米国の不正選挙疑惑と社会の分断:映画『2000 Mules』、『ナヴァロ報告書』の分析と、『トランプ悪玉論』批判を中心に(上)
国際1 はじめに
2024年大統領選に向け、現職のバイデン氏と、前職のトランプ氏に加え、コロナワクチン問題でも精力的に活動してきた悲劇のカリスマ一族出身の弁護士、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏も出馬を表明するなど、米政界は活気づいてきている。
こうした状況の中、大混乱を極めた前回20年の大統領選を振り返っておくことには、一定の意義があるだろう[1]。周知の通り、トランプ氏とその支持者の「選挙不正」があったという訴えは、無根拠な「陰謀論」に過ぎないものとして片づけられてきた。ところが、トランプ派の人々は、実は多くの具体的な証拠を提出し、偽証罪に問われる宣誓証言も多数寄せている。世界に強烈な衝撃を与えた21年1月6日のトランプ支持者による議会突入事件も、選挙問題への抗議として起こったものだ。単にトランプ派の人々による私的な抗議活動というだけでなく、テキサス州が17の州と共に、ジョージア、ミシガン、ペンシルバニア、ウィスコンシン各州の「バイデン勝利」という選挙結果を覆すよう訴訟を起こすなど、米国をまさに二分する大問題となった[2]。
その証拠の一つとして22年に公表され、好評を博したのが、本稿で取り上げる“2000 Mules”(『2000人の運び屋』)である。監督はインド出身で、1961年生まれのディネシュ・ドスーザ(Dinesh D’Souza)氏。他に、Hillary’s America: The Secret History of the Democratic Party (2016)、America: Imagine the World Without Her (2014)、Death of a Nation (2018)といった政治関連の作品で知られる[3]。幸いにして、ボランティアの方が付けた日本語字幕版が、ニコニコ動画にて鑑賞できる[4]。なお断っておくと、私自身はトランプ支持者でも反トランプでもなく、中立的である[5]。ISFにも転載していただいたオリヴァー・ストーン氏のウクライナに関する映画の評論と、近刊の拙著『ウクライナ・コロナワクチン報道にみるメディア危機』(本の泉社)では、主要メディアの著しい偏りの問題点と、いわゆる悪玉とみなされがちなプーチン大統領やウクライナの親ロシア派の人々の主張にも、“是々非々”の態度で耳を傾ける必要性を強調した。それと同様に、一般には極端とみなされているトランプ氏やその支持者の人々の言い分も真面目に聞いてみる、ということが本稿の趣旨である。在米30年以上の経営者にして作家でもある山中泉氏は、次のような興味深い指摘をしている。即ち日本のテレビや新聞は、ニューヨーク、ワシントンDC、ロサンゼルス等東西のブルーステート(民主系)の大都市に特派員を置いて、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストやCNN及び3大ネットワーク等、リベラル系メディアに依拠した報道を行っているが、内陸部や南部等、保守が強い地域の住人の考えを殆ど反映していない、というものだ[6]。こういった極めて偏った情報流通の下で、トランプ派の人々の生の声を聴く一つのきっかけとしては、イメージの力で訴えかける映画の鑑賞は最適であろう。
2 映画『2000 Mules』の概要
映画は、ドスーザ氏のポッドキャスト番組に、不正選挙を訴える人々が出演して討論する場面が大半を占めている。作中でも言及されるが、事実として押さえておかなければならないのは、トランプ氏は実は現職大統領では最多の7000万票超えを果たしたことだ。それをさらに上回ったのがバイデン氏なのだが、「地下室から選挙運動をしていた男が、アメリカ初の黒人大統領より多くの票を集めたのを信じるか?」というのが、トランプ派の人々が直感的に疑いを抱くきっかけとみられる。「過ぎたことにこだわらず、先へ進もう」(let be bygones bygone, let’s move on)といった反応は、共和党内にすら見られるが、「負けず嫌い」「陰謀論者」といった非難にも屈せず、執念を燃やして証拠を集めた成果が、本作に結実している。
実際の“選挙不正”検証の中心を担ったのは、政治団体True the Voteであり、その幹部であるキャサリン・エンゲルブレヒト氏は本作にも登場している。作中では、人気ラジオ司会者のラリー・エルダー氏や、ドスーザ監督自身と、その妻で歌手・ヒスパニック系活動家のデッビー・ドスーザ氏を交えた議論が交わされる。なお、分析対象の映像には、大統領選のみならず、同時期に行われた上院選関係のものも含まれている。
