【連載】百々峰だより(寺島隆吉)

「プリゴジンの乱」から見えてくるもの――今後、世界はどのように変わるのだろうか

寺島隆吉

ウクライナ(2023/07/21)
「ミンスク合意」1・2
ドイツの元首相アンゲラ・メルケル、フランスの元大統領フランソワ・オランド
FSB(ロシア連邦保安庁)
FBI(アメリカ連邦捜査局、Federal Bureau of Investigatio)
NAC(National Antiterrorist Committee、ロシア国家反テロ委員会)
コインテルプロ(COINTELPRO, Counter Intelligence Program、FBIによる秘密テロ活動)
スコット・リッター(Scott Ritter、元国連の兵器査察官)
マルガリータ・シモニャン(Margarita Simonyan、RT編集長)
クセニア・ソブチャーク(Ksenia Sobchak、ロシアのジャーナリスト)
エフゲニー・プリゴジン(Evgeny Prigozhin、「ワグナー軍団」経営者)
シーモア・ハーシュ(Seymour Hersh、伝説的ジャーナリスト、現在86歳)

 

暗殺されそうになったRT編集長マルガリータ・シモニャ(Margarita Simonyan)

 


大村智先生への手紙を書き終えて、いよいよ書きたいと思っていた「研究所:薬草・薬木・花だより」「アロエ」の続編「枇杷(ビワ)の葉」に着手しようと思っていた矢先に、ロシアで「プリゴジンの乱」が起きました。
そこでやむを得ず「枇杷(ビワ)」を断念して、「プリゴジンの乱」とその終結がロシアと私たちの未来に何を投げかけているのかを書いて、しばらくウクライナ情勢から手を引こうと考えました。
というのは、この「プリゴジンの乱」の終結で、ウクライナ紛争はもう一つの山を越えたと思ったからです。

 


ウクライナ南東部のドンバスで、ウクライナ軍の最強部隊=アゾフ大隊の拠点だったマリウポリ市アゾフタル製鉄所がの制圧され、さらにウクライナ軍の第二の拠点「ソレダル市の巨大な地下壕(岩塩採掘場)」も制圧されました。
そしてドンバスでウクライナ軍の最後の拠点だったアルチョモフスク(Artyomovsk、別名バフムートBakhmut)をプリゴジンが率いるワグナー軍団が制圧したことでウクライナ軍の敗北は決定的になり、ウクライナ紛争は大きな山を越えました。
あとはキエフ政権がその敗北を挽回するために「反転大攻勢」をどう展開するかを世界が固唾を呑んで待ち構えていた矢先に、ワグナー軍団がモスクワに向けて進軍するという「プリゴジンの乱」が起きました。
ですから、この「反乱」にキエフ政権もNATO諸国も、驚喜し乱舞したのは当然でした。この「反乱」でプーチン政権の「終わりの始まり」が始まった、と思ったからです。しかし、その「驚喜」も1日だけに終わりました。
というのは、ベラルーシ大統領ルカシェンコの仲介で、プリコジンも矛先を収め、バイデン大統領やゼレンスキー大統領の「驚喜」「乱舞」は、「糠(ぬか)喜び」に終わったからです。
しかも、欧米が期待していた「反転大攻勢」は不発のままで現在に至っています。つまりウクライナ軍の敗北はほぼ決定的で、ロシア軍は犠牲者を減らすために万全の防御態勢をとり、あとは「敵の出方を待つ」という姿勢で一貫しているように見えます。
このままいけば、朝鮮戦争が決定的な勝敗を決することが出来ないまま、休戦状態に入り、北緯17度線が北と南の「仮の国境」になったのと同じように、新しくロシアに加盟することになったウクライナ南東部ドンバス地方の「国境」が、次の「17度線」になるのかも知れません。

 


そう思っていた矢先に、今度はマルガリータ・シモニャン(Margarita Simonyan、RT編集長)とクセニア・ソブチャーク(Ksenia Sobchak、ロシア人ジャーナリスト)の暗殺未遂事件とクリミア大橋の爆破事件(二回目)が起きました。
アメリカを初めとするNATO諸国から「大量の資金援助と武器供与をしているのだから早く成果を見せろ」と要求されているのですから、正規軍による戦闘では勝ち目がないので、このようなテロ活動で成果を見せようとしたのかも知れません。
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(サミット)が7月11日にリトアニアで開かれましたから、NATO首脳はそれまでに大きな成果を期待していたのですが、ウクライナ紛争はそれどころではなく、多大な損害と死者を出していました。

それを示すのが高名な軍事評論家のスコット・リッターによる次の記事です(ちなみにリッターはは元アメリカ海兵隊情報将校であり、1991年から1998年まで国連の兵器査察官として勤務しました)。

*Here’s how NATO trainers knowingly sent Ukrainian troops to their deaths in this month’s counteroffensive against Russia
「NATOの訓練指導者たちは、こうして、ロシアに対する今月の反転攻勢をけしかけて、ウクライナ軍をみすみす死地に追いやった」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1709.html(『翻訳NEWS』2023-06-27 )

