マイナカード問題で次期総理候補第一位から脱落した河野大臣
社会・経済政治最近の世論調査で「次期総理候補第一位」を維持してきた河野太郎・デジタル担当大臣がついにトップから陥落した。JNNが8月5日と6日に実施した世論調査で、「次の総理にふさわしい自民党議員」の第一位は石破茂・元幹事長(16%)。僅差ながら河野大臣は2位に止まった。これに呼応するように、岸田政権の支持率も過去最低水準の26.6%(8月4日~7日の時事通信の世論調査)にまで転落した。いずれもマイナカード問題が原因であるのは明白だ。
4日、岸田首相が会見し、マイナ保健証一本化の方針を維持するとともに、これを持たない人に「資格確認書」を発行する考えを述べた。野党はこれに強く反発。「資格確認書は今の保健証とほとんど同じ。手間とコストをかけてつくる必要があるのか」と批判しつつ、紙の保険証との併用を求めたのだ。
しかし岸田政権の強行姿勢に変わりはなかった。8日にはマイナカード総点検中間報告で河野大臣が「資格確認書を申請によらず交付」することを発表。そこで、マイナカード関連の政策パッケージを説明した臨時会見の際に、河野大臣に野党の主張をぶつけてみた。
──「資格確認書5年以内」を創設するとのことだが、従来の紙の保険証と大差ないとの指摘がある。(マイナ保険証と紙の保険証を)併用すれば、無駄な税金、発送業務などは生じない。なぜ「紙の保険証併用」としなかったのか。
河野 マイナンバーカードを保険証として利用してもらう、つまり両者を紐付けされている方が5,500万人もいるから、今までのように全員に保険証を出す必要はなくなったので、マイナンバー保険証を持っていない方に限って資格確認書を出すことにしている。今までは転職するたび、引っ越しするたびに新しい保険証に変わっていたが、マイナンバー保険証ではそういう手間がいらなくなるし、マイナンバー保険証を利用する方が増えれば、資格確認書の発行枚数はどんどん減っていくので、手間もコストも省けると思う。
──マイナ保険証を持っていない人は紙の保険証を持っているわけだから、併用可能とすれば、もっとシンプルになるのではないか。
河野 保険証の廃止は法改正で決まったので、マイナンバーカードを持っていない方には資格確認書を出すことにした。
河野大臣の「自己保身第一、民意二の次」の姿勢が透けて見えた。通常国会でマイナカード関連法案(紙の保健証廃止を含む)が成立したので、併用可能にするには臨時国会での法改正が必要になる。ところが野党から「一本化強行の弊害が出た」「朝令暮改」といった批判が噴出し、河野大臣ら担当大臣が矢面に立つことになるのは必至。こうした事態を避けるために、法改正が不要の資格確認書でお茶を濁そうとしたように見えるのだ。
しかも、河野大臣の想定とは逆の方向にいく可能性も十分にある。マイナ保健証への不信感が高まったことで取得者が減少、逆に資格確認書の発行枚数が増えていくという、悪夢のような近未来図も容易に目に浮かぶのだ。
ちなみに立憲民主党の山井和則衆院議員は、資格確認書発行のコストを試算。マイナ保健証の取得率が現在の約5割なら5億5,000万円の増加で、3割まで下がると約59億円のコスト増になるというのだ。
税金の無駄撲滅が“売り”の河野大臣であればこそ、たとえ臨時国会で火だるまになろうと、紙の保健証併用を可能とする法改正の旗振り役になってしかるべきと思うのだが、現時点ではそんな兆しは皆無に等しい。
続いて私は、マイナ保健証が医療サービス低下を招いている実態についても、河野大臣に聞いてみた。
──そのマイナ保険証一本化によって、医療サービスの低下につながる恐れはないのか、国民の医療を受ける権利を侵害する恐れは。すでに、(マイナ保険証)一本化に対応できないので病院を閉めるとか診療所を閉めるとか、トラブルで窓口業務が煩雑になって本業の診察に支障が出ているといった、弊害(の報告)が医療関係者から出ているが、そういうデメリットの調査は(マイナカード)総点検に含まれていないのか。
河野 含んでいない。
──(マイナ保険証の)デメリットを調べずにメリットだけ強調して、一本化をゴリ押しするのか。
河野 デメリットについてはこれから解消していく。
──解消するのかは、解消しているかどうか調査しないと分からないではないか。
河野 総点検のなかではやっていないが、デメリットの調査はやっている。
──今までどういう調査をやって、どういう声が集まっているのか教えて欲しいと思うのだが。
河野 さまざまな声が挙がってきているので、それに対応しているところだ。
ここで司会者が私との質疑応答を打ち切り、次の質問者を指名した。こうして河野大臣の傲慢かつ強権的姿勢が浮き彫りになっていく。マイナ保健証一本化のメリットばかりを強調するが、医療サービスの低下といったデメリット(弊害)には十分に目を向けているとは言い難い。これでは次期総理候補第一位から脱落するのは当然のことだろう。
なお、マイナカード関連の臨時会見が開かれる前の8日午前、河野大臣は閣議後の定例会見(リモート)に臨んだが、この場はマイナカード以外の質問に限定されていた。そこで私は、福島原発汚染水(処理水)の海洋放出について聞いてみた。
──アルプス処理水の安全性のアピール、発信をされるということだが、一方で、風評被害を見定める要素として「安心感がどこまで広がったのか」ということがあると思うが、この“安心感”に関する調査は行う予定はないのか。中国、韓国、諸外国で安心感が十分に広がったとはいえない状況だと思うが。また、風評被害の最大額はどれくらいと見積もっているのか。(安心感の)調査がないと(風評被害が)どれくらい広がるのか見通せないと思うのだが。
河野 消費者庁としては中国、韓国で調査を行う予定はない。外務省、農水省などが行うかもしれないので、尋ねて欲しいと思う。
続いて私は「(風評被害の)最大額が分からないまま、とにかく安全性だけアピールするというスタンスなのか」と再質問をしたが、途中で司会者が「ミュート解除」にされて、質疑応答は打ち切られた。
河野大臣は、マイナ保健証一本化でも福島原発汚染水(処理水)放出の問題でも、民意を重く受け止め政府方針を軌道修正していこうとする姿勢が欠如しているとしか思えない。強権的姿勢が目立ち始めた河野大臣だが、このまま次期総理候補の順位をずるずると下げていくのか、それとも再び国民の期待を背負うような存在になるのか。今後の言動が注目される。
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1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。