不正とされた投票を暴く最も有力な手段として挙げられるのが、「ジオトラッキング」という方法である。これは、大統領選挙前後の携帯電話の膨大な位置情報データを業者から購入し、不自然な動きを追跡する、というものだ。エンゲルブレヒト氏ら分析者が携帯電話の持ち主を、ある場所から“不正な”投票用紙を受け取り投票回収箱までの“運び屋”とみなす暫定的基準は、10個以上の投票回収箱を訪れたことがあること。また、分析者らが、“不正な”投票用紙の供給元になっていると考えている(民主党系の)非営利組織を5回以上訪問していること、である。アリゾナ州(フェニックス市)、ミシガン州、ペンシルバニア州(フィラデルフィア市)といった激戦州で、少なくとも2000人の―金銭目的とされる―“運び屋”が確認された、といった主張がなされる。
なお米国では、日本と違って、監視員のいない屋外の投票箱にいつでも投票できる所がある。一部では監視カメラ映像の撮影が切られたことが、証拠映像つきで示される。他には、情報公開請求をしてもそもそも監視カメラ映像がない、といった場合すらあることが、証拠文書つきで紹介される。米国では州によっては、投票者の委任や、親族・介護者等の限定付きで代理投票(もしくはballot harvesting=票の取りまとめ)を認めている州が多いが[7]、それを考慮しても、真夜中に10票単位で投票して車で去っていく、といった事例が見られる。手袋をして投票し、投票が済んだらゴミ箱に捨てる、といった映像も見せられる。同じ人物が、何十回も投票している、といった報告もなされる。分析者らは、民主党の「全ての票を数える」というスローガンを、違法な投票用紙も数えるということかと皮肉り、民主主義を守るという建前で民主主義を破壊している、と厳しく糾弾する。出演者らは、自分達の基準に従って2000人の運び屋を確認し、投票回収箱の平均訪問回数は38回であり、1回ごとの“違法投票用紙”が5枚だと仮定し、計38万の不正票があった、と算出する。その“不正票”を、州ごとに調べ、ジョージア、アリゾナ、ペンシルバニアでは、勝敗を覆すだけの数があったと主張し、結果的に選挙人の合計ではトランプ候補がバイデン候補を上回っていた、と力説する。
作品の後半では、“不正選挙”に関する証言映像が流される。運び屋を務めたという匿名の人物が、票のとりまとめへの報酬を金曜日に受け取っていた、と語る。ウィスコンシン州では、介護施設や老人ホームに住む起きられない人が投票したことにされた、とも証言がなされる。出演者らは、施設職員が政治活動家である場合もあり、不在者投票依頼や署名偽造もなされている、と糾弾する。作中に登場する「キャピタル・リサーチ・センター」代表を務める有識者の言葉で、郵便投票や投票回収箱設置のような、特定の政党(これらの制度を利用する人が多い民主党)に有利な“作戦”に、フェイスブックのザッカーバーグ氏らから、莫大な寄付金が流れている、といった指摘もなされる[8]。
以上が90分近くにわたる本作の非常に大雑把な概要だが、出演者の志は、「選挙に関して、社会的に最も弱い立場の人々を守りたい」ということだという。最後に「民主主義を装った犯罪カルテルによって運営される」ようになってしまった、「偉大な国を救うため」、「全身全霊で左翼と闘う」といった宣言がなされるが、トランプ派の人々の明白な政治的立ち位置が窺える。
3 『2000Mules』への批判・反論
冒頭で私は親トランプ派でも反トランプ派でもなく、中立であることを約束したので、本作に対する主要メディアの批判をいくつか見ておこう。例えば、フィリップ・バンプというコラムニストによる、主流メディアの代表格たる『ワシントン・ポスト』掲載の分析記事[9]。NPOから投票者が投票用紙を受け取ったという直接的証拠はない、というのも作品を見る限り、もっともである。ただし投票者の手袋はコロナ対策だという反論は、投票後にすぐ捨てる必要があるかなど、やや不可解なところもある。
また、主要通信社であるAPの次の検証記事[10]。買収の決定的証拠は作中で示されていない、たった1人の匿名の証言しかないと指摘される。また、携帯の位置情報は数メートル単位で、票を入れたかどうかまではわからない、配達員、郵便局員、選管職員らは複数の投票回収箱を巡回する正当な理由がある、そもそも大量の票が特定の候補に投じられた証拠はない、という議論はそれなりに説得力がある。
さらに、Poynter Institute for Media StudiesというNPOが主催するサイト・Politifactは、これまでの選挙でも投票回収箱は使われてきたし、カリフォルニアでは共和党も設置したではないか、といった反論を展開している[11]。