この記事でスコット・リッターは次のように書いていました。

「ウクライナは、ロシア軍が支配する地域を奪還するため、待望の反転攻勢の一環として、今月はじめに最も優れた旅団の一つを戦闘に派遣した。
ザポリージャ州のオレホフ近くで先陣を切ったのは、NATOの装備を備えた第47機械化旅団だ。
そしていちばん重要なことは、この旅団は米国主導の連合軍の統合戦闘方針と戦術を使用していたことだ。この旅団は、作戦前数か月間、複合兵器戦術の「西側のノウハウ」を学ぶためにドイツの基地で過ごしていた。
(中略)
ウクライナが、NATOの代理軍として特別に訓練した部隊がロシアの敵に対してどのように戦ったかを示す典型的な例があるとすれば、第47旅団は理想的な事例研究だった。しかし、攻撃を開始して数日で、この部隊は文字通り壊滅状態になった。
100台以上のアメリカ製M-2ブラッドリー歩兵戦闘車のうち10%以上が破壊または戦場で放棄され、旅団の兵士2000人中数百人が死傷した。ドイツ製のレオパルト2戦車や地雷除去車もオレホフの西の野原に残骸となり、ロシアの第一防衛前線を突破できなかった。」

ここで重要なのは次のような事実でしょう。
最も優れた旅団の一つ第47機械化旅団は、作戦前数か月間、複合兵器戦術の「西側のノウハウ」を学ぶためにドイツの基地で過ごし、そこで指導された「米国主導の連合軍の統合戦闘方針と戦術」を使用したにも係わらず、攻撃を開始して数日で、この部隊は文字どおり壊滅状態になったということです。

スコット・リッター(Scott Ritter、元国連の兵器査察官)

 


同じことを欧米誌も認めています。たとえば有名なアメリカの経済誌フォーブスFrobesは次のような記事を書いています。
*Ukraine suffered ‘disastrous’ losses in single offensive – Forbes
「ウクライナはたった一回の攻勢で「壊滅的な」損失を被った-フォーブス誌」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1758.html(『翻訳NEWS』2023-07-15 )
以下に、この記事の一部を引用します。

「ウクライナは、各方面から期待されていた反転攻勢において、キエフの軍勢が大量の装甲戦力を失い、その中には西側から供給された数十台の戦車や歩兵戦闘車両も含まれていると、フォーブス誌は火曜日(6月27日)に報じた。
同誌によれば、分析家たちが間違いないと思っているのは、ウクライナ軍の第47強襲旅団と第33機械化旅団が6月8日にロシアのザポリージャ地域のマラヤ・トクマチカ近くの地雷原を越えようとした試みが、以前に考えられていたよりも「さらに壊滅的」だったことだ。

フィンランドから寄贈された何台かのLeopard 2Rおよびドイツ製のWisentを含む除雷除去車両を投入したにもかかわらず、ウクライナの戦闘グループは地雷原を通過するための道を確保できなかったようだ。
Wisentおよび3台のLeopard 2Rは地雷に触れ、またアメリカから供給された何台かのM-2ブラッドリーも同様だった。この間、この旅団はロシアの砲兵と空からの攻撃にさらされた。
専門家は、数時間にわたる悪戦苦闘の結果、少なくとも25台のウクライナ車両が破壊されたと推定している。これには、M-2ブラッドリーが17台、Leopard 2A6戦車が4台、Leopard 2Rが3台、Wisentが1台含まれる。

フォーブス誌は、ウクライナ陸軍が数十台のWisentを保有しているため、1台のWisentの喪失はたいしたことはないが、しかし他の損失はより影響が大きいことが判明した、と指摘している。
同誌は、第47&第33旅団戦闘グループが、ウクライナの所有するM-2の約5分の1、Leopard 2A6の約5分の1、およびLeopard 2Rの半分を失ったと述べており、キエフが1回の失敗した攻撃で、まるまる一個大隊相当の損失を被ったと指摘している。」

ここでも次のような重要な事実を確認することが出来ます。
フォーブス誌が「第47&第33旅団は、ウクライナの所有するM-2ブラッドリーの約5分の1、Leopard 2A6戦車の約5分の1、およびLeopard 2R戦車の半分を失ったと述べており、キエフが1回の攻撃で、まるまる一個大隊相当の損失を被った」と指摘している点です。

 


先に紹介した元国連兵器査察官スコット・リッターは別の記事で次のように書いています。
*Ukrainian Counteroffensive’s Second Week Ends in Failure
「ウクライナの反転攻勢は2週目で失敗」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1701.html(『翻訳NEWS』2023-06-24)

「長い間待ち望まれ、大いに宣伝されたウクライナの反転攻勢が2週目に入っている。戦闘は続き、しばらくは激しい戦闘となるだろうが、いくつかの結論は導き出すことができる。
まず第一に、反転攻勢戦略は失敗した。(中略)
ウクライナ最高の特殊部隊は、最新の西側軍事技術を装備していたが、ロシアの防御戦略による「カバー」と呼ばれる防御ラインを突破することに失敗した。
(この防御ラインは、攻撃してくる部隊が防御の「正面」ラインに到達する前に、その攻撃の流れを変え、妨害するために設けられた緩衝区域だ。)
ウクライナ側の損害はとてつもなく大きく、ロシア兵士の戦死者数は(ウクライナと比べて)10分の1だ。
これは、ウクライナ側から見て、持続不可能な状況だ。ウクライナの失敗の原因は根本的なものであり、現状では克服することができない。そのため、ウクライナ軍はどれだけ攻撃を続けても成功の見込みは全くない。」

こうして期待されていた「反転大攻勢」は無残にも失敗したわけですが、このようなウクライナ軍の敗北は、先述のアルチョモフスク(別名バフムート)その他の戦いで見たとおりとおり、今回が初めてはありません。
それどころか2014年のクーデター以来、ウクライナ軍は一貫して負け続けているのです。それを、同じ記事でスコット・リッターは、NATOサミットが始まる前に次のように書いています。

