記者会見に臨む吉備さん(左)と三宅弁護士(中央)ら(2023.6.1筆者撮影)

【高橋清隆の文書館】日航123便ボイスレコーダー開示認めず、不都合な真実裏付け[東京高裁]

高橋清隆

乗客・乗員520人が死亡した1985年の日本航空123便墜落事故で夫を亡くした、吉備素子さん(80)が同社にボイスレコーダーとフライトレコーダー全編の開示を求めていた控訴審の判決が1日、東京高等裁判所808号法廷(土田昭彦裁判長)で開かれ、原告の請求を棄却した。不都合な真実があることが一層裏付けられた形で、上告する予定だ。

記者会見に臨む吉備さん(左)と三宅弁護士(中央)ら(2023.6.1筆者撮影)

記者会見に臨む吉備さん(左)と三宅弁護士(中央)ら(2023.6.1筆者撮影)

 

この訴訟は、①憲法13条に基づく人格権(プライバシー権)と個人情報保護法第28条1項に基づく個人情報開示請求権②同社国内旅客運送約款に基づく安全配慮義務に伴う信義則上の情報提供義務履行請求権に基づき、ボイスレコーダーとフライトレコーダーの開示を求めたもの。2月と4月の2回、口頭弁論が開かれている。

25用意された一般傍聴席は全て埋まった。被告の日本航空は欠席した。判決は主文のみ読み上げられ、十数秒で終わった。訴訟費用も控訴人の負担とした。期待とは裏腹な結末に、傍聴席からため息と罵声が飛んだ。世界最大の航空機事故の真相を裏付ける手掛かりは、またもつかめなかった。

判決文では、①の人格権(プライバシー権)に基づく個人情報開示請求権について、ボイスレコーダーなどの記録は夫の雅男さんの個人情報を含むものでなく、同事故の調査報告書に添付・公表されているとの理由で認めなかった。そもそも、公文書に該当しないため、請求の前提を欠くとの見解も示した。これらの記録は事故調査終了後、運輸安全委員会が日本航空に返却したことが、行政文書開示請求への回答で分かっている。

②の運送約款に基づく開示請求権については、過去の遺族との和解条項に次の文言があるとの理由で消滅していると判断した。

「原告らと被告及び利害関係人との間には、本件に関し、本和解条項に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」「原告らは、今後本件事故に関し、いかなる事情が生じても、被告(筆者注:ボーイング社)及び利害関係人(同:日航)両社はもとより両者の役職員、代理人、関係会社、下請業者及び納入業者に対し、国の内外を問わず、日本法または外国法を理由として、裁判上又は裁判外において一切の異議を述べず、また、何らの請求をしないものとする」

今回の訴訟の最大の争点は、和解の効力をどう判断するかだった。1審から続く訴訟で、原告側は新証拠を積み上げてきた。123便をファントム2機が追尾していたとの多くの目撃情報や、飛行機の左側お腹部分に4~5メートル大のオレンジ色の物体が貼り付いている、あるいは真っ赤な飛行機を見たとの情報、当時防衛庁が国産ミサイルを開発中で翌週、米軍と合同軍事演習を控えていたことなど。

特に決定的と思われたのが、旧運輸省の航空事故調査報告書の付録。垂直尾翼に11トンもの外力が作用したとする「異常外力の着力点」との記述があったこと。発表から26年たって運輸安全委員会のホームページで公開されているのを、元日本航空の客室乗務員で『日航123便 墜落の新真実』(河出書房新社)などの著者、青山透子さんが見つけた。和解は圧力隔壁説を前提に結ばれた。新証拠の登場で事情が変わっても、有効なのか。原告弁護団は学者の証言を聞くための期日を要求したが、認められなかった。

判決後の記者会見で代理人の三宅弘・主任弁護士は、「ボイスレコーダーでの会話は公表されていると言うが、われわれが求めているのは加工されていない全編のデータ」とくぎを刺した。公開されている音声は編集されていて、肝心な場面では雑音が入る。起こされた文字記録には「オールエンジン」の言葉があるが、そのような航空用語はなく、「オレンジエア」もしくは「オレンジや」ともとれる。

政府の事故調査委員会がボイスレコーダーなどの記録を日航に返却したことについて、三宅氏は「姑息(こそく)な手。わざと返したんじゃないか。ずっと持っていると、開示対象になるから。知っていながら」と切り捨てた。

一切の反論を受け付けないような和解時の文書については、「普段目にしない条項」とやゆ。赤石あゆ子弁護士は、「事件の真相を分かっていてわざわざ入れたのではないか」と指摘。佐久間敬子弁護士も「念には念を入れた和解条項。『異常外力の着力点』という文言が当時の政府事故調査報告書に記載してあったわけだから」と問題視した。

吉備さんは「和解は慰謝料に関してだけで、事故原因についてしたつもりはなかった」と強調した。遺体が収容された上野村の体育館に一番最後まで通った吉備さんは、事故原因に当初から疑問を持ってきた。青山さんの著書にその答えを見つけられたことを感謝した後、訴訟にたどり着けなかった多くの遺族に思いを馳せた。

「ご遺族さんたちは、心を傷付けられてきた。それで、思い切ることができない。協力していただきたかったが、私自身が遺族に寄り添う道を選んだ。一般の方に協力してここまで来た」と苦しい胸の内を明かした。

遺族間では日航関係者による分裂策動が続いてきた。一審では最初、もう1人原告がいた。副操縦士だった故、佐々木祐さんの実姉である。第2回期日の直前に突然訴訟を取り下げ、連絡が取れなくなった。連絡を取り次がない老人ホームの事務局長は、元日航の客室乗務員だった。

判決について、吉備さんは「残念で仕方がない」とうなだれるも、「最高裁まで行きたい。違った形で、事故原因が分かる形に持っていきたい」と顔を上げた。会見後、弁護団と上告手続きを確認していた。

ボイスレコーダーには、ファントム2機との交信も記録されているはずだ。米軍横田基地とのやり取りも明らかになる。遺族の分断や真相究明者への嫌がらせは、それを阻止するための工作だろう。何より今回の判決は、国民に明らかにできない真実が潜むことを一層裏付けている。

※この記事は、「高橋清隆の文書館」(2023年6月2日)からの転載です。
原文は、コチラ→高橋清隆の文書館 : 日航123便ボイスレコーダー開示認めず、不都合な真実裏付け[東京高裁] (livedoor.jp)

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高橋清隆 高橋清隆

反ジャーナリスト。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。元ローカル新聞記者。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&K プレス)、『山本太郎がほえる~野良犬の闘いが始まった』(Amazon O.D.)など。翻訳にデーヴィッド・アイク『答え』第1巻[コロナ詐欺編](ヒカルランド)。2022年3月、メディア廃棄運動を開始。 ブログ『高橋清隆の文書館』http://blog.livedoor.jp/donnjinngannbohnn/

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