これがナニワの選択なのか? 維新の完全支配で大阪が賭博場になる
政治維新は大阪を完全に手中に収めた
4年に一度の政治イベントである統一地方選が終わった。中でも関西地方で特に注目されたのは奈良県知事選と大阪府知事選・市長選だった。
奈良県では自民党が保守分裂を起こし、5期目を狙った現職と新人の2人を推す事態に発展。その混乱の隙を狙って日本維新の会公認の山下真・元生駒市長が漁夫の利を得て初当選した。
自民党の敗因は候補者を一本化できなかっただけではない。自民党奈良県連の会長である高市早苗経済安全保障担当相が、放送法の解釈をめぐる行政文書問題で窮地に立たされたことも一因だったろう。国会での高市氏の態度に有権者が呆れ果て、その結果として知事ポストを維新に渡すことになってしまった部分もあるのではないか。
また、奈良県議選でも維新の躍進が目立った。日本維新の会が推す候補が選挙前の3議席から14議席へと約5倍も拡大した。維新は今後、県内での勢力拡大に弾みがつくだろう。
一方、維新が勢いに乗ったのは大阪も同じだった。知事と大阪市長のダブル選を制し、大阪維新は引き続き両方の椅子を手に入れた。また、府議選と大阪市議選も圧勝し、自民党など他党の候補を寄せつけなかった。
この選挙で大阪維新は府議会・市議会ともに、単独過半数を獲得した。大阪府と大阪市の行政と両議会を完全に手中に収めたことになる。
大阪府知事選に出馬したのは大阪維新の会代表で現職府知事の吉村洋文氏、共産党の元参院議員だった辰巳孝太郎氏、政治団体「アップデートおおさか」が推す法学者の谷口真由美氏ら6人。府知事選は吉村氏と谷口氏の一騎打ちになるとみられていたが、選挙前から吉村氏の当選が確実視されていた。
谷口氏が出馬表明した2月初旬、自民党が調査したとみられるペーパーがマスコミ周辺に流れていた。その内容は、吉村氏40ポイント、谷口氏10ポイント、辰巳氏7ポイントというものである。その後、在阪マスコミ5社連合の出口調査(4月1・2日)によれば、吉村氏65ポイント、谷口氏11ポイントという結果が出ていた(辰巳氏の調査結果は不明)。これらの事前調査の通り、府知事選は吉村氏の圧勝で幕を閉じた。
アップデートおおさかの谷口氏が出馬表明したときに、反維新陣営の一部からは「吉村知事の対抗馬は辰巳1人に絞らないと勝てない。谷口氏は候補を降りるべきだ」という意見が多くあり、アップデートの関係者にも苦情の電話があったと聞く。しかし、仮に候補者を一本化しても吉村氏には勝てなかっただろう。それは、辰巳氏と谷口氏を合わせても計約70万票しかなかった事実からも読み取れる。どう逆立ちしても吉村氏が獲得した約244万票には遠く及ばなかったのだ。
大阪での吉村氏は人気者である。特に女性は超人気アイドルを見るような目で吉村氏を眺めている。連動して府知事としての支持率も高い。他府県の人は信じられないかもしれないが、大阪には吉村氏のイラストを施したTシャツやマグカップなど「吉村グッズ」というものまで売られている。
その異様な人気の前では誰が府知事選の候補者であっても、また反維新陣営が一致団結して候補を1人に絞ったところで勝てなかったのだ。この吉村人気と高支持率が続く限り、反維新が府知事のポストを大阪維新の手から取り戻すのは難しい。
今回の府知事選で吉村氏は当初、出馬を躊躇していたと伝えられていた。だが出馬したところをみると、再来年の大阪万博までは知事を務めるつもりなのだろう。
ただ、吉村氏は残り4年の任期を満了すれば政界を去ると予想している。反維新が府知事選で勝つには“ポスト吉村”との一戦に賭けるか、それとも大阪維新に致命的なスキャンダルでも起こらない限り無理だろう。その間、府知事の椅子は彼らの指定席のままだ。
大阪市長選の〝敗因〞
一方、大阪市長選である。こちらは新人5人が立候補したが、大阪維新公認の横山英幸前大阪府議と、アップデートおおさかが推す自民党前大阪市議の北野妙子氏との事実上の一騎打ちとなった。結果は横山氏が約65万票を獲得して初当選を果たした。次点の北野氏は約27万票と、横山氏にダブルスコアで敗退した。なお、北野氏は出馬表明後に自民党を離党している。
大阪市長選では、大阪維新のオーナーである松井一郎氏が大阪市長の任期満了を機に政界を引退することで、ポスト松井に選ばれた横山氏がどこまで戦えるかに注目が集まった。大阪維新幹事長の横山氏は、吉村氏や松井氏に比べて一般的な知名度は低い。大阪維新が昨年12月10日に党内で実施した予備選で横山氏が候補予定者に選ばれたが、このとき府内在住の党員の投票率は34.18%と低迷した。
大阪維新のコアな支持者の間ですら横山氏の知名度は低いのだ。その証拠に、横山氏ひとりで街頭演説をしてもギャラリーよりスタッフのほうが多いことが目立った。ただ、吉村氏と松井氏が応援に入ると事態は一変。支持者だけではなく道を歩く人も足を止めて横山氏の演説を聞いていた。