「現実には、NATOが7月11日にヴィリニュスで集まる時、ロシア側はNATOによって構築された第3のウクライナ軍を破壊する過程がかなり進んでいるだろう。
最初のウクライナ軍は、2015年から2022年までのミンスク協定による外交的「ごまかし」で与えられた緩衝地帯の中で編成された。この26万強の軍は、2022年6月までにほとんど壊滅した。
2番目の軍は、数千の外国傭兵に支えられた新たに訓練・装備されたウクライナ兵8万人で構成されており、これはNATOによって提供された数百億ドルの軍事援助で出来上がった部隊だ。この軍は2022年秋ウクライナの反攻で部分的な成功を収めた。しかし、その後の陣地戦(バフムートでの凄惨な戦いを含む)でほぼ殲滅されている。

現在、6万人の12個旅団から成るウクライナの反攻部隊は、ロシアに対して行動を起こしているが、おそらくNATOのサミットが開催される頃には破壊されているか、破壊の危機に瀕しているだろう。繰り返しになるが、これも数百億ドルの軍事装備の結末だ。現代的な西側の戦車、砲兵、歩兵戦闘車を注入した反攻部隊だが、結果は同じだ。」

御覧のとおり、「ミンスク合意1・2」はウクライナ軍の敗北を建て直すための時間稼ぎに過ぎなかったのです。
つまりウクライナ軍は2014年のクーデター以来、ウクライナ南東部ドンバスを爆撃し続けてきたのですが、ドンバス2カ国は正規軍すらもたず一種の民兵組織しかもたなかったのですが、そのような相手にすら勝てなかったのです。
それは後でドイツの元首相アンゲラ・メルケルやフランスの元大統領フランソワ・オランドも認めていることです。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202212090001/
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202301010000/

 


このように正規戦では勝てないからこそ、キエフ政権は個人を暗殺し、学校・病院、劇場などの公共の建築物を爆破してきたのですが、またもや爆破対象になったのはクリミア大橋の爆破でした。
それを伝えてくれたのが次の記事です。
*Crimean Bridge targeted by Ukrainian terrorist attack – Moscow(クリミア橋がウクライナのテロ攻撃の標的に – モスクワ)
https://www.rt.com/russia/579818-crimean-bridge-targeted-ukrainian-terrorist-attack/
Jul 17, 2023

この記事はその爆破を次のように伝えていました。

「ロシアの国家反テロ委員会(NAC)が月曜日に発表したところによると、クリミア橋がウクライナのテロリストによるドローン攻撃の標的となった。
NACは声明の中で、クリミア半島とロシア本土を結ぶ重要な橋が、現地時間午前3時頃、ウクライナの無人海上機2機によって攻撃されたと述べた。
「このテロ行為により、クリミア橋の道路部分が被害を受けた。大人2人が死亡し、子ども1人が負傷した」と述べ、当局関がこの件を捜査していると付け加えた。
NACの声明は、ウクライナの複数のメディアが、このテロを同国の治安当局と海軍による「特別作戦」と報じた後に発表された。
しかし、ウクライナの政府関係者はこの事件を歓迎する一方で、公の場では直接的な責任を負うことは避けている。」

この記事で興味深いのは、ロシア当局がこの事件を知ったのは「ウクライナの複数のメディアが、このテロをウクライナ治安当局と海軍による『特別作戦』と報じた後だった」ということです。
つまりキエフ政権がこの事件を歓迎しつつも、「公の場では直接的な責任を負うことは避けている」にもかかわらず、ウクライナの複数のメディアが、このテロを同国の治安当局と海軍による「特別作戦」と報じているのです。
繰り返しになりますが、このように正規戦では勝てないからこそ、キエフ政権は公共の建築物を爆破し、それを「反転大攻勢」の一部だとして宣伝したいのでしょう。しかしこれでは「テロ国家」として自分を売り出すことになります。
それは同時に「ウクライナ軍の弱さ」を自認しているのと同じことになりますから、逆効果ではないでしょうか。

暗殺を免れたジャーナリスト、クセニア・ソブチャーク

https://www.rt.com/russia/579751-attempt-to-assassinate-rt-editor-chief-thwarted/

 


もうひとつウクライナを「テロ国家」として際立たせているのが個人の暗殺です。
すでにキエフ政権はMirotvorets(ミロトウォレッツ、「ピースメーカー」の意)というふざけた名前の「暗殺リスト」をもっていることで有名ですが、すでにこのリストに載せられて暗殺されたものは実に多数に昇ります。
その一端は拙著『ウクライナ問題の正体2』第3章「裏切り者を一人でも減らせ、政敵の暗殺・誘拐・拷問を指揮・監督するゼレンスキー」で詳述しましたが、今回の暗殺対象になったのは、RT編集長と女性ジャーナリストでした。
それを知らせてくれたのが次の記事です。
*Ukrainian plot to assassinate RT editor-in-chief thwarted – FSB(ウクライナによるRT編集長暗殺計画は阻止された ― ロシア連邦保安庁)
https://www.rt.com/russia/579751-attempt-to-assassinate-rt-editor-chief-thwarted/
Jul 15, 2023

幸いなことに、この事件は事前に察知され、二人とも暗殺を免れることが出来ました。
この記事はそれを次のように伝えていました。

「ロシア連邦保安局(FSB)は、ウクライナの情報機関によって準備されていたRTのマルガリータ・シモニャン編集長とジャーナリストのクセニア・ソブチャクを標的とした暗殺計画を、ロシアの法執行機関が阻止したと発表した。
土曜日の声明で、連邦保安庁は内務省や国家調査委員会との共同記者会見で、シモニャンとソブチャクの職場や自宅の住所で情報収集をしていたネオナチ・グループ「パラグラフ88」を逮捕したと発表した。
FSBによると、拘束された者たちは金曜日にモスクワとリャザン地方で偵察をおこなっていたところを捕まった。
拘束された者たちは、ウクライナ保安庁の指示で暗殺の準備をしており、その報酬は殺人1件につき150万ルーブル(1万6600ドル)であることを認めている」と声明は述べている。
FSBによれば、この作戦のあいだ、警察当局はカラシニコフ突撃ライフル銃1丁、カートリッジ90本、ゴムホース、ナイフ、メリケン・サック、手錠などを押収したという。また、「犯罪の意図が確認できる情報を持つコンピュータ」も発見されたという。」

