【特集】ウクライナ危機の本質と背景

6月21日 停戦を要求する歴史家のシンポジウム(和田春樹、伊勢崎賢治、羽場久美子ら)/羽場久美子講演「平和と停戦への提言」

羽場久美子

Ⅰ.ブダペスト平和フォーラム
私は、6月6-7日に欧州で開かれた、ウクライナ戦争を終わらせ平和を築こうという、ブダペスト平和フォーラムの報告を最初にしたい。

これは、和田春樹先生に招聘のお声がかかったものだったが、羽場が代理で出席した。

ハンガリーの Matias Corvinus Collegium(MCC)が主催する国際会議で、世界的に有名な経済学者、国連関係、欧州関係、教授研究者、メディア関係者が参加していた。

主な参加者はジェフリー・サックス:コロンビア大学教授、キショール・マフバニ:元国連安全保障理事会議長、リヴァ・ガングリー:インド政府外務省長官、ミヒャエル・フォンデア・シュレンブルク:元国連上級ドイツ外交官、欧州安全保障協力機構代表などで、インド、カタール、ドーハなど中東や欧州、東アジアからは、周波:中国清華大学教授、キム・ジュンヒョン:東亜グローバル大学教授、ペトゥル・ドゥルラーク:西ボヘミア大学教授などが出席していた。インドと中東が多かったのが特徴的である。

会のテーマ:
基本的な姿勢は、欧州における戦争の深刻な影響、戦争がインフレやエネルギー価格高騰を引き起こす中、戦争が早期に平和的に終結されることが望まれていると強調された。

その点では、和田先生が紹介されたNew York Timesの停戦要求グループと類似しており、平和への道をどう実現するか、武力紛争をいかに外交的に解決するかが議論された。

特に、戦争に反対し平和構築を強調するという当然の要求が、メディアの95%から消えてしまい逆に攻撃対象になっていることが、メディア編集者らによって明らかにされた。

日本からは北大の岩下さんが参加されていたが、彼のグループでは国際法の立場からロシアの領土侵犯の問題点が指摘され、全体としてはロシア・ウクライナ双方に距離を取りつつ、国際法の立場から解決されるべきということが強調された。

私は即時停戦を要求する立場から、日本においても大手メディアは欧州と同様戦争に反対する動きは少ないが、歴史家や政治家、政治運動家の間では近年停戦を要求する動きが広がり、停戦の署名や意見広告が広島サミットでも出され、市民の間に停戦要求が広がりつつあると議論で述べた。

ジェフリー・サックスはアメリカのバイデン政権の政策に強く反対し、ジョージ・ケナンやミア・シャイマーなどが警告するように、アメリカや欧州のNATO拡大がロシアを刺激し、経済制裁がアメリカのエネルギー産業を富ませ、世界の軍事化でアメリカの軍事産業が多大な儲けを得ていることを強調した。サックスとは個人的にも短時間だが接触し、今後もコンタクトをとることを約束、可能なら日本に呼びたい旨を伝えた。

ただその後、ハンガリー科学アカデミー歴史学研究所のメンバーなどにウクライナ戦争について話を聞いたところMCCが主張するオルバーン政権の親ロシア的な政策は必ずしも支持されていない、という声もあり、やはり欧州でも平和の動きは必ずしも大きくはないことも理解できた。他方で、インド、中東、中国などアジア、グローバルサウスと呼ばれる国々で世界的に停戦の波が広がっていることが認識され、有意義、かつ多くの識者と議論できたこと、トルコを含む研究者とネットワークを構築できたことは大変な収穫であった。

II.停戦に向けての新たな提言。
私は特に、停戦によって戦争を終わらせ、新たな平和秩序の構築を実行すべきとして、

3点について提言したいと思います。

第1はポスト広島サミットの行方である。広島G7サミットで、結果的に「核なき世界」の実現が遠い未来に追いやられてしまい、むしろ核抑止が語られた。また中国・ロシアという近隣国が招待されないのに対し、原爆の地に、戦争の一方の当事者、ゼレンスキー大統領だけが招待され「武器の送付と軍事支援」を要求しG7はこれを受けた。さらに、イギリスの劣化ウラン弾のウクライナへの供与が、ロシアの反発を生み、ベラルーシへの核配備を生み出したが、メディアは前者に全く触れないまま、ロシアの核使用の危険性のみが煽られたことである。

いつものことではあるが、全くのダブルスタンダードであった。広島でやるなら「核なき世界、核廃絶」を明言し、近隣国を招いて議論し、グローバルサウスの声にも耳を傾けるべきであった。

第2は、停戦の遅れが生む戦争の残酷化と悲劇である。これは日本の停戦・敗戦宣言の遅れをみるだけで明らかであろう。停戦の遅れが、戦争の残酷化やさらなる被害の拡大、特に若者や市民、及び社会・環境の被害が拡大すること、それが繰り返されようとしていること、を指摘したい。

