【連載】ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 メールマガジン
ノーモア沖縄戦

メールマガジン第86号:⑫海洋プレッシャー戦略によるアジア太平洋戦略の大転換

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●海洋プレッシャー戦略とは
さて、「海洋プレッシャー戦略」(MPS:Maritime Pressure Strategy)は、CSBAが2019年5月に「西太平洋における海上プレッシャーの戦略の実施」として発表した報告書である。
この戦略の核心を結論から言うと、米軍のエアーシー・バトルなどによる対中国の「撤退戦略」を大きく転換し、米軍が対中戦争の初期作戦段階から西太平洋の「シー・コントロール」(SC制海権)確保を目指すとしたことだ。
これは具体的には、中国の日米軍事基地への初期ミサイル飽和攻撃に対処する、米軍の沖縄等からの「撤退戦略」を基本的に修正し、戦争の初期から第1列島線内に「インサイド部隊」が防衛バリアを確立、このインサイド部隊を第2列島線内に配置された「アウトサイド部隊」がバックアップして、「縦深防衛ライン」を確立するということである。そして、これらの「インサイド・アウト防衛」部隊によって、戦争の初期から米軍による西太平洋の「シー・コントロール」を確保する、というものだ。

新たに提案された、この「海洋プレッシャー戦略」の根幹にあるのが、「インサイド・アウト防衛」という作戦構想である。
この作戦構想の実戦的運用指針は、「第1列島線に沿って、精密な攻撃ネットワーク、特に陸上の対艦・対空能力を配備し、生命、財産などという多大なコストを払わずに、迅速に侵略によって利益を得る中国の能力に対抗すること」と同報告書は提示する。つまり、琉球列島へのミサイル配備網の構築だ。
「海洋プレッシャー戦略」の全体的概要について、もっと詳細に見ておこう。
同報告書は、第1章の冒頭で「戦略の概要」として「陸軍と海兵隊が地上戦を開始することを含む海洋プレッシャー戦略」と銘打っている。ここに海洋プレッシャー戦略の核心的な実戦的指針がある。
つまり、従来の自衛隊による第1列島線配備である南西シフトを、米国の陸軍・海兵隊が、共同作戦として担うということであり、この具体的内容は、米海兵隊、米陸軍を第1列島線へ配備するということだ。
この戦略概要では、具体的には第1列島線に沿って、生存性の高い精密攻撃ネットワーク(ミサイル網)を構築すること、海軍、航空、電子戦、その他の能力を背景に、米国と同盟国は海上の目標に対して「地上配備の対艦ミサイル」を発射する態勢を作ること、「地上配備ミサイルの数」を増やすことを求めている。
また、これら精密攻撃ネットワーク(ミサイル網)は、作戦上、西太平洋の島嶼に沿って「地理的に分散配置」され、これは中国軍のA2/AD脅威の範囲内から中国軍を攻撃するための「インサイド」部隊として機能し、さらに遠く離れた場所からも戦闘に参加する「アウトサイド」の空軍と海軍の支援を受けることになるとしている。
そして、「前方配置された航空部隊」は、新しい基地構想の下、「遠征用飛行場に分散」する。海軍は、第1列島線の背後の位置する場所に出撃するか、あるいは海岸線に沿って出撃して、危険度を減らすという。

これを報告書は、フットボールに例えるならば、生存可能な内部の攻撃網が防御ラインとして機能し、機動力のある外部の空軍と海軍がラインバッカーとして機能することになるという(ラインバッカーとは、ディフェンスラインとディフェンスバックの間、守備陣の真ん中に位置する選手)。

●海洋プレッシャー戦略が想定する戦場
最後になったが、海洋プレッシャー戦略が想定する有事とは、どのようなものか、想定される戦場はどこか。2021年4月の日米首脳会談以後、日本では、「台湾有事」キャンペーンが異様に強調されているのだが、果たして「台湾有事」はあり得るのか。
海洋プレッシャー戦略では、この有事について「地理的設定・西太平洋」として、「アメリカと同盟国のアナリストは、西太平洋における中国との衝突は、台湾、南シナ海、東シナ海のいずれかで起こると想像している」として、それぞれの可能性について詳述している。
まず台湾だが、「中国が台湾を攻撃した場合、米国は戦争に巻き込まれる可能性があり、米国の指導者たちは、中国が軍事力によって現状を変えようとしないようにとの長年にわたる公然とした警告を行っている」とし、中国軍の作戦計画の多くが、「主な戦略的方向」として台湾を指定していることに言及する。しかし、提言書はいう。
「中国が主目的から注意をそらすために戦域内でフェイントをかけた場合、複数の場所で紛争が発生する可能性がある。米国と中国の間の将来の紛争は、特に中国の利益とそれをパワープロジェクションによって保護する中国軍の能力が高まるにつれて、北朝鮮や西太平洋の向こう側でも起こるかもしれない。そのような場合でも、中国海軍は中国沿岸の基地から第1列島線を経由して出撃する必要がある。また、遠方での軍事行動を行う際には、中国本土を攻撃から守らなければならない。したがって、第1列島線における紛争シナリオを理解することは、そこでの戦争であれ、遠くでの戦争であれ、必要不可欠である」と。
また、提言書は具体的に「南シナ海」では、「中国の南シナ海の軍事化が進行しているため、米軍を巻き込んだ紛争が発生する可能性がある」とし、「南シナ海における中国の軍事化は、意図的な攻撃以外にも、不用意な衝突を引き起こす危険性がある。中国軍と航行の自由作戦を実施している米艦船を含む他国の軍隊との間で対立を引き起こす可能性がある」としている。
さらに「東シナ海」では、「中国が日本と東シナ海の領有権問題で好戦的な態度を続ければ、日本との相互防衛条約に揺るぎないコミットメントを持つ米国を巻き込んだ戦争に発展する可能性がある」とし、「軍事力が互いに近接して影を落とす中で、艦長やパイロットの1つのミスが各国を軍国主義的な危機へと突き動かす可能性がある」としている。

