【特集】福島原発事故と放射能被害

矢ヶ﨑克馬:第128回原発事故避難者通信―汚染水海洋投棄「科学的」とは?

矢ヶ﨑克馬

78回目ヒロシマ・ナガサキ、終戦記念日等の重要日付が過ぎましたが、今回は汚染水海洋投棄の問題を論じます。

(1)つなごう命の会定例学習会のお知らせ
「第58回 つなごう命の会定例学習会」
テーマ:ICRPを批判し新しい防護体系を打ち立てよう―科学的にも哲学的にもICRPを乗り越えようー(3)科学の表記方法「因果律」を破って何がもたらされたか?
日時:9月16日(土)16:00~約2時間

ご興味のある方は是非ご参加ください。
ZOOM URL パスワード等
https://us04web.zoom.us/j/7718813361?pwd=UllnS21xQWRYOXRLNlZKNFRxN08xQT09
ミーティングID: 771 881 3361
パスコード: D8R2Lt
ご参加予定の方は必ず事前に<phoenix.pmy@gmail.com>までご連絡ください。

(2)劣化ウラン弾学習会お知らせ(終了)
「日本パグウオッシュ会議公開講座」核時代における非戦
日時:第1回 2023年8月28日(月)15;00~16:30
講演テーマ:劣化ウラン弾はなぜ使われてはならないのか:その仕組みと非人道性を知る 講師 矢ヶ﨑克馬

(3)汚染水海洋投棄―約束違反/放射能汚染実害
8月24日トリチウムを含むALPS処理水の海洋投棄が始りました。政府の見解は以下の様です。
① 漁業者・国民の理解を得られなかったが「21日の会談により漁連の「総理の発言を我々として重く受け止める」と言う言辞を得た。
② IAEA(国際原子力機関)のお墨付きをいただいているように「科学的に安全である」。
③ 風評被害に対しては責任を持つ
④ 廃炉完遂まで漁業者のなりわい継続に取り組む
国が全責任をもって必要な対策を講じ続けること、フォローアップ体制構築と水産予算とは別に必要な予算措置に政府全体として責任をもって対応する)

以下上記① 、② 、③の解説
① の国民の理解は得られたか?に付いては漁連の対応は事大主義的で、「風評等の保障」で海の汚染に道を開いたのであり現場の漁民の皆さんの意見を反映したのであるか心配いたします。漁協の忖度は歴史的な禍根となる可能性があります。
水俣など「チッソ」の廃棄し続けた有機水銀による公害の例に学ぶべきです。
② に付いては本日の主テーマであるので、改めて論じます。
③ 風評被害については、風評ではなく実害です。海産物による深刻な健康被害が改めて大問題になる時がいずれ来るでしょう。悲しいかな犠牲者が出て初めて「実害」を悟るのでは遅いのです。
下記に福島原発事故後の新聞報道の一部を示します。深刻なことは「食物連鎖」を通じて魚類の汚染度が年々高まってきていることです。

原発事故後6年以降の海産物の汚染に関する報道
① 2017年7月13日 クロダイ(Sr:30Bq/kg) 過去最高のストロンチウム90 福島沖 :(東電魚介類の核種分析結果)
② 2019年2月31日 コモンカスベ(161Bq/kg):(毎日新聞)
③ 2019年9月11日 クロソイ:セシウム(101.7Bq/kg)、
④ 過去最高のストロンチウム90 (Sr:54 Bq/kg):(東電魚介類の核種 分析結果)
⑤ 2021年2月22日 クロソイ(500 Bq/kg):(時事通信)過去最高セシウム137
⑥ 2022年1月27日 クロソイ (1400Bq/kg) 相馬市磯部沖(毎日新聞)過去最高セシウム137
⑦ 2023年2月7日 スズキ (85.5Bq/kg) いわき市沖合 (福島放送局)
⑧ 2023年4月  アイナメ(1200Bq/kg) 福島第一原発港湾内 (共同通信)
⑨ 2023年6月5日 クロソイ(18000Bq/kg)福島第一原発港湾内過去最高セシウム137

今なお「過去最高」の更新が続く
この様な実態を知って食生活を賢く組み立てなければなりません。
食材選びが健康(人格権)を守るのです。
「風評被害払拭」キャンペーンは市民の基本的人格の重要素をなす食材選択の権利を封じ込めるものです。
私たちは生産者と消費者を対立させる論に与してはいけません。基本的人権を共に中心指標に置きましょう。
平均的な海産物汚染は低減を続けていますが、上記新聞記事のように個体によっては非常に恐ろしい放射能汚染を持ちます。
これを食して命を奪われても誰も責任を取りません。放射線被曝の影響とも見なされないでしょう。
トリチウム海洋放棄はこの深刻さに油を注ぎます。

廃炉政策については国も東電も恐ろしいほどに責任感がないのです。
事故後12年も経過しているのに未だ炉心汚染が外海と接しているままです。空気中にも海水中にも放射能が拡散され続けているのです。
880トンのデブリが炉心の下に溜まっているとされますが、今日現在1グラムのデブリも取り出せていないのです。
東電も政府もこの危機的状況を「放射能は人間からも自然からも隔離せねばならない」原則に照らして世界に恥ずかしい行為を重ねています。
「国連海洋法条約(第192条)は「いずれの国も、海洋環境を保護し及び保全する義務を有す」とされ、国際倫理に違反しています。
この無責任センスが「汚染水海洋投棄」の原点です。「タンクが廃炉を妨げている」等、どの面下げて言っているのでしょう?

