私たちは第35代大統領ジョン・F・ケネディの甥の主張に耳を傾けなければならない
国際2023年5月3日、第35代大統領ジョン・F・ケネディの甥で、同大統領のもとで司法長官だったロバート・F・ケネディ(ニューヨーク州選出の上院議員)の息子で大統領選に立候補しているロバート・F・ケネディJrは興味深いツイートをしている。やや長いが紹介したい。
「2019年、俳優でコメディアンのヴォロディミル・ゼレンスキーは平和候補として出馬し、70%の得票率でウクライナ大統領選を制した。ベンジャミン・アベローがその素晴らしい著書『西側諸国はいかにしてウクライナに戦争をもち込んだか』で述べているように、ゼレンスキーは、「私はNATOに参加しない」(I will not join NATO)という五つの言葉を口にするだけで、2022年のロシアとの戦争を回避できたことはほぼ間違いない。
しかし、バイデン・ホワイトハウスのネオコンやウクライナ政府内の暴力的なファシスト集団に圧力をかけられ、ゼレンスキーは自国の軍隊をNATOと統合し、核搭載のイージス艦ミサイル発射台をウクライナのロシアとの1200マイルの国境沿いに設置することを米国に許可した。第二次世界大戦後の外交政策立案者であるジョージ・ケナン、ペリー元国防長官、マトロック元駐モスクワ大使といった米国の上級外交官たちが、ロシア指導者の「レッドライン」と表現してきた挑発行為である。ネオコンはイラク戦争と同じように、このロシアとの戦争を望んでいたのだ。」
『西側諸国はいかにしてウクライナに戦争をもち込んだか』
紹介したケネディJr氏のツイートについて解説しよう。まず、彼が紹介した本は、2022年夏に刊行された小冊子である。著者は核兵器政策に関して議会にロビイ活動したり、講演したり、著作をしたりしている人物だ。
私も読んでみたことがある。率直にいえば、拙著『プーチン3.0』、『ウクライナ3.0』、『復讐としてのウクライナ戦争』からみると、お粗末な考察しか書かれていない。それでも、部分的に興味深い指摘がある。紹介しよう。まず、7ページには、つぎのように書かれている。
「本書で私は、西洋の物語は間違っていると主張する。重要な点で、それは真実とは正反対である。戦争の根本的な原因は、プーチン氏の野放図な拡張主義でも、クレムリンの軍事計画家の偏執的な妄想でもなく、ソビエト連邦解体時に始まり、開戦まで続いた、ロシアに向けられた西側の挑発の30年の歴史にある。」
ついで、19ページには、つぎのように記されている。
「ロシアがクリミアを制圧した後、米国はウクライナへの大規模な軍事援助プログラムを開始した。米国議会調査局によると、2014年以降、2022年の戦争開始以降に開始された軍事援助のほとんどを含まない部分的な会計は、40億ドル以上にのぼり、そのほとんどが国務省と国防総省を通じて行われたものだという。この資金援助の目的のひとつは「NATOとの相互運用性の向上」であり、ウクライナが(まだ)NATOに加盟していない事実とは無関係であった。」
この指摘は、アメリカ政府がロシアによるクリミア併合後のウクライナに対して、きわめて意図的に軍事支援を実施してきた事実にスポットをあてている。それは、アンゲラ・メルケル前ドイツ首相が語ったように、ウクライナ東部のドンバス和平をめぐる「ミンスク合意」を盾にしながら時間を稼ぎ、ウクライナの軍事化に奔走した米国政府の話とぴったりと符合している。メルケル氏は、米国とは名指ししなかったが、ウクライナ戦争が西側によって仕組まれたものであることを示唆したのである(詳しくは拙稿「メルケル発言の真意:紛争・戦争を望んだ「ネオコン」の存在」を参照)。
『西側諸国はいかにしてウクライナに戦争をもち込んだか』の著者アベロー氏は、57~58ページにおいて、つぎのようにのべている。
「米国政府は、その言動を通じて、ウクライナの指導者、そしてウクライナ国民がロシアに対して強硬な立場を取るように仕向けたことが多々ある。米国は、ドンバス地方でキエフと親ロシア派自治政府の間で交渉による和平を迫り、支援する代わりに、ウクライナの強い民族主義勢力を奨励した。ウクライナに武器を投入し、ウクライナ軍との軍事統合と訓練を強化し、ウクライナをNATOに編入する計画を放棄せず、ウクライナの指導者と国民に、ウクライナのために直接ロシアと戦争するかもしれないという印象を与えたかもしれない。」
つまり、米国政府は2014年2月のクーデターを行った超過激なナショナリストを支援しつづけ、将来のロシアとの戦争に備える動きを2014年以降、ずっとつづけてきたというのだ。
超過激なナショナリストがゼレンスキーを脅す
