が、庶民の生存権を奪っている。
そんななか、2月6日の衆院予算委員会で萩生田光一自民党政調会長は、原発の稼働割合が多い九州や関西電力は値上げを予定していないと強調し、原発再稼働こそが解決策であるかに語った。しかし、この発言自体、科学的事実から外れた誤りだ。国民生活の危機を危機とすら認識しない、まさに崩壊する自公政権を象徴する質疑だった。
電気料金の成り立ちと化石燃料に依存する現状
電気料金の基本構造は、次のように定められている。
電気料金=基本料金+使用電力量+燃料調整費(調整単価)+再生可能賦課金
今回の値上げの大きな理由とされているのが天然ガス・石炭・石油などの化石燃料の高騰で、それが「燃料調整費」に反映されている。実際、天然ガスと石炭は、2021年4月と22年10月を比較すると、それぞれ3倍と4倍に値上がっている。その影響もあり、22年1月から11月までに、電気料金は全国で約18%上げられてきた。一般社団法人エネルギー情報センターの電子市場データでも、1キロワット時の平均単価は2022年1月で23円だったのが、22年9月は28.6円と、約25%ものアップだ。
翻って現在の日本の電源構成は、再生可能エネルギー20%、火力発電76%、原子力4%となっている。12年前の福島第一原発事故を受け、原子力が10年の25%から4%に減少したのは当然として、火力発電は全体の約8割弱にも及ぶ。再生可能エネルギーは2割でしかない。ちなみに火力発電の供給資源の割合は、天然ガス50%、石炭40%、石油10%。現下の化石燃料高騰の影響をもろに受ける構造だ。
その天然ガスと石炭の値上げの理由は、主に3点が挙げられている。
①ロシアのウクライナ侵攻による米、EU、日本などの制裁措置。
②CO2排出量の少ない天然ガスへの切り替えが中国を中心に進み、天然ガスの値上げに拍車。
③円安の影響。22年初頭の1ドル110円が現在135円に(約22%)。
結局、値上げの一番の理由は化石燃料で稼働する火力発電の割合が、電源構成のほとんどを占めていることにある。
さらに、自動車でもガソリン車から電気自動車への移行が進められていることなどを考えても、電力の使用量は増大することはあっても、減ることはないだろう。ロシアによるウクライナ侵攻を予測するのは難しかったとはいえ、これまでも化石燃料が政治的・社会的な事象によって高騰しうることは予測できたはずである。
しかも原発事故を受け、再生可能エネルギーへの転換は、国家政策として不可避だった。今日の事態は政府の不作為の結果であって、政権を担う者たちは釈明すら許されない。
20年前まで経済大国として各種の技術力で世界のトップを走っていた日本は、再生可能エネルギーの開発・普及においても好位置につけていたといえる。また11年、東日本大震災に伴う福島第一原発事故を経験したことで、脱原発・再生可能エネルギー推進に向けて、アクセルをかけるきっかけを与えられてもいた。
ところが自前の再生可能エネルギーの開発・拡充に力を入れず、いまだに電力構成の2割にすぎない。この点こそが、今回の値上げの根本的理由であることがわかるのだ。
電気料金の値上げと同時に政府が発表したのが、原発利用を前面に打ちだした「GX(グリーントランスフォーメイション)基本計画」である。電気料金の値上げを避けるためには、化石燃料を使わない原発を使用すべきとの考えの下、「高い電気料金か、リスクのある原発か」という無茶な選択を国民に強いている。
ならば、国は再生可能エネルギーの開発・拡充になぜ、力を入れてこなかったのか。岸田首相は、日本の国土は森林が多く海に囲まれ、しかも沿岸は急峻な海溝になっていて、太陽光や洋上風力発電などの立地に向いた場所が少ないという頓珍漢かつ虚偽の理由を述べている。
