【連載】鳩山友紀夫の部屋

巻頭言

鳩山友紀夫

では、実際に「台湾有事」は起こるのだろうか。私はまず起きないとみている。なぜなら米国は台湾問題で中国と戦っても、もはや勝てないことを知っているからである。

以前には米国の軍事力が中国より圧倒的に優れていたので、米軍に勝機はあったが、中国のミサイルの精度が格段に向上した現在、例えば嘉手納基地を攻撃されたら米軍機は中国に向かって飛び立てないなど、地政学的に明らかに不利になっているのだ。米国の様々な研究機関においても、机上のシミュレーションでは米国は中国に完全に負けることを示している。

また、表面的にはメンツもあり、台湾は独立志向を示し、中国は武力行使も辞せずと、それぞれ独自の主張をしているが、独自の政策の実現には極めて大きな代償を払わなければならないことを知っており、実際には両者とも現状維持がセカンドベストと考えていると推測される。台湾には独立派が存在し、米国の中に彼らを扇動するものがいることは事実であるが、米中の直接の武力衝突まで望んでいるわけではない。

Cracked brick wall painted with an Chinese flag on the left and a Taiwanese flag on the right.

 

それではなぜ米国は「台湾有事」の危機を煽るのか。それはまさにポピュリズムで、危機を煽ることで国民の支持を集めようとするのである。そして、軍産複合体にとって、同盟国に高額な武器を売りつけることができるチャンスとなるからである。

日本政府は知ってか知らずか、安易にそんな米国に同調して、常に「北東アジアの安全保障情勢はますます厳しさを増しており」と主張して、防衛費をかなりの勢いで増額し、結果として「イージスアショア」の代替策の「イージス・システム搭載艦」や、「F35Aステルス戦闘機」など米国の高額な武器を購入することになるのである。かつてはGDP比の1%までと自制していた防衛費を自民党は2%に増やせと主張し始めている。

日米問題にも詳しい寺島実郎氏は次のように語っている。

「アメリカ人と議論すると、彼らがごく自然に、日本を『保護領』と表現することがある。ここに本音がにじみ出ている。日本はいまだ占領地で在日米軍は進駐軍という意識があるということだ」。
「米軍専用のゴルフ場が東京に2つもあり、維持費は日本政府の思いやり予算から出る。不条理極まりない。日本の首都上空の空域を管理下に置き、手放さないのも、この『保護領』という意識が根底にあるからだ」。

つまり日本はいまだ米国の占領地なのである。
その意味で言うと、沖縄は二重の占領地になっているということである。

では、どうすれば沖縄は日本と米国の終わらない二重の意味での占領から決別することができるのだろうか。

最も基本的なことは、多くの国民は漠然と「日本の平和と安全はアメリカによって守られていて、いとなったら助けてくれる」ことを信じているが、必ずしもそうではないことを正しく理解することではないか。

日米安保条約の第5条も、日本に対する武力攻撃が行われた時には、米国は憲法上の規定と手続きに従って共通の危機に対処する、と書いてあるだけである。憲法上の規定と手続きとは、米国議会に諮り結論を出すことであり、例えば彼らにとっては小さな尖閣諸島の問題で、米国が日本を助けようとして中国と武力衝突することを議会で決定するとは全く思えない。

また、日本は米国の「核の傘」で守られているから核攻撃を受けないと信じている国民が多いが、考えてみよう。中国が日本を核攻撃すると威嚇する。米国は中国が日本を核攻撃したら、中国を核攻撃するぞと威嚇するので中国は日本を核攻撃できないというのが核の傘の論理である。しかし、その時、中国も黙っていない。もし米国が中国を核攻撃したら、中国は米国を核攻撃すると威嚇する。したがって、もし中国が日本を核攻撃しても、米国は中国を核攻撃できないのである。実際、「核の傘」は幻想なのである。

さらに、戦争の形態が大きく変貌したことに気づかなければならない。かつては敵前上陸作戦に大きな意義を持っていた海兵隊も、ミサイルの時代にはその必要性が問われている。米中もし戦わば、沖縄など南西諸島にある米軍基地はミサイル攻撃に遭い、全く使い物にならない可能性が高い。辺野古の基地も、出来上がったとしても、米中戦争に役立つ代物ではない。ではなぜ今でも沖縄を中心に米軍基地が多く存在しているのか。それは日本政府がいてくれと嘆願しているからである。その証拠に思いやり予算は増える一方である。

日本の自衛隊も同様で、日本有事の際に沖縄の各地に存在している自衛隊の基地はあっという間にその任務を果たすことが不能になろう。先日、宮古島のミサイル弾頭の弾薬庫を柵の外から拝見したが、外からも容易に見えるミサイルの弾薬庫は、戦争となったら真っ先に狙われて、ミサイルは用をなさないに違いない。

いたずらに周辺諸国の脅威を煽ること、かつてはソ連、次に北朝鮮、今は中国の脅威を煽ることが日本の米国への従属意識を高めていることも事実である。米国のフィルターがかかった情報を鵜呑みにするのではなく、また危機を煽ることで支持率を上げようと画策する日本政府や、その政府を忖度する大手メディアの情報を単純に信じるのではなく、冷静に事実を見極める判断力を磨くことが今こそ求められる。

価値観が必ずしも同じではない国々といかにうまく付き合うか、これが外交の要諦である。お互いに違いを認識し、尊重し、理解し、必要に応じて助け合う友愛の心を持つことである。戦争の主戦場となっていた欧州が第2次世界大戦後二度と戦場となることがなくなったのも、ドイツとフランスが友愛精神の下、石炭や鉄鋼の共同管理や貿易を行い、共に汗を流すことからスタートしたからである。欧州でできたことがアジアでできないはずはない。

否、むしろ「和を以て貴しと為す」の精神は東洋の思想である。4年前に習近平主席に「孔子の説く『仁』と『恕』は友愛であり、その心で一帯一路構想を推進してほしい」と申し上げたところ、習主席は「まさにその通りで、『己の欲せざるところ、人に施すなかれ』の『恕』の精神で一帯一路構想を行っていきたい」と述べられた。

まずは日本、中国、韓国、そしてASEAN諸国を中心として、経済、貿易、金融のみでなく、環境、エネルギー、教育、文化、防疫、防災などあらゆるテーマを議論する常設の場を作ることである。そして可能なところから共通のルールを作り、それを実行に移していく中で、「東アジア共同体」作りを進めるのである。

そして、その常設の場を沖縄に設置するのである。沖縄を真の意味で平和なアジアの国際都市にすることが、沖縄を日本と米国の二重の植民地から解放させることになるだろう。

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鳩山友紀夫 鳩山友紀夫

第93代内閣総理大臣。現在は東アジア共同体研究所理事長。政治家引退後、友愛の思想を広めるため、由紀夫から友紀夫に改名。近著に『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)などがある。

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