事前のマスコミ調査では「横山リード」が伝えられていた。先の自民党のものと思われる世論調査でも、横山氏27ポイントに対して北野氏11ポイントと差は歴然。先に記した在阪マスコミ5社連合の出口調査でも、横山氏50ポイント、北野氏20ポイントと差は縮まらなかった。吉村氏と松井氏が応援演説に走り回ったとはいえ、それほど知名度があるわけでもない横山氏がここまで善戦できたのは、「維新」という名称が大阪では高級ブランド並みの威力を発揮している証拠ともいえる。おそらく4年後の大阪市長選も横山氏が再選する可能性は高いだろう。
横山氏にダブルスコアで負けた北野氏はどうか。彼女の敗因は何だったのか。48.33%という低投票率も戦況を左右したが、最も大きな理由は自民党支持者の票を固められなかったことだろう。
前回2019年の大阪市長選では、自民党支持者の半数が松井氏に投票した。今回の市長選ではNHKの出口調査によれば、自民党支持者のうち北野氏に投票したのは約50%だという。そして、約30%が横山氏に票を入れている。自民党にとって、今回の大阪市長選も2019年の悪夢が再来したわけだ。
北野氏が当選するための最低条件は、まずは自民党の支持者の票を固めることだった。北野氏は自民党を離党したとはいえ、同党支持者の中には彼女にシンパシーを感じている人は少なくない。だったら、大阪市内に住む自民党支持者の少なくとも7割以上が北野氏に投票するよう票固めをすることが必要だった。そのためには自民党大阪市議団と同党府議団の強力な側面支援が絶対に必要だったのだ。
ところがフタを開けてみれば自民党支持者の7割どころか、約半数しか北野氏に投票していない。原因は、自民党大阪そのものが有権者からもはや信頼されていないからだろう。自民党大阪市議団や同府議団が普段から支援者との関係を密にしていれば、ここまで無様な負け方はしなかったのではないか。支持者回りをサボっていたのかと疑いたくなる。
北野氏の敗因はほかにもある。まず、北野氏は自民党を離党して「無党派」「市民派」として戦っていた。これは無党派層を取り込むための作戦だったはずだ。だが、それにしては自民党がしゃしゃり出てくる場面が多すぎた。
たとえば、ツイッターでは北野氏を応援する国会議員たちの動画が数多く流れていた。これでは「無党派」ではなく、実態は「隠れ自民党」でしかない。自民党国会議員が露出する動画を見た有権者は白けてしまうだけだろう。これは自民党大阪府連の戦術ミスである。
次に無党派層へのアピールが足りなかった。中でも、最も投票率が低いとされる20代、30代の若者層への訴えが圧倒的に不足していた。選挙期間中のある日、谷口・北野の両氏がそろって着物を身につけ、大阪市内をそぞろ歩いたが、あれは中高年にはアピールしても若者層への訴えとしては弱すぎる。
株式会社日本総合研究所が昨年6月末に実施した、30代未満の若者が対象の世論調査によれば、彼らが投票先を選ぶ基準は候補者の知名度ではなく、その候補者が打ち出す政策だという。若者層の最大の関心は「自分の考えに近い政策を訴えている候補者・政党」であり、着物姿で練り歩くおばちゃん2人の姿ではない。
もっとも、これは谷口氏と北野氏の責任ではない。支援団体であるアップデートおおさかの責任である。この団体は選挙の素人が多いこともあり、選対本部の司令塔が機能していないのだ。
アップデートおおさかは自民党大阪の一部や立憲民主党、自治労大阪や連合大阪が陰で支援していた。だが、実態として「船頭多くして船山に登る」で、全体の戦況を見渡して的確な指示ができるリーダーシップのある司令塔が不在だった。これでは勝てる試合も勝てるはずがない。
大阪都構想の復活
大阪府議選と大阪市議選も注目された。これまで大阪維新は府議会では単独過半数を得ていたが、大阪市議会は過半数には達せず、公明党をアメとムチで操ることで議会運営を行なってきた。そのため議員選挙では特に大阪市議選が注目され、大阪維新が府市の両議会を完全に手中に収めるかが関心事だった。
結果は府市の両議員選挙とも大阪維新の圧勝だった。府議選では大阪維新が55人を当選させ、前回の46議席から9議席も拡大した。今回の統一地方選で大阪府議会の定数は88から79へと9つも削減され、同時に1人区も増えた。その結果、とばっちりを受けたのは自民党と共産党で、特に自民党は現職の幹事長が落選するという有り様だった。
大阪市議選も大阪維新が圧勝し、同党は結党13年目にして初めて単独で過半数を獲得した。大阪市議会も府議会と同様、定数を83から81に減らしたことで大阪維新には有利な展開となった。選挙前の40議席から46議席へと大幅に増え、逆に自民党は14から11へと3議席も減らしている。なお、自民党大阪市議団も現職の幹事長を落選させた。惨敗である。
