【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ウクライナ戦争を見る視点

安斎育郎

ウクライナ戦争を招いたもの

こうして見てくると、ウクライナ戦争を誘発した原因は「アメリカによるウクライナのNATO加盟への勧誘」と、「ウクライナによるロシア語話者への民族浄化的暴虐」にあることは極めて明白で、それらがなければこの戦争は起こらなかったに相違ありません。その意味では、戦争という手段を選んだロシアに対する批判だけでなく、この戦争の原因を作ったアメリカ政府とウクライナ政府の責任もまたしっかり見据えなければなりません。

ロシアはしばしばクマに例えられますが、私は、クマの目や心臓を突っついたりしたら暴れることを承知の上で、あるいは、クマを暴れさせてヘトヘトになるまで疲弊させることを目的としてクマの目や心臓を突っつき続けたアメリカは、この事態に最も重大な責任を負うべきだと確信しています。

ウクライナへのNATO拡大とか、傀儡政権を作って極右勢力を正規軍に組み入れてウクライナ東部のドンバス地域のロシア語話者に対して「民族浄化」的暴虐を加えたりしなければ、こんなことは起こらなかったのです。

クマを暴れさせる目的で突っつき回しておいて、暴れたクマに「おまえルール違反!」とレッドカードを突きつけ、暴れさせた原因者の責任を問わずに、暴れたクマの責任を一方的に問うばかりか、クマをさらに突っつき回すためにさらに槍や礫を供与し、クマを鎮静化させるどころか、さらにクマが疲弊し尽くすまで暴れさせようとするのはいかがなものでしょう。戦争を誘発したアメリカの責任を真っ先に問わずに、もっぱらクマの責任を問うという考え方は驚くべきものですが、日本ではロシア批判一点張りの実態があります。戦争が起こるに至った歴史的事情や、目の前で起こっている非人道的事態に、事実に基づいてキチンと目を向ける視点が欠落しているのではないか─そう感じています。

トルコの外務大臣によれば、「NATO加盟国の中には、この戦争が続くことを望んでいる国々がある」ということですが、それがイギリスやアメリカを示唆していることは明白です。惨い戦争が続く中で、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン、レイセオン・テクノロジーズ、ゼネラル・ダイナミクスなどアメリカの軍需企業の株価が軒並み高騰し、最高値を更新しました。アメリカのオースティン国防長官はレイセオン・テクノロジーズの重役だった人物で、「戦争を続けてロシアを疲弊させる」と公言して憚りません。

フェイク・ニュースだらけのウクライナ戦争

驚くべきことに、ウクライナ戦争に関する日本を含む西欧諸国のマスコミ報道は、フェイク・ニュースだらけです。①マリウポリ小児科‣産科病院爆撃事件、同じく、②マリウポリの劇場爆撃事件、③ブチャの大虐殺事件、④ロシア兵による少女レイプ事件、⑤「ロシア軍は遺体を犬に食わせている」というアメリカの傭兵の証言、⑥1000人が買い物中だったとするチェルビンスクのショッピング・センター攻撃事件等々─みんなウソだらけです。

①は血まみれの妊産婦が赤ちゃんを抱いて病院から脱出する話ですが、妊婦は女優マリアンナ・ボドグルスカヤさん、赤ちゃんは人形、血痕は赤ペンキでした。

②はアゾフ連隊のウクライナ兵士12人が劇場の観客を「人間の盾」として立てこもり、撤退時に劇場を爆破していったものでした。天井や屋根の貫通孔が「下から上に向かっていた」ことでも、ロシアによる爆撃ではないことは明らかでした。

③ブチャの大虐殺はウクライナ軍による自作自演であることがさまざまな時系列的事実や遺体に含まれていたフレシェット弾に関するフランス国家憲兵隊法医学チームの調査などで明らかにされました。ウクライナの元社会党のリーダーで、最高議会議員のイリヤ・キヴァ氏は、「ブチャの悲劇は演出されたもので、事前にウクライナ保安庁とMI6(エム・アイ・シックス=イギリス秘密情報部)によって計画されたものだ」と述べ、「彼らはあの日の早朝に現地に到着し、エリアを隔離して死体を置いた」と言っています。その後、捕虜になったイギリス人傭兵アンドリュー・ヒルの手帳から、ブチャとイルピンで虐殺した280人の埋葬場所のメモが見つかったりして、事実関係がますます明らかになりつつあります。

