世界を裏から見てみよう:自衛隊乱射事件の真相
漫画・パロディ・絵画・写真社会・経済
精神疾患だったのか?
とんでもない事件が起きた。陸上自衛隊日野基本射撃場(岐阜市)で18歳の自衛官候補生が自動小銃を乱射し、3人が死傷した。死亡したのは菊松安親1等陸曹(52歳)と8代航佑3等陸曹(25歳)、負傷者は原悠介3等陸曹(25歳)。防弾チョッキを着用していなかったそうだが、着ていればよかったという問題ではないだろう。
候補生はなぜ発砲したのか。報道によれば、候補生は射撃訓練が始まった直後に菊松陸曹から叱責され、逆ギレしたという。
候補生は射撃位置後方で待機していた際、隣にいた8代陸曹の脇腹に向け1発発砲。続けて後ろにいた菊松陸曹の胸に2発、さらに原陸曹の左大腿部に1発を撃った。3人の陸曹は候補生を直接指導する立場ではなかったという。叱責されたことが発砲の理由なら、菊松陸曹のみを狙えばいい。2人の死傷者はとんだトバッチリとなる。いまいち話の筋が通らないと思うのは私だけか。隊員教育のあり方が問われるというのも、経緯を明らかにしてからのことだろう。
精神鑑定の結果が待たれるものの、仮に精神疾患を抱えていたとしたら、そんな人物が実弾を扱う自衛隊に入隊していたわけで、大問題だ。採用検査には「自殺企図の既往歴のないもの」「躁うつ病等の精神疾患のないもの」といった基準がある。事前の検査で病気を見つけることこそ重要だが、はたしてどこまで有効かは疑問だ。さらに、候補生は訓練前から興奮状態だった、という報道もある。ここに何か、理由があったのではないか。
このような事件は滅多に起こることではないとはいえ、約40年前の1984年にも、山口市の陸自山口駐屯地射撃場で、実弾訓練中の2等陸士(当時21歳)がいきなり同僚隊員に自動小銃を乱射、4人に重軽傷(1人死亡)を負わせた。2等陸士は銃を持ったままジープで逃走。約5時間後に市内の中学校近くに潜んでいたところを逮捕されるも、精神鑑定の結果、不起訴となっている。2等陸士は過去に不始末で停職処分を受けて退職していた「再入隊組」で、採用体制のあり方も問われることとなった。
「台湾有事は日本有事」と発言したのは安倍晋三元首相だ。そして今、防衛予算増大が進み、岸田内閣の面々は、明日にでもC国が攻めてくるかのような言動をいけしゃあしゃあと話している。戦地の極限状態で、同様の事件が起きる可能性はさらに増すのでは。いや、すでに起きていながら、隠されているのかもしれない。
石垣島に陸上自衛隊ミサイル基地が出現
沖縄県石垣島に3月16日、陸上自衛隊駐屯地が開設され、ミサイルが配備された。駐屯地は防衛省が新設を宣言してから足掛け8年となる。
石垣島から台湾までは約270キロと、まさに目と鼻の先。美しい海とサンゴ礁に囲まれた、地上の楽園ともいえる島に自衛隊駐屯地が造られ、ミサイル基地となってしまうとは、島民たちは心中穏やかではないだろう。島の人口は5万人。親戚や知人に基地工事に関連する人がいない方が珍しいそうで、生活を考えると反対できないというジレンマを、多くの人が抱えている。
島に乗り込んで自衛隊と島民の動向を丹念に取材した大袈裟太郎氏のレポート(集英社オンライン4月10日付)の、特に以下のくだりは注目に値する。少し長いが引用する。
〈この日の石垣市議会で野党議員から市長へ、敵基地攻撃能力を持つミサイルが将来的に配備される可能性についての質問が飛んだ。しかし中山市長はのらりくらりと「現時点では答えることができない」と繰り返し、ゼロ回答だった。議会制民主主義の崩壊は、中央の国会から、今や地方議会までに及んでしまったと感じた。彼は2018年の市長選の際、「防衛省が石垣に計画しているのは自衛隊駐屯地です。そこは断じてミサイル基地ではありません。ミサイル基地というのは直接、他の国の国土に攻撃できるものがミサイル基地です。もし石垣島への自衛隊基地がミサイル基地だったら、私は反対します。ミサイル基地は絶対許さん」そう演説して当選した人物である。〉
さらにこう続く。
