自衛隊の核ミサイル部隊化 G7広島サミット最大の狙いは日米「核共有」
政治核廃絶より核抑止力強化=日米の「核共有」
5月に広島でG7サミットが開催される。主要議題は、G7諸国がウクライナ支援強化を意思一致すること、特にロシア制裁に距離を置くグローバルサウス諸国(南の発展途上国)をいかに取り込むかが重要議題になるとされている。
しかし人類初の被爆地・広島で開催されるこのサミットの重要なもう1つの狙いは「核問題」だ。一般的には核廃絶に向けてどのようなメッセージが出されるかということだが、実際は真逆の事態が進行している。
読売新聞(2月15日付)の取材に答えて、ブラッド・ロバーツ元米国防次官補代理は「(G7広島サミットでは)ロシアの核の脅威を強く非難しなければならない」としながらこう語った。
「岸田首相は…核兵器が存在する限り核抑止力を効果的に保つというアプローチを明確にすべきだ」
要するに、核廃絶の議論より「核抑止力強化」のための具体的アプローチを日本が明確にすること、これが米国の要求だということだ。
石破茂元防衛相もフジテレビ系「プライム・ニュース」で、「核抑止力強化のための議論を詰めないまま“核なき世界”を唱えても世界の理解を得られない」と断言した。
要は、このサミットを核抑止力強化の議論の場とする、そしてその矛先は「非核」を国是とする日本の岸田政権、これがG7広島サミットの1つの狙い、いや最大の狙いであろう。
では米国が岸田政権に求める「核抑止力を効果的に保つというアプローチ」、その内容は何なのか?
「核抑止力を効果的に保つアプローチ」について、前記の元米国防次官補代理はこう明言した。
第1は、「アジアに核兵器が配備されていない核態勢は今日では不十分」。これは日本の非核3原則を見直し、せめて日本への核配備、「核持ち込み」を容認せよという日本への圧力だ。第2は、NATOのような核使用に関する協議システム、「日米核協議の枠組みが必要」だということ。NATOと同様に米国と日本との核共有システム、有事には自衛隊も核使用を可能にするシステムが必要だとした。米国の核抑止力の1端を自衛隊も担え、自衛隊に核攻撃能力を持たせよという要求だ。
これに符丁を合わせるような発言を、石破氏は前述の番組で語っている。
「非核3原則“持たず、作らず、持ち込ませず”の“持ち込ませず”は本当にいいのか、核共有をどう考えるのか、という話に日本はならない。もう少し精密に考えて分析すべき」
要は「核持ち込み容認」と「核共有」を認める議論の必要性を強調した。
「核持ち込み容認」と「(米国との)核共有」を認める議論の行き着く先、そこに込められた米国の狙いはどこにあるのか?
米国が求める〝核共有〞日米韓協議体
昨年末に閣議決定された安保3文書では、「反撃能力保有」の目玉として陸上自衛隊に「スタンドオフミサイル部隊」の新設が決められた。この一般には馴染みのない英語を正しい日本語に翻訳すれば、地上発射型の「中距離ミサイル部隊」が自衛隊に誕生するということだ。このことと、G7広島サミット以降、「核抑止力強化」の議論で浮上するであろう「核持ち込み容認」「核共有」論議とを考え合わせてみれば、ここから導き出せる答えは「自衛隊のスタンドオフミサイルに核搭載を可能にする」であろう。
「いずれ核弾頭搭載可能な中距離ミサイル配備を米国は求めてくる」との河野克俊元統合幕僚長の発言がある。昨年のバイデン訪日時のことだが、当初これは「在日米軍基地への配備」かのように受けとめられてきた。
しかし、実際はそうではなかった。
「(米政府が)日本への地上発射型中距離ミサイルについて在日米軍基地への配備を見送る方針を固めた」(読売新聞1月23日付)。その理由は「日本が長射程のミサイルを保有すれば(対中)抑止力が強化される」と米政府が判断したからだ。
