【連載】モハンティ三智江の第3の眼

第7回 ジャニーズ事務所の性虐待は許せない!インドの芸能界・宗教界もセクハラ疑惑

モハンティ三智江

最近巷を賑わせている芸能ニュースは言わずと知れた、ジャニーズ事務所(Johnny & Associates Inc./ 1962年創設)の性加害問題だ。2019年に亡くなった同事務所の創業者で元社長のジャニー喜多川氏(1931-2019、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス市生まれ、日本名は喜多川擴=きたがわひろむ。英語名はジョン・ヒロム・キタガワ=John Hiromu Kitagawa。「ジャニー」=Johnnyはショービジネスで知り合ったアメリカ人から付けられた愛称、詳細は末尾参照)が自プロダクションの所属タレント、11歳から16歳頃の未成年男子に性虐待を強いていた事件である。

この問題に関しては、何十年も前から(1960年代)取り沙汰されてきたが、本2023年3月にBBC(イギリス公共放送)が取りあげたことで改めて明るみに出(ドキュメンタリー番組「Predaor:The Secret Scandal of J-Pop」=J-Popの捕食者 秘められたスキャンダルhttps://youtu.be/zaTV5D3kvqE)、元ジャニーズ事務所タレントのカウアン・オカモトさん(27歳)や橋田康さん(37歳)が記者会見、国会で性被害の実態や対策が審議され、これまで黙殺してきた大手メディアもようやく取り上げ出したいきさつがあった。

賠償金目当てや売名行為との中傷誹謗もある中で、臆せず名乗り出た被害者の勇気ある告発にはエールを贈りたいし、後代タレントたちが同様の被害に遭わないように法整備を訴える真摯な姿勢には頭が下がった。以後、me too(ミーツー)現象で続々告発者が現れ(現在12人)、問題は日ごとに大きくなり、ついに、大元のジャニーズ事務所も看過できなくなり、現藤島ジュリー景子(1966~)社長が5月14日夜謝罪動画と書面を公式サイトで発表、対策に乗り出した。が、ジャニー喜多川氏の姉のメリー喜多川さん(1927-2021)の娘である藤島ジュリー代表(2019年から代表取締役社長就任)の叔父である先代社長の性虐待について「知らなかった」発言は明らかな嘘と、被害者のみならず現タレントにも批判された。

そもそもの発端は1960年代、今から59年も前に遡る。1964年にジャニーズ事務所の前身、新芸能学院の生徒に対する猥褻行為が問題となり、民事裁判となったものの、当時は同性愛がタブー視されていたこともあって、あまり表沙汰にはならなかった。1988年には元フォーリーブス(1967~1978年まで活動した男性4人のアイドルグループ、2002年再結成)のリーダー・北公次さん(1949-2012)が「光GENJIへ」(データハウス)と題した暴露本で(後年も続刊の10冊シリーズ)、少年愛に取り憑かれたジャニー喜多川氏から強いられた性関係を赤裸々に告白し、後輩タレントに二の舞になるなと警告した。当時16歳だった北さんはジャニー喜多川氏(33歳の美青年だったとか)と同棲し始め、4年半にわたって毎晩性関係を強要されたそうだが、デビューして有名になりたさにじっと我慢、上辺は親密な愛人のような関係だったと言う。

さらに翌89年には元初代ジャニーズの中谷良さん(75歳)も「ジャニーズの逆襲」(データハウス)という本で告発、90年代には平本淳也さん(57歳)が「ジャニーズのすべて 少年愛の館」(鹿砦社、1998年)と題された暴露本を刊行、以後も元タレントによる告発書が次々出版されながら(計12冊)、大手メディアは、週刊文春が1999年にすっぱ抜き、裁判沙汰にまでなっていたのを除いて(ジャニー氏が名誉毀損で訴え、1億円余りの損害賠償を要求した民事訴訟)、見て見ぬふりを通してきた。男性間ということでタブー視され、また所詮芸能界のスキャンダルと軽視されたこともあったかしれないが、最大の理由は大手プロダクションと大手メディアの癒着、芸能業界の押しも押されぬトッププロダクションとの利害関係からの忖度によるものだった。

ジャニーズ事務所は莫大な利益を見込める所属タレントの公式カレンダー発売権をメディア各社に与えており、利益共同体であることの暗黙のプレッシャーがかかって、口をつぐまざるを得なかったというのが真相た(末尾の※注1参照)。