第3は、そうした中、今や米欧G7ではなく、アジアアフリカなどグローバルサウス、G20の役割が拡大していることを最後に述べ、日本の歩むべき道を考えたい。

第1に、広島サミットでは、原爆資料館の訪問と被爆者との対話により「核なき世界、核兵器の廃絶」が確約されるべきであったが、むしろ核抑止とロシアの核の脅威ばかりが強調され、イギリス軍が劣化ウラン弾をウクライナに供与することについて全く触れられなかった。ロシアはそれに対してベラルーシへの戦術核兵器配備を指示した。ことについて、マスコミは後者だけを報じ続けている。

イギリスは劣化ウラン弾は通常兵器のように言っているが、とんでもない。劣化ウラン弾は核廃棄物から作られる強い放射線を持った毒物兵器であり国連の人権委員会でも、欧州議会でも使用が禁止された。半減期に45億年かかるという恐るべきものである。

湾岸戦争、イラク戦争、ボスニア紛争、コソボ紛争で米英軍は劣化ウラン弾を使い、今度はウクライナ東部でも使おうとしている。イタリア兵が被爆してEUが怒り、大問題となり、アメリカは謝罪した。が米兵が被爆してもごまかしている。米英はウクライナ東部(ロシア国境周辺)を、欧州とみなさず、EUも含めて、ウクライナ東部では劣化ウラン弾を使うことを容認したということは極めて危険なことだ。ロシアが戦術核を使えばウクライナ東部で核戦争になる。が、そこはあまりにもロシア国境に近いため自国・自民族への影響を考えるとロシアは使えない。とすると、英国の劣化ウラン弾により、ウクライナ東部は放射能汚染され東部スラブ民族と豊かな穀倉地域が長期にわたり放射線被害を受け、イラクやセルビアにも見られたように子供の奇形や放射線被害が続出することになる。ロシアが占領するなら、核汚染しても構わないという発想は人道的に信じがたいことだ。

第2に、停戦の遅れが呼ぶ悲劇については、これもほとんど語られないが、日本は忘れたのか。近衛内閣が天皇に停戦を上奏したのは1945年2月、敗戦の6カ月前だ。それを天皇と軍部が却下したことにより、3月以降、カミカゼ特攻隊が組織され、10代20代の若者が250㌔の爆弾を抱えて100%死ぬ戦いに駆り出された。沖縄戦も3月に始まりひめゆり部隊を含め多くが自決させられた。自国の軍の停戦拒否によって死を選ばされたのである。

さらにアメリカの全国絨毯爆撃が始まり、東京大空襲、本土各地核都市での絨毯爆撃、沖縄戦の敗北、その後も停戦はずるずると遅らされ、広島・長崎の原爆投下があった。それでも国民は戦争反対などできなかったのである。そう考えるとウクライナ国民の戦争支持8割(それもどう取っているか不明な2000人の統計)は歴史から見ても戦争中誰が戦争に反対を表明できるのかと言いたい。停戦の遅れは極めて残酷な市民の大量虐殺を生む。この間、カホフカダムの爆破、ノルドストリームの爆破、ポーランドへの誤爆などおかしな部分が多すぎるように思われる。

最近ロバート・ケネディの息子が、世界に800あるアメリカ基地をすべて閉鎖撤退を掲げて大統領選挙に出馬、またこの間、ブリンケンが中国を訪問し、習近平と会談などアメリカにも変化が表れてきている。アメリカの中でも変化が表れている芽を逃さず、市民・平和と停戦を望む学者としては、戦争の残虐化やエスカレートを避けるためにも、ウクライナと西側の反撃とロシアの対応がこれ以上ウクライナ東部の市民に犠牲を強いないためにも、一日も早い停戦を望む。どう停戦するか。この間ずっと言ってきていることは、2014年・15年のミンスク合意に準じる、緩衝地帯の設置、国連のPKOなど、国連決議で中立の立場をとった国々による中立軍の派遣である。

第3、最後にグローバルサウスの役割について触れておきたい。

グローバルサウスがアメリカを恐れず声を上げ始めたことは極めて重要である。中国の習近平・王毅、インドのモディ、ブラジルのルラ大統領、南ア、インドネシア、ASEAN諸国が次々と、戦争の終結を望み始めている。

領土保全、平和、発展、緩衝地帯と国連監視団の派遣により、また「ウクライナの反撃」によりこれ以上戦争が残虐化して市民の犠牲をさらに出す前に、戦争を停止するべきだ。

アメリカ・欧州の衰退はだれの目にも明らかである。それを武器輸出、軍拡、ロシアの石油の経済制裁によるLNGの輸出拡大などによる戦争利益を上げる方向に、日本は追随すべきではない。そうではなく、今、グローバルサウスと結んで、平和を作り、アジア・アフリカなど新興国が入るG20とG7を結ぶ役割こそ、日本が果たすべき役割であろう。

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羽場久美子 羽場久美子

博士(国際関係学)、青山学院大学名誉教授、神奈川大学教授、世界国際関係学会アジア太平洋会長、グローバル国際関係研究所 所長、世界国際関係学会 元副会長(2016-17)。

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