「布川事件」再審で無罪確定の桜井昌司さん死去 76歳
メディア批評&事件検証1967(昭和42)年に茨城県利根町布川で男性が殺害され現金を奪われた「布川事件」で2015年に亡くなった杉山卓男(たかお)さんとともに犯人として起訴され、無期懲役の判決を受け、44年後の2011年に再審=やり直しの裁判で無罪が確定した桜井昌司さんが23日午前10時30分に、直腸がんのため入院していた水戸市内の病院で亡くなった。享年76歳だった。
この事件の捜査を巡り、自白を強要されたなどと桜井さんが訴えていた裁判で、東京高等裁判所は21年に違法な取り調べがあったと認め、国と茨城県に7400万円余りの賠償を命じ、その後確定した。
桜井さんは、自身の体験を生かし、冤罪をなくすための講演活動などにも人一倍力を注いだ1人だ。「冤罪犠牲者の会」を設立し、裁判当事者が証拠を閲覧できる仕組みの確立などの制度改革を訴え続けてきた。
4年前に末期の直腸がんと診断されても、冤罪をなくす活動はあきらめずに続けた。
昨年10月には29年間獄中で過ごした桜井さん自信の半生を12年間カメラを通して金聖雄(きむ・そんうん)監督が追い続けたドキュメンタリー映画「オレの記念日」が上映された。桜井さんは、各地で舞台に立ち、冤罪の悲惨さを訴えてまわった。
桜井さんは、夢を描いた最盛期に警察の一方的な取り調べで、虚偽の自白をさせられ、裁判所が安々とそれを認めて塀の中に閉じ込められ、人生の大半をそこで過ごすことになる。人を殺めてもいないのに、どんなに理不尽で、苦しかったことか。
昨年10月4日にISF独立言論フォーラムスタジオに桜井さんと金監督をお招きして、木村朗編集長の司会で桜井さんの半生を語ってもらった。
「何としても捜査機関による冤罪をなくさなければいけない」。こう強く語っていたことが同席した私の心に未だに響いている。そして最後に抱き合って別れたのがほんとに最後になってしまうとは、とても残念でならない。
桜井さん、あなたのその正義感溢れるまなざしと、笑顔、決して忘れない。合掌。
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●ISF主催公開シンポジウム:東アジアの危機と日本・沖縄の平和
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独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。