●海洋プレッシャー戦略下の「ライトニング空母構想」と海自の空母運用
ここで付記しておきたいのが、「ライトニング空母構想」と言われる海軍・海兵隊の計画と海自の空母運用についてである。
この「ライトニング空母」構想は、米海兵隊による、2017年の海兵隊航空計画(2017 Marine Aviation Plan)で発表されたもので、具体的には、2025年までに185機のF35Bを運用し、7隻全ての最新鋭強襲揚陸艦にそれを搭載・配備するというものだ。つまり、米強襲揚陸艦にF35Bを搭載した多数の「小型空母」を揃え、既存の大型の攻撃型空母に替わる、「安上がりの空母」を大量に配備するという計画だ。
この構想は、すでに実施されつつある。米海軍佐世保基地には、現在、最新鋭の大型強襲揚陸艦「アメリカ」(全長約260メートル、約4万4000トン)が配備されているが、「アメリカ」には、すでに米岩国基地のF35Bを搭載し、運用する訓練が行われている。

岩国基地では、2017年に16機のF35B(第121戦闘攻撃中隊)が、すでに配備され、以後、これにプラスして32機態勢へ増強されると発表されている。この数は、2~3個の「強襲揚陸艦・空母部隊」が作戦態勢に入るのに充分である。
明らかなように、海自のF35導入と「いずも」「かが」型護衛艦の改修による「空母保有」計画は、この米海軍の「ライトニング空母」構想と連動し、一体化して進行しているのである。
まさしく、すでに始まった「いずも」改修後の米海軍との共同運用の始まりは、露骨なまでの「日米ライトニング空母」計画である。つまり、日米共同作戦による「西太平洋の海上・航空優勢の確保」(制海・制空権)ということだ。
これらライトニング空母計画の背後にあるのは、米海軍の新たな作戦構想である。それが「分散型海上作戦(DMO)」として2018年に発表された。公表したリチャード海軍作戦部長の「海上優勢維持のための構想』では、大型艦船、小型艦船、戦闘艦、揚陸艦、無人艦艇などの戦力を分散して、さまざまな水上艦艇に長射程の対艦・対空ミサイル等の攻撃力を持たせて分散配備するとともに、それらを高度なネットワークで連接する。分散しながらも一体化した攻撃力を発揮する。つまり、敵に攻撃対象を絞らさせず、A2/ADを広く強化するというものだ。

●海洋プレッシャー戦略下の「遠征前方基地作戦」(EABO)
このように、米国は海洋プレッシャー戦略下で、アジア太平洋の制海権・制空権を確保する、新たな戦略に入りつつある。これが「紛争環境における沿岸作戦(LOCE)」、「遠征前方基地作戦」(EABO)であり、「フォース・デザイン2030」という米海兵隊の大転換戦略だ。
米海兵隊の「フォース・デザイン2030」では、「最初のステップとして、単一の海兵沿岸連隊(MLR)形成を作成する」としており、この部隊が、在沖縄第3海兵遠征軍(3MEF、うるま市のキャンプコートニー)に編成される「海兵沿岸連隊」として、すでに発表されている。
海兵沿岸連隊は、このEABOを実現するために特化された部隊である。これらは、現部隊である3個海兵連隊を改編し、ハワイ、沖縄およびグアムに配備するという。また、この海兵沿岸連隊は、歩兵大隊、対艦ミサイル中隊を基幹とする沿岸戦闘団、沿岸防空大隊、兵站大隊から編成される予定である。この部隊は、2022年までに仮編成され、その後沖縄などへ配備されるという。
「台湾有事」の日米共同作戦計画で明らかになった、琉球列島の40の島々への海兵隊ミサイル配備計画が、この「遠征前方基地作戦」(EABO)として計画化されているのは明らかである。

小西誠(軍事ジャーナリスト・当会オブザーバー)

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