ウクライナ戦争をめぐる機密文書の暴露を読み解く
国際外国の監視内容
さらに、ウクライナ、中東、中国に関する米国の国家安全保障に加え、同盟国、とくに韓国、イスラエル、英国に対する監視に関連する100以上のファイルが発見された。これからわかるのは、米国が相変わらず同盟国であろうとなかろうと、監視の目を光らせていることである。そのいくつかの具体的な内容を紹介してみよう。
- リークされた致死的援助に関する文書は、最高機密の「探索的分析」と記され、2月28日付で、イスラエルはウクライナに情報と非致死的防御システムを提供することを約束し、米国やロシアとの関係のバランスを取ることによってシリアにおけるイスラエルの行動の自由を維持するように努めているとのべている。文書には、地対空ミサイル「バラク8」や「スパイダー」、対戦車誘導弾「スパイク」など、ウクライナに移送される可能性のあるイスラエルの兵器が列挙されている。
- イスラエルの対外情報機関であるモサドの指導部が、2023年3月に同国を襲った反政府デモに参加するよう同機関の職員やイスラエル市民を奨励したという主張が含まれている。
- 韓国の尹淑烈(ユン・ソクヨル)大統領の側近たちが、アメリカの同盟国が砲弾をウクライナに流用することを懸念していたことが明かされている。
- 米国は、ロシアの戦争に戦力を提供してきた民間軍事請負業者として悪名高い「ワーグナー・グループ」の内部計画にアクセスし、ワーグナーがNATOの同盟国であるトルコから武器を購入しようとしたことを明らかにしている。
- 2022年9月29日、ロシアの戦闘機が英国の偵察機を撃墜しそうになった。クリミア沖で起きた事件である。
- 3月2日付の文書に、セルビアを、「ウクライナ軍への訓練提供は拒否しているが、致死的援助を提供または提供することを約束した欧州諸国のグループ」に入れている図表があった。
- ロシア向けにロケット弾、砲弾、火薬を密かに生産するエジプトの計画が記されている。ロシアに4万発のロケット弾、火薬、砲弾を供給する密約に達したという。
- ロシアの諜報員がアラブ首長国連邦を説得し、「米国と英国の諜報機関に対抗するために協力する 」ことになった。ロシアの機嫌を取るために米国と英国の情報を漏らすことに同意していたとされる。
機密文書の信憑性
最後に、明らかになった機密文書の信憑性について論じてみよう。NYTは、「この文書の山は、ここ数十年で最大のヨーロッパでの陸上戦争の内幕を、おそらくこれまででもっとも完全に描き出している」と評価している。
「ある防衛当局者によると、文書の多くは、統合参謀本部議長のマーク・A・ミリー将軍や他の軍高官のために冬に作成されたようだが、必要なセキュリティ・クリアランスを持つ他の米国人職員や契約社員が利用できたという」と書いている「ワシントン・ポスト」も、機密文書の多くが「本物」であると判断しているようだ。
これに対して、「メドゥーサ」は、「この文書は一貫性がなく、米軍の文書や特定の語彙(略語など)に精通した人物によって作成されたことは間違いないようだ」としてうえで、「クレムリンやロシア参謀本部を欺くために、米軍や情報将校が自ら作成したものだと考えることもできる」という見方を示している。「クレムリンにウクライナ軍は弱いと思わせる」というのがねらいだというのだ。
いずれにしても、今回の機密文書がウクライナ戦争の実態を垣間みせているのは確実なのではないか。それを信じるかぎり、マスメディアによる「大本営発表」報道を信じてはならないことがよくわかる。
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1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。一連のウクライナ関連書籍によって2024年度「岡倉天心記念賞」を受賞。 著書:(2024年6月に社会評論社から『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』を刊行) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。