なおかつ、日本の法律では、2017年に110年振りに性犯罪に関する刑法が改正されるまで、強姦の被害者は女性と特定され、男性は加害者側で性被害にあうはずがないと思い込まれていたこともあって、単なるいたずらと軽視され、社会的にもタブー視されて、被害者が声をあにくい現状もあった(末尾の注2参照)。

またジャニー喜多川氏の自宅マンションを合宿所として寝起きしていた、デビュー前のジャニーズJrと言われる少年たち自身も、絶大な権限を持つジャニー氏からの関係強要を性虐待と取らず、有名になるための通過儀礼とあえて受け入れていた節があった。そういうことから、悪習が助長され、搾取は加害者の死まで続けられてきたわけだ。毎日欠かさない慣習になっていたと言うから、50年以上にわたって被害者は千単位にのぼっただろうと憶測すると、空恐ろしい。いったい何百、いや何千の少年が有名になりたい一心で、悪儀礼を通過しただろうと考えると、背筋に悪寒が走り、痛ましい。それが今もトラウマになってカウンセリングを受けている人も少なくないと思うと、権力を笠に着て搾取し放題、ジャニー氏が思春期の少年たちに与えた傷、罪は大きい。

芸能業界に多大な功績を残し、神と讃えられた社会的にも尊敬に値する有力者が裏で、悪魔の仕業に耽溺していたわけで、犠牲(いけにえ)になった少年の数を思うと、芸能界に長年君臨してきたジャニーズ事務所ではあるが、場当たり的な改革でなく、解体に近いような大胆さで膿を出し、新しい未来に踏み出すべく社名変更も辞さないような大変革が必要と思う。

BBCのドキュメント映像を観て、私が何より喫驚したのは、親の一部も有名になるためなら「尻くらいぱーんと出せ」と黙認どころか、そそのかしていたような節があったことだ。この事実は、一男児の母親でもある私には、ショックだった。我が一人息子(インド人夫との間に設けたハーフの男児)もインドの芸能界入り、人気ラッパー(芸名Rapper Big Deal)として活躍しているが、13歳のときに送った寄宿舎で虐待問題に苦しみ、後年そのトラウマを知った私は、寄宿舎なんかに送らなければよかったと、悔いたことがあったからである。英語一本で授業が行われる寄宿舎に送れば、息子の将来の助けになると、ある意味親のエゴだけで本人無視の決断、一端教育ママの顔で、エリート校に送るという見栄がなかったと言い切れない。

英コロニー来のインドの名門寄宿舎の実態は一皮剥けば、盗難あり喫煙・ドラッグ癖あり、果ては虐待まで(小柄で肌白と外見が違う息子は格好のターゲット)とひどいもので、息子はトラウマを乗り越えるべくラップ制作や演技にのめり込み、それが後年プロの道へと繋がったわけだが、今も寄宿舎時代の虐待者のことは許せていないようで、深い傷を残している。いたいけな思春期の少年の心が傷ついた事実は消せず、それが我がお腹を痛めた子供のこととなると、私もショックを隠し切れず、寄宿舎に送ったのは間違いだったとまで、後年悔いることになったのだ(まあ、寄宿舎に送っていなかったら、英語を自在に駆使する「インドのエミネム」と賞賛されるラッパーにもなっていなかったわけだが)。

だから、被害者のひとり、橋田康さんが13歳のとき受けた性加害に際して、ショックで混乱し、シャワーを浴びて泣き崩れたと告白するのに、胸がひとしお傷んだ(末尾の※注3参照)。性の知識や経験がろくにない未成年男子だから当然のことで、恥ずかしくて親にも言えないし、挙句にそのショックを上塗りするように、事後一万円を手渡され(ジャニー氏からの常習)、自分の価値はこの程度かと打撃を受けたとあったが、まるで買春と、私も唖然とした。もう一人、別の動画で告白した二本樹顕理(あきまさ)さん(39歳)のトラウマは深く、ジャニーさんと同じ年代の(当時50~60代)男性を見ると、怖くて応対できず、カウンセリングを受けたケースも、告白中の顔の暗い厳しさを見ても、多感な思春期に負った傷がいかに深かったかが窺え、胸が詰まった。

しかし、なかには、BBCの一証言者のように、ジャニー氏が嫌いでなかったし、尊敬していたと、悪いこととわかっていて、あえて目をつぶって受け入れた少年も少なからずいたようだ。

