州知事選で、立候補者の民主党議員が「バイデン大統領を戦争犯罪人として告訴せよ」と訴える
国際百々峰だより(寺島隆吉)2023/01/21 http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-category-2.html からの転載記事
カテゴリー:アメリカ理解(2023/01/21)
タグ:ジェフリー・ヤング(Geoffrey Young、民主党、ケンタッキー州知事選に立候補)
トゥルシー・ギャバード(Tulsi Gabbardg、元民主党下院議員、ハワイ州)
バーニー・サンダース(Bernard “Bernie” Sanders、民主党上院議員)
ウィリアム・ブルム『アメリカの国家犯罪全書』(作品社、2003)
今回は思い切ってアメリカ情勢について書くことにしました。というのはRTニュースを見ていたら次のような驚くべきニュースが眼に飛び込んできたからです。情報が古くならないうちに、これは是非ともコメントを書いておきたいと思ったのです。
*Impeach ‘war criminal’ Biden over Ukraine – US Democrat(ウクライナ問題で「戦争犯罪人」のバイデンを訴追せよ—(民主党員)
Kentucky gubernatorial candidate Geoffrey Young has accused the president of perpetuating an “illegal proxy war” (ケンタッキー州知事候補のジェフリー・ヤング氏は、大統領が「違法な代理戦争」を永続させていると非難した)
https://www.rt.com/news/569917-us-democrat-calls-for-biden-impeachment/
15 Jan, 2023
この記事の冒頭は次のように始まっていました。
米ケンタッキー州の知事選に出馬しているジェフリー・ヤング氏(Geoffrey Young)は、ジョー・バイデン氏がウクライナなどで戦争犯罪を犯していると非難し、旧ソ連共和国(=ウクライナ)でロシアに対する違法な代理闘争を行ったとして大統領を弾劾すべきであると述べた。
私がまず驚いたのは、バイデン大統領を戦争犯罪で告発しているのか民主党員で、しかもケンタッキー州の知事選に出馬している人物だったということです。
民主党のバイデン大統領を批判し攻撃するのが共和党員であれば何ら驚くことはないのですが、それがバイデン大統領を支持しているはずの民主党から出てきているのですから、ケンタッキー州にも新しい風が吹き始めたのかと思ったのです。
ヤング氏は現在66歳だそうですから名前「Young]とは違って必ずしも若くはないのですが、それでも現在80歳のバイデン大統領、76歳の元大統領トランプ氏と比べれば、はるかに若いと言えます。
いまだに80歳のバイデン氏や76歳のトランプ氏が次期大統領として取り沙汰されていることそのものが、アメリカに未来がないことを象徴しているように見えます。それに比べれば、66歳のジェフリー・ヤング氏の登場は、アメリカにまだ未来があるのかと思わせる事件でした。
しかも日本では共産党でさえ、バイデン大統領を「戦争犯罪人」と呼ぶ勇気を持ち合わせていないのに、裏で2014年にウクライナでクーデター政権をつくりあげ、その政権をアメリカの代理人としてロシアと戦わせているアメリカ大統領を、堂々と州の知事選で広言しているのですから、驚き以外の何ものでもありません。
私のような古い人間(現在78歳)からすると、共和党=右翼・保守派、民主党=左翼リベラル・進歩派というのが今までの一般的イメージだったように思うのですが、「コロナ騒ぎ」や「ウクライナ問題」が起きてからは、この私のイメージは一変しました。
何と驚いたことに、遺伝子組み換えワクチンを強力に推進し、ゼレンスキー大統領を焚きつけてロシアを攻撃するよう仕向けてきたのが、バイデン大統領が率いる民主党だったからです。ゼレンスキー大統領がロシアと和平交渉に応じようとすると、それに立ちはだかったのもバイデン=民主党でした。
しかし、このような嘆くべき民主党の現実に異を唱えたのがジェフリー・ヤング氏でした。上記の記事は、ヤング氏の経歴を次のように述べていました。
MIT(マサチューセッツ工科大学)で学んだ経済学者で、州政府の環境エンジニアとして働いてきたヤング氏は、昨年、ケンタッキー州議会第6区の民主党候補として当選し、波紋を広げた。
彼は選挙期間中、モスクワとの「合理的な」和平案を追求することで、ロシアとの核戦争防止に貢献すると公約した。また、キエフ政権を「ナチスの傀儡政権」と呼び、CIAは「現在、世界最悪のテロ組織」だから排除すべきと述べた。
これを読むと、ヤング氏は名門MIT(マサチューセッツ工科大学)を卒業したあとは州政府の環境エンジニアとして働いてきた公務員だったようです。
が驚くべきことに、キエフ政権を「ナチスの傀儡政権」と呼び、CIAは「現在、世界最悪のテロ組織」だから排除すべきと選挙戦で述べたにもかかわらず、昨2022年にケンタッキー州議会第6区の民主党候補に当選しているのです。
日本の国会議員・県会議員あるいは首長のなかで、こんなことを堂々と述べて当選した野党候補がいるでしょうか。上記の記事が「氏の当選は大きな波紋を広げた」と書いていますが、さもありなんという思いです。
