統一地方選で有権者が下す「審判」  地方議会でも公明党の腐敗

大山友樹

公明党HP(2022年6月8日付)より

公明党議員の〝道徳〞

 政治評論家の森田実氏が2月7日、90歳で鬼籍に入った。

「戦後政治の生き証人」などと称された森田氏は、時事通信の死亡記事に「半世紀にわたり辛口の政治評論で鳴らし、講演活動のほか、ラジオやテレビでも活躍した。『平和主義』の立場を徹底し、安倍政権が進めた安全保障関連法制定を批判した」(2月7日付)とあるように、安倍政権をはじめとする歴代の自民党政権を辛口で批判したことで知られる。

 たとえば、『農業協同組合新聞』に連載していた「政治評論」の2019年11月29日付記事では、自民党の歴代長期政権にこう筆誅を加えている。

〈戦後75年を振り返りますと、長期政権は日本国民のためにならないことがはっきりしています。池田を除く、吉田、佐藤、中曽根、小泉、安倍5代の長期政権の3大特徴は、従米主義、傲慢、腐敗でした。権力者は強大な長期政権を樹立した結果、総理は傲慢になり、腐敗しました。安倍政権の「国政の私物化」「税金の私物化」は究極の政治腐敗です。〉

 自公連立の安倍政権を「究極の腐敗政治」と批判する森田氏は、後継の菅・岸田両政権についての批判も厭わない。ただし、小渕政権から今日までの20余年にわたって政権パートナーとして自民党を延命させ続けている公明党そして創価学会については、全く批判することなく、むしろ歯の浮くような賛辞を繰り返している。

 その一例として、安倍政権下の19年3月17日に公明党埼玉県本部が主催した会合での森田氏の講演要旨を紹介しよう。

〈公明党の議員は道徳的にも、知的にも優れている。そして、ここが最も重要だが、国民目線に立って物事を考えている。国民と共に悩み、国民と共に考え、国民と共に進むという精神がある。公明党の言葉で言えば「大衆とともに」だ。他党は遠く及ばない。(中略)公明党が55年前から地方議会に進出するようになり、腐敗をうんと減らした。日本の議会が道徳的になった要因の大半が公明党議員の当選ではないか。〉

〈公明党の地方議員には本当に頭が下がる。毎日、住民のもとへ、また、被災地で困っている人のもとへ足を運ぶ。涙ぐましい努力をしながら、困っている人に関わり続けている。「一隅を照らす、これ則ち国宝なり」という最澄の言葉がある。公明党の議員は一隅を照らし続けている。率直に言って、公明党は国の宝だと思う〉(3月22日付『公明新聞』)

 公明党を「国の宝」だと評価する森田氏の激賞はこれにとどまらない。2013年5月15日付のブログ「森田実の言わねばならぬ」では、創価学会・公明党を「日本国民のなかの最優良の人々の集団」とこう賛嘆する。

〈私は、自由な言論人として、公明党の政治家や創価学会会員の方々と接触し、真心をもって付き合ってきました。そして創価学会、公明党が非常にすぐれた人々の集団であることを知ったのです。日本国民のなかの最優良の人々の集団だと思うようになりました。(中略)このことをすべての国民の皆さんに伝えたいのです。そして知っていただきたいのです〉

 こうした公明党・創価学会礼賛の言辞は、それこそ枚挙に暇のないほどあるが、森田氏の認識は表層的かつ一面的と言わざるを得ないだろう。というのも森田氏は公明党の議員を「道徳的にすぐれている」というが、昨年1年間に限っても、4月には次代の党代表といわれ、プリンスなどと呼ばれていた遠山清彦元衆院議員が、政策金融公庫のコロナ対策に関する特別融資を違法に仲介し、多額の謝礼を受け取っていた貸金業法違反で懲役2年・執行猶予3年、罰金100万円の有罪判決が確定している。

 6月には、わいせつ動画を大量に公開していた、一昨年の衆院選候補者だった公明党職員の大沼伸貴氏が懲戒解雇された。さらに9月には、昨年7月の参議院選挙で再選された熊野正士参院議員が、創価学会2世の女性に執拗にセクハラを行なっていたことを週刊文春・週刊新潮で報道され議員辞職。この件では、山口那津男代表や北側一雄副代表が、事前にセクハラ被害を認識していたにもかかわらず、熊野氏を参議院選に立候補させていた疑惑も取りざたされている(係争中)。こうした事実に基づくならば、「公明党という政党はたいへん真面目ですぐれた道徳と高い見識をもった政治家の集団です」などとは到底言えるものでないことは明らかだ。

 また森田氏は、公明党の地方議員を「一隅を照らす国の宝」などと形容しているが、2006年に公明党・東京都目黒区議団の6人全員が、政府調査費の不正使用で議員辞職した事実が象徴するように、公明党の地方議員は全国各地でさまざまな不祥事を引き起こしている。そして国政でモリ・カケ・サクラの追及もせず、平和の党を標榜しながら軍拡路線に追随しているのと同様、自公で過半数を占める多くの地方議会において、公明党は自公推薦の首長との馴れ合いを続けている。