以上の反論を総合すると、本作は決定的な選挙不正の証拠であるとはいえないだろう。けれども、そもそも選管職員の監視なしで終日利用できる無人投票所がごく一般的に存在すること自体、日本人の感覚では、さまざまな疑惑を呼び起こすものではあろう。誰かに自分の分の票を投票されたと、訴えた有権者の存在も見逃せない。本作の出演者の“不正”証明への熱意と執念も伝わってくる。
本作は反対者から見れば、まさに「陰謀論」に過ぎない作品だろう[12]。けれども、興行収入140万ドルを超え、ドキュメンタリーとしては相当なヒット作となり、公開初日は全米10位にもなったと聞くと[13]、米国内の深い分断を実感させてくれる論争的な作品であることがわかる。
4 他の資料との比較
A マーク・クリスピン・ミラー編著
『不正選挙 電子投票とマネー合戦がアメリカを破壊する』
前項で見た通り、“2000 Mules”は不正選挙の決定的証拠とは言い切れない。だが他の資料と照らし合わせてみると、疑惑が完全に払拭されたわけではない、ということがわかる。
総得票で上回る候補者が敗者になりうる選挙人制度、特定政党の候補者に有利になるよう区割りを操作するゲリマンダー等、合法レベルでも様々な問題点を抱える米国では、これまでも様々な選挙に関する重大な不正疑惑があったことを振り返る必要がある。
例えばニューヨーク大教授を務めたマーク・クリスピン・ミラー氏編著の『不正選挙 電子投票とマネー合戦がアメリカを破壊する』(大竹秀子他訳、亜紀書房、2014年)という注目すべき著作を繙くと、2000~14年の米国の不正選挙(疑惑)の歴史の流れを掴むことができる。2000年の民主党のアル・ゴア候補対共和党のジョージ・W・ブッシュ候補の大統領選において、フロリダ州で生じた混乱については、当時の日本でも大きな話題となった。同書60~74頁所収の元ニューハンプシャー大学教授のデイビッド・W・ムーア氏の「『ジェブがそう言ったから』投票日の夜、フロリダ州で何が起こったのか」によると、問題の本質はブッシュ候補の弟であるフロリダ州知事ジェブ・ブッシュ氏、キャサリン・ハリス州務長官、ブッシュ兄弟のいとこでFOXニュースの選挙勝者決定班の責任者だったジョン・エリス氏の癒着である。統計的な根拠を上げることなく、エリス氏はジェブ氏と電話をし、「ジェブが俺たちが勝ったって言ってる」と宣言したのを支えとして、FOXはジョージ氏の当確を出した。このFOXの縁故人事は、公平であるとは言い難いだろう。それにNBC、CBS、CNN、ABC等多数の主要メディアが追随したことで、ゴア候補がいわば“負け惜しみ”を恐れて抗議できないような既定路線がつくられたとされる。ところが、ムーア氏も指摘するように、CBSとAP通信等が、後に非営利組織のNational Opinion Researchに委託した、全州的な全ての疑問票の数え直しによると、ゴア候補が42~171票差で勝利していたと報告されている[14]。いずれにせよ大問題であるのは、そのような疑義があったことを理由として、地方裁判所が全ての疑問票の数え直しを命じようとしていたのに、連邦最高裁が、テレビ局連合の報道に影響を受け、その再集計を止めさせたことである。
『不正選挙』からは、その後も米国では重大な不正選挙疑惑が相次いだことが読み取れる[15]。真の問題は、選挙が機械化・民営化され、特定の政治家と密接な関係にある業者が集計機の扱いにおいて選挙管理委員会を凌駕し、特許等を理由に事実上のブラックボックスが作られることで、独立した第三者による検証が不可能になっていることだと思われる[16]。さらに、2006年中間選挙等で、出口調査と投票集計結果で、統計的に見て非常に不自然な誤差が生じているのに、後者は絶対に正しいという仮定の下、前者を「強制修正」して無理やり辻褄を合わせる、といった慣例が実行されてきたことも知っておく必要があるだろう[17]。これは、最初から結論を決めて、現実に起こっていることの解釈を捻じ曲げるという意味で、真摯な真実探究の放棄ではないか。
B ナヴァロ報告書
こういった歴史的知識を背景として念頭に置きつつ、20年選挙について重要な意味を持つ文書として挙げられなければならないのは、いわゆる「ナヴァロ報告書」である[18]。著者のピーター・ナヴァロ氏は、ハーヴァード大学で教えた経済学者であり、2016年からは、トランプ大統領の補佐官と「国家通商会議」委員長を務めた。トランプ政権内の高官による報告書であるため、第三者による調査とはいえないが、客観的証拠による一定の裏付けがある資料として、真剣に受け取るべきものだと私は考えている。なお邦訳は、歴史家の渡辺惣樹氏により、『公文書が明かすアメリカの巨悪 フェイクニュースにされた「陰謀論」の真実』としてビジネス社から2021年に刊行されている。