④の「ロシア兵による少女レイプ事件」は、ウクライナの人権委員会理事だったリュドミラ・デニソヴァによる作り話でした。彼女は「世界から武器をもらうためにやった」と言い訳しました。

⑤の「ロシア軍は遺体を犬に食わせている」と証言したアメリカの傭兵ジェームス・バスケスは俳優で、ニューヨークの地下鉄で喧嘩中に撮影され、実際にはウクライナに行っていないことが分かりました。プロパガンダ映像だったのです。

⑥の「1000人が買い物中だったとするチェルビンスクのショッピング・センター攻撃事件」は、このショッピング・センターはすでに4か月前に閉鎖されており、ロシア軍が近くの武器貯蔵庫を高精度ミサイルで攻撃した状況をウクライナ側が利用し、大統領そのものが「1000人が買い物中」とウソをついていたことも分かりました。驚くべきことに、大統領発表のすぐあと、グーグル情報もこのショッピング・センターついて、「永久閉鎖」から「開店中。22時閉店」と書き換えられていたことも明らかになりました。

 CNNやBBCの情報を含めて、ウクライナ発や西欧メディア発の情報はウソだらけなので、注意が必要です。ロシア軍の管理下にあるザボリージャ原発には、今もウクライナ軍による自爆型ドローン兵器や砲撃による攻撃が加えられていますし、麦畑や食糧倉庫にウクライナ軍が放火している映像なども暴かれています。とにかく、西欧発の情報を鵜呑みにしないことが不可欠です。

ゼレンスキー政権の実情

3年前までコメディアンだったゼレンスキー大統領は、テレビドラマ「国民の僕(しもべ)」で主演を務め、高校の歴史教師が大統領になって活躍するコメディで評判をとり、大統領選に立候補して大富豪コロモイスキーの支援のもとで本物の大統領になりました。ゼレンスキー大統領はユダヤ人なので、「ユダヤ人や黒人は皮をひん剥いてやる」と公言して憚らないネオナチ勢力とは緊張関係にあります。彼はドンバス地方の出身でロシア語話者でしたが、大統領になって「ミンスク合意」を破棄し、ドンバスのロシア語話者に対する攻撃を続けています。

ウクライナ戦争が始まって1か月余り後の3月27日のロシアのジャーナリストとの会見では、「ウクライナはNATO加盟をやめ、核兵器も持たず、中立化する用意がある」ようなことを言っていましたが、アメリカに叱られたのか、その後は「戦場で勝つしか道はない。もっと武器を!」と世界に訴え続けています。犠牲が増え続けるでしょう。

ゼレンスキー大統領は最大の野党である「プラットフォーム―生活党」をはじめ、11の政党の活動を禁じ、テレビチャンネル「112.ウクライナ」、「ニュースワン」、「ZIK」など批判的なメディアもつぶして国営テレビ1局に絞るなど、事実上の独裁政権になっています。

ゼレンスキー大統領の選挙公約は、①ロシアのプーチン大統領と対話する、②ロシアと平和的関係を築く、③アゾフ連隊など暴力的な民兵をすべて一掃する、などでしたが、当選すると真逆の政治を行ないました。ウクライナでは国民は偏った情報しか知らず、野党の反対意見も封じられている状況です。

最後に

いま大事なことは、ウクライナへの武器供与を続けて戦争を長引かせ、犠牲者をさらに増やすことではなく、和平交渉の環境をつくることでしょう。そのためには、ロシアが戦闘を停止し、ウクライナ・NATO・アメリカがウクライナの非軍事化の方針(少なくともNATO加盟の白紙撤回の方針)を示し、ウクライナが同国の非ナチ化についての政策を示すことが必要でしょう。