歴史を俯瞰しても、自民党は原発導入を核武装への道とし、安全神話を振りまきながら設置を進めてきた。彼らにとって再生可能エネルギーへの転換は、それを阻害するものだった。その象徴的な事例として、20年前に再生可能エネルギーのホープとして期待された「ヒートポンプ」と、国=経産省による原発推進政策に乗せられ、原発重視に事業のかじを切り、破綻した東芝について概観したい。
絵に描いた餅となったヒートポンプ作戦
再生可能エネルギーは、太陽光・風力・地熱・潮力・洋力発電などが知られているが、これらに加えて電力の省力化の面で注目を集めていたのがヒートポンプである。
冷暖房や給湯・冷凍・乾燥などで使用される熱を発生させる方法には、大きく分けて、
・化石燃料を焼却する「燃焼」方式
・電熱線に電気を流して、加熱させる「ヒータ」方式
・燃焼しない「ヒートポンプ」方式
がある。とくにヒータ方式は大量の電気を使うため、日本が先駆けて開発してきたエコキュートなどのヒートポンプ方式に、期待と注目が集まっていた。
ヒートポンプ方式は、空気や地中の熱を利用し、わずかな電力を使ってそれを圧縮して加熱したり、膨張させて冷却するものだ。電力単体の3〜6倍の効率で熱を取り出すことができる優れた技術である。
2007年、一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター理事長の加藤寛氏(慶應義塾大学名誉教授)は、「『ヒートポンプ・蓄熱白書』発刊にあたって」でこう述べた(以下、要約)。
「2度のオイルショックを経験し、日本は、省エネルギーへの関心が世界で最も高い国となりました。最近では原油価格が高騰し、世界はエネルギー資源を求めてしのぎを削っており、争いも発生しています。しかし日本と世界が行なうことは、環境に配慮しつつ、資源を有効に利用すること。ヒートポンプは燃焼を伴わず、無尽蔵な空気の熱を活用して、空調・給湯・冷却などを行なう技術です。当財団は1997年に改組し、ヒートポンプと蓄熱のナショナルセンターとして努力し、日本のヒートポンプ技術は目覚ましい成果を上げてきました」
当時の小池百合子環境大臣もこう礼賛していた。
「1997年、日本は京都で開催されたCOP3において、90年レベルから6%温室効果ガスを削減することを世界に約束しました。環境省は、地球温暖化対策の大きな担い手であるヒートポンプ・蓄熱システムを省エネルギー技術の中でも高い位置にあると認識しています」
経産省も、「日本のエネルギー実績をもとに、最大限ヒートポンプが導入された場合、CO2削減は日本の総排出量の10%に相当する年間1.3億トン程度が見込まれている」(『ヒートポンプ・蓄熱白書』)と、10%に増大したCO2削減目標を達成できる手段としてヒートポンプを掲げていた。
一方で自民党の議員は、CO2削減策として「原子力発電」を合言葉のように掲げ、ヒートポンプの推進は三菱電機や日立、ダイキンなどの民間企業に任せたまま、政府が大きくバックアップすることはなかった。国が中心的に推し進めたのは原発だった。
東芝を破綻させた原発政策
周知の通り、絶対安全を掲げた原発推進政策は、2011年3月11日の福島第一原発事故で壁にぶつかった。当時、日本国内で稼働していた原発54基は再稼働にあたり規制を受け、その後の規制強化もあって、現在稼働しているのは6基。
民主党政権は原発廃止を基本方針に掲げたが、その後の安倍晋三自公政権は、経産省資源エネルギー庁で原発を推進してきた今井尚哉次官を首相秘書官に迎え、アベノミクスの3本柱のひとつ「成長戦略」の目玉として、原発のプラント輸出(イランやインドを対象)を据えた。
それより前の2007年、日本の代表的な家電メーカーであり、19万人の社員を抱える東芝は、米国の原子力潜水艦や空母の原子炉を製造したウェスティングハウス社を子会社として買収。資産価値3千億円といわれたものを6千億円で購入した東芝は、原子力事業を半導体と並ぶ事業として進め、一時は世界中で40基の原発プラントを建設する計画を発表する。
