日本の左派・リべラルの自国批判は行き過ぎている!?
社会・経済最近は日本の左派・リベラルな勢力(市民運動家・メディア・政治家など)がバブル崩壊後の約30年間の日本政治を厳しく批判しています。そのほとんどは自民党支配だったから、自民党が日本経済の衰退に全面的な責任があるという批判です。たしかに日本は1995年まで豊かで格差の少ない社会だった。
相次ぐ規制緩和で非正規労働者を2倍に増やして、名目賃金が低下したので、購買力の低下を招き、日本経済はだめになった。その原因を作ったのが自民党であり、その罪が大きい。それをはっきり言うのは左派の役割です。右派が起こした「日本がすごい」ブームに断固反対しなければなりません。あるいは右派が主張している日本人の質素な生活習慣は日本特有の文化であり、日本人は我慢強い国民性だから、現在の日本の状態に満足しているという発言に違和感を覚える。
貧しい生活はどんな国でもつらい。そういう左派・リベラル勢力の運動は戦後の歴史のなかで珍しい。平和・憲法9条を守る運動は戦後ずっと続いているが、憲法25条(すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する)を守る運動はこれまであまり注目されてこなかったので、私もこの運動に期待している。
ただその「日本たたき」は、私の周りにいる日本人を見ているとちょっと行き過ぎているのではないかと思う。とくに海外をよく知っている方は日本がそんなに悪くないと思う。日本の衰退はとくに四つの指標で示されます。それは、GDP(国内総生産)、会社の時価総額の世界ランキング、実質賃金の動向、そして生産性。
ここで私は疑問に思うことがある。詳しく見てみよう。GDPは大事な指標だが、ちょっと古くなった。昔は経済成長と福祉国家・民主主義とリンクがあって、成長なしで福祉国家が退いた。ただいまは気候変動・環境問題のなかで経済成長にあんまり期待できないという声は欧米でだんだん強くなってきた。日本の左派も社会変化だけではなく、社会的な問題とエコロジーを一緒に考えたほうが良いと思う。
そしてGDPはいろいろなマイナス面がある。富の分配に触れてないし、基本的に生活の質ではなく、量を示している。料理がおいしいではなく、食料品をいくら生産する、いくら消費する指標である。たくさん食べれば、病気になって、医療費も上がるが、幸福度は上がらない。もちろん量も大事な面はある。コロナ危機のなかで先進国でさえお腹を空かせている人が増えている。でもいまの気候変動・資源不足のなかに消費しすぎたことも考える必要がある。
そして確かに1人当たりの購買力平価(PPP)は1995年に日本ですごく高くて、そのあとにほかの国と比べて足踏みの状態である。しかしどうしていつも95年と比べなければならないか。80年と比べれば、日本のPPPは現在と同じようにアメリカとドイツのビハインドにある。80年からの15年間は日本にとってすごくいい時期であった。
もう一つの指標は会社の時価総額ランキングです。日本の左派・リベラルはトップの座についているGAFAを憧れているように見えるが、それはちょっとおかしい。アマゾンなどは非常に問題がある会社である。プラットフォーマとして民主主義のコントロールの下に置くべきあるが、それもできていない。そして、税金もあんまり払ってない。そして日本の企業が時価総額を増やしたい場合は、合併をもっと積極的すればいいです。自動車メーカーが10社ぐらいあるのはちょっと多すぎではないだろうか。
つぎは実質賃金。25年間会社の利益が上がっても、実質賃金はほかの先進国と違ってあまり上がっていない。それは確かにすごく不平等である。ただ労働分配率は先進国でおおむね低下している。日本の労働分配率は1997年あたりかなり高かったので、そのあとは低下した。現在はほかの先進国と比べて、それほど変化していない。
実質賃金の話になると日本の生産性の弱さも指摘されています。日本の製造業の生産性はまだいいですが、非製造業の分野ではほかの先進国と比べて低いです。ただおもな理由は日本のサービスの良さです。そこは効率の悪い面もありますが、結果としては日本のサービスは時間通りに、正確、心地よくて行われています。欧米ではいくらデジタル化が進んでも電車は相変わらず遅刻しています。
日本のお客さんがいいサービスに慣れたから、変えることが難しい。お客さんの前で間違いを起こすのは失礼だから、準備・工夫などに時間がかかる。そして給料はなかなか上がらない状態である。日本の労働分配(仕事の分け方)も非効率的である。欧米ではしっかりしているが、日本では非効率で無駄が多い。その代わりに日本の会社員は目の前の仕事だけではなく、周りの仕事も考えている。
日本の相対的貧困率は80年代と比べてずいぶん増加した。ただそれは例えばドイツも同様である。そして日本の日常生活の質はまだまだ高い。交通機関は便利で、インフラも整備され、料理もおいしい。日本の左派・リベラルの行き過ぎた自国批判は国民の実情を必ずしも反映していないかもしれない。
スロベニア系の両親にドイツ生まれで、二歳でスイスへ移住し、スイス国籍を取得。チューリッヒ大学で歴史とアメリカ文学を学び、1988・89年に東京に留学。バブル期の日本を体験し、大学卒業後に日本に移住。日本でサラリーマン・漫画翻訳の仕事をした後に311・フクシマをきっかけにジャーナリストとなり、現在はスイスの週刊新聞Wochenzeitungとドイツの日刊新聞jungeWeltのために取材を続けている。