第1部THE IMMACULATE DECEPTION(完璧なごまかし)では、「選挙の不法行為の六つの次元」が論じられる。六つの次元とは、①正真正銘の投票詐欺(Outright Voter Fraud)、②票の不当な扱い(Ballot Mishandling)、③異議がありうる過程の違反(Contestable Process Fouls)、④平等保護原則条項の違反(Equal Protection Clause Violations)、⑤集計機の異常(Voting Machine Irregularities)、⑥顕著な統計的異常(Significant Statistical Anomalies)、である。こうした問題の発生が、どの激戦州で起こったのかを一覧で示したのが、以下の表である。
証拠としては、数千もの宣誓供述、シンクタンクの分析、ビデオ、写真、メディア報道等が使われている。とりわけ裁判所での宣誓証言は、虚偽の場合は罰則付きであるため、相当な重みがある。
①正真正銘の投票詐欺は、買収、投票用紙の偽造や本物の投票用紙の破壊、資格のない者による投票と複数回投票、死者による投票、同じ票の複数回集計、違法な州外からの投票、等である。最も古典的な買収については、保守系雑誌ワシントン・イグザミナーは、ネイティヴ・アメリカンらの指導者たちが、バイデン陣営から、ヴィザ・ギフトカードや宝石を提供されて投票を依頼された、と記述している(8頁)[19]。同誌のこの記事には、証拠として動画が付いているが、再生不可とされている。ユーチューブ等ソーシャルメディアの「検閲」については、ナヴァロ報告も糾弾しているところである。私自身、ウクライナ問題とコロナ禍・ワクチン問題について、プラットフォーマーが国際機関や各国政府の“公式見解”に反する“都合の悪い”内容の動画を削除・排除した問題等、著しい情報操作を検証したことがあるが[20]、不正選挙疑惑問題についても、同様の傾向があるのかもしれない[21]。
本物の票の破壊については、アリゾナ州の裁判で7万5000件の不在者投票が該当するとの主張がなされたとのことだ(9頁)。またしても同じ問題だが、情報源であるDemocracy Docketの記事は、閲覧不可となっていた[22]。
死者による投票については、ミシガン州で、1900年生まれの有権者の票が、何千件も登録されていた、といった宣誓証言がある。ネバダ州では、3年半前に死去した妻が、20年の大統領選で郵便投票していた、といった裁判での申し立て(declaration)がある(11頁)。
②票の不当な扱いに関しては、例えば、米国郵政公社(USPS)が、ウィスコンシン州で、10万票分の受付期限を過ぎた票を有効にした(backdated)、という請負業者による証言がなされている(15頁)[23]。
③異議がありうる過程の違反には、投票立会人の濫用、郵便投票と不在者投票規則の州法への違反、未登録有権者による投票の許可、投票所での違法な選挙運動、違法な票管理がある。投票立会人の濫用については、共和党の立会人が、監視困難な場所に追いやられていた、といった宣誓証言が、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ペンシルバニアでなされている(16頁)。未登録有権者による投票については、ジョージアで、2000人以上の未登録者が投票した、ということが報告されている(18頁)[24]。
④平等保護原則条項の違反は、日本でいえば、法の下の平等に当たると考えられる。この項目には、例えばウィスコンシン州で、共和党の立会人が、投票所への入場を拒否されて監視ができなかった、といった宣誓証言がなされている(21頁)。
⑤集計機の異常では、例えば、ミシガン州アントリム郡の正式な監査では、ドミニオン社製の集計機が、何と68%のエラー率を起こした、と認定されている(23頁)。この裁判所の文書は私自身確認し、信憑性が高いと思われるが、証拠として提出されている動画の一つが、例によって閲覧不可になっている[25]。
⑥顕著な統計的異常では、民主党支持者の多くが使う郵便投票や不在者投票の記載不備や到着遅れといった理由による拒否率が、例えばジョージア州では2016年の6.8%から、20年の0.34%への異常な低下を見せたとされる[26]。ナヴァロ報告書は、これらの票の6割がバイデン票だったと「控えめに」(conservative)仮定すると、結果は覆ったはずだ、と算出する。統計的異常の問題では、ミシガン州ウェイン郡では、監査人を務めたサイバーセキュリティー専門家が、47地区のうち46地区では96%以上の投票率が記録され、25地区では投票率が100%を超えるというありえないことが起こった、と宣誓証言の上、報告している。この箇所で挙げられている公式な文書は実際に閲覧可能であり[27]、それなりに説得力があると思われる(以上25頁)。