 

公明党の地方政治

 そうした批判を考慮してのことか、2011年に公明党は、「公明党のめざす地方議会改革への提言―地域主権の確立のために(以下・提言)」を発表。

〈現在、地方議会についてさまざまな問題点が指摘されています。「総与党化」し執行機関に対する監視が不十分。議決権の行使も首長の提案を追認する傾向がある〉

〈住民の信頼を得るためには、議会運営のあり方はもちろん、議員定数や議員報酬の問題等、地方議会自らが改革に取り組む強い覚悟と行動が必要です〉

 として、〈(1)「議会基本条例」の制定を推進・(2)議会権能の強化・(3)「見える化」の推進・(4)住民参加を推進・(5)議員定数・議員報酬等の適正化〉を推し進めるなどと主張した。

 だが「言うは易く、行なうは難し」ではないが、「提言」が地方議会で実行されているとはとうてい言い難い。その実例として、故・志村けんで有名な東京都東村山市議会における公明党の動静について見てみたい。

 なお、同市では、創価学会による人権侵害の救済に尽力していた朝木明代市議が、1995年に不可解な〝転落死〟を遂げている。この事件について、検察・警察は事件性なしとしているが、遺族で母の衣鉢を継いだ朝木直子東村山市議らは何者かによる他殺と主張。転落死を事件性がないと判断した当時の東京地検八王子支部の支部長検事や、事件を直接担当した検事はともに創価学会員であることなどが判明している。

 人口15万人で定数25人の東村山市議会は、自民党が8人、公明党が6人と自公で過半数を占めており、4月の市長選で5期目をめざす現職の渡部尚市長は自公推薦の首長という典型的な自公連携タイプの地方自治体。それだけに公明党が「提言」を実現するには格好の政治条件が揃っているのだが、同市議会で公明党が積極的に「提言」を推進している事実はない。

 たとえば「提言」(5)では、議員定数・議員報酬の適正化を掲げていても、同市議会公明党は、コロナ禍での不況を考慮して国会議員が歳費を20%カットし、近隣の三鷹市・国立市・調布市などでも市長や議員などが報酬や政務活動費をカットしていた2020年の議会で、朝木市議提出の年度内の議員報酬の15%カットに反対し否決。その一方で2022年には、議会のICT化とペーパーレス化を旗印に、全議員に専用の情報システムを装備したタブレットを配布する計画を推進した。

 公明党が主導したこの計画には、毎年600万円もの費用がかかるうえ、すでに複数の議員は自前でノート型パソコンを所有していることなどから、共産・立憲や朝木市議らが強く反対。その結果、ゼロ査定となり実現はしなかったものの、自主財源が乏しく国や都からの交付金や臨時財政対策債などに依存する深刻な財政事情にある東村山市で、議員報酬のカットには反対しておきながら、無駄で高額のICT化を推進しようとした市議会公明党が、「提言」に真摯に取り組んでいるとはいえないだろう。

 また「提言」の(3)には、議会の「『見える化』の推進」が掲げられているが、東村山市議会では、提言とは逆に少数会派の排除が進められており、2021年には、従来は朝木市議ら1人会派からも委員を選出していた議会運営委員会から1人会派を締め出した。議会の質問時間の配分など民主的な議会運営にとって極めて重要な議会運営委員会は、その結果、本来12人の定員であるにもかかわらず委員が8人に絞られ、しかもその半数の4人を公明党議員が占める異常ともいえる委員会構成となっており、公明党主導で市民から選ばれた1人会派の議員の議会活動が制約・制限されるという議会制民主主義に反する弊害が生じている。

 

東村山市当局と公明党の癒着疑惑

 森田氏は公明党の地方議員を「一隅を照らす宝」などと評価するが、こうした事実に鑑みるなら、公明党地方議員は「一隅を照らす宝」どころか、地方議会のブラックボックス化に拍車をかける「ダークマター(暗黒物質)」的存在とさえいえるのではないか。

 さらに公明党の「提言」には、地方議会が「『総与党化』し執行機関に対する監視が不十分。議決権の行使も首長の提案を追認する傾向がある」としているが、東村山市では、市当局と公明党の癒着疑惑も生じている。問題となっているのは、東村山市内4カ所の高齢者施設「憩いの家」の委託問題。高齢者が入浴やカラオケを楽しめる「憩いの家」は、2011年まで東村山市社会福祉協議会に運営が委託されており、市は2012年から市庁舎の清掃などを行なっていたビル管理会社に委託先を変更した。

 入浴施設もある「憩いの家」は、消防法で厳しく防火管理が義務付けられている。ところがこの委託業者は、一部の施設に防火管理者を置かず、避難訓練も実施しないという違法かつ杜撰な運営を、2012年から消防署の検査で指摘される2016年まで5年間にわたって続けていた。しかも市は、2012年に2432万円だった委託費を、毎年、委託業者の言い値のまま増額し続け、2018年にはほぼ倍増の4351万円として予算計上していた。