逮捕されたひとたちが白状したところによると、彼らはウクライナ保安庁から「殺人1件につき150万ルーブル(1万6600ドル=約231万2737円)」の報酬をもらえることになっていたそうです(あるいは既にもらっていた?)。実に驚きです。

 


同日午後に報道されたもう一つの記事は、同じ事件を次のように報じていました。
*‘Treason is worse than death’– RT editor-in-chief on failed assassination plot (「私は、反逆するくらいなら殺された方がよい」と、RT編集長が語った)
https://www.rt.com/russia/579758-rt-chief-statement/
15 Jul, 2023
この記事によると、 RT編集長シモニャン女史は次のように語ったそうです。

「私が一番言いたいのは、死ぬよりも悪いことがあるということです。不名誉な人生を生きること、自分が救いようのない悪事をしたと感じながら生きることは、暗殺されるよりも悪い。私は反逆者として生きるよりも暗殺された方がよい」とシモニャン女史は語った。
RT編集長はまた、この陰謀疑惑で逮捕された人々が過ちを正し、新たな人生を始めるのに十分な時間があることを望むと述べた。彼女はまた、若者たちがこのような陰謀に参加できるほど「洗脳」されているという考えに同情を示した。この日未明、ロシアの治安当局は、拘束された者の中には未成年者もいたと発表した。」

RT(Russia Today)という国際放送は、元アメリカ財務次官ポール・クレイグ・ロバーツでさえ熱心な視聴者になっているほど世界的に認知されている番組で、そのドキュメンタリー番組はこれまでにも多くの国際賞を受賞しています。
そのため欧米政府はRTの視聴を禁止し、欧米諸国の国民はウクライナやロシアで何が起きているのかを知ることができません。しかし欧米以外の国、たとえば南米、アジア、アフリカ諸国では視聴できますし、欧米でもYouTubeでRTを視聴できなくてもRumbleで視聴できます。
ですからアメリカや欧米諸国の政府がいかにロシアやプーチン大統領を悪魔化しようとも、RTを視聴できる欧米諸国の国民は、政府や御用新聞・御用放送局の垂れ流す「大本営発表のニュース」や「御用学者の解説」の裏を知ることができます。だからこそ、RT編集長シモニャン女史は「暗殺リスト」の筆頭格でした。
ちなみに、アメリカでは大手メディアで真実を語ったため解雇されたり、真実を語ることが許されないため辞職した人のために、RTが彼らに発言の場を提供しています。たとえば、いまRTで「内部告発者(Wistleblower)」という番組を任されているジョン・キリアク(John Kiriakou)は、元CIA職員でしたが、CIAによる拷問を内部告発したため2年半の獄中生活を送らねばなりませんでした。

 


それはともかく、上記のRT記事は、さらに続けて、シモニャン女史が次のように語ったと報じています。

「新聞発表に先立ち、この暗殺計画の背後にいると疑われるネオナチグループのメンバー5人を拘束したロシア連邦保安局は、18歳の男に対する尋問の様子を映した映像を公開した。
映像の中で、その少年はネオナチグループを組織したこと、そしてその後、金と引き換えにウクライナの情報機関から命令を受けたことを自供している。

「18歳の少年が……ロシア国民を思いやることと、ロシアのオピニオン・リーダーを殺すためにウクライナ情報部から金を受け取ることが両立すると判断するような洗脳を受けたことは、非常に残念です」とシモニャン女史は語った。」

これを読むと、ウクライナの情報機関がロシアの国民に(未成年者にまで)手を伸ばし、ロシアに対する不安定化工作をしていることが分かります。
かつてFBI(アメリカ連邦捜査局)は「コインテルプロ」と呼ばれる秘密のテロ活動を展開したことがあります。「国家安全保障」の名の元におこなわれた秘密活動でした。
今や体制の擁護者となったウィキペディアですら、「その目的は、左翼、公民権運動の活動家、ブラック・パワー、フェミニスト主義団体 などの反体制団体や活動家を混乱させることであり」「FBIが行った違法行為は、交信や通信の傍受、放火、違法盗聴、殺人などが含まれていた」と述べているほどです。
(ちなみに、その最も有名な事件の1つが黒人活動家フレッド・ハンプトン(ブラックパンサー党シカゴ支部長)の暗殺事件でした)。
このような活動を国外でおこなってきたのがCIAでした。だから、このようなCIAに指導されているウクライナ政府が、ロシア国内で不安定化工作を実施することはある意味で必然的だったとも言えます。
今やメディアの寵児になったプリゴジンと「その反乱」も、このような流れのなかで考えると、理解が容易になるように思われます。
そこで以下では「プリゴジンの乱」に焦点を絞って考察を試みることにします。

 

10
今まで見てきたように、アメリカは世界中で仮想敵国にたいする政権転覆や不安定化工作をしてきたわけですが、この「プリゴジンの乱」についてはどうだったのでしょうか。CIAは密かにプリコジンと接触し、今回の反乱を煽(あお)ったのでしょうか。
もちろんアメリカは表向きはそんなことを認めるはずはありません。それでも今回の反乱を千載一遇の機会とみて、自身の機関CIAがロシアの指導部を弱体化させる取り組みをしていることを激賞しました。