何のことはない。新設される陸自のスタンドオフミサイル部隊を核搭載可能な中距離ミサイル部隊にする、これが当初からの米国の狙いだったということだ。「核持ち込み容認」と日米「核共有」合意がなされれば、これは実現する。
陸自新設のスタンドオフミサイル部隊が中距離“核”ミサイル部隊になる! 日本が核戦争国家になる、そのための“アプローチ義務”がG7広島サミットで明確にされる。
さらに、読売新聞3月8日付は一面トップで、米政府が「“核の傘”日米韓協議体」創設を打診していると伝えた。そこでは、「韓国は有事に備えた核使用の協議に関心を示している」が、問題は日本政府だとして岸田首相に「有事に備えた核使用」、すなわち日米「核共有」の議論に踏み込むことを暗に求めている。
「“核の傘”日米韓協議体」の目指すものが、岸田政権に日米「核共有」を認めさせることにあるのは明白だ。それを後押しする役割を、「北朝鮮の核」に対処する米韓「核共有」に積極的な韓国・尹錫悦政権が担う。これこそ「“核の傘”日米韓協議体」創設の目的である。
尹韓国大統領は反対世論が多数という「政治的リスク」を負ってまでも、元徴用工問題解決で日本側に譲歩し日韓関係正常化に踏みだして、日韓シャトル外交(定期的に首脳が往来)を復活。3月16日には12年ぶりに韓国大統領として単独訪日を果たした。これを受けての米政府の素早い「“核の傘”日米韓協議体」創設打診は、日韓正常化が米国の強い要求から出たものであることを示している。
尹大統領は4月26日に訪米し、異例の「国賓待遇」を受け、晩餐会まで開かれた。これはバイデン大統領からのご褒美・ご祝儀と見るのが正しい。尹大統領の性急な動きは、いかに米国が日米「核共有」を焦っているかを表しているのではないだろうか。その尹大統領はG7広島サミットに特別招待される。
「核持ち込み容認」と「日米“核共有”」、その終着点としての対中(朝)有事における自衛隊スタンドオフミサイル部隊の核武装化は、G7広島サミットを出発点に本格的に進められていくだろう。すでに賽は投げられた!
米国版「自存自衛の戦争」に付き合うのか
ジャパン・ハンドラーの首魁、リチャード・アーミテージ元国務副長官は読売新聞3月5日付への寄稿「日米同盟、5つの強化策」と題する提言で、「日本の指導者は時代遅れのタブーを打破し、自らの役割を果たしている」と「反撃能力保有」を認めた岸田首相を褒めあげた。
次なる「時代遅れのタブー」は「非核」の国是だろう。このタブー打破が「被爆地広島出身」を売り物にする「日本の指導者」岸田首相に迫られる。昨年12月、森本敏・元防衛相はテレビ番組で「(安保3文書後の日本に)厳しい宿題が待っている」と発言していたが、いま最も「厳しい宿題」、すなわち「非核」の国是放棄に取り組むことが、岸田政権に要請されている。
これは「厳しい宿題」と米国自身も認識する“難題”で、日本国民の大きな反発を招くものであることは十分知ったうえでのこと。いわば「虎の尾を踏む」リスクを犯してでもそれを無理強いせねばならない。米国が危険な賭けに出ざるをえなくなったことの表現と見るべきではないだろうか。
米国は今、ウクライナへのロシアの「先制的軍事行動」によって、対中ロの2正面作戦を強いられている。米国には想定外の事態であったことは事実だ。米国の代理戦争を託されたゼレンスキー大統領の限界は、いずれ世界が目にすることになるだろう。グローバルサウス諸国のロシア制裁からの離反は、すでにそれを見越したものともいえる。
この劣勢の中で自ら仕掛けた対中新冷戦こそ、米覇権の起死回生を賭けた主戦場であるが、こちらの展望も明るい材料は何もない。進むも地獄、退くも地獄――米国は進退両難の危機にあると言っても過言ではないと思う。
しかし、ここからの後退は許されない。それは米覇権の死を意味するからだ。