前述の平本淳也さんの証言によると、ジャニー氏の合宿所と称されるマンション(未成年の飲酒喫煙も黙認していた)始め地方公演のホテルだけでなく、レッスン場でも悪しき行為は大っぴらに行われていたようで(毎日欠かさずと証言)、監督するジャニー氏の膝に乗って股間をいじられていた少年がいて、衆人環視のもとだったという事実はショックだったが、それ以上に衝撃だったのは、レッスンを受けている少年たち、タレントの卵が自分もジャニーさんの膝に乗りたいと焦がれていたとの証言だ。

グルーミングという言葉があるが、少年たちは有名になることと引き換えに人身御供で我が身を差し出し、それが虐待とか搾取にあたるとも自覚せず、スターになるための通過儀礼と受け入れていた節があるようだ。神のような存在の帝王ジャニー氏を崇め、望まずとも触れられることで絆が強まり、デビューして有名になれるならとあえて受容、いわば手なずけられていたようだ(トラウマ的絆・愛着はストックホルムシンドロームと共通するものがある)。がために、被害者のなかには、ジャニー氏に悪感情を抱かず、2004年の裁判では、最後にジャニー氏へのメッセージをと促され、「長生きしてください」と贈った被害者もいて、それがジャニーさんを動かし、一部性加害を認めるような発言を引き出したと言われる(東京高裁は性虐待があったと事実認定、朝日・毎日・中国新聞がベタ記事報道)。

まさか加害者当人のジャニー氏もあの世から、さすがにここまで暴かれては顔向けできないと恥極まり、愕然とうなだれているかもしれない。

とまれ、再発防止に向けての、速やかな法整備を望む。顔出しして性被害を告白した元アイドルたちの勇気に報いるためにも、いたいけな少年たちが無自覚のまま、触れられる混乱やショックで、後年フラッシュバックのトラウマに見舞われる悲劇は人道上、あってはならないことだ。

公共放送のNHK始め新聞・雑誌などの大手メディアが、これまで黙殺してきた自らの闇とも向き合って、児童性虐待撲滅のためのキャンペーンを遅まきながらも張ってほしい。

☆トピックス/インド映画界のキャスティングカウチ(枕営業)

ボリウッド

ボリウッドのトップベテラン男優のひとり、サルマン・カーン(Salman Khan、1965~)とダンサーたち。インド映画に歌と踊りは欠かせず、ミュージカル、アクション、ロマンスが一緒くたになった超娯楽大作、マサラ(各種スパイス)ムービーと言われるゆえんだが、インドの芸能界もスキャンダルまみれだ。

 

芸能界の闇は無論、日本だけのことではない。ハリウッド然り、ハリウッドをもじったボンベイ(西インドの商都で現ムンバイ)が本拠地のヒンディー映画界、通称ボリウッド(Bollywood)もマフィアとの癒着や、ドラッグ汚染(コカインなど。インドでは大麻・マリュハナは安価で公然と行き渡っている。法的には禁止)や、キャスティングカウチが通称の枕営業が公然とまかり通っている。女優が役欲しさに、プロデューサーやディレクターに身を投げ出すのは日常茶飯だ。私は一時期ボリウッドにハマって、スターのインタビューやゴシップ記事の載った映画雑誌(Stardust、CineBlitz、Movie等)を月3、4冊貪り読んでいたため、キャスティングカウチと言われる悪慣習、女優の搾取問題が横行している事実を知った。同業の人気男優から、駆け出し女優が求められることもあり、野心のために身を投げ出す女優は後を絶たない。

ボンベイ

エロス・ムービーシアター(ムンバイ=旧ボンベイ)。ボンベイが本拠地のヒンディー映画界はハリウッドをもじってボリウッドと称され、庶民にも大人気。中東にも輸出される巨大娯楽産業だが、マフィアとの癒着、ドラッグ、キャスティングカウチと芸能界の闇は、世界どこも変わらない。

 

日本でも同様、枕営業は半ば公然、真偽は定かでないが、宮沢りえ(1973年~)がりえママの命令で、CMの仕事で共演し同宿していたビートたけし(1947年~)の部屋を夜に訪ね、健気に我が身を差し出そうとしたところ、たけしは慌てて自室に送り返したとのことだ(1992年)。枕営業を強要する芸人が多い中で、紳士もなかにはちゃんといると思うと、救われる。

男性間の性が絡む搾取は被害者も告発しづらく、男なら抵抗しろと突っ込まれてしまいそうなのに比べ、女性の搾取はあらゆる方面に及ぶ、歴史的永続問題だ(ジャニーズ事務所の問題が真摯に取りあげられるまでに、加害者が亡くなり、59年もの長い歳月を要さなければならなかった問題の難しさがここにある)。

☆トピックス2/超能力聖者サイババの性虐待?