* CIA sees Ukraine crisis as unique ‘opportunity’
「CIAはウクライナ危機を絶好の「チャンス」と見ている」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1775.html(『翻訳NEWS』2023-07-19)

この記事では、CIA長官ウィリアム・J・バーンズが、土曜日(7月1日)、英国のディッチリー財団の講演で、モスクワ内部の不和が高まっていることを公然と歓迎し、「CIAにはスパイを募集し、ウラジミール・プーチン大統領政府を弱体化させる歴史的な機会が与えられていると述べた」と報じられています。
しかも驚いたことに、バーンズはこの講演で、CIAが5月にテレグラムチャンネルを開設し、ロシアの指導部や経済に関する情報を提供できる軍人、政府関係者、科学者を募集していることを告げ、「最初の1週間で250万回の閲覧があり、大盛況です」と彼は述べています。
しかし、この情報だけでは、CIAが「プリゴジンの乱」を裏で直接指導したことになりません。それどころか、元アメリカ財務次官ポール・クレイグ・ロバーツは自分のブログで、プリゴジンはプーチン政権の転覆を企てたのではなく、ロシア軍の官僚主義にたいする異議申し立てに過ぎなかったと主張しています。

*The “Russian Coup” that Wasn’t
「存在しなかった「ロシア・クーデター」」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1737.html(『翻訳NEWS』2023-07-04)

これまで一貫して「プーチン大統領の戦術が生ぬるい」「ロシア軍の戦力をもってすれば、3日で終わることができる戦争に、3か月もかけるような戦い方はロシア兵の戦意を低める」というロシア内のタカ派を思わせるような発言を繰りかえしてきたロバーツ元財務次官ですから、氏が上記のような発言をすることは十分に納得できます。
拙著『ウクライナ問題の正体1』でも、氏が「プーチンは馬鹿か、お人好しか」と言っていることを紹介しましたが(184頁)、ウクライナ軍が民間人を「人間の盾」として使い、民家・病院・学校・劇場を平気で爆撃しているのに、ロシア軍はあくまで民家や公共施設を破壊しない戦術をとっているために、戦局が一気に好転しないことを揶揄しているのです。

 

11
確かに私も、ロシア軍が一気にキエフの大統領官邸をミサイル攻撃し、ゼレンスキー大統領が海外に亡命せざるを得なくすれば、この戦争はすぐに和平交渉せざるを得なくなるのにと思ったこともあります。
が、プーチン大統領は、特別作戦Zの目的は「キエフ政権の非ナチ化、中立化」であって「ゼレンスキーの排除や政権転覆ではない」と言っているのですから、何とも仕方のない事態です。
ところが欧米や日本のメディアは「独裁者プーチン大統領」というかたちで、悪魔化するだけですし、そのような風潮はロシア国内でも広まり、タカ派からは「プーチンの戦術は生ぬるい」というかたちで噴出しています。
このような声に乗っかって出てきたのが「プリゴジンの乱」だとも言えるわけです。ましてアルチョモフスク(別名バフムート)を制圧したプリコジン人気は高まる一方で、英雄視されるようになっていましたから、なおさらです。
このような状況を評してロバーツ元アメリカ財務次官は「プーチンは自分の頭を射抜いた」というブログを書きました。ウクライナ軍が事実上敗北した中で、プーチンが「プリゴジンの乱」を「国家に対する反逆罪だ」と言ったことは、アメリカのネオコンにとって紛争を継続させるための絶好の口実を与えることになるからだ、と言うのです。

*Putin Shoots Himself in the Head
「プーチンは自分の頭を射抜いた」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1729.html (『翻訳NEWS』2023/07/02)

 

12
しかし私は、今回のプーチン大統領の動きは実にみごとだったと思っています。というのは、最終的にはベラルーシ大統領の仲介で、今回の事件は次のように解決されたからです。
(1)プリゴジンを「反逆罪」の罪に問わない
(2)ワグナー軍団はベラルーシに移動する
(3)ワグナー軍団の兵士には3つの選択肢のどれを選んでもよい。①ロシア軍の正規兵として登録する、②ベラルーシのワグナー軍団に残る、③退役して自宅に帰る

しかもワグナー軍団がロストフ市の兵舎を占拠したときも、モスクワに進軍しているときも、ロシア軍と戦闘することはなく、内戦にならずに事態を収束させることが出来たからです。ワグナー軍団が蜂起した直後に空軍が出撃し、20名ほどの死者が出たようですが、その出撃命令はすぐに取り下げられました。
これもプーチン大統領の指揮下でおこなわれたことです。一部にベラルーシ大統領ルカシェンコの動きこそ賞賛されるべきだという意見もありましたが、ルカシェンコもプーチン大統領と連絡を取りながら行動していたわけで、彼単独の判断や行動ではなかったからです。こうして血なまぐさい内戦になることは避けられました。
このように、「プリゴジンの乱」は線香花火のように終わってしまいましたから、アメリカやNATO諸国、そしてキエフ政権が小躍りして喜んだのも「束(つか)の間の夢」に終わってしまいました。そしてプーチン政権は支持率を下げるどころか、これを契機にかえって団結を強めることが出来ました。
このようなことを考えると、プーチン大統領はプリコジンやワグナー軍団の動きを予め知っていて、プリゴジンを「泳がせて」、それを口実にしてワグナー軍団をベラルーシに移動させたのではないかとすら思われます。というのはプリコジンが決起したとき、彼に同調するロシア軍幹部がひとりも現れなかったからです。(末尾<追記2>を参照)
しかも、この「反乱」の日は、ウクライナ戦線では戦闘が続いていて、そこで戦っているロシア軍の部隊には何の動揺も見られず、ウクライナ軍との戦闘で、そのまま強い守りを維持していました。ここでワグナー軍団を迎え撃つためにロシア軍の一部をモスクワに差し向けていれば、それこそCIAやウクライナ軍の「思う壺」だったことでしょう。
さらに、ここで、もう一つ「おまけ」があります。
ロシアと同盟を組んでいるベラルーシの軍隊は、NATO軍とりわけポーランド軍からいつ攻撃を受けるか分からない状態にあります。この弱小のベラルーシ軍に百戦錬磨のワグナー軍団が加わることになったわけですから、ルカシェンコ大統領にとっては、まさに「棚からぼた餅」だったことでしょう。
私が今回のプーチン大統領の動きがみごとだったと考えるゆえんです。