 一連の事実は2018年の予算特別委員会での朝木市議の質問を端緒に発覚した。審議の過程でこの委託業者には、違法な運営以外にも契約違反や入札に関する疑惑が次々と発覚。その結果、渡部市長は委託を市直営に切り替えて予算案を出し直す、予算案撤回という異例中の異例の事態となった。

 消防法違反や契約違反がありながら渡辺市長そして市当局は、どうして「憩いの家」の委託業者のみを優遇したのか。その背景と要因と見られているのが、この委託業者に複数の公明党市議OBが天下りしており、そのうちの1人が「憩いの家」の事実上の責任者となっていた事実だ。もちろんこの件を公明党が市議会で追及することはいっさいなかった。

「自民党政治の金権腐敗構造を政・官・業癒着のトライアングルなどと称するが、遠山問題や新銀行東京の融資仲介問題などからもわかる通り、規模の大小は別として公明党にも同様の構図があるのではないか」(政治ジャーナリスト)

 

統一地方選を「政治闘争の原点」と語る創価学会

 こうした地方議会における公明党の実態は、政治報道が国政中心である日本社会では、ほとんど一般に知られることはない。しかし2021年に発覚した大阪府池田市の冨田裕樹市長(大阪維新の会)が、家庭用サウナを私的利用目的で市役所に持ち込んでいた問題での公明党の豹変なども、公明党の体質や公明党地方議員の実態を知るうえで重要な事実だ。

 冨田市長の一件は、公私混同として市民の厳しい批判を浴び、市議会で不信任決議案が採決された。公明党も、会派代表の荒木眞澄市議が「公人としての自覚があるなら、即刻辞職していただきたい」と批判するなど、不信任決議の採決を相当とする調査報告書をまとめた百条委員会や、刑事告発議案では賛成票を投じていた。ところが本会議の不信任決議案の採決では、一転して反対に回り、決議案は否決されてしまったのだ。

 この事実を「サウナ問題の市長不信任案、否決公明3人一転して反対」との見出しで報じた朝日新聞(4月27日付)には、次のようにある。

〈公明の直前の方針転換に対し、不信任案賛成の会派の市議からは「信じられない」「今さら何を言っている」「市議会の恥だ」などと批判が相次いだ。公明が維新とともに反対したことについて、自民の地方議員の1人は大阪都構想で公明が賛成に転じたことを挙げ、「都構想と一緒だ。公明は、最後は維新に寄っていく」との見方を示した〉

 ちなみに当時の多田隆一市議会議長は公明党所属。多田議長は不信任決議を相当とする報告書を採択した百条委員会を推進してきたにもかかわらず、不信任案を採択する本会議前に議長を辞職したうえ、本会議では不信任案に反対する討論を行なって反対票を投じた。驚くべき豹変ぶりといえよう。

 公明党はこうした地方議員を約3千人擁しているだけに、4月に行なわれる統一地方選を、「今年最大の政治決戦は、3000人近い党所属議員の半数以上が挑む統一地方選」(石井啓一幹事長・公明新聞1月1日付)と位置づけ、いままさにまなじりを決して統一地方選に挑もうとしている。

 だが創価学会2世でありながら反カルト・反創価の旗幟を鮮明にして立候補したお笑い芸人の長井秀和氏がトップ当選した昨年12月の西東京市議選に象徴されるように、公明党は候補5人が全員当選しても、得票数は前回比で12%減。その他の地方選でも軒並み得票を減らしており、今回の統一地方選でも苦戦は必至だろう。

 それだけに公明党の組織母体の創価学会も必死となっており、1月の全国県長・県女性部長会で原田稔会長は、「ご存知の通り、学会の支援活動の原点は1955年(昭和30年)の統一地方選です。27歳の池田先生(注・大作氏)が、大田と鶴見で指揮を執られ、見事、どちらもトップ当選。その初陣こそ、まさに民衆の幸福と平和を目指す運動のスタートでありました」(聖教新聞1月7日付)

 と、統一地方選を創価学会の選挙闘争の原点だと強調し、「『強き信心』で勝つ!強き団結で勝つ!」(同)と政教一致そのものの檄を飛ばして幹部・活動家を選挙活動に駆り立てている。

「平和」と「福祉」を金看板としてきながら岸田政権の福祉切り捨ての軍拡・防衛費(軍事費)激増路線に同調。昨年12月4日のNHK日曜討論でれいわ新選組の大石晃子衆院議員に、「平和の党を名乗ってウソをつく、公明党を拒否しなければいけないんです」とこき下ろされた公明党。その強固な基盤となっているのが、公明党が「チーム3000」と豪語する地方議員だ。

 このさながら「ダークマター」的存在が、日本の議会制民主主義や地方自治の本旨を歪めていることは断片的事実からも明らかであり、有権者は厳しい審判を下す必要がある。統一地方選はもう間近に迫っている。

(月刊「紙の爆弾」2023年4月号より)

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大山友樹 大山友樹

ジャーナリスト。世界の宗教に精通し、政治とカルト問題にも踏み込む。

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