ともかく大阪維新は大阪市議会で過半数に達した。この影響は決して小さくない。特に公明党との関係が見直されるのは必至だろう。大阪維新が政策の一丁目一番地として位置づける大阪都構想は、2度の住民投票を行なって2度とも敗れた。ただ住民投票を実施するには大阪市議会で過半数に満たない大阪維新だけでは不可能である。そこで同党は公明党の協力を仰ぐ必要があった。
もっとも、「協力」といっても紳士的なものではない。いわば公明党を“アメ”と“ムチ”でコントロールするものである。アメは、公明党の実績としてカウントできる政策を実現するため大阪市と大阪維新が同党に協力すること。一方のムチは、公明党の現職議員がいる衆院選の大阪・兵庫の6つの小選挙区に日本維新の候補を擁立しないことだ。
創価学会にとって特に大阪の選挙は「常勝関西」と呼び、学会員にとっても絶対に負けられないものである。ここに日本維新の候補が立つと公明党候補が全滅する可能性が高くなる。その弱みにつけ込み、大阪維新は大阪市議会で公明党と“協力関係”にあった。つまり「常勝関西」は創価学会による功徳の結果というよりは、維新との裏取引によってもたらされたものなのだ。
大阪維新の単独過半数を阻止しようと公明党もいつになく必死だった。投票日前日の4月8日には山口那津男代表が北区などで街頭演説を行なっている。だが、同代表の応援もむなしく大阪市議選では都島区で新人候補1人を落選させた。
一方、単独過半数を獲得した大阪維新は今後、公明党に頼る必要がない。ムチとして使った公明党の牙城である衆院選大阪・兵庫の6選挙区で、日本維新の候補が切り込んでくるのは確実だろう。このとき創価学会が誇りとした「常勝関西」の看板が、もろくも崩れ去るはずだ。
さらに、である。大阪都構想を実現するため3度目の住民投票を実施する可能性が俄然高くなった。もはや公明党の協力を必要としない大阪維新は、まずは大阪市で住民投票条例案を実現させ、それに連動して府議会の維新が追随するはずである。
2020年11月1日実施の住民投票で大阪維新が敗れたとき、自身が府知事をやっている間は都構想の住民投票はないと断言した吉村知事。だが、大阪市議会からの狼煙に呼応した大阪府議会が住民投票条例案を府議会に提案すれば吉村知事も拒否することはないだろう。“3度目の住民投票”は必ずある。その確率はかなり高いとみていい。
自民・維新の接近でカジノが認可
今回の選挙結果は国政にも大きな影響を与えるはずだ。
まず自民党は日本維新を無視できなくなった。もし、この夏にも衆院選の解散総選挙が行なわれたら、統一地方選で勢いに乗った日本維新は議席を伸ばすだろう。立憲民主党を抜いて野党第一党に躍り出ることも十分にありうる。
そのとき自民党は、野党というより与党に近い日本維新と政策協力を結ぶことも予想される。地方と国政で力を失いつつある公明党に代わって日本維新を連立パートナーに選ぶことも、まんざら荒唐無稽な話ではない。昨日まで敵だった政党が、今日には味方になることが永田町の摩訶不思議なところである。
政府に目を向けると、岸田文雄首相は維新嫌いだといわれている。今回の統一地方選でも岸田首相は大阪市内に入った際、自身の後援会の会合でアップデートおおさかの谷口氏と北野氏の応援を口にしている。大阪維新の松井氏と懇意だった故・安倍晋三元首相と菅義偉元首相の時代には決して考えられなかったことだ。安倍・菅の両元首相が、自民党大阪が推薦する大阪府知事選と大阪市長選の両候補の名前を出して党員らに応援を依頼したことはない。
だが、いくら岸田首相が維新嫌いだといっても自民党が日本維新に接近すれば政府も無視はできない。その証拠に、2029年に開業が予定されている大阪でのIR・カジノが統一地方選後に認可された。
当初、遅くても昨年秋には認可の可否が政府から発表されるとみられていたが、なぜか延びていた。ところが大阪維新が圧勝したとたん、政府の判断は「認可する」である。これは岸田政権による日本維新と大阪維新への政治的な配慮だと考えて間違いはない。
全国各地では各陣営が熱い戦いを演じ、結果に泣いたり笑顔になったりの今回の統一地方選だっただろう。ただ大阪の場合は事情が異なる。単に大阪維新の勢力が今まで以上に拡大しただけではなく、大阪と日本の将来がこれで決まったといってよい。その将来が明るいものになるのか黒い影を落とすのかは、今は神のみぞ知る、である。
(月刊「紙の爆弾」2023年6月号より)
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ジャーナリスト、大学の非常勤講師。専門は地方政治、地方自治など。著書に『大阪破産』(光文社)、『緊急検証大阪市がなくなる』(140B)など。