元インド外交官バドラクマール(M.K.Bhadrakumar)

https://indianpunchline.com/wp-content/uploads/2018/09/Photo-2.jpg
13
この記事を書くにあたって、いろいろ調べているうちに見つけた興味深い事実を報告して、今回のブログを終わることにします。それはM.K.バドラクマール(M.K.Bhadrakumar)という元インド外交官が書いた次の小論です。

*The Rise and Fall of a Russian Oligarch
「ロシア・オリガルヒの興亡」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1734.html(『翻訳NEWS』2023/07/04)

この小論で以下に興味深い箇所のみを引用することにします。

「プリゴジンは、2000年の夏にプーチン大統領が、クレムリンでおこなった歴史的な会議で線引きした有名な「レッドライン」を越えてしまったのだ。
この会議には、ロシアで最も裕福な21人(強欲な「オリガルヒ」とロシア人が嘲笑的に呼ぶようになっていた)が集まった。
彼らはどこからともなく現れ、周囲の混乱と陰謀的な取引、明確な腐敗、さらには殺人を通じて莫大な富を蓄積し、ロシア経済の大部分、そして次第に芽生えたばかりの民主主義を掌握していた。
この非公開の会議で、プーチン大統領は彼らに直接、ロシアに本当に責任を持っているのは誰か、を告げたのだ。

プーチン大統領はこのオリガルヒたちとある取引の提案をした。
「ロシア国家の権威に従い、ロシアの統治や国内政治に干渉しない限り、邸宅、スーパーヨット、私設ジェット、そして数十億ドル規模の企業を保持することができる」というものだった。
数年後、この取引を守らなかったオリガルヒたちは、高い代償を払うことになった。150億ドル(2兆1600億円)の資産を持ち、かつてはフォーブスの億万長者リストで16位に入っていたミハイル・ホドルコフスキーの事例は最も有名。
彼は政治的野心を抱いた。現在はアメリカで亡命生活を送っており、アメリカのシンクタンクや西側世界の各国にいるロシア嫌悪活動家に富を注ぎ、プーチンへの憎悪を吐き出している。」

私はプーチン大統領が2000年にロシアで「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥と上記のような約束をしたことを知りませんでした。
彼らはソ連が1991年に崩壊した後、今まで国有だった財産を利用して大富豪になっていき、ロシアに巨大な貧富の格差社会をつくりあげたわけですが、その裏にアメリカ流「新自由主義の経済政策」が導入されたという事実がありました。
この貧困化したロシアを建て直す仕事に着手したのが、プーチン氏が大統領になった2000年だったというわけです。このときプーチン氏は、ロシア財政再建のため新興財閥オリガルヒの脱税を取り締まり始め、上記のような取引を財閥に提案し、彼らと対決しました。

 

14
私は今まで、このような具体的事実(たとえばミハイル・ホドルコフスキーの事例)を知らなかったのですが、では上記引用の「プリゴジンは、2000年の夏にプーチン大統領が、クレムリンでおこなった歴史的な会議で線引きした有名な「レッドライン」を越えてしまった」とは、どのような事実をさすのでしょうか。
その説明をさらに、この小論から引用することにします(下線は寺島)。

「しかし、他方、残留した「忠実派」は、超大金持ちになり、信じられないほどの豪勢な暮らしぶりだ。下層階級出自のプリゴジンは残留し、巨額の富を築いた。ある意味で彼の存在は、ソビエト後のロシア再生における途轍もない過ちすべてを象徴している。

しかし、残留した人々でさえも、彼らの略奪物のかなりの部分をロシアの法の届かない範囲で、銀行の金庫や動産・不動産資産として西側諸国に保管していた。これはつまり、オリガルヒたちも西側からの脅迫に極めて脆弱であることを意味している。
予想どおり西側各国政府は、オリガルヒたちがクレムリン政権を内部から崩壊させる手助けをする可能性があると考えており、または社会の崩壊を引き起こしてロシアを不安定化させ、ウクライナでの戦争の取り組みを混乱させることができると期待している。

プリゴジンの出自は誰にもわからない。しかし、クレムリンの権力の中でも特に大きな影響力を持つとされるこの人物が、西側の情報機関の狙いの的になっている可能性は当然考えられる。プリゴジンの個人資産は少なくとも12億ドル(1700億円)以上だ。

プリゴジンはまた、一種草分け的人物で、準国家的傭兵会社の経営という非常に実入りのいい職種に進出した。その会社の傭兵たちはロシアが商業的、政治的、または軍事的に重要な利益を持つ国々の海外の緊迫地域で軍事契約者として行動するための訓練を受け、装備を与えられた。」