かつて大日本帝国は、満州から中国大陸へ、さらには東南アジアへと植民地支配拡大を企図した結果、米英帝国主義「先進国」との植民地再分割戦を自ら招き、米英による日本へのABCD(米英中蘭)包囲網形成、原油禁輸など制裁措置で帝国死活の瀬戸際に追い込まれた。かくして植民地帝国として生きるか死ぬかの「自存自衛の戦争」、無謀承知の対米英「太平洋戦争」に突入した。
これと同列に論じることはできないが、いま米国の対中ロ「新冷戦」も、ある意味、覇権超大国として生きるか死ぬかの瀬戸際に追い込まれた米国の「自存自衛の戦争」だともいえるのではないか。
避けたかった二正面作戦だが、やるしかない窮地に米国は追い込まれている。この無謀な「自存自衛の戦争」のために、対中最前線を担う同盟国日本の協力は「劣化した米軍事力」を補ううえで必須不可欠。ゆえに無理難題を承知の「厳しい宿題」を「同盟義務」として日本に押しつけざるを得ない。
この「米国の無理」は、岸田政権の「安保3文書」に現れ、それは防衛現場の疑問を呼ぶものとなっている。自衛隊元海将の香田洋二氏は最近の著書『防衛省に告ぐ』(中公新書ラクレ)の帯で「目を覚ませ防衛省!これじゃ、この国は守れない」と厳しく「安保3文書」を批判している。
香田元海将は、「安保3文書」を「思いつきを百貨店に並べた印象」と強い疑念を示した。「現場のにおいがしない」というのが氏の批判の主たるものだ。自衛隊の現場を無視した「思いつき(米国の要求)を百貨店に並べた」ようなものを日本の防衛現場は受け入れないだろう。元海将が言外に匂わせたのはこのことだと思う。
そして今またG7広島サミットを契機に日本に強要される「非核」の国是放棄。これが非核日本の象徴である「広島」に対する最大級の冒涜であることは言うまでもない。米国の無謀承知の「自存自衛の戦争」のために国是まで放棄させられること、ましてや代理“核”戦争国家になることをよしとする日本人はいないだろう。
米国と岸田政権はとうとう「虎の尾を踏む」ことになる。
「虎の尾を踏む」第1歩
日韓首脳会談
尹大統領訪日の前日、3月15日の読売新聞朝刊は、老川祥一読売新聞代表取締役会長・主筆代理の尹大統領単独インタビュー記事を筆頭に、さながら「尹大統領特集号」の観を呈した。この独占インタビューでも尹大統領は「(米国の)拡大抑止をさらに充実させ、米国の核資産の運用と情報共有」を日本に説いている。
まさにG7広島サミットに向け米バイデン政権「特使」として日韓首脳会談に臨む。これが尹大統領の基本姿勢であろう。この「特使」を迎える岸田首相は、韓国大統領の「実務訪問」にもかかわらず、サシで酒を酌み交わすなど異例のおもてなしで応えた。
日韓首脳会談の「成果」は公表されない部分も含め、4月に「国賓」として訪米した尹大統領によって米バイデン政権に伝えられ、そして5月には岸田首相が議長国としてG7広島サミットを仕切る。
広島サミット後に日本に課せられる「厳しい宿題」。それは「核持ち込み容認」と「日米“核共有”」、「非核」の国是放棄、そして「自衛隊の核武装化」だ。岸田政権は歩一歩と「虎の尾を踏む」危険な賭けに出て行かざるをえなくなるだろう。
「非戦・非核」は一寸たりとも譲ることのできない日本の国是であることを日本国民が示す時、「虎の尾を踏む」ならどんなことになるかを示す時が、いよいよ来た。
ピョンヤン在留の私たちのやれることは微々たるものだが、これからも、このことを強く訴えたいと思う。
(月刊「紙の爆弾」2023年5月号より)
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1947年生まれ。同志社大学で「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕。よど号赤軍として渡朝。「ようこそ、よど号日本人村」(http://www.yodogo-nihonjinmura.com/)で情報発信中。