【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

なぜ米国は予告できるのか?

与那覇恵子

米国は自国のことでもない他国の行動を頻繁に予告する。ウクライナ戦争では「ロシアがウクライナに侵攻する」「生物化学兵器を使う」「核兵器を使う」と次々と発表してきた。当たったのは「侵攻する」との予告だ。

筆者には予告はまるで願望であるかのごとく響く。なぜ、ロシアのウクライナ侵攻や中国の台湾侵攻を米国は予告できるのか?なぜ、それが願望のように響くのか?

予告には、相手の動きを分析した上での予告と、自身が望む方向に相手を導く計画があるがゆえの予告がある。予告前に何が起こり、予告実現によって誰が利を得るかを考えれば、どの種の予告であるかは分かる。

予告前、つまり、ロシアによるウクライナ侵攻前の状況はどうであったのか。オバマ大統領も認めたが、親露政権が倒され親米政権に変ったマイダン革命(2014年)には当時のバイデン副大統領を含め米国による関与があったことが発覚していた。

東西ドイツ統一の際、NATO東方拡大は無いとしロシア譲歩を引き出した米国はその後もNATO拡大を継続し、ウクライナのゼレンスキー大統領は加盟を要請していた。

選挙公約を殆ど守らなかったため20%の低支持率であったという彼だが、2014年と2015年に締結したロシアとのミンクス和平合意も撤回し、ロシア国境の親露住民へのウクライナ軍攻撃は8年に及んでいた。

Europe union and Ukraine flags background. Pray for Ukraine and Stop the war concept

 

そのような中で、ドイツはロシアからの天然ガスによるエネルギー確保を決定。パイプラインが敷かれ、欧州とロシアの経済連携ができようとしていた。

予告実現後、つまり、ロシアによるウクライナ侵攻後の状況はどうなったか?ロシアは、ドイツとの経済連携を失い、欧米の経済制裁に苦しみ、武器を消費し、戦争で若者の命を失い続け、戦争続行のプーチン大統領に対する国民の反感も増している感がある。

米国はNATOの連帯を強固にし、欧州とロシアとの経済的結びつきによる関係強化に対する懸念は払拭され、武器輸出による経済効果を得ている。戦うのはウクライナの若者であり米兵ではない故に、米国から若者の命が失われることもなく、バイデン大統領への反発も無い。

ロシアに関する予告を次々発してきた米国は、一方で東アジアにおいては、中国による台湾侵攻「台湾有事」は6年以内に起こると予告していた。

発信源は、米国インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官で、2021年3月米国議会上院軍事委員会の公聴会でのことであった。

6年以内となると2027年だが、最近、米国は「ここ2~3年かも知れない」と修正した。そうなると、2025年以内となるか。6年以内と具体的に期限に言及したが、その根拠となる中国側の動向に関する具体的証拠や事実は示されていない。

さらに、それが何故2~3年となるのか、その根拠も聞こえてこない。一方的な予告だけが聞こえてくる。

Shot of a Squad of Soldiers Running Forward and Atacking Enemy During Military Operation in the Desert.

 

しかしながら、その発言以降、「台湾有事」なるものが中国脅威として日本で拡散され続け、南西諸島をミサイル基地化し、住民を恐怖に陥れながら戦争準備が急速に進行している現状が存在する。

沖縄では、返却されたはずの那覇軍港で米兵が島から脱出する訓練を実施し、与那国や那覇市は、ミサイル発射アラームが鳴ると建物に逃げ込むか屈み込むという住民避難訓練が大まじめに実施される。まさに戦争前夜である。

日本の大手メディアもネット情報も、中国が台湾だけでなく沖縄や日本を侵略すると言い立て、日本政府は、米国同様に根拠を説明することなく、「台湾有事」は「日本有事」であると主張している。

この状況が進むと、日中戦争が現実化される可能性は高い。予告をする者とそれを現実化しようとする者が存在する。

さて、本原稿を執筆する中でたまたま読んだのが、岡田充氏の「ウクライナ侵攻『予言』したランド研究所のレポートが話題。台湾有事煽る米政権の戦略とシナリオが『酷似』」というタイトルの論考だ。

ウクライナ侵攻を予言したとされるのは、米ランド研究所(RAND Corporation)が2019年に出したレポート「ロシア拡張〜有利な条件での競争」である。

岡田氏はレポートの「アメリカが優位に立つ領域や地域でロシアが競争するように仕向け、ロシアを軍事的・経済的に過剰に拡張させるか、あるいはプーチン政権の国内外での威信や影響力を失わせる」というロシアに対する戦略を、米国は中国に対しても取るとして、すでに2019年から開始された米国の対中挑発、(a)金額、量ともに史上最大規模の武器売却を実施(b)閣僚・高官をくり返し台湾に派遣(c)軍用機を台湾領空に飛行させ台湾の空港に離発着(d)米軍艦による台湾海峡の頻繁(ひんぱん)な航行(e)米軍顧問団が台湾入りし台湾軍を訓練、を例として挙げている。ロシアの悪、中国の脅威だけを煽り戦争準備に走る日本が読むべき論考だ。

上記レポートは、米国が行う他国の動向に関する予告が、どのような種類の予告であるかの証拠ともなろう。予告には、相手の動きを分析した上での予告と、自身が望む方向に相手を導く計画があるが故の予告がある。

 

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与那覇恵子 与那覇恵子

独立言論フォーラム・理事。沖縄県那覇市生まれ。2019年に名桜大学(語学教育専攻)を退官、専門は英語科教育。現在は非常勤講師の傍ら通訳・翻訳を副業とする。著書は「沖縄の怒り」(評論集)井上摩耶詩集「Small World」(英訳本)など。「沖縄から見えるもの」(詩集)で第33回「福田正夫賞」受賞。日本ペンクラブ会員。文芸誌「南瞑」会員。東アジア共同体琉球・沖縄研究会共同代表。

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