上記では「プリゴジンの出自は誰にもわからない」と書かれていますが、ウィキペディアでは次のように書かれています。
「1990年、プリゴジンと継父はホットドッグを販売するネットワークを立ち上げた。程なくニューヨーク・タイムズのインタビューを受けており、『母親が数えきれないほどのルーブルが瞬く間に積み重なった』という。」
これを読む限り、プリゴジンは食品販売から仕事をスタートさせ、後に「ニューアイランド」と呼ばれる水上レストランを始めて、それはサンクトペテルブルクで最も流行したレストランの1つとなったようです。
またその後のプリゴジンについては、ウィキペディアは次のように書いています。
「2012年にプリゴジンは家族をバスケットボールコートとヘリコプター発着所付きのサンクトペテルブルクの邸宅に引っ越した。彼はプライベートジェットと約35メートルのヨットを所有している。」
これを見るとプリゴジンの資産はますます膨れあがっていったようです。しかし、それでもプーチン大統領が2000年に提起した「レッドライン」を越えない限り、彼の身は安泰でした。しかし今回の「反乱」で彼は遂にその「レッドライン」を越えてしまったというわけです。
念のためにその「レッドライン」を次に再掲しておきます。

「ロシア国家の権威に従い、ロシアの統治や国内政治に干渉しない限り、邸宅、スーパーヨット、私設ジェット、そして数十億ドル規模の企業を保持することができる。」

 

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さて、このように内戦の危機を乗り越えたロシアですが、今後、ウクライナ紛争はどのように展開していくのでしょうか。私たちはそれとどのように向き合っていけばよいのでしょうか。
それを考える材料として次の記事は大いに参考になるように思います。これはベトナム戦争「ソンミ村事件」を暴露したことでピューリッツァー賞を授賞し有名になった伝説的記者による記事です。

*Ukraine will need 117 years to take territories from Russia – Seymour Hersh
「ウクライナは領土をロシアから取り戻すのに117年かかるだろう―シーモア・ハーシュ」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1760.html(『翻訳NEWS』2023/07/15)

ウクライナ軍の敗北ぶりについてはついては、これまでも繰り返し述べてきましたが、それを欧米から送られてきて破壊された戦車の数や戦死者数ではなく、どれだけの領土を奪還したかという観点で報告された次の報告は、その意味で極めて異色のものでした。

「ウクライナの反転攻勢の犠牲は甚大で、ロシアの安全保障会議によると、先週時点でのウクライナ兵の戦死者数は13,000人と推定されている。(中略)

匿名の情報源から得られた戦場統計を引用し、ハーシュは、ウクライナ軍が戦闘の過去10日間でロシアが支配する土地をわずか2平方マイルしか奪取できていないと主張した。
さらに、その前の2週間では、ウクライナ軍はわずか44平方マイルの領土を占領したが、その多くはロシアの複数の防御ラインの最初のラインの前にある空き地だった、と続けた。

ロシアがウクライナの一部であった4万平方マイルの土地に関しては、ある「情報通の高官」は、その領土を再びキエフの支配下に置くためには、「ゼレンスキー大統領の軍は117年かかるだろう」とハーシュに述べた。」

キエフ政権は、今までに何度も敗北し、そのたびに和解・休戦しようとするのですが、すると必ずイギリスやアメリカが乗り出してきて、「和解するな、金と武器をやるから最後のひとりになるまで戦え」と言われて現在に来ています。
それに押されてゼレンスキーも今では「クリミアを初めとする領土をすべて奪還するまで和平交渉に応じない」と言わされるようになりました。しかし、ハーシュ記者の言うように、今の戦況でその目標を達成するには「117年かかる」というのですから、気が遠くなるような話です。
しかし、それ以前に、ウクライナの地で戦うウクライナ兵士がすべて戦死し、そこで戦っているのはウクライナ軍の軍服を着た外国人傭兵ばかりになる可能性があります。でもNATO軍にとっては、それでも一向にかまわないのです。
なぜなら英米を初めとするNATO軍の戦争目的は、「ロシアを弱体化すること」、あわよくば「ロシアの政権転覆を実現し」、かつてのソ連崩壊後のように、「ロシアをアメリカ企業が食い荒らすことが可能な国」にすることですから、ウクライナ人やウクライナの地がどうなろうが気にならないのです。

伝説的ジャーナリスト、シーモア・ハーシュ(Seymour Hersh、現在86歳)

 

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英米のこのような歪んだ人権感覚を象徴的に示すのが、「世界各国で署名または批准で禁止されている劣化ウラン弾やクラスター爆弾」の提供でしょう。
イギリスはキエフに劣化ウラン弾を提供し、アメリカはクラスター爆弾を提供しようとしています。しかし、このような兵器が使われれば、ウクライナの地は死の灰に満ち、地面には劣化ウラン弾の残骸が散乱しますから、危険すぎて人の住めない土地になります。、
しかも、劣化ウラン弾やクラスター爆弾をキエフに送るのは、イギリスやアメリカの兵器庫には「もう送るべき弾丸がない」という理由なのですから、呆れてものが言えません。
人権と民主主義という大義を掲げて、「独裁者プーチンと戦う」と豪語している欧米諸国の「人権感覚」がいかなるものかは、この一事だけでも明瞭です。
「クラスター爆弾は米国の地位をおとしめている」と厳しく批判しているイーロンマスクという人物が、アメリカに一人だけでもいたということが、せめてもの救いと言うべきでしょう。次の記事はそのことを示すものです。

*US ‘debases itself’ by sending cluster munitions to Ukraine – Musk(米国はウクライナにクラスター弾を送ることで「自らを貶(おとし)めている」)
https://www.rt.com/russia/579779-musk-cluster-munitions-ukraine/
Jul 16, 2023 07:23