ウクライナ戦争の影響は「対ロ制裁」のブーメラン効果で、西欧諸国にも深刻な影響をもたらしつつあります。ドイツでは制裁の見返りにロシアからのガスの供給が制限され、エネルギー不足が懸念されて寒い冬への備えが現実の心配になっています。子ども向けのポスターにこの事情を象徴的に表されたものがあります。ウクライナの国旗を持った男の子がシャワーを浴びている絵に、「プーチンに反対するなら、この4か所だけ洗いましょう。股間、脇の下、足、お尻」と書かれています。

アメリカやNATO諸国が「NATOは1インチの東方拡大しない」という言明に反してウクライナのNATO加盟を進めようとしたり、2014年のマイダン・クーデターで作られた親米傀儡政権のもとで、ネオナチを含むウクライナ国軍がドンバスのロシア語話者への民族浄化の攻撃をしたりしなければ、この戦争は起こっていないでしょうし、フェイク情報の垂れ流しによってロシアやロシア人に対するこのような不当な反感が振りまかれることもなかったでしょう。西欧社会とロシアの両方に対立感情をつくり出すことは、これからの世界平和の創造に何の役にも立たないどころか、非常に大きな怨念や敵対感情となって平和づくりの妨げになることは疑いありません。

戦争を誘発した原因者にも相応の目を向け、一方的なプーチン批判やロシア・バッシングではない、複眼的な視点をしっかりと持つことが何よりも大切です。

※ウクライナ問題関連の注目サイトのご紹介です。
https://isfweb.org/recommended/page-4879/

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

「ISF主催トーク茶話会:羽場久美子さんを囲んでのトーク茶話会」のご案内

「ISF主催公開シンポジウム:加速する憲法改正の動きと立憲主義の危機~緊急事態条項の狙いは何か」のご案内

※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
ISF会員登録のご案内

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」の動画を作成しました!

1 2
安斎育郎 安斎育郎

1940年、東京生まれ。1944~49年、福島県で疎開生活。東大工学部原子力工学科第1期生。工学博士。東京大学医学部助手、東京医科大学客員助教授を経て、1986年、立命館大学経済学部教授、88年国際関係学部教授。1995年、同大学国際平和ミュージアム館長。2008年より、立命館大学国際平和ミュージアム・終身名誉館長。現在、立命館大学名誉教授。専門は放射線防護学、平和学。2011年、定年とともに、「安斎科学・平和事務所」(Anzai Science & Peace Office, ASAP)を立ち上げ、以来、2022年4月までに福島原発事故について99回の調査・相談・学習活動。International Network of Museums for Peace(平和のための博物館国相ネットワーク)のジェネラル・コ^ディ ネータを務めた後、現在は、名誉ジェネラル・コーディネータ。日本の「平和のための博物館市民ネットワーク」代表。日本平和学会・理事。ノーモアヒロシマ・ナガサキ記憶遺産を継承する会・副代表。2021年3月11日、福島県双葉郡浪江町の古刹・宝鏡寺境内に第30世住職・早川篤雄氏と連名で「原発悔恨・伝言の碑」を建立するとともに、隣接して、平和博物館「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」を開設。マジックを趣味とし、東大時代は奇術愛好会第3代会長。「国境なき手品師団」(Magicians without Borders)名誉会員。Japan Skeptics(超自然現象を科学的・批判的に究明する会)会長を務め、現在名誉会員。NHK『だます心だまされる心」(全8回)、『日曜美術館』(だまし絵)、日本テレビ『世界一受けたい授業』などに出演。2003年、ベトナム政府より「文化情報事業功労者記章」受章。2011年、「第22回久保医療文化賞」、韓国ノグンリ国際平和財団「第4回人権賞」、2013年、日本平和学会「第4回平和賞」、2021年、ウィーン・ユネスコ・クラブ「地球市民賞」などを受賞。著書は『人はなぜ騙されるのか』(朝日新聞)、『だます心だまされる心』(岩波書店)、『からだのなかの放射能』(合同出版)、『語りつごうヒロシマ・ナガサキ』(新日本出版、全5巻)など100数十点あるが、最近著に『核なき時代を生きる君たちへ━核不拡散条約50年と核兵器禁止条約』(2021年3月1日)、『私の反原発人生と「福島プロジェクト」の足跡』(2021年3月11日)、『戦争と科学者─知的探求心と非人道性の葛藤』(2022年4月1日、いずれも、かもがわ出版)など。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