〈そもそも彼のミサイル基地の定義が欺瞞的な解釈であることに気づく。今回、石垣駐屯地に配備されるミサイルは12式地対艦誘導弾で、射程は200キロ前後。他国には届かないが石垣から166キロの尖閣諸島には届くものだ。中国側が尖閣を自国の領土と認識していることを踏まえると、このロジックは危うくなる。〉
過去の選挙で「ミサイル基地を絶対許さん」と明言したにもかかわらず、就任してからはそのことに触れない中山義隆市長は、2010年に自公の推薦を受けて当選してから現在4期目。
昨年の市長選でも自衛隊駐屯地開設が争点となったものの、相手候補が住民投票実施を主張すると、中山氏は「国の安全保障に関わることで馴染まない」と反対。議論を避け続けた。また、市長就任時の所信表明が他市の市長のパクリだと指摘され、認めて謝罪するなど、その行動の軽薄さには驚かざるをえない。
自民党執行部のコントロール下にあることは容易に想像がつくが、こんな人物が日本の安全保障で重要なポジションにある石垣島市長の職についていること自体、島民どころか日本人全体にとって不幸なことではないだろうか。
若者が来ない「自衛隊員募集」の悩み
ネットやアニメなどを駆使しても、自衛隊員の募集活動は、年を追うごとに困難となっている。自衛官の採用数が2017年度に4年連続で計画を下回ったことで、防衛省は翌年から募集対象者の年齢上限を26歳から32歳に引き上げた。
女性人材の活用も推進し、不足を補おうとしている。2017年4月には「女性自衛官活躍推進イニシアティブ」を発表。女性の配置制限を撤廃し、「あらゆる分野で活躍する機会が開かれる」とした。同年度に6.5%だった女性自衛官の比率を、2030年までに9%以上とする目標も公表した。女性自衛官の増員に向けてはさらに、居住施設などの整備を進めるとともに、家庭と仕事の両立ができるよう、育児休暇後に復職しやすい制度や、緊急呼び出しの際の託児所の設置にも取り組んでいるという。
このまま採用難が続けば、国防の根幹を揺るがしかねないと危惧されている。自衛隊の採用対象人口(調査当時は18歳から26歳)は、ピークだった1994年の1743万人から、2018年には1105万人まで減少。その後も同様のペースで減少していくのは確実だ。中国や北朝鮮の脅威を煽りながら、肝心の自衛官不足がいつまでたっても解決しないとは、これでいいのか。
その自衛隊で、自動小銃の訓練中に乱射事件が起きたわけだが、そもそも自動小銃だけで敵に向かうことは、実戦でどれほどの意味があるのか。おそらく敵は、日本にいきなり歩兵部隊を上陸させるような作戦はとらないだろう。つまり自動小銃で立ち向かうような戦術は、少なくとも日本の国土防衛においては、そもそも存在しないということではないのか。
さらに言うなら「日本に戦車は必要か」だ。ウクライナやシリアなどの戦争と異なり、敵国軍が日本の海岸に上陸し、戦車による侵攻が始まるとは想像し難い。長距離ミサイルや、ドローンによるミサイル攻撃を仕掛けてくるのでは。いやいや、それは甘いというなら防衛省は具体的な戦術を披歴すべきだ。多分「戦術を公開する」ことは不利になるから「極秘」だと言うだろう。
アメリカの旧型兵器を高額で買わされ、海外の戦争に協力させられる一方、敵国の攻撃に対処しかねる防衛無策のわが国のこと。自衛隊の地上戦のための小銃射撃訓練がいかに時代錯誤かを、われわれ国民は考えるべきではないだろうか。
(月刊「紙の爆弾」2023年8月号より)
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
●ISF主催公開シンポジウム:東アジアの危機と日本・沖縄の平和
※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
ISF会員登録のご案内
日本では数少ないパロディスト(風刺アーティスト)の一人。小泉政権の自民党(2005年参議院選)ポスターを茶化したことに対して安倍晋三幹事長(当時)から内容証明付きの「通告書」が送付され、恫喝を受けた。以後、安倍政権の言論弾圧は目に余るものがあることは周知の通り。風刺による権力批判の手を緩めずパロディの毒饅頭を作り続ける意志は固い。