 

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このような状態が続けば、いつになっても戦争は終わらないと考えられますが、他方、それ以前にEUが崩壊するかも知れません。ロシアに対する経済制裁の「ブーメラン効果」で青息吐息の状態がEU諸国だからです。
ドイツに至っては安い石油や天然ガスがロシアから輸入できなくなりましたから、多くの倒産する企業が出てきたり、工場をアメリカに移転するところも出てきています。ですからEUが先に崩壊すればウクライナにも平和が訪れるでしょう。
これはアメリカについても同じです。
来たるべき大統領選挙のためにトランプ対バイデンの争いで、いまアメリカは一種の「内戦状態」です。しかも大都市にはホームレスにひとたちのテント村が広がる一方ですし、鉄道や道路などのいわゆる「インフラ」も、崩壊寸前です。
アメリカの金融危機もいつ爆発するか分からない状態です。
ですからアメリカが崩壊すればウクライナ紛争は終わりますし、それ以前にバイデン大統領が再選されなければ、その時点でウクライナ紛争も終わりますが、そうさせないためにバイデン政権がどのような「偽旗作戦」をでっちあげるか予断を許しません。
ロシアが仮想敵国と目されているわけですが、実はドイツも放置しておくと将来アメリカの競争相手になる可能性がありますから、これを機会に今のうちにドイツを潰しておこうという思惑もアメリカにあります。
つまりウクライナ紛争は「ロシア潰し」と「ドイツ潰し」で「一石二鳥」なのです。
同じことは日本についても言えます。中国やロシアに対する経済制裁の「ブーメラン効果」で日本経済も潰される危険性が大いにあります。アメリカにとっては日本も「潜在的競争相手」ですから、「中国の脅威」を口実に、いつ潰されるか分かりません。
このように私たちは、ウクライナ紛争から学ぶべきことは山積しています。一番良い方法はロシアへの経済制裁に加担しないこと、ウクライナへの金や武器援助をしないで「中立」の姿勢を守ることです。事実、アジア、アフリカ、中南米のいわゆる「グローバル・サウス」の国々は、ほとんどが「中立」の姿勢を維持しています。
また今まで述べてきたことからも明らかなように、ウクライナに援助すればするほど戦いは長引き死者が増えます。いま一番求められていることは「ウクライナに援助しないこと」が逆に和平交渉の気運をつくり、死者の数を減らします。
また、いまウクライナに援助すればするほど戦いが長引き、それを一挙に解決するため、ロシア軍がキエフを占領するという行動に出ざるを得なくなるかも知れません。そうなれば、ウクライナはいま死守している領土すら失うことにもなりかねません。
「プリゴジンの乱」が終わった今こそ、平和を構築する絶好の機会ではないでしょうか。それともシーモア・ハーシュ(Seymour Hersh)の言うように、あと「117年」も戦いを続けるつもりなのでしょうか。


 

<追記1>
私は初め、ドイツにつながる海底パイプライン(ノルドストリーム1・2)を爆破したのは、ロシアを痛めつけるためだと思っていました。
が、考えてみればロシアは、天然ガスをドイツやEU諸国に売らなくても中国などアジアには売って欲しい国々はいくらでもあります。
むしろロシアからの天然ガスが手に入らなくて困るのはドイツを初めとするEU諸国なのです。日本もシベリアからの天然ガスを買えば、安くて良質です。
このように考えると、あの爆破はドイツに自国の高い天然ガスを買わせて隷属国家にしようとするアメリカの仕業だと考えた方がはるかに納得できます。
そう思っていたら、シーモア・ハーシュ(Seymour Hersh)がみごとに私の推理どおりの記事を書いてくれました。
*US trying to ‘cover up’ Nord Stream sabotage role – Seymour Hersh
「米国はノルド・ストリーム破壊工作の役割を「隠蔽」しようとしている(シーモア・ハーシュ)」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1415.html (『翻訳NEWS』2023-04-07 )

<追記2>
この「プリゴジンの乱」がプーチン大統領の「やらせ」作戦だったという解釈は、高名な評論家ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)も、次の小論で、ロシア伝来の軍事作戦「マスキロフカmaskirovka」という用語を使って説明しています。

*A Matryoshka of Psyops: And Why General Armageddon Is Not Going Anywhere
「心理作戦のマトリョーシカ:そしてなぜ「ハルマゲドン将軍」はどこにも行かないのか」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1749.html(『翻訳NEWS』2023-07-13)

ペペ・エスコバルが、ほぼ同じ解釈をしていることに驚くと同時に嬉しくも思いました。ただし上記の小論はエスコバール特有の文学的表現を前面に出ているので、必ずしも分かりやすい翻訳になっていないので訂正版を出す必要があるかも知れません。
また、題名の「心理作戦のマトリョーシカ」における「マトリョーシカ」も、これがロシアの有名な民芸品「入れ子人形」であるという注釈を付けるか、せめて「マトリョーシカ(入れ子人形)」としてほしかった、と思いました。
あるいは、開けても開けても次の人形が出てくる「入れ子型の人形」ですから、次のような画像を付けた方がよかったかもしれません。

いずれにしても、プーチン大統領の作戦が、このような複雑な「入れ子人形」のような作戦だったということを、ペペ・エスコバルは言いたかったのでしょう。
ちなみに「マスキロフカ」は、たぶん風邪をひいたときに顔に付ける「マスク」に由来するのだと推測しています。警察が交通違反を取り締まるために利用する「覆面パトカー」も、一種の「マスキロフカ」ではないでしょうか。

本記事は、百々峰だより からの転載になります。

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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