沖ハブ2023シンポジウム:来賓あいさつ「武力ではなく対話で 東アジア共同体で平和をつくる」鳩山 友紀夫(東アジア共同体研究所理事長・元内閣総理大臣)
琉球・沖縄通信
お集まりのすべての皆さん、こんにちは。久しぶりに皆さまがたにお目にかからせていただいてたいへん幸せでございます。
私は、昨日は「平和の礎」に伺い、私なりの思いと祈りを捧げてまいりました。そして、今朝は対馬丸記念館に行ってまいりました。800人にならんとする子どもたちが、大人を合わせると1600人もの命が一瞬にして奪われてしまいました。その中で400人ほどの方は顔写真がありますが、1200人の方々は写真もままならない、そんな状況だと伺いました。
彼ら彼女らがもし生きてそれぞれの人生を全うしていたら、沖縄も日本ももっと変わっていたのにというそんな思いがいたしました。同時に、このようなことが起こってしまった軍事面での政治的な責任についても考えさせられました。
対馬丸が出港してすぐにアメリカの軍艦が追跡をしていたことがわかっていたのに、ずっと航行を続けてしまってよかったのか。もしすぐに引き返していたら無事だったかもしれないと、そう思ったらいたたまれない思いでございました。
政治の責任というのはきわめて重いものである。判断を誤ると多くの命をあっという間に失ってしまうことがあり得るのだということを、あらためて知らされましたし、政治に関わってきた人間として、もっとしっかりしなければならないと、そう強く思った次第でございます。
◆台湾独立を煽ってはならない
さて、その政治の話ですが、私はG7の広島サミットで岸田首相が「きょうのウクライナは明日の東アジア」と、そんな言い方をされたのが大変気になりました。果たしてそうなのでしょうか。そういうことを言って誰が得をするのでしょうか。それは事実なのでしょうか。
ロシアがウクライナを侵攻した事実は、批判されても仕方のないことだと思います。でももしウクライナが、ロシアが最も警戒するNATO加盟はしない、また、ロシア系住民への民族浄化が進んでいる東部の地域に、そうではなく自治権を与えるという対応がされていれば、このようなロシアの侵攻は多分なかったでありましょう。
これと昨今言われている中国脅威論や台湾有事とは、同じ次元の問題ではありません。今年、金門島に行かれた方のお話をこの沖縄で伺いました。金門島は台湾の一部ですけれども、たいへん中国本土に近いところです。
金門島の方々に中国脅威、大陸の脅威という気持ちがありますかと聞くと、「そんな思いはあまりありません」と答えておられました。台湾の多くの方も、ベストだとは言わないけれども現状維持を望んでいます。中国の多くの方々や指導者もそのように考えているのです。
しかしここで、アメリカや他の国々が「台湾は独立すべき」と挑発して、それに煽られて独立派など一部が過激な行動を起こしてしまったら何が起きるかわからない。
そのときに日本はどうすべきなのか、これが大変大きな問題だと思います。
でもいちばん大事なことは、そうならないようにすることではないでしょうか、皆さん。(拍手)決して台湾有事が起きないようにするために日本として何ができるか、それを考えることだと思っています。
「台湾有事、台湾有事」といって岸田首相をはじめ日本の政府が軍事力を強めている。5年間で43兆円、これはどう考えても多過ぎるなと思います。そう思いませんか、皆さん。(拍手)
先ほど玉城デニー知事もお話しされていましたが、軍事力が抑止力になると思っていたら、一方が軍事力を高めれば、他方も軍事力を高めます。どんどん高まっていって、一触即発のような危機が訪れないとも限らない。そのような状況をどうやってさせないようにするのか。
それが私たち国民の、とくに政治指導者が考えなければならないことなのです。
◆他国の尊厳守る友愛精神を
大きなテーマではありますが、私はその一つの手段として東アジア共同体というものを構想しています。あらゆるテーマで、地域から選ばれた人たちが東アジアの国々から集まってきて、そしてできればこの沖縄で集まって、そこで議論をする。あらゆるものを対話で解決をする、そういうシステムをつくる。経済、金融、貿易、そういった問題はもちろんですけれども、それ以外に、コロナの問題などもあります。安全保障の議論も必要でしょう。環境、エネルギーの問題、教育も含めてあらゆることをここで、東アジアの国々が集まってきて議論をするのです。
私が総理のときにそのことを提言したら、米国は、この構想から外されると考えたらしく、アメリカを除いて何をやろうとしているのだと批判をされました。何でも一番でないと気が済まない国らしい発想ですが。でも、私は米国を除外するなどとは言ってないんです。米国もロシアもどの国も、もし一緒にこの沖縄で議論をしよう、参加させてくれ、そう言うのなら原則的にはウエルカムです。
あらゆる国々の方々がここに集まって議論をする。そのかわり、決して武力行使をしない、決して武力による解決をさせない、そのことだけを誓わせるんです。そう言うと米国は入れないかもしれませんが。でも、少なくともそのことだけは約束をしてもらう、私はそのような東アジア共同体の発想が世界に広まればいいと、そのように思っています。
中国の習近平国家主席がおっしゃっている人類運命共同体というのも、ある意味で似たような大きな哲学のような気がいたしております。
私はその中で「友愛」という考え方を軸にしてもらいたいと願っています。友愛とは何か、自分の国の自分の尊厳というのは当然守る、自分の尊厳を守りながら、他者に対しても他国に対してもその尊厳を守る。自分だけよくて自分だけ自由で相手の自由を認めないのではなくて、自分が他人と考え方が必ずしも同じでなくても、そのことを相互に尊重して理解し合って、そして必要ならばお互いに助け合う。
そういう友愛の精神のもとで議論をして互いの問題の解決の糸口を探っていく。私は今こそそのような考え方がこの沖縄で成長して、日本中にそしてアジアに、できれば世界につなげるような活動にしていきたいと思っています。
その一つに食文化を通じて、という動きもあります。先ほど羽場久美子先生から、きれいな歌声で、歌を通じてアジアをつなごうという発想もございました。文化はたいへん大きな力があります。いろんな形で共同体の発想を深めていって、この沖縄から世界に向けて、かつての琉球のように、武力ではなくて心をつないで平和というものをつくりだす。そのような運動に共感していただいて、今日このような集まりになったことを、私もうれしく思っています。私も微力ではございますけれども、皆さん方とともに学ばせていただくことをお誓い申し上げて、お祝いのあいさつといたします。
おめでとうございます。
本記事は『日本の進路』沖ハブ2023シンポジウム:来賓あいさつ「武力ではなく対話で 東アジア共同体で平和をつくる」鳩山 友紀夫(東アジア共同体研究所理事長・元内閣総理大臣)からの転載になります。
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