【連載】『日本の進路』の特集

「農薬大国」日本 健康障害激増 自治体には大きな役割と可能性がある(元農林水産大臣 山田 正彦)

『日本の進路』(編集部)

日本の現在の食をめぐる状況は、まるで真冬のようなゾッとするような肌寒さを感じます。

除草剤ラウンドアップは癌になるとして世界49カ国は既に使用を禁止または規制しているのに、日本だけは野放しでホームセンターに山積みされて売られています。ミツバチの大量死で神経系に異常をきたすことが明らかになったネオニコチノイド系農薬も、EU、韓国、米国等も禁止規制しているのに、いまだに日本だけは何らの規制もなく、空中散布を続けています。

今では日本がOECD各国の中でも農薬の使用量は断トツ、欧米各国が禁止している食品添加物もそうです。

なかでも私がショックを受けたことがあります。地方の有名な果物の産地でのことですが、私がプロデュースした映画「食の安全を守る人々」のアフタートークの時、50代の主婦が「私の住んでいる集落では、女性はこの年代になると皆、子宮がなくなるのです。それが農薬のせいだということがよく分かります」と話し始めたのです。

ことに気になるのは、文科省が2023年3月に発表した調査報告です。「通常のクラスで授業が受けられない子ども、発達障害と診断されて個人指導をしている子どもが16万4693人に達していて、10万人はこの10年間で増加している」としていて、統計では03年には4000人だったことからして、20年で40倍に増加しています。私が地方を回って聞いてもどこの学校でも10%近くの子どもは特別支援クラスにいます。

私の子どものころはそのような子どもは一人もいませんでした。私は先の大戦中の1942年に生まれましたが、当時日本に農薬も化学肥料も全くありませんでした。中学に入って初めてDDT等の農薬、硫安という化学肥料が使われるようになったのです。

今ではネオニコチノイド系の殺虫剤、ラウンドアップ等の除草剤がなければ農業はできないと農家の人は言いますが、1万年に及ぶ農耕の歴史で農薬、化学肥料が使われ始めてからわずか65年にしかならないのです。

日本はどうしてこのように子どもたちの発達障害、癌などが増えてきたのでしょうか。いろいろ調べましたが、私はその原因の大きな要因の一つに「食」の問題があるのではないかと考えるようになりました。

変わった「農薬大国」韓国
 世界を見れば、かつて日本と並んで農薬大国だった韓国も変わりました。

私は韓国がかなりの勢いで農薬と化学肥料をふんだんに使っていた農業から有機栽培に切り替わっている事実を知り、どうしてそうなったのか調べたいと考えて2019年韓国に渡りました。

有機栽培農家を次々に7軒訪ねて「どこに出荷していますか」と聞いたところ、すべての農家が学校給食ですと答えたのです。なんでも学校給食では有機栽培のものであれば2割から3割は高く購入してくれるからだと言うのです。

今では韓国では公立の保育、幼稚園、小中高校まで学校給食は無償になり、かつ有機栽培の食材に代わりました。

日本に戻っていろいろ調べると、千葉県のいすみ市では既に学校給食を無償有機食材で実現していたのです。他にも熊本県の山都町、愛知県東郷町、長野県松川町等も新規に有機食材に取り組んでいることが分かってきました。学校給食を無償で行っている市町村も小さなところが多いのですが36校あることが分かりました。

可能な自治体独自の取り組み
 残念ながら、日本は明治維新以来中央集権国家で、中央政府が地方自治体に対して指揮、命令、監督してきました。しかし2000年に入って日本国憲法の地方分権の理念に従い地方分権一括法の制定、地方自治法の改正がなされ大きく変わったのです。

政府の地方自治体に対する指揮、命令、監督は禁止されて、地方自治体と政府(国)とは法律上同格となりました。

政府の「通達」も禁止、過去の「通達」も全て効力を失ったのです。いまだに出されている政府の地方自治体に対する「通知」は単なる技術的助言に過ぎないのです。地方自治体は国の法令に反しない限り、違反した場合には刑罰も定めることのできる条例を制定することができるのです。

日本も地方から大きく変わり始めました。

「読売新聞」が報道しましたが、政府が種子法を廃止しても地方が反発、都道府県で種子法とほぼ同じ内容の種子条例が現在34の道県で成立したのです。国会でも野党が提案した種子法廃止撤回法案を与党が審議に応じて現在国会では継続審議中です。

食の安全の分野でも、愛媛県の今治市では食のまちづくり条例において、市内で市の承諾なくして遺伝子組み換えの農産物を作付けした場合には半年以下の懲役、50万円以下の罰金に処することが明記されています。

このように地方の議員さんたちが立ち上がれば、ラウンドアップの学校グラウンドでの除草のための散布、公園での散布もやめさせることもできる。それは埼玉県の川越市等でも既に実現しています。

子どもたちの食の安全のために、あなたの町で残留農薬の基準を国の基準よりも厳しくすることもできるのです。

 

オーガニック学校給食を
 「オーガニック給食マップ」(誰でもサイトに無料で参加できます)を立ち上げ、実行委員会を組織して2022年10月26日、東京都中野区ゼロホールで全国オーガニック給食フォーラムを開きました。

コロナの厳しい時ではありながら、会場はほぼ満席、オンラインでも全国62カ所のサテライト会場が設置され、4000人での大会を開くことができました。

全国から市町村の首長さんが40人ほど参加、JAの組合長さんも7人参加、それに農水省、文科省も学校給食をこれから有機食材にする方向を明言したのです。その時に配布した「広がるオーガニック給食」も好評でしたので増補版を作成。JAグループの要望で4時間のフォーラムを54分に短縮してダイジェスト版のDVD(1千円)も完成させました。

日本でも学校給食の無償有機食材への機運が次第に盛り上がりました。

「日本農業新聞」の調査では22年度までに3割の市町村が無償化したと報道。教育行政財政研究所の23年3月の調査でも一部の無償化を含めると市町村の4割近くまでに達していて、群馬県、千葉県では80%を超えていることが明らかになったのです。

東京都でも葛飾区を皮切りに8区が23年4月から学校給食無償化を決定、さらに5つの区が検討中なので、おそらく今年中に東京都の学校給食も半分は無償になる勢いです。

すごいことになりました。

こうした中で国会も動き出したのです。

今年の通常国会で立憲民主党と日本維新の会が学校給食の無償化法案を国会に提出しました。「日本農業新聞」が報道しましたが、自民党も6月7日部会を開き文科省の担当者を招いて、学校給食の無償と食育の両立を目指して検討を始めたのです。そこに千葉県いすみ市の太田市長が呼ばれたのです。

そして6月15日、与党・野党の各党の代表者が集まって超党派の「オーガニック給食を全国に実現する議員連盟」を設立したのです。共同代表に自民党から坂本哲志議員、立憲民主党から川田龍平議員、各党から副代表が選ばれました。

無償、オーガニックの学校給食が本当に地方で実現できれば日本の農業も変わり、子どもたちも健康になります。

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