(4)IAEA基準は科学的か?
①原則的に違反行為
放射性物質を環境に投棄すること自体「してはならない」原則違反行為です。国債海洋法違反です。

②基準は人間/生物にとって安全の基準ではない
なぜそれをIAEAは「科学的に安全」基準に合致すると称するか?
その基準は「人間/生物にとって安全」なのではないのです。
「原発稼働を維持するために無難な」基準なのです。

③そもそもIAEAとはどんな組織か核産業維持に特化した目的
「核不拡散協定」をご存じですか?
この協定は核兵器を5ヶ国に限定し、それ以外の国に核兵器が拡散しないようにすることが第1の目的です。G7で「核抑止力により核を制す」と合意文書を発表し世界の核兵器禁止を願う人々の怒りを買ったその根拠になる組織です。日本政府は「核兵器禁止条約」に加盟もせず核抑止力を正当化しています。
第二の目的は原発普及(核拡散核)です。核の平和利用(原発)は「各国の犯すベからざる権利」として原発の普及に核保有国等が全力jを上げることになっています。原発についての「核」は「拡散」を謳います。それに3番目にやっと核軍縮です。

そこでIAEAは核兵器不拡散に対しては国際的査察を司り、原発については国際的推進の総元締めを司る機関です。
原発については各国で放射能管理基準を作り法律で定めた基準に従って市民に「計画被曝」をさせています。
この基準は生物の命に焦点を当てて、可能な限り被曝被害を「低く」押さえているものではありません。
原発が稼働し続けるためにこれ以上厳しくしたら「稼働できない」ことを避けるために原発維持の為に仕組んだ基準です。
事故がない状態で原発周辺の住民に白血病その他の深刻な健康被害病変があることは既知の事実です。
市民に健康を保障する基準では毛頭ありません。

④功利主義:如何にして被曝を許容させて原発稼働を揺るぎないものとするか
ICRP(国際放射線防護委員会)は発足直後に「内部被曝委員会」を廃止し、「如何にして放射線被曝を市民に許容させるか」を工夫して論じてきた組織です(リスク許容論、リスクベネフィット論、コストベネフィット論、被曝防護三原則)。ICRPはIAEAの方針を受けて作動する組織です。
ICRPの被曝防護体系は内部被曝の危険が分からないように工夫された設計内容です。健康被害の現れる可能性を3ケタも4ケタも低くして「放射線被曝の被害」と認めさせないようにしているのです(矢ヶ﨑克馬「放射線被曝の隠蔽と科学」緑風出版)。

⑤IAEAの基準は原発維持の為の基準で、人の安全を期した基準ではありません。トリチウムの有機化の危険、食物連鎖の危険、低エネルギーβ線の危険、等々を取り入れてはおりません。
トリチウムその他の放射線物質が有機化されると動植物が積極的に摂取する対象となります。食物連鎖の放射能化が進みます。
また有機化により生物的半減期がすごく長くなります。
食物連鎖により上位動物にびっくりするほどに汚染が濃縮されます。
放射能粒子線は速度が低くなると(低エネルギになるほど)突き当たる原子との接触時間が増え滞在時間が増えますから、相互作用が大きくなり、電離される密度が高まります。
低エネルギートリチウムは非常に危険度が大きいのです。
IAEA基準はこれらを考慮していません。
数値化して低く見せる技術が体系化している(科学的虚言を弄している)ICRP等を従えております。
IAEAが「科学的に安全」と言うのは「被曝を受け入れさせるようにするための」「心理学的サポート」として位置づけられています。
これは組織的系統的意図的虚言です。

⑥薄めても総量は変わりません
薄めたから安全のように言うのはまやかしです。継続して廃棄するのですから総量が特に問題となります。
海洋投棄はまさに棄民なのです。
海の汚染。特に動植物の汚染は深刻に進みます。
そもそも原発が維持できるように設定した「基準」ですから「安全」の虚言に欺されてはいけません。

⑦国際的倫理に反する
汚物を蓄えているのにわざわざ海洋投棄することに人倫的誠意は全く有りません。
「国連海洋法条約(第192条)に違反しています。
外国の批判も厳しいところです。

⑧岸田内閣の暴政は住民本位をかなぐり捨てる棄民そのもの
原発事故で日本政府はそれまで数十年法律基準として取り扱ってきた「年間1mSv」の防護を法律に逆らって「年間20mSv」に変更しました。住民との約束を手順も何も無視して反故にしたのです。
チェルノブイリ法で基本的人権擁護が謳われましたが、日本では全く適用されませんでした。逆に自主避難者を強制避難者と区別し極端な不当対応を行なっていきました(チェルノブイリでは全く同等でした)。
ドイツでは原発の安全性が維持されないからと、東電福島事故後「原発全廃」が決まりました。
岸田内閣は原発回帰で危険路線を猛進します。汚染水海洋投棄もまさに権力的で主権者の意見を聞かず強引な棄民をしております。
海洋投棄は何十年も掛かります。私たちは一刻も早く止めさせることに努力致しましょう。
(2023年8月25日・矢ヶ﨑克馬文責)

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矢ヶ﨑克馬 矢ヶ﨑克馬

1943年出生、長野県松本育ち。祖国復帰運動に感銘を受け「教育研究の基盤整備で協力できるかもしれない」と琉球大学に職を求めた(1974年)。専門は物性物理学。連れ合いの沖本八重美は広島原爆の「胎内被爆者」であり、「一人一人が大切にされる社会」を目指して生涯奮闘したが、「NO MORE被爆者」が原点。沖本の生き様に共鳴し2003年以来「原爆症認定集団訴訟」支援等の放射線被曝分野の調査研究に当る。著書に「放射線被曝の隠蔽と科学」(緑風出版、2021)等。

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