「知られざる地政学」連載(3) 石炭火力発電所の核発電所への転換をめぐって:政治家は将来をにらんで行動せよ
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今回は、〈下巻〉において書いておいた、石炭火力発電所の核発電所への転換の話をしたいと思う。確実に近づいている現象であるにもかかわらず、この問題を論じる者が日本にはいないように見受けられる。ゆえに、ここで取り上げたい。先を読んで、しっかりと対応してほしいからである。
まず、以下に私の記述を紹介しよう。
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日本への注意喚起!
ここで、日本の読者に注意喚起しておきたいことがある。それは、SMRの設置場所だ。世界の原子力産業を支援する国際組織、世界原子力協会(WNA)は、「小型炉は多くの場面で化石燃料プラントに取って代わることが想定されているので、必要とされる緊急計画区域は半径300メートル以下に設計されている」とのべている。
現実問題として、石炭火力発電所が今後、廃止され、その跡地にSMRが建設される可能性が高い。すでに紹介したように、ビル・ゲイツのテラパワーはワイオミング州の廃止予定の石炭火力発電所でのSMR建設を予定している。
日本の場合、一般電気事業者たる10電力のほか、鉄鋼会社や製紙会社、セメント会社などが石炭火力発電所を運営している。工場近くの都市部にあるケースも多い。都市部にSMRを建設すれば、送電線や変電所の設備を大幅に削減できる。加えて、ロシアの例にみられるようにSMR周辺への暖房供給さえ可能だ。
しかし、本当に、SMRを人口密集地に建設できるのか。ここで、1981年に刊行された広瀬隆著『東京に原発を! 新宿一号炉建設計画』を思い出してみよう。広瀬は、「私たちは、周囲の都会人に事実を知って貰うことを願うと共に、私たち都会人のエゴイズムに歯ぎしりしている地方の人びとの批判に応えるべく、この新宿一号炉のプランを練りました」と、「あとがき」に記している。
SMRを必要だと主張する政治家にいいたいのは、本当にそれを望むなら、自分の選挙区にある石炭火力発電所が廃止されたとき、その跡地にSMRを建設されることを是とすることができるのかという点だ。最悪の場合、既存核発電所のある場所に既存核発電炉の廃炉後にSMRを新たに建設することして、核発電所の固定化がなされてしまう懸念がある。
つまり、SMRを推進するにしても、日本でのその実現はきわめて困難だと思われる。ただし、近くに石炭火力発電所がある人々はとくにSMR推進の動きに一刻も早く備えておいたほうが賢明だろう。石炭火力発電所の廃止とSMRの推進は連動している可能性が強いからだ。資源エネルギー庁が2020年7月に公表した「石炭火力発電所一覧」をみて、いまからSMR建設反対の準備を進めておくべきなのかもしれない。ほかにも、2022年9月1日時点の「大手電力の火力発電所一覧」というものもある。
2021年9月の自民党総裁選で、当時の高市早苗前総務相と岸田文雄前政調会長は自身のエネルギー政策として、SMRの建設や核融合炉の研究開発を主張したことを記憶しているだろうか。政治家や経済産業省の役人がまったく信頼できないことは東京電力の福島第一原子力発電所の事故が証明しているのだから、彼らのSMR推進に早くから備えなければならないと思う。
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SMRをめぐって
ここで紹介したSMRとは、小型モジュール炉(SMR)のことである。米国の核エネルギー関連企業はいま、SMRの開発に力を入れている。2022年5月23日付のNYTによると、米国は同日、ルーマニアに新しいタイプの核発電所を建設するための訓練用シミュレーターを提供すると発表した。計画では、モジュール式ユニット6基で構成される発電所を建設する。発電量は462メガワットとなり、従来の中規模発電所と同規模となる。在ブカレスト・アメリカ大使館が発表した数字によれば、このような発電所には約16億ドルの費用がかかる可能性があるが、建設を担当する米NuScale Power社によれば、発電所のコストはまだ決定していないという。10年後までには稼働させたいとしている。
実は、2021年11月5日付のNYTは、ゼネラル・エレクトリックやウェスチングハウスなどの企業が、2023年からのテストに向けてSMRの約10種類のデザインを用意していると報じていた。米軍は輸送用コンテナに収まるサイズの核発電炉を発注しており、BWXT社とX-energy社の2社が空冷式炉の納入を競っているという。
SMRと石炭火力発電所の廃棄はセット
日本の政治家は不誠実だ。誠実な人間であれば、核発電をどうすべきか、真正面から向き合うべきだろう。SMRと石炭火力発電所の廃棄の問題はセットになっているのであり、この点をマスメディアはもっと大々的に取り上げるべきなのだ。
きわめて重要な問題でありながら、ここで紹介した内容を知らない者が多すぎる。まさに、「とまどえる群れ」には、何も知らせずに、為政者がやりたいようにやるだけだ。そんなやり方は決して民主主義ではない。
「ソーラー・ジオエンジニアリング」
拙著『知られざる地政学』〈上巻〉の「まえがき」は、つぎの記述からはじまる。
「映画「プラトーン」、「JFK」、「スノーデン」、「ウクライナ・オン・ファイアー」をつくったオリヴァー・ストーンは、2022 年に自ら監督と共同脚本を務めたドキュメンタリー映画「ニュークリア・ナウ」(Nuclear Now)を公開した。ストーンは、急速に進む気候変動に対処するには、核発電こそ最適であると説いている。温室効果ガスの一つである二酸化炭素の排出量を減らしながら、エネルギー需要を満たすには、核発電が不可欠であるというのだ。核発電は安定的で大量の電力供給を可能にするから、石炭、石油、天然ガスの燃焼による火力発電所を急速に代替することができるうえに、核発電所での事故発生率は決して高くないというわけだ。」
おそらく、核発電へのアレルギーは強いから、たぶん、「ソーラー・ジオエンジニアリング」に活路を見出すことになるかもしれないと拙著には書いておいた(詳しくは拙著を参照してほしい)。
遠くを見つめる目をもつには、よく学ぶことが必要だ
いずれにしても、このまま日本政府が米国に追随しつづければ、必ず日本もSMR建設を強いられるだろう。そうであるならば、いまのうちから、石炭火力発電所の転換としてSMRを建設させないために何ができるのかをよく考えておくことが必要なのではないか。
政治家は将来を見越した政策においても、先見の明を発揮しなければならない。
しかし残念ながら、日本にはそうした優れた政治家が見当たらない。どうか、拙著『知られざる地政学』に学んで、もっと遠くが見えるような訓練を積んでほしい。
詩人・松永伍一は、かつて私につぎの句を揮毫してくれた。
遠くを見つめる目をもちたい
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1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。一連のウクライナ関連書籍によって2024年度「岡倉天心記念賞」を受賞。 著書:(2024年6月に社会評論社から『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』を刊行) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。