サイババ

日本では超能力聖者として知られるインドのサイババにも、過去セクハラ疑惑が持ち上がったことがある(写真はサイババ20歳の頃)。


サイババ(サティヤ・サイ・ババ=Sathya Sai Baba、1926-2011、1918年死去したシルディ=Shirdiのサイババの生まれ変わりの2代目)というインドの有名聖者のことはご存知だろうか。既に亡くなっているが、日本でも90年代の一時期、何もない空中から聖灰(ビブーティー)や指輪・時計などの貴金属類、神々の像を引き出す超能力聖者として話題になり、関連本(「理性の揺らぎ」青山圭秀、三五舘/1993年)がベストセラーになったので、ご存知の方も多いと思う。カーリーヘアでちりちりパーマ、ぱーっと広がっている髪型に特徴があったので、記憶に残る方もいるはずだ。

さて、その神の化身と崇められたサイババが生存中、性虐待問題が持ち上がったことがあることまでご存知の方はさほど多くないなかもしれない。インドのメディアは、首相が表敬訪問するほどの大物聖者のスキャンダルはもちろん報ぜず、ネットで元白人信者が告発した記事が出回った程度だが、私も含め、サイババを知る人には結構、衝撃的な事件だった。

真偽の方は今も定かでないが、元信者のみならず、サイババのアシュラム(南インドのアンドラプラデシュ=Andhra Pradesh州プッタパルティ=Puttaparthi在)経営の学校の生徒も被害にあったとかで、トラウマで立ち直れなくなった少年もいたらしい。セクハラ疑惑のあったサイババについての詳細は以下、拙ブログ「インドで作家業」に記した関連記事をご覧いただきたい。

「サイババの真贋」(2007年9月)
https://blog.goo.ne.jp/michiemohanty/e/8ef5f31172ddb24a6b0f964098fc73f8

○脚注

※注1.ジャニーズ事務所は、カレンダー利権を各出版社に与えることで、関係を強固なものにし、スキャンダルを握りつぶしたり、ライバルタレントに不利な記事を書かせるなど、報道を左右することが可能であったともいわれる。

※注2.2017年の法改正で強制性交等罪が新設されるまで、強姦罪の被害者として認められるのは女性に限られていた。タレント事務所の社長が、それに抵抗することが困難な所属タレントに対して圧倒的な力関係を背景に性交を迫っても、暴行や脅迫を用いたとはいえず、強姦罪として処罰することはできなかった(現在も困難)。また、日本の性交同意年齢は明治時代から現在まで13歳のままであり、13歳以上であれば、加害者が監護者(親など)等でない限り、「抵抗が著しく困難になるほどの暴行または脅迫があったこと」が証明できなければ、強制性交等罪や強制わいせつ罪は成立しない。そのため、法律違反ではなく条例違反を指摘する形となっている。

つまり、現行の児童虐待防止法では、加害者を当該児童の保護者に限定しているため、ジャニー喜多川氏からの性被害は児童虐待にあたらないことになる。

※注3.告白者の証言を総括すると、最初は抵抗を抱きにくい入浴やマッサージから始まり、徐々にエスカレートし、性器に触れたり、口淫、場合によっては肛門性交まで及ぶ。

5月21日に自身のブログでジャニー喜多川氏の性被害者として新たに名乗り出た石丸志門さん(55歳)は、1982年~85年までのジャニーズJr時代に受けた50回に及ぶ性被害中一度だけ求められた肛門性交の実態について赤裸々に語り、報酬は3万だったと述べている。石丸さんは20年前に重度の鬱病を発症、現在は障害年金と生活保護を受けているが、医者の診断によると、鬱病の一因は少年時代に受けた性被害のトラウマ(PTSD、心的外傷後ストレス障害)にあるとのことだ。

*その他、ジャニーズ事務所の性加害問題の経過詳細については以下、「ジャニー喜多川の性的虐待疑惑」(ウィキペディア)をご覧いただきたい。
リンクはこちら

併せて、ジャニー喜多川氏の詳細な経歴を知りたい方は以下、「ジャニー喜多川」(ウィキペディア)も参照いただきたい。

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モハンティ三智江 モハンティ三智江

作家・エッセイスト、俳人。1987年インド移住、現地男性と結婚後ホテルオープン、文筆業の傍ら宿経営。著書には「お気をつけてよい旅を!」、「車の荒木鬼」、「インド人にはご用心!」、「涅槃ホテル」等。

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