バイデンが迫る「非核の国是」放棄/日米韓〝核〞協議体創設
核・原発問題国際韓国大統領「国賓級訪米」に米国の狙い
4月26日、尹錫悦韓国大統領が国賓として訪米、バイデン大統領との首脳会談後、「ワシントン宣言」を採択した。
この宣言の核心は米韓“核”協議グループ(NCG)の新設を決めたことだ。これは米国の核使用に関する同盟間の協議体で、これまでNATO(北大西洋条約機構)との間でしかなく、アジアの同盟国では初めてのものだ。このNCGが、本誌5月号で述べた米政府の目指す日米韓“核”協議体創設のための“つなぎ”のようなものであることは明白だ。まずは米韓が動き、次に日米につなぐという米国の作戦であろう。案の定、ワシントン宣言を受けて日本政府は「様々なレベルでの(核抑止をめぐる)協議を通じ実質的な議論を進めていきたい」(松野博一官房長官)と応じた。
今回の尹大統領訪米、米韓首脳会談の主要目的がどこにあるかは明らかだろう。それが米国にとってどれほど重要なものかは、バイデン大統領の尹大統領への厚遇ぶりが示している。国賓待遇もさることながら、上下両院議員合同の米議会での尹錫悦演説、そこでの拍手が60余回、スタンディング・オベーションが20余回という、異例ともいえる歓待ぶりだ。
そしてさらなる「特別待遇」が尹大統領には与えられた。それは国家軍事指揮センター(NMCC)視察だ。NMCCは世界の核兵器を監視し、米軍が核で報復攻撃を行なう際の指揮統制拠点となるとされる国防総省内の最重要軍事施設である。これまで立ち入りを許可された外国人は、英首相など少数という機密性の高いもの。異例中の異例の特別待遇といえる。
なぜここまで米国は尹大統領を厚遇したのか? 韓国内では支持が30%台、不支持は50%台超という「弱い」大統領である。しかし米国には最高に「使い勝手のよい」大統領、米国による米国のための米国の政治を代行してくれる「傀儡」大統領だからだ。
その使い道の大きな1つが日本を巻き込む日米韓“核”協議体創設にあると見るべきではないだろうか。
脚本・演出バイデン 主演は尹錫悦
バイデン大統領は尹大統領に「政治的な勇気と対日外交に関与したことへの感謝」を述べた。国内的に「土下座外交」の非難を受ける政治的リスクを伴う日韓元徴用工問題で、大幅に譲歩してまで3月の日韓首脳会談実現を主導した尹大統領の「政治的勇気」を称賛したのである。
尹大統領の「勇気ある政治的決断」で日韓首脳会談開催が決まるや、即米国は動いた。読売新聞(3月8日付朝刊)は一面トップ記事で、日韓正常化の動きを受け米政府が「“核の傘”日米韓協議体」創設を日韓に打診していることを、ワシントン特派員がリークした。
これは拙速な日韓正常化の主要プレーヤーが誰であり、その目的が何であるかを示すものではないだろうか。脚本・演出バイデン、主演は尹錫悦の突然の日韓正常化。目的は日米韓“核”協議体創設、そしてその初舞台がG7広島サミットだったのだろう。
米国の目論見通り、3月16日の尹大統領訪日、5月7日の岸田首相訪韓でシャトル外交が復活した。拙速ではあれ日韓正常化で、ひとまず日米韓同盟強化、日米韓“核”協議体創設の障害物はクリアされた。その後、G7広島サミットの際には日米韓首脳会談が持たれ、広島の地から日米韓“核”協議体制創設に向けて新たなスタートが切られた。
日米韓〝核〞協議体の狙うもの
日米韓“核”協議体創設の米国の狙いは何か? 「紙の爆弾」5月号で述べたことだが、再度確認すれば、「核持ち込み容認」と「日米核共有」を日本に認めさせることだ。
読売新聞(2月15日付)の取材に答えて、ブラッド・ロバーツ元米国務次官補代理(オバマ政権時、核・ミサイル防衛担当)は「岸田首相は…核抑止力を効果的に保つというアプローチを明確にすべきだ」としながら、次の2点を強調した。
第1は、「アジアに核兵器が配備されていない核態勢は今日では不十分」だということ。日本の非核3原則を見直し、せめて日本への核配備、「核持ち込み」を容認せよという要求だ。
第2は、NATOのような核使用に関する協議システム、「日米核協議の枠組みが必要」だということ。NATOと同様に、米国と日本との間にも「日米核共有」システム、すなわち有事には自衛隊も米国の核を使うことを可能にする「拡大核抑止」システムが必要だということだ。具体的には米国の核抑止力の一端を自衛隊も担え、新設の自衛隊スタンドオフミサイル部隊の中距離ミサイルに戦術核搭載を可能にせよ、という要求だ。
なぜ戦術核の日本配備になるかといえば、ICBM(大陸間弾道ミサイル)搭載の戦略核となれば米本土からの発射となり、米国が報復攻撃の危険を負うことになる。これを避けようというずるい計算から来るものだ。「報復攻撃を受けるのは日本。それでいいのだ」というのが米国の思惑である。日米韓“核”協議体が創設されれば、上記2点が議論の焦点になるのは明確だ。
ところで先の米韓“核”協議グループに関しては、韓国への「戦術核配備はない」「核共有もない」とバイデン大統領は明言した。これをどう見るべきだろうか?