かつてヒラリー・クリントンがトランプ氏と大統領選を闘ったとき、民主党の候補者選びの段階でバーニー・サンダース氏が、若者の支持を得てヒラリー女史を打ち負かしそうな勢いを示したことがありました。
しかし、自らを民主社会主義者と標榜していたサンダース氏でさえ、アメリカの外交政策を批判することが出来ず、「ロシアとの共存共栄」を掲げていたトランプ氏を勝たせないためにという理由で、最終的にはヒラリー女史に協力する道を選びました。
アメリカでは貧富の格差が顕著になっていましたから、その是正を目指すサンダース氏に若者は大きな期待をかけていました。
しかし、サンダース氏がロシアとの敵対関係を強めることだけに邁進するヒラリー支持に豹変したことで、少なからぬ若者は彼に失望してトランプ支持に回りました。これが大統領選でトランプ氏が勝利する一因になったと言われています。
このように、一見、対立しているように見えても、こと外交政策では民主党も共和党も基本的にはアメリカの覇権主義を支持するという点では変わらないのです。チョムスキーがアメリカ政治を「頭がふたつで胴体がひとつの怪物」と言った所以(ゆえん)です。
だからこそ、トランプ氏が大統領選挙で勝利しても「あれはロシアが裏で工作したからだ」「トランプはプーチンの傀儡(かいらい)だ」だという執拗な攻撃を受け、最終的には2期目の大統領選挙を失う結果になりました。
ハワイ出身の若い女性議員トゥルシー・ギャバード(Tulsi Gabbard)も、ワシントン・ポスト紙等複数メディアが2020年大統領選挙の有力女性候補11名の1人としてギャバードを紹介したほどの、民主党の期待の星でしたが、最終的には民主党を去ることになりました。
その一因は、アメリカが「シリアのアサド大統領を独裁者だ」として、裏でイスラム原理主義勢力を使って政権転覆を画策していたときに、事実確認のためとしてシリアに入国し、バッシャール・アル=アサド大統領と会談したため、 民主党幹部からから手ひどい攻撃を受けたことにあるとされています。
このように、アメリカではアメリカ支配層の外交政策に異を唱えると政治声明を断たれる恐れがあるのです。政治生命どころが肉体的生命すら奪われる危険性があります。
その典型例がキング牧師です。キング師は黒人の権利を主張し「公民権運動」を強力に展開していたときも命を奪われることはありませんでしたが、ベトナム戦争を批判した「有名なリバーサイド教会での演説」の翌年、暗殺されることになってしまいました。
<註> 最も重要な疑問「誰がキングを殺したか」については、下記にその詳細な考察を書きました。時間のあるときにでも読んでください。
*暗殺大国アメリカ。キング暗殺50周年によせて
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-316.html(『百々峰だより』2018/04/14)
以上のような事情を考えると、ケンタッキー州の知事選に出馬しているジェフリー・ヤング氏(Geoffrey Young)が、「ジョー・バイデン氏がウクライナなどで戦争犯罪を犯している」と非難したことの重大さと氏の勇気が理解してもらえるのではないでしょうか。
しかしヤング氏は、アメリカが「ウクライナを代理として」ロシアに戦争を仕掛けて「世界を核戦争に引きずり込む危険を犯しつつある」と批難するだけでなく、イエメンやシリアなどにも手を出していることにも言及し、それを「戦争犯罪」だと批判しているのです。
先述のRT記事は次のようになっています。
さらにヤング氏は、次のようにツイッターに投稿している。
「ジョー・バイデン(民主党の戦争犯罪人)は、イエメン、シリア、イラクなどにおける戦争犯罪のために直ちに弾劾されるべきだ」、
「もちろん、ウクライナでロシアに対する違法な代理戦争を続けていることに対しては、なおさら直ちに弾劾されるべきだ。
「これには、1945年以降のすべての米大統領=戦争犯罪者(トランプを含む)を弾劾すべきなのだ」と付け加えた。
チョムスキーは、かつて「大戦後のアメリカで戦争犯罪を犯していない大統領はいない」と述べたことがありますが、ではアメリカは、1945年以降、どのような戦争犯罪を犯したのでしょうか。
それを詳細に調べた本として、ウィリアム・ブルム『アメリカの国家犯罪全書』(作品社、)という417頁にもおよぶ大著があります。これを読むと、その膨大さに肝を潰すに違いありません。
この本の著者ウィリアム・ブルムは国務省の外交担当部門に勤務していた人物が、一種の内部告発書として刊行したものです。その血の滲むような努力に頭が下がります。が、この本ですら2003年で終わっています。
アメリカはその後も、ウクライナはもちろんのこと、リビア、イラン、ソマリアなどにも干渉戦争をしかけてきました。それを一覧表にしたものを、『ウクライナ問題の正体3』の35頁全部を使って載せておきました。参照いただければ幸いです。
さて、このようにアメリカの外交政策を批判したヤング氏ですから、そのような人物を民主党幹部が放置しておくはずがありません。その結果を先述の記事は次のように報じていました。
