【連載】改めて検証するウクライナ問題の本質(成澤宗男)

改めて検証するウクライナ問題の本質:Ⅴ 忘れられたドンバスの苦悩(その2)

成澤宗男

欧米にロシアを批判する資格なし

それでも、選挙で民主的に選出された「親ロシア派大統領」のヴィクトル・ヤヌコーヴィチを、ロシアへの人種的憎悪に凝り固まったネオナチや極右が主導する暴力で追放した14年のクーデターについて「民主革命」だと即認知したのは欧米諸国であった。

その後も、血なまぐさい政変を当然ながら忌避して分離に動いた東部のロシア系住民(圧倒的大多数がヤヌコーヴィチ支持)を「人間以下」に扱い、ウクライナ政府が8年間も攻撃を加え続けたにもかかわらず無関心を装って「忘れられた戦争」に仕立てたのも欧米諸国だ。しかも、紛争解決のためにドネツクとルガンスクに特別な自治権を与えるための憲法改正を定めたミンスク2を一切履行しようとしないウクライナ政府に、何らかの是正措置を取った形跡は乏しい。そうした欧米諸国に、少なくともロシアだけを一方的に非難する資格があるとは思われない。

Kiev, Ukraine – 24 August, 2014: In the center of Kiev city the largest Ukrainian flag was unfurled. Activists of the public association “Motherland youth” have stretched the cloth on Sophia Square . Flag has arrived from Artemovsk city where it was unfolded on the eve of the Day of the State Flag. Prior to this Ukrainian national flag was traveling around Ukraine – Mariupol, Odessa, Nikolaev, Uman, Cherkasy, Chernivtsi, Lviv and Lutsk.

 

しかもドンバスにはロシア系住民が約700万人住み、開戦前の段階でロシア連邦共和国のパスポート所持者も約72万人いた。ロシア副首相でウクライナ系のドミトリー・コザックは21年4月の段階で、「もしウクライナがドンバスを全面攻撃したら、ロシアは(ロシア系の)住民を保護するのを余儀なくされるだろう」(注4)と警告している。このロシア側の決意を事前に熟知しながらも、欧米諸国は2月16日以降の出来事に対し、以前と変わらず「忘れられた戦争」として傍観を決め込んだと言うしかない。

それどころか、英国首相のボリス・ジョンソンに至っては2月17日、ウクライナのドンバスに対する砲撃について、「ウクライナの信用を貶め、(侵攻の)口実を作り出すのを意図した偽装作戦(false flag operation)で、ロシアの行動のための偽の挑発だ」(注5)と「自作自演」であるかのように発言しているが、OSCEの日報の存在すら知らないのだろう。

周知のように、2月21日のロシアによるDPRとLPRの承認、及びその直後のロシアによる二つの共和国からの要請を受けての「平和維持軍」派遣は、「国際世論」の猛反発を引き起こし、開戦前から劇的にロシアへの悪感情を世界中で増幅させた。だが一方で、米国の代表的な左派ジャーナリストの一人であるマイク・ホィットニーのように、プーチンが「(危機が迫った)ドンバスの人々に安全保障の傘を提供」し、「彼の助けを必死に求めている弱い人々に手を差し伸べた」(注6)と見なす評価もなくはない。

これを、ロシアにナイーブすぎると片づけるのはたやすいだろう。しかし主流派メディアのように、ドンバスからの支援要請を「ロシアの情報操作」の類に押し込めるのは無理があるように思われる。なぜならば、現地の住民が「再び流血の凶行が起きるのを数日後に控えていた」(ホィットニー)のはおそらく事実に違いないからだ(この稿続く)。

(注1)July 5, 2014「Events in E. Ukraine ‘beginning of ethnic cleansing campaign’」URL: https://www.rt.com/op-ed/170592-cleansing-campaign-eastern-ukraine/
(注2)中でも優れているのは、「DEFENSE Authentic War-Reporting From Ukraine」というサイトの記事で紹介されている現地の米国人ジャーナリストによるビデオ映像。URL: https://moderndiplomacy.eu/2022/04/01/authentic-war-reporting-from-ukraine/
(注3) BULLETIN DE DOCUMENTATION N°27 / MARS 2022「LA SITUATION MILITAIRE EN UKRAINE PREMIÈRE PARTIE : EN ROUTE VERS LA GUERRE」URL: https://cf2r.org/documentation/la-situation-militaire-en-ukraine/
(注4)April 8, 2021 「If Ukraine launches a full-scale war in Donbass, Russia will be forced to defend its citizens, says Putin’s deputy chief-of-staff」URL: https://www.rt.com/russia/520490-zelensky-war-donbass-putin-aide/
(注5)February 17,2021 「Boris Johnson Says Ukraine Shelling Is A “False Flag Operation” By Russia」URL:https://www.politicshome.com/news/article/boris-johnson-says-ukraine-shelling-is-a-false-flag-operation-by-russia
(注6)February 23,2022「Scholz Caves on Nord Stream While Putin Throws Donbass a Lifeline
URL: https://www.unz.com/mwhitney/scholz-caves-on-nord-stream-while-putin-throws-donbass-a-lifeline/

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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