59ページには、2019年11月に公表された、米国の歴史学者スティーヴン・コーエンのインタビューが紹介されている。ここでのコーエンの指摘はきわめて重要だ。彼は、つぎのように話している。
「前任のポロシェンコがしなかった、あるいはできなかった、あるいは何らかの理由でできなかったプーチンと直接取引しようという意欲は、実際、ゼレンスキー(の側)にはかなりの大胆さが必要でした。なぜなら、ウクライナにはこれに反対する人たちがいて、彼らは武装しているからです。ファシストという人もいますが、超国家主義者であることは確かで、ゼレンスキーがプーチンと交渉するこの路線を続けるなら、排除して殺すと発言しています。」
この発言と、以下の私の指摘(『ウクライナ3.0』86ページ)を比較対照してほしい。
「現に(2019年)10月6日には、ウクライナの20都市で、「シュタインマイヤー方式」への合意に反対する抗議デモが開催された。キーウ中心部では、約1万人規模の最大のデモが行われた。この動きこそ、ミンスク合意をロシアへの譲歩とみなし、あくまでクリミア奪還をめざす超過激なナショナリストがその気になれば、再びクーデターを起こし、現政権を崩壊させるだけの力をもっていることを示したものだった。ナショナリストは徐々に力をつけ、ますます暴力による奪還させ目論むようになるのだ。」
わかってほしいのは、2014年2月のクーデターを準備・支援したヴィクトリア・ヌーランド米国務省次官補(当時)などのネオコンが超過激なナショナリストに武装闘争を認めたために、クーデター成功後も彼らの武装解除が行われず、その勢力が温存されていたことである。ゆえに、彼らは「ゼレンスキー大統領の命を奪う」とさえ脅すことが可能であったのだ。この現実を知る者が少なすぎる。
拙著『ウクライナ3.0』で指摘したように、クーデターで誕生した新政権は、あえてクーデターを実行した超過激なナショナリストの武装解除や処罰を行わなかった。もちろん、米国政府はこれに合意していたのである。あるいは、命じていたといえるかもしれない。
実は、こうした勢力の一部は、いまのウクライナ軍の内部に存在する。彼らは、本気でクリミア奪還をねらっている。彼らは、クレムリンを無人機で攻撃することもいとわないだろう。こうした「現実」をケネディJrは知っているに違いない。
ケネディJr氏をめぐって
私がケネディJrに注目するのは、ここで紹介したように、彼のウクライナ戦争に対する見方が至極真っ当であるからだ。同じ理由からなのか、ロシアの有力紙『ヴェードモスチ』(2023年5月18日付)は、「”アメリカの帝国プロジェクトを終わらせる時が来た” 伝説の政治家ケネディ一族出身の新大統領候補がアメリカに提示するもの」という記事を掲載している。
「ケネディは最初麻薬中毒者として、次に環境保護活動家として有名になり、近年はアメリカで最も有名なワクチン反対者になっている」という記述は皮肉めいているが、事実であり、そんな彼だからこそ、ウクライナ戦争に対しても「達観」した見方ができるのではないかと思わせる。
記事では、「最近の世論調査では、民主党の有権者の19%が彼に投票するのに対し、現職のジョー・バイデンは62%である」として、ケネディJrが民主党の大統領候補に選ばれる可能性が低いことも指摘されている。
ケネディJr氏は2023年4月5日、民主党の候補として大統領選に出馬することを申請した。現職のジョー・バイデン米大統領は4月25日に出馬を表明したから、いまのところ、彼が民主党の大統領候補となる可能性はきわめて低い。それでも、民主党内にも、ケネディJr氏のように、バイデン政権の対ウクライナ政策に批判的な人物がいることに注目してほしい。私が主張してきた見方を支持するような人物が米国ではたしかに存在するのだ。つまり、私のこれまでの主張が荒唐無稽ではないないことの証といえるだろう。
しかし、残念ながら、日本には、ケネディJrや私のような見方をする人物が少なすぎる。マスメディアが報道しないからだ。そんな場所には、民主主義がそもそも成立するはずもない。ほとんどの人々がだまされているからだ。
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1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。一連のウクライナ関連書籍によって2024年度「岡倉天心記念賞」を受賞。 著書:(2024年6月に社会評論社から『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』を刊行) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。