まず「北朝鮮の核の脅威」への対応を主目的とする韓国には、米国は核配備と核共有を急ぐ必要を感じていない。戦術核配備と核共有の本命はあくまで日本だ。米国の拡大核抑止戦略の基本は、米中新冷戦戦略のためのものであり、米国の「対中対決最前線」は韓国ではなく日本。したがって、戦術核配備と核共有の本命はあくまで日本である。
さらに言うなら、非核を国是とする日本の国民感情を考慮すれば、日米韓“核”協議体創設が「核配備」や「核共有」につながるという印象を与えると、日本国民の警戒心を呼び起こす、よってあえて米韓で「それはありませんよ」ということを強調したものともいえる。
非核の国是に触れることは、日本国民の「虎の尾を踏む」危険を持つ、このことは米国も十分承知だ。よって日本国民の非核意識をいかに無力化するかがこの日米韓“核”協議体の目的達成のための鍵だと米国は考えている。
この“非核意識無力化”のための対日宣伝工作はすでに始まっている。それだけ日本に対する米国の「核持ち込み容認」「日米核共有」要求は本気だということだ。
「核に無知な日本人」を啓蒙する「広島の声」
G7サミットのひと月前の4月15日、読売新聞主催のサミット開催記念シンポジウムが「被爆地」広島で開催された。このシンポジウムへのメッセージで川野徳幸・広島大学平和センター長は次のように呼びかけた。
「今後、核廃絶の理想と、米国の“核の傘”に守られている現実の隔たりが深刻化するかもしれない。それでも、その葛藤から逃げずに議論するべきだ」
これが「広島の声」だという形で読売新聞は伝え、こう続けた。
「広島は核なき世界をかかげるシンボリックなまちで、これまで核抑止論を含む安全保障の問題を正面切って議論することは少なかった」
つまりこれまでは「核廃絶という理想と現実の葛藤となる」核抑止の議論を避けてきた、しかしいまは現実の核の脅威から「逃げずに核抑止を議論」すべきだと、この広島大平和センター長は訴えたのだ。要するに、G7広島サミットを契機に、非核日本のシンボルの地「広島の声」として、「核抑止力強化」の議論を「葛藤から逃げずに」高めていこうということだ。
このシンポジウムで「安全保障問題の第1人者」とされる兼原信克元内閣官房副長官補(同志社大学客員教授)はこう述べた。「日本の最大の弱点は、核に対する無知だ」日本人の非核意識は「核に対する無知」から来る、そのため現実の「核の脅威」から目をそらし逃げていると、彼は宣ったのである。
こうしたなかで前述のブラッド・ロバーツ元米国防次官補代理は「核に無知な日本人」に対する1つの「啓蒙の書」を、自分の研究所の「報告書」として作成、公表した。この「報告書」作成には唯一の外国人として高橋杉雄防衛省防衛研究所室長が参加しており、その事実こそが、この「報告書」が誰に向けた「啓蒙の書」であるかを示している。またロバーツ氏に関して付け加えれば、前述の読売新聞主催の広島でのシンポジウムで基調講演もやるような、いわば「対日“核”世論工作」担当者ともいえる人物だ。
『第2の核超大国・中国の台頭―アメリカの核抑止戦略への影響』と題した「報告書」について、ロバーツ氏はフジテレビ系「プライムニュース」に防衛省の高橋杉雄氏と共に出演し、日本人に対し「核の脅威に対する理解を深める」(本人の言葉)よう解説を行なった。「報告書」では、まずロシアによる核戦争挑発の度合いが高まっていますよと、核戦争の危険が「現実」に存在することを日本人に教えながら、具体的な日本の脅威として中国の「核軍拡」への警鐘を鳴らした。
中国は核大国として、今後10年ほどで質量的にアメリカと同等の存在となる。核弾頭数でいえば、中ロ合わせて3000発に対して米国1500発という不均衡が生じる。これが現在の深刻な「核の脅威」であると“警告”し、また中国の新型ミサイルの大量導入もいまある現実の脅威であることを説いた。
「葛藤から逃げずに核抑止力を議論」するための現実の「核の脅威」に対する日本人の「理解を深める」宣伝工作。それはすでに着々と開始されているのだ。
「非核の国是堅持こそ安全保障強化策」の議論を
日本人は「核に無知」とした兼原氏は、あるテレビ番組でこう国民を脅迫した。「非核の国是を守ることが大切か、国民の命と安全を守ることが大切か、議論すべき時が来た」と。
非核の国是を日本の安全保障と対立する存在とする「安全保障問題の第一人者」。国是を愚弄することは、日本という国を否定するに等しい。米国による対日“核”宣伝攻勢が始まったいま、まさに日本の性根が問われている。非核の国是放棄、米国による対中・代理“核”戦争国化こそ日本の安全を危険に陥れる。
非核の国是は日本の安全保障と対立するものではない。いや「非核の国是堅持」こそが、強固な日本の安全保障策であることを明確にする、そのような議論がなされるべき時が来ている。
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1947年生まれ。同志社大学で「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕。よど号赤軍として渡朝。「ようこそ、よど号日本人村」(http://www.yodogo-nihonjinmura.com/)で情報発信中。