それから4年後の福島第一原発事故は、世界各国での原発建設にブレーキをかけ、米国でも規制強化が実施された。ウェスティングハウスが当時進めていた数基の原発建設もストップし、財務破綻の要因を作る。
誰もが原発事業は無理だと考えるなかで、東芝の原子力政策を支え、同社を破綻に追い込んだのが、安倍首相―経産省―今井ラインなのだ。結局、東芝は、現在のスマホ普及の基礎を作ったN型半導体メモリ部門も別会社として手放し、崩壊への道をたどるのである。
安倍政権は、憲法9条と非核3原則の下で、原発は原子力の平和利用だと強弁し、一方で原発の廃棄物であるプルトニウムによる核兵器製造の道を追い求め続けた。「普通の国」の再軍備と核保有を目指し、手始めとして、東芝にウェスティングハウスの核兵器技術を保有させることを狙ったのである。
そして現在、東芝と同じ道を、日本政府自身がたどろうとしているのではないか。
最悪の選択を避け再エネへの戦略的投資を
岸田政権は、日本政府が掲げる2030年度のGHG(温室効果ガス)46%削減に向けてGX基本方針を示し、10年間で官民150兆円の投資と「年2兆円の政府支援」、そして「原子力の活用」を打ち出した。
それに合わせるように、政権の下僕となった原子力規制員会は、これまでの「原発依存度の低減」「耐用期間40年、最大60年」「新増設しない」との政府方針を「最大限活用」「60年超」「新炉の建設を予定」に切り替えることを発表した。
電気料金も温暖化対策も、中心となっているのは火力から原子力への切り替えである。「電気料金値上げか原発か」は、最悪の選択だ。経営コンサルタントの大前研一氏は、「アメリカの原子力事業で巨額損失を計上し、1気に経営危機に陥った東芝」「これは東芝に限ったことではなく、原発ビジネスの衰退は、世界的な傾向である」と断言。米国や欧州も例外ではなく、新興国で関心が高いトルコやベトナムでも、資金不足と周辺住民の反対運動によって計画は遅れている。日本でも建設中3基、計画中8基があるが、計画中のものが進む可能性はないと大前氏は指摘している(「東芝を沈めた原発事業『大誤算』の責任」プレジデント17年4月17日号)。
また2月14日の衆院予算委員会で枝野幸男・立憲民主党前代表は、原発は冷却水を送り続けないと温度が上がり続け、爆発する基本構造を持っているとして、日本のような地震大国における安全性へのリスクだけでなく、敵対国が核ミサイルで攻撃しなくとも、原発への送電と排水を遮断すれば、炉心溶融による大爆発を起こす点で、防衛上も大きなリスクを抱えていると主張。世界第3位の防衛費を計画しながら、防衛上限りなく脆弱な原発を進める矛盾を指摘した。
原発=核保有政策の下、東芝をもてあそび崩壊に追いやった今井尚哉・現内閣官房参与は、今「万が一、もう一度福島のような事故が起きたら日本だけでなく世界の原子力産業が終わってしまう」と、安全管理のための議論を進めるべきと語っている。
しかし、必要なのは議論ではなく保証である。即急にやらなければならないことは、国民生活への一律給付金などの緊急の手当て、および電力の再生可能エネルギーへの切り替え、戦略的構築のために150兆円を使うことである。
周囲を海に囲まれる好条件の日本で、1基で原発50基分を発電する潮流発電などを開発・設置し、平和国家としての模範事例を世界に示すべきだ。
(月刊「紙の爆弾」2023年4月号より)
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環境ジャーナリスト。NPOごみ問題5市連絡会幹事。環境行政改革フォーラム、廃棄物資源循環学会会員。著書『引き裂かれた絆』(鹿砦社)など。