ヤング氏は2022年5月にケンタッキー州の民主党予備選挙で勝利した後、11月の中間選挙で現職の共和党下院議員アンディ・バーに挑戦するため立候補した。しかし民主党は氏に対する支持を拒否した。
氏が、バイデン大統領は無謀にも中国を挑発し、シリアとイラクに違法に軍隊を配備し、ウクライナと一緒になってロシアに対する「共同交戦国」となっていると批難したからである。
このような行為はアメリカをロシアによる攻撃対象国にしかねないとヤング氏が批判したので、それが民主党幹部を遠ざけたのであった。
この記事で驚いたのは、ヤング氏が堂々と民主党の外交政策を批判したにも関わらず、ケンタッキー州の民主党予備選挙で勝利したという事実です。州の有権者は、他の民主党候補者ではなく、ヤング氏を共和党候補者と闘わせる人物として、圧倒的支持を与えたと言うことです。
しかし、かつての大統領選挙の予備選で、バーニー・サンダース氏がヒラリー・クリントンを打ち破って民主党の候補者となりトランプ氏を打ち破る勢いを示していたとき、それを引きずり降ろしたのが当時の民主党幹部でした。その結果、ヒラリー女史の敗北になったことは、衆知の事実です。
これと同じことがケンタッキーの中間選挙でも起きたのでしょう。しかしヤング氏はそれにもめげず、今度は州知事選に立候補したのでした。そして、その立候補演説でバイデン大統領を「戦争犯罪人として告訴すべし」と批判したことは、このブログの冒頭で述べたとおりです。
先述の記事は、それを次のように報じていました。
先の2022年中間選挙から1週間も経たないうちに、66歳のヤング氏は、自らを「平和民主党」と称し、2023年のケンタッキー州知事選への出馬を表明した。
現職の民主党知事であるアンディ・ベシア(Andy Beshear)を「まだ起訴されていない重罪人」だと非難し、落選させることを狙っている。
この最後の一文「まだ起訴されていない重罪人」というのが、どんな罪状を指すのか、この記事を読んだ限りでは、何も説明がないので分かりませんが、ウィキペディア英語版を読むと、次のような事実を指すのかも知れないと思いました。
ベシアは2005年、父親が共同経営者であった法律事務所Stites & Harbisonに雇われた。
そしてケンタッキー州内を天然ガスの液体輸送するブルーグラス・パイプラインの開発会社の代理人となった。
このプロジェクトは物議を醸し、批判者たちは環境への懸念やパイプラインのために土地収用を行うことへの反対を表明した。
また、ベシアはインド企業のUFLEXの代理人として、父親が州知事だったとき、2000万ドルの税制優遇を求め、倫理監視団から利益相反の可能性を批判された。
いずれにしても、ヤング氏が、このような状況下で善戦することを願ってやみません。
願わくは、ぜひ当選してほしいとも思います。
さて「バイデン大統領を戦争犯罪人として告訴せよ」とヤング氏が主張しているという記事から、本日のブログを書き始めたのですが、この記事とちょうど同じ頃、もうひとつの記事が私の眼を惹きました。
それは、ドイツの外務大臣が「戦争犯罪=侵略の罪を犯したという理由でロシアを国際刑事裁判所ICCで裁け」と主張したという次の記事です。
* German FM says ‘hole’ in law protects Russia(ドイツ外相、法律の「穴」がロシアを保護していると発言)
Annalena Baerbock wants rules changed so the West can judge Moscow for Ukraine “aggression” (アンナレナ・バーボック氏は、西側諸国がモスクワのウクライナ「侵略」を裁けるよう、規則の変更を望んでいる)
https://www.rt.com/news/569972-germany-war-crimes-ukraine/
16 Jan, 2023 19:55
そこで以下では、それについて書いて、今回のブログの「締め」にしようと思ったのですが、朝飯抜き・昼飯抜きで書き始めて、いま時計を見たら17時52分です。これ以上、続けると私の体が壊れそうですから、ここで諦めることにしました。続きは明日、書きます。どうかお許しを。
<追記>
先に「第2次世界大戦以降のアメリカによる外国干渉&戦争を一覧表にして、それを『ウクライナ問題の正体3』の35頁全部を使って載せておきました。参照いただければ幸いです」と書きました。
しかし、それよりも今ここでそれを提示して、アメリカが世界にどんな仕打ちをしてきたのかを、自分の眼で今ここで確認していただいたほうがよいのではないかと思い直したからです。
なにしろ『アメリカの国家犯罪全書』が2003年に出てから既に20年近くも経っているのですから、それ以来、どれだけアメリカによる戦争犯罪が蓄積されてきたことでしょう。それをぜひ自分の眼で確認してほしいのです。
以下が、その一覧表です。
☆百々峰だより(寺島隆吉)2023/01/21 http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-category-2.html からの転載記事
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国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授