トリチウム水海洋投棄

トリチウム水海洋投棄の危険性

矢ヶ﨑克馬

(1)悪循環を絶つ

トリチウムALPS処理汚染水の海洋投棄が進められようとしています。

汚染水処理の原則は人にも環境にも害を与えないことですが、海洋投棄は国と核産業の都合で人権を無視した最も安上がりな方法です。危険物・汚染物廃棄の原理に違反します。

汚染水が毎日生産されるメカニズムを停止する必用があります。

地下水がデブリを洗い毎日130トンもの汚染水が出ています。

地下水防護に凍土壁が使われていますが、確実に遮蔽できる大規模なコンクリート壁が必要です。現状では50年投棄しつづけても足りません。

まず悪循環を絶つことです。

(2)環境保護/被曝防止に誠実な方法

汚染水を一定期間安全に貯蔵/保管することでトリチウムの放射能を軽減することができます(トリチウム半減期は12.3年、60年で1/30に)。あるいは全核種をイオン交換で排除できる高機能設備およびトリチウム分離装置を整えることを主張します。

(3)政府東電は人権を基本に据えよ。住民との約束を守りなさい

「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない(政府・東電)」(2015/1)と住民に約束したにも拘わらず政府は海洋投棄を決定しました(2021/4)。

海洋の自然保護に関する「国連海洋法条約第192条」にも違反しています。

2022年7月27日現在で福島県内の21市町村議会と県議会が何らかの意見書を採択しております。また、核廃棄物海洋投棄問題で、北マリアナ諸島では上下両院議会で非難決議が全会一致で可決されたり、自治体連合が反対署名活動を開始したりしていると伝えられます。海洋投棄は二重の意味での倫理違反です。

(4)トリチウム安全神話

その根源には「トリチウムは安全である」という国際原子力ロビーの「虚構」があります。トリチウムを危険と認めるならば、原子力発電は操業することが不可能と為ります。トリチウム除去に費用が掛かり過ぎるのです。

福一汚染水は他の放射性核種が含まれ一段と危険です。「十分薄めるから大丈夫」と言っていますが、とんでもないことです。

トリチウムALPS処理水の安全虚構は完全なる「安全神話」です。

(5)低エネルギーベータ線の危険

トリチウムは最大エネルギーが18.6keV、(平均エネルギー:5.7keV)のベータ線を放出する半減期が12.3年の放射性原子です。「低エネルギーだから安全だ」と原子力ロビーは言いますが、そうではありません。速度が遅く衝突する相手原子との接触時間が長いだけに相互作用が大きく、単位飛程(ベータ線の走る距離)当たりの『電離』数(線エネルギー付与)が増加しており、より危険なのです。

(6)水素結合による有機化

トリチウムはトリチウム水:HTO(Hは水素、Tはトリチウム、Oは酸素)として存在します。これは通常の水と同様に自由水として振る舞い、生物的半減期が短いのです。

しかし有機化すると危険度が数桁増します。水に溶ける諸物質はほとんどが水素結合によります。水素結合によりトリチウム水と結合した有機物を有機トリチウムと呼びます。植物中に取り込まれて光合成により有機化されることも知られています。

有機トリチウムは栄養素として取り込まれ、あるいはDNAの水素結合に入り込む等、結合水となり、生物学的半減期が極めて長くなり、リスクが増大します。

(7)タンク中で有機化 

さらに福一のタンク中で蓄えられる間に、微生物および化学反応でほとんどが有機化されることが知られています。これを海洋投棄すると海洋動植物に栄養素として取り込まれ動植物中に濃縮されます。

(8)有機化で高濃度化/危険度数十倍化

栄養組織(有機物)故に、海洋生物(動植物)が吸収/捕食します。生物学的濃縮が進み、高位の鳥で6000倍に濃縮されることなどが観察されています。海洋投棄されれば、海水が高濃度の放射能汚染されること以外に魚介類海藻類に濃縮され、漁業を通じて住民に摂取されます。住民の内部被曝の危険が増大します。特に造血機構(白血病)や、細胞分裂の無い臓器(脳、心臓)、修復機構の無い臓器(卵母、精子)が危険に晒されます。

(9)質量が大きいことによる濃縮

自由水から結合水に落ち込む時は、トリチウム水は通常水と同確率ですが、逆のプロセスでは確率が小さくなります。トリチウムが通常水の軽水より質量が大きいからです。体内では自由水より結合水、自然界では気相より水相、水相より固相にトリチウム濃度が高くなります。

 

「トリチウムは軽水と全く同じで危険度は少ない」とされるキャンペーンがなされていますが、事実ではありません。低エネルギーで線エネルギー付与が大きいことや有機トリチウムが高濃縮されることなどが大きな危険を招きます。

日本では政治だけで無く、科学をも含めて、精神の退廃と称すべき状態が表面化しています。基本的人権を基盤にする「一人一人が大切にされる社会」の再構築が必用です。

 

 

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矢ヶ﨑克馬 矢ヶ﨑克馬

1943年出生、長野県松本育ち。祖国復帰運動に感銘を受け「教育研究の基盤整備で協力できるかもしれない」と琉球大学に職を求めた(1974年)。専門は物性物理学。連れ合いの沖本八重美は広島原爆の「胎内被爆者」であり、「一人一人が大切にされる社会」を目指して生涯奮闘したが、「NO MORE被爆者」が原点。沖本の生き様に共鳴し2003年以来「原爆症認定集団訴訟」支援等の放射線被曝分野の調査研究に当る。著書に「放射線被曝の隠蔽と科学」(緑風出版、2021)等。

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