ナヴァロ報告書第2部は、露骨にも、The Art of Steal(「盗みの芸術」)と題されている。民主党の選挙戦略は、①不在者投票と郵便投票を増やすことと、②票の確認(の精度)を下げること、にあると認識されている。
①の戦略の実例としては、コロラド、ハワイ、オレゴン、ユタ、ワシントン各州で実施された、普遍的―つまり特別な理由なしの―不在者投票・郵便投票の合法化や、投票回収箱(drop box)の増加、票の取りまとめ(ballot harvesting)、問題ある集計機(corrupt voting machines)の設置が挙げられている(19頁以下)。
不在者投票・郵便投票の普遍化とは、有権者の同意なしに、投票用紙が発送されることを意味し、本人確認が難しいため、歴史的に不正の温床になってきたと報告書著者は主張する。米在住30年以上の山中泉氏は、投票用紙発送の基本となる住民台帳の管理が非常に杜撰であり、知人の不法入国者のメキシコ人に、2枚もっている偽造免許証に対して、2枚の投票用紙が送られてきた事例について報告している[28]。
監視人なしで終日投票できる投票回収箱が危ういのは、2000 Mulesでも見た通りである。
票の取りまとめは、投票者本人の家族や介護者といった条件付きで多くの州で許可されており、投票所または投票回収箱での一種の代理投票といえる。合法とはいえ、報告書筆者も危惧する通り、また日本人の常識からしても、(投票者本人と選管の間で)「管理の連鎖」(chain of custody)が途切れ、不正の温床になりうるといえるだろう(14頁)。にもかかわらず、ネバダ州の民主党系知事、スティーヴ・シソラック(Steve Sisolak)氏は、(大統領選直前といえる)2020年8月に、この取りまとめを合法化した、と報告書著者は指摘する(10頁)[29]。
集計機の問題については、ミシガン州アントリム郡に対して、第三者によって行われた監査報告書で、ドミニオン製の集計機が、意図的にエラーを出すよう設計され、ミシガン州ではそもそも使われるべきではなかった、と報告されている(22頁)[30]。
②票の確認(の精度)を下げる戦略については、まず、有権者の本人確認の緩和が挙げられている。例えばアリゾナ州の中で、民主党の牙城とされるマリコパ郡では、新型コロナ対策を名目として、ネットのビデオチャットによる投票がなされたが[31]、報告書筆者は本人確認の正確性に疑問を投げかけている(24頁)[32]。パソコンの画質が低い、またはネット接続が不安定といった問題がある場合は特に、成り済まし投票が防止できない、といった意味であろうと私は推察している。
不在者投票・郵便投票については、ジョージア州では、従来は郵便投票の署名が、E-Netというネット上のシステムに登録された署名と、不在者投票申請時に登録した署名の両方と一致する必要があるとされていた。けれども、制度変更の結果、そのうちいずれかの署名と一致すれば有効、とされてしまったという(24頁)[33]。
第2部のしめくくりとして、報告書筆者は、第1部と第2部で示された疑惑や事実は、徹底的な調査に値する、と主張している。なお第3部は、各州での“不正”疑惑票が、それぞれの激戦州で、バイデン候補の当選を覆すほど多かったことを推計で示すものだが、本稿では割愛する。
<注釈>
[1] 不正選挙問題については、木村朗・ISF編集長が、20年の大統領選直後から『現代ビジネス』にて詳細な連載を行っているので、一読を勧めたい。https://gendai.media/list/author/akirakimura
また、ISF主要執筆者の寺島隆吉氏による次の記事も参照。「アメリカ理解の歩き方――大統領選挙にみるアメリカ民主主義の腐敗・堕落」、2020年11月22日。http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-390.html
[2] NBC:17 states and Trump join Texas’ lawsuit. It’s still a doomed Supreme Court stunt.2020年12月10日。
なおこの訴訟は、最高裁によってそもそも受理されなかった、と報告されている。
[3] ドスーザ氏については、以下の映画専門サイトの情報に依拠している。
[4]ニコニコ動画内で“2000 Mules”で検索すると、幾つかの日本語字幕版の動画が見つかる。
[5] 基本的には中立とはいえ、もちろんトランプ氏の一連の差別的な発言に賛同するものでは全くない。問題発言のまとめとして、次の特集を参照。ニューズウィーク日本版:「ドナルド・トランプ暴言の軌跡」。リンクはこちら
[6] 『「アメリカ」の終わり』、方丈社、2021年、21-22頁。
[7] これについては、渡辺惣樹『ネオコンの残党との最終戦争』、ビジネス社、2023年、230頁以下を参照。
[8] これについては、ニューヨーク・ポスト紙が、検証記事を出している。ザッカーバーグ氏が、The Center for Technology and Civic Life (CTCL) 、The Center for Election Innovation and Research (CEIR)といったNPOに4億1950万ドルを使い、民主党にとって有利な選挙改革を進めさせた、という内容である。
Mark Zuckerberg spent $419M on nonprofits ahead of 2020 election — and got out the Dem vote.2021年10月13日。
[9] ‘2000 Mules’ offers the least convincing election-fraud theory yet
2022年5月17日。
[10] AP:FACT FOCUS: Gaping holes in the claim of 2K ballot ‘mules’
[11] Politifact: Ballot drop boxes have long been used without controversy. Then Trump got involved.2020年10月16日。
なお2022年中間選挙でもカリフォルニアの共和党は、投票回収箱を含む代理投票作戦を展開した。しかし渡辺惣樹氏は、これは民主党と「同じ土俵で戦う」ためのやむを得ない措置だったという趣旨の解説をしている(『ネオコンの残党との最終戦争』、ビジネス社、2023年、230頁以下)。
[12] Shannon Bond(NPR):How documentary-style films turn conspiracy theories into a call to action, 2022年11月3日。
リンクはこちら
[13] Box Office Pro: 2000 Mules by IMDbPro.
[14] CBS: Chads, Scanners And Votes. 2001年11月12日。
[15] ただし、『不正選挙』によると、2000年から08年までの時点で不正選挙の被害に遭ってきたのは殆ど民主党だったとされる(32頁)。それに対して、トランプ元大統領登場以降は、共和党側が被害に遭ってきたとされる、といった違いはある。
[16] 特に同書所収のロバート・F・ケネディ・ジュニア「ジョージア州におけるディボールド社と上院議員マックス・クリーランドの『敗北』」(95-113頁)、デイビッド・L・グリスコム「電子投票機を使った票の水増し術『ハッキング&スタッキング』アリゾナ州ピマ郡の場合」(158-172頁)、ジョナサン・D・サイモン「電子投票集計の闇 大規模詐欺とクーデターへの招待状」(306-333頁)を参照。
[17][17] 同書、ジョナサン・D・サイモン/ブルース・オデル「阻まれた大勝利 2006年中間選挙における出口調査と投票集計結果の比較」、194-217頁。
[18] 全3部、計82頁に及ぶ報告書は、以下でダウンロードできる。
https://peternavarro.com/the-navarro-report/
[19] Washington Examiner: Pro-Biden effort offered Native Americans $25-$500 Visa gift cards and jewelry to vote.2020年12月3日。
[20] 嶋崎史崇『ウクライナ・コロナワクチン報道にみるメディア危機』、本の泉社、2023年6月刊行予定、特に第1、2章。
[21] 実際にユーチューブは、過去の選挙で広範な不正が行われてきた、といった主張をする動画の投稿を禁止してきた。YouTube: Election misinformation policies(Election integrityの項目を参照)
ところが本稿執筆中の2023年6月2日に、ユーチューブはこの禁止方針を撤廃した。問題となっている動画の削除が、「暴力のリスクやその他の現実世界の危険を減らさず、政治的言論を切り詰めてしまうという意図せざる効果を持ち得る」といった理由である。これまで自分達が削除してきた動画は全て「偽情報」だった、といった認識が変わったわけでもないのに、不可解で唐突な方針変更であり、今後の対応を注視していく必要があるだろう。YouTube: An update on our approach to US election misinformation.
https://blog.youtube/inside-youtube/us-election-misinformation-update-2023/
[22] https://www.democracydocket.com/wp-content/uploads/sites/45/2020/12/Bower-Complaint-AZ.pdf
[23] これに関しては、典拠として挙げられている保守系メディアOANで証言を確認できた。なお証言者は、自分はトランプ派でもバイデン派でもない、と述べている。
USPS contractor: “Something profoundly wrong occurred in Wisconsin during the presidential election”. https://www.youtube.com/watch?v=hRUvP6cbtZk&t=69s
[24] ただしこの主張の根拠として挙げられているDemocracy Docketの記事は、閲覧不可となっている。https://www.democracydocket.com/wp-content/uploads/sites/45/2020/12/Trump-v.-Raffensperger.pdf
[25] Allied Security Operations Group. Antrim Michigan Forensics Report REVISED PRELIMINARY SUMMARY, v2. Report Date 12/13/2020
リンクはこちら
https://mobile.twitter.com/KanekoaTheGreat/status/1336888454538428418
[26] 2016年の資料としては、以下が挙げられる。
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2020年の資料としては、以下が挙げられているが、やはり閲覧不可となっている。
リンクはこちら
[28] 『「アメリカ」の終わり』、方丈社、2021年、212頁以下。
[29] このことは、地元紙ネバダ・インディペンデントでも確認できる。
なお、FOXニュースが、ドミニオン社製集計機の「不正」について報道して同社に名誉棄損で訴えられた訴訟で、1000億円超の和解金を払わされたことは日本でも報道された。だがこうした報告書の信憑性は、それとはまた別問題であるといえるだろう。
なお藤井厳喜氏は、「米国の選挙制度は性善説で成立しているシステムだからです。下級審はその重責を負うことを恐れ、ドミニオン集計機を裁判所に持ち込み、実際に動かしてみて、不正行為があったかどうか、証明することを憚っています」と指摘している(「議会乱入事件・大統領選不正 大マスコミと民主党が結託した大ウソが判明」、『WiLL』2023年5月号、134-143頁)。なお藤井氏をはじめ、本稿が引用する先行研究に右派・保守系論者が多いが、これは真実探究については右も左もない、といったISFの方針にも沿うものであろう。本稿では詳しく検討できなかったが、ユーチューブの「カナダ人ニュース」主宰者として知られるやまたつ氏の『左翼リベラルに破壊され続けるアメリカの現実』(徳間書店、2022年)もある。
[31] 米国ではタッチパネルによる投票がかなり普及しており、このような遠隔投票も技術的には可能であると思われる。
[32] マリコパ郡がビデオチャットによる投票を認めたことについては、以下の行政の公式サイトを参照。
[33] これについては、次の資料が典拠として挙げられているが、閲覧不可となっている。
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●ISF主催トーク茶話会:川内博史さんを囲んでのトーク茶話会のご案内
●ISF主催公開シンポジウム:「9.11事件」の検証〜隠された不都合な真実を問う
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しまざき・ふみたか 1984年生まれ。MLA+研究所研究員。東京大学文学部卒、同大学院人文社会系研究科修士課程(哲学専門分野)修了。著書に『ウクライナ・ コロナワクチン報道にみるメディア危機』(本の泉社、2023年6月)。記事内容は全て私個人の見解。主な論文に「思想としてのコロナワクチン危機―医産複合体論、ハイデガーの技術論、アーレントの全体主義論を手掛かりに」(名古屋哲学研究会編『哲学と現代』第39号、2024年)。論文は以下で読めます。 https://researchmap.jp/fshimazaki 記事へのご意見、ご感想は、以下までお寄せください。 elpis